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第五章 秘伝と天使と悪魔
202 絶対とは言えない
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なぜここに瀬良智世と誠がここに滞在すべきなのか、それを説明し納得させてから、今日のところは解散となった。
大和いづきと瀬良の両親は、蓮次郎の秘書が駅まで送って行ってくれた。
高耶達の方は、もう少し話を詰める必要があるのだ。
その間、俊哉が残ったため、智世と誠の相手は問題ない。今も用意されたお茶を飲みながら普通に喋っている。
「瀬良んとこ、苗字どうなってんの? 親父さんの家は大和じゃん。そんで、母親の方はコミヤなんだろ? 瀬良ってどっから出てきたん?」
「お祖父ちゃんは奥さんが二人居たんだよ。お父さんは前妻の子ども。だから、お祖父ちゃんの後を継ぐのは、次男の後妻さんとの子どもなんだ」
「え、僕も初めて知るんだけど……そういえば確かに、何で大和じゃないんだろ……」
誠はそういうことを意識できる歳の頃には、もうお狐様の影響を受けていたのだろう。考えてもみなかったようだ。
「なんか、瀬良家の名前を残したいって話だったかな。前妻さんの苗字が瀬良なの。だから、お父さんを瀬良家に養子ってことで瀬良の苗字を継がせたとかなんとか聞いた」
「なに、その面倒な家」
「知らないし。お父さんは『親父が嫌いだから、お袋の姓を使ってるんだ』とかって、適当なこと言ってたしね。養子どうのっていうのは、お祖父ちゃんから聞いた」
「へえ」
そんな話を半分耳にしながら、細かい確認をしていたのだが、蓮次郎が瀬良達の方を見ていることに気付いた。
「どうかしました?」
「ん~……瀬良……セラ……巫女の関係で出たことあるな~って、その血で惹かれたかもなと思ったんだよ」
「そういうの、あるって言いますね」
「逆に相入れなかったりね」
能力者同士が惹かれ合い、子孫を残すと危ない場合がある。制御できない能力が生まれたりする危険があるのだ。だが、この世はよく出来ているもので、そこまで危険な能力の生まれる者同士は嫌悪するようになっている。
「秘伝家は、どこと掛け合わせても問題ないんだってね。だから由姫家に狙われるんだよ。あそこ、ほとんどの家がタブーだから」
「それは俺の努力じゃどうにもならないんですけど」
「早いとこ決めたら? ただ、うちはいい子居ないんだよね。我の強い女ばっかりで困るよ。だから養子。どう?」
「それ、解決策になりませんよね?」
養子では、結婚相手の枠から外れられない。意味がない。
「う~ん。秘伝の技の中に、性別変えるのとかないの?」
「無茶言わないでください……」
これはアレだ。飽きてきたんだなと内心ため息を吐く。
「そういう話は後でいいので、先にこっちを終わらせますよ」
「はいはい。高耶くんは真面目だねえ」
仕事は出来る人なのだが、飽き性な性格には困ったものだ。
そうして、日程を決め、細かい段取りも決めてから帰路についた。
誠には、学校もある。その送り迎えはあの屋敷の者が行ってくれる。本来ならば、学校には行けないのだが、エルティア学園は特別だ。誠も、学校に居る間は意識が飛ぶことはなかったと言っていた。そういった守りにおいて、あの学園はそれなりに力を入れている。
瀬良智世には悪いが、解決するまでの一週間はあの屋敷に缶詰めになってもらう。
「あいつ、耐えられるか?」
俊哉が帰りの道中で口にする。
「無理かもな」
「マジ? いいのかよ」
「良くない。だから、もう一人のあの女の友達」
「伊原?」
「ああ。そいつを呼んでも良いとは言ってある。それに、あそこの屋敷の管理者がまず外出を許さないから、まずいことにはならないさ」
「……それ、マジの監禁じゃん」
今回のような場合、能力者であってもあの屋敷から許可なく出ることはできない。脱走も不可能だ。保護と言えば聞こえは良いが実際は危険人物を隔離するようなものだった。
「そうでもしなきゃ、乗っ取られる」
「今まで大丈夫だったのに?」
「あの弟の方の護りを強めたからな。そちらに手を出せなくなったことで、無防備な瀬良の方に乗り換える可能性は高い」
視る力も感じる力も足りていない智世には、抵抗することが出来ないだろう。何より、本来の神子だ。掴まれば、一気に家の方にも手を伸ばしてくるだろう。
「……本当に危険なんだな」
「だから嫌なんだよ」
「死人が出たりするのか……?」
「場合によってはな」
「だからお前とか、あのおっさん、曖昧な返事したのか……」
万事任せろとは言えなかった。これは、それだけ危険でギリギリのものになるからだ。
「霊穴のこともあるからな……絶対に何とかするとも言えない。だから、お前もここまでだ」
「……」
これ以上は守れない可能性も出てくる。何が起きるか分からないのだから。
だが、俊哉は真っ直ぐに目を向けてきた。
「危ないなら尚更だ。あの瀬良を連れて行くんだろ。なら、その狐を相手にする時以外は、俺が何とかする」
「……お前は関係ないんだぞ?」
「関係ならある。俺は、お前のこっち側での理解者だ。だから、連れてけ」
「……」
いつからだろうか。俊哉は本気でこちら側と向き合おうとしている気がするのだ。その言葉に嘘はないと、なぜかわかった。
「……わかった……けど、きちんとこちらの指示に従ってもらうからな」
「もちろんだっ」
ニヤリと笑って拳を突き出す俊哉。小学生の頃に流行ったやつだなと察して、照れながらも同じようにして拳をコツリと合わせたのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
大和いづきと瀬良の両親は、蓮次郎の秘書が駅まで送って行ってくれた。
高耶達の方は、もう少し話を詰める必要があるのだ。
その間、俊哉が残ったため、智世と誠の相手は問題ない。今も用意されたお茶を飲みながら普通に喋っている。
「瀬良んとこ、苗字どうなってんの? 親父さんの家は大和じゃん。そんで、母親の方はコミヤなんだろ? 瀬良ってどっから出てきたん?」
「お祖父ちゃんは奥さんが二人居たんだよ。お父さんは前妻の子ども。だから、お祖父ちゃんの後を継ぐのは、次男の後妻さんとの子どもなんだ」
「え、僕も初めて知るんだけど……そういえば確かに、何で大和じゃないんだろ……」
誠はそういうことを意識できる歳の頃には、もうお狐様の影響を受けていたのだろう。考えてもみなかったようだ。
「なんか、瀬良家の名前を残したいって話だったかな。前妻さんの苗字が瀬良なの。だから、お父さんを瀬良家に養子ってことで瀬良の苗字を継がせたとかなんとか聞いた」
「なに、その面倒な家」
「知らないし。お父さんは『親父が嫌いだから、お袋の姓を使ってるんだ』とかって、適当なこと言ってたしね。養子どうのっていうのは、お祖父ちゃんから聞いた」
「へえ」
そんな話を半分耳にしながら、細かい確認をしていたのだが、蓮次郎が瀬良達の方を見ていることに気付いた。
「どうかしました?」
「ん~……瀬良……セラ……巫女の関係で出たことあるな~って、その血で惹かれたかもなと思ったんだよ」
「そういうの、あるって言いますね」
「逆に相入れなかったりね」
能力者同士が惹かれ合い、子孫を残すと危ない場合がある。制御できない能力が生まれたりする危険があるのだ。だが、この世はよく出来ているもので、そこまで危険な能力の生まれる者同士は嫌悪するようになっている。
「秘伝家は、どこと掛け合わせても問題ないんだってね。だから由姫家に狙われるんだよ。あそこ、ほとんどの家がタブーだから」
「それは俺の努力じゃどうにもならないんですけど」
「早いとこ決めたら? ただ、うちはいい子居ないんだよね。我の強い女ばっかりで困るよ。だから養子。どう?」
「それ、解決策になりませんよね?」
養子では、結婚相手の枠から外れられない。意味がない。
「う~ん。秘伝の技の中に、性別変えるのとかないの?」
「無茶言わないでください……」
これはアレだ。飽きてきたんだなと内心ため息を吐く。
「そういう話は後でいいので、先にこっちを終わらせますよ」
「はいはい。高耶くんは真面目だねえ」
仕事は出来る人なのだが、飽き性な性格には困ったものだ。
そうして、日程を決め、細かい段取りも決めてから帰路についた。
誠には、学校もある。その送り迎えはあの屋敷の者が行ってくれる。本来ならば、学校には行けないのだが、エルティア学園は特別だ。誠も、学校に居る間は意識が飛ぶことはなかったと言っていた。そういった守りにおいて、あの学園はそれなりに力を入れている。
瀬良智世には悪いが、解決するまでの一週間はあの屋敷に缶詰めになってもらう。
「あいつ、耐えられるか?」
俊哉が帰りの道中で口にする。
「無理かもな」
「マジ? いいのかよ」
「良くない。だから、もう一人のあの女の友達」
「伊原?」
「ああ。そいつを呼んでも良いとは言ってある。それに、あそこの屋敷の管理者がまず外出を許さないから、まずいことにはならないさ」
「……それ、マジの監禁じゃん」
今回のような場合、能力者であってもあの屋敷から許可なく出ることはできない。脱走も不可能だ。保護と言えば聞こえは良いが実際は危険人物を隔離するようなものだった。
「そうでもしなきゃ、乗っ取られる」
「今まで大丈夫だったのに?」
「あの弟の方の護りを強めたからな。そちらに手を出せなくなったことで、無防備な瀬良の方に乗り換える可能性は高い」
視る力も感じる力も足りていない智世には、抵抗することが出来ないだろう。何より、本来の神子だ。掴まれば、一気に家の方にも手を伸ばしてくるだろう。
「……本当に危険なんだな」
「だから嫌なんだよ」
「死人が出たりするのか……?」
「場合によってはな」
「だからお前とか、あのおっさん、曖昧な返事したのか……」
万事任せろとは言えなかった。これは、それだけ危険でギリギリのものになるからだ。
「霊穴のこともあるからな……絶対に何とかするとも言えない。だから、お前もここまでだ」
「……」
これ以上は守れない可能性も出てくる。何が起きるか分からないのだから。
だが、俊哉は真っ直ぐに目を向けてきた。
「危ないなら尚更だ。あの瀬良を連れて行くんだろ。なら、その狐を相手にする時以外は、俺が何とかする」
「……お前は関係ないんだぞ?」
「関係ならある。俺は、お前のこっち側での理解者だ。だから、連れてけ」
「……」
いつからだろうか。俊哉は本気でこちら側と向き合おうとしている気がするのだ。その言葉に嘘はないと、なぜかわかった。
「……わかった……けど、きちんとこちらの指示に従ってもらうからな」
「もちろんだっ」
ニヤリと笑って拳を突き出す俊哉。小学生の頃に流行ったやつだなと察して、照れながらも同じようにして拳をコツリと合わせたのだった。
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