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第五章 秘伝と天使と悪魔
187 休日デート
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夏休みの大半を仕事で留守にしていた高耶は、小学生の夏休みの最終日。危機に立たされていた。
「ゆ、優希……っ」
「っ、うっ、うっ、だ、だって、お兄ちゃんっ、お、おしごとだって、わかってるけどっ、うわぁぁぁん」
「ちょっ、優希っ、ごめん。分かった。今日は一緒に出かけようっ。な? 公園か? 遊園地か? 買い物か?」
大学はまだひと月近く休みだ。だが、小学生である優希には最後の一日。そこまで高耶は全くと言っていいほど家族で過ごすことが出来なかったのだ。
優希にとっては許せなかったようだ。
「うっ、うっ、お、おかいもの……」
「買い物か……」
予想外だった。
どうやら、優希にとっては瑶迦の所が公園や遊園地の代わりになっているようなのだ。そんな場所より楽しいとのこと。
確かに、高耶が帰って来なかった間に、あの瑶迦が作った世界には、大きな遊園地が出来ていたのだ。観覧車なんて設計上無理だろうと思えるような大きさになっていた。
というか、その観覧車の頂点でも乗り降りでき、雲の上の王国として、空飛ぶ城への入り口にしていたのだ。
子ども達は大喜びで通ったらしい。
そんなものが手近に、それも常に貸し切り状態であれば、他などどうでも良くなるだろう。
「ひゃっかてん! 『北海道物産展』! さいごの日なの!」
「最後……ああ、最終日か」
優希は、テーブルに広げられていたチラシを引っ掴んで見せてきた。そして、その一つを指差す。
「ここ! ケーキ! バイキング!」
「……天柳と行くか?」
「お兄ちゃんといくの!! これ、男女ペアでやすくなる!」
「……誰だここまで読み込ませたやつ……」
教えた奴は誰だと少しイラついた。
「……わかった。なら行くか」
「うん! ムクちゃん、いくよー!」
《むむ~。おでかけ~♪》
高耶のつけた優希専属の護衛式。クマのぬいぐるみであるムクは、随分と喋れるようになったようだ。何より、仲良くやっていた。
ムクは、珀豪に作ってもらったという斜めがけのフリル付きの可愛らしい優希のポーチを掲げて持ってきた。
《カバン!》
「ありがとうムクちゃん」
優希が受け取り、カバンをかける。すると、ムクはそのポケットに小さくなって自分で入り込む。ちょっとジタバタする仕草は可愛い。
「駅の隣の図書館まで扉を繋げるぞ」
「は~い」
《む~》
もう優希も扉には慣れてしまったようだ。素早く何事もなかったように扉から出て、百貨店のある駅に向かうのも慣れたものだ。
最終日。それも、夏休みも最終日ということで、人の多さを警戒していたが、それほどでもなかった。
「バイキングは……あそこか」
「いこ!」
優希に手を引かれながらそこへ向かった。
正式な店ではなく、仮テナントなので、店構えなどにためらうような可愛らしさはなかったのはいい。
「あっちのラーメン美味そうだな……」
非常に、隣のラーメンが気になった。
「もうっ。ラーメンはあと! まずケーキ!」
「お、おう」
後で寄ってもいいらしい。それならばとその店のベースに向かった。
「あ、あれ? シュンヤお兄さんだ。デート?」
「……俊哉だな……」
そこに居たのは、俊哉と同じ年頃の女性が二人。二人だった。俊哉もこちらに気付いたらしい。
「ん? うおっ。高耶じゃん! やっほー!」
「……」
相変わらず賑やかだ。
「お、優希ちゃんも一緒か。なに? デート?」
「うん! 今日のお兄ちゃんはわたしのなの」
「へえっ。良かったなあ」
隣の席に座ることになった。ここは、バイキングといっても、注文制らしい。いくつか注文した後、優希が俊哉へ確認した。
「シュンヤお兄さん……ふたまた? よくないよ?」
「っ、ぐふっ! ちょっ、優希ちゃん!?」
普通にむせる俊哉を、優希は真っ直ぐ見つめる。この瞳には勝てないだろう。
だが、俊哉が弁明するより先に、女性達が笑った。
「あはははっ。ふたっ、二股って、和泉がそんなモテるわけないって」
「やっぱり女の子ってこういうの知るの早いわよね」
「あれ? っていうか……蔦枝くん?」
「うわっ、そうじゃん? ってか、かっこよくない!?」
「……」
こういう女性、高耶は苦手だ。だが、どうやら自分を知っているらしい。
「私のこと覚えてない? ほら、時島先生のクラスで一緒だった瀬良智世」
「同じく、伊原久美だよ」
「……悪い……」
正直に記憶にないと申告した。小学生の頃は、それこそ修行で手一杯だったのだから。
「そっかあ。けど、うん。なんとなくそんな気がしてた。蔦枝くん、浮いてたもんね」
「……」
浮いていたと言われて、どう反応すればいいのか。
「あのね~。和泉とは、さっきそこで会ったの。もう一人和泉の友達がいたんだけど、今は外で買い物中みたい。男二人、女二人ならせっかくだしって誘ったんだ。安くなるしね」
「そうか……」
この二人の女子に使われたようだ。まあ、俊哉は嫌そうではないので問題ないだろう。寧ろ、ケーキが食べられてラッキーと思ってそうだ。
俊哉は案外、甘い物好きなのだ。
「それでさあ、話してたんだけど、今度同窓会しない?」
「同窓会?」
「そう! 和泉が時島先生と連絡取れるって聞いてね」
「そうか……」
「ね? どう?」
「いや、どうと言われても……まあ、時島先生が来るなら行きたいが……予定がな」
「バイト? 大学はまだ休みでしょ?」
普通の大学生ならば、予定といえば大半はバイトだろう。だが、高耶は違う。それを知っている俊哉が口を挟む。
「高耶は忙しいぞー。俺と遊ぶ時間もないほどな」
「わたしとデートもできないくらいねー」
「「ねー」」
「……」
俊哉と優希が二人で責めてくる。
「え~。何してんのよ」
「働いてるとか?」
「……家の問題だ」
「ふぅん。そういえば、蔦枝くんって小学校の頃も、遊びの約束断ってたよね」
「そうそう。感じ悪いって言われてたよ」
「そうか」
あまり気にしていない。やるべきことのためなのだ。仕方ないだろう。
その時だ。
ジリリリリリ!
警報音が鳴り響いたのだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
「ゆ、優希……っ」
「っ、うっ、うっ、だ、だって、お兄ちゃんっ、お、おしごとだって、わかってるけどっ、うわぁぁぁん」
「ちょっ、優希っ、ごめん。分かった。今日は一緒に出かけようっ。な? 公園か? 遊園地か? 買い物か?」
大学はまだひと月近く休みだ。だが、小学生である優希には最後の一日。そこまで高耶は全くと言っていいほど家族で過ごすことが出来なかったのだ。
優希にとっては許せなかったようだ。
「うっ、うっ、お、おかいもの……」
「買い物か……」
予想外だった。
どうやら、優希にとっては瑶迦の所が公園や遊園地の代わりになっているようなのだ。そんな場所より楽しいとのこと。
確かに、高耶が帰って来なかった間に、あの瑶迦が作った世界には、大きな遊園地が出来ていたのだ。観覧車なんて設計上無理だろうと思えるような大きさになっていた。
というか、その観覧車の頂点でも乗り降りでき、雲の上の王国として、空飛ぶ城への入り口にしていたのだ。
子ども達は大喜びで通ったらしい。
そんなものが手近に、それも常に貸し切り状態であれば、他などどうでも良くなるだろう。
「ひゃっかてん! 『北海道物産展』! さいごの日なの!」
「最後……ああ、最終日か」
優希は、テーブルに広げられていたチラシを引っ掴んで見せてきた。そして、その一つを指差す。
「ここ! ケーキ! バイキング!」
「……天柳と行くか?」
「お兄ちゃんといくの!! これ、男女ペアでやすくなる!」
「……誰だここまで読み込ませたやつ……」
教えた奴は誰だと少しイラついた。
「……わかった。なら行くか」
「うん! ムクちゃん、いくよー!」
《むむ~。おでかけ~♪》
高耶のつけた優希専属の護衛式。クマのぬいぐるみであるムクは、随分と喋れるようになったようだ。何より、仲良くやっていた。
ムクは、珀豪に作ってもらったという斜めがけのフリル付きの可愛らしい優希のポーチを掲げて持ってきた。
《カバン!》
「ありがとうムクちゃん」
優希が受け取り、カバンをかける。すると、ムクはそのポケットに小さくなって自分で入り込む。ちょっとジタバタする仕草は可愛い。
「駅の隣の図書館まで扉を繋げるぞ」
「は~い」
《む~》
もう優希も扉には慣れてしまったようだ。素早く何事もなかったように扉から出て、百貨店のある駅に向かうのも慣れたものだ。
最終日。それも、夏休みも最終日ということで、人の多さを警戒していたが、それほどでもなかった。
「バイキングは……あそこか」
「いこ!」
優希に手を引かれながらそこへ向かった。
正式な店ではなく、仮テナントなので、店構えなどにためらうような可愛らしさはなかったのはいい。
「あっちのラーメン美味そうだな……」
非常に、隣のラーメンが気になった。
「もうっ。ラーメンはあと! まずケーキ!」
「お、おう」
後で寄ってもいいらしい。それならばとその店のベースに向かった。
「あ、あれ? シュンヤお兄さんだ。デート?」
「……俊哉だな……」
そこに居たのは、俊哉と同じ年頃の女性が二人。二人だった。俊哉もこちらに気付いたらしい。
「ん? うおっ。高耶じゃん! やっほー!」
「……」
相変わらず賑やかだ。
「お、優希ちゃんも一緒か。なに? デート?」
「うん! 今日のお兄ちゃんはわたしのなの」
「へえっ。良かったなあ」
隣の席に座ることになった。ここは、バイキングといっても、注文制らしい。いくつか注文した後、優希が俊哉へ確認した。
「シュンヤお兄さん……ふたまた? よくないよ?」
「っ、ぐふっ! ちょっ、優希ちゃん!?」
普通にむせる俊哉を、優希は真っ直ぐ見つめる。この瞳には勝てないだろう。
だが、俊哉が弁明するより先に、女性達が笑った。
「あはははっ。ふたっ、二股って、和泉がそんなモテるわけないって」
「やっぱり女の子ってこういうの知るの早いわよね」
「あれ? っていうか……蔦枝くん?」
「うわっ、そうじゃん? ってか、かっこよくない!?」
「……」
こういう女性、高耶は苦手だ。だが、どうやら自分を知っているらしい。
「私のこと覚えてない? ほら、時島先生のクラスで一緒だった瀬良智世」
「同じく、伊原久美だよ」
「……悪い……」
正直に記憶にないと申告した。小学生の頃は、それこそ修行で手一杯だったのだから。
「そっかあ。けど、うん。なんとなくそんな気がしてた。蔦枝くん、浮いてたもんね」
「……」
浮いていたと言われて、どう反応すればいいのか。
「あのね~。和泉とは、さっきそこで会ったの。もう一人和泉の友達がいたんだけど、今は外で買い物中みたい。男二人、女二人ならせっかくだしって誘ったんだ。安くなるしね」
「そうか……」
この二人の女子に使われたようだ。まあ、俊哉は嫌そうではないので問題ないだろう。寧ろ、ケーキが食べられてラッキーと思ってそうだ。
俊哉は案外、甘い物好きなのだ。
「それでさあ、話してたんだけど、今度同窓会しない?」
「同窓会?」
「そう! 和泉が時島先生と連絡取れるって聞いてね」
「そうか……」
「ね? どう?」
「いや、どうと言われても……まあ、時島先生が来るなら行きたいが……予定がな」
「バイト? 大学はまだ休みでしょ?」
普通の大学生ならば、予定といえば大半はバイトだろう。だが、高耶は違う。それを知っている俊哉が口を挟む。
「高耶は忙しいぞー。俺と遊ぶ時間もないほどな」
「わたしとデートもできないくらいねー」
「「ねー」」
「……」
俊哉と優希が二人で責めてくる。
「え~。何してんのよ」
「働いてるとか?」
「……家の問題だ」
「ふぅん。そういえば、蔦枝くんって小学校の頃も、遊びの約束断ってたよね」
「そうそう。感じ悪いって言われてたよ」
「そうか」
あまり気にしていない。やるべきことのためなのだ。仕方ないだろう。
その時だ。
ジリリリリリ!
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