秘伝賜ります

紫南

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第五章 秘伝と天使と悪魔

233 事態は深刻です

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霊穴が開く場所というのは、洞窟や人の手の入っていない森の奥が大半だ。怨念や穢れなどが滞留しやすいことで、あちら側と繋がってしまうのだ。だからこそ、今回の開き方は異常だといえた。

高耶はそれを確認してから、先ずはここの人々の安全を確保しなければと、結界をより強固なものにする。次に霊穴を覆う結界を張らなくてはと考えていると、蓮次郎が立ち上がった。

「すぐに結界を張っ……!」

蓮次郎が駆け出しながら、自ら結界を張ろうとするが、距離があることと、あまりにも濃厚な霊界の気配に身を強張らせた。

倒れそうになる蓮次郎を、高耶が慌てて支える。ここは、高耶の結界の外だ。

「蓮次郎さん。落ち着いてください」
「っ、あ、ああ……」

これほど濃いものは、蓮次郎であっても感じたことがないのだろう。支える体が震えていた。同じように駆け出そうとする者たちも、高耶の結界を通り抜けたと同時に、息を詰まらせたように苦しみだす。誰も立っていられなくなった。

このままでは命にも関わると判断し、高耶は結界を急いで拡げた。

「結界から出ないでください!」
「っ、は、はいっ……」

カタカタと震えながらも返事をしたのは、橘の者たちだ。他に結界に自信を持っており、動こうとしたのだろう祓魔師エクソシスト達の大半は、気絶していた。

彼らを介抱するために、また年配の者たちが動く。少し彼らが気の毒になってきた。そんな風に周りの様子を見ていた高耶に、ようやく落ち着いたらしい蓮次郎が苦笑する。

「高耶くんの結界は、やっぱり凄かったんだね……空気が違うよ。寿命が縮んだかも……」
「気持ち悪いですよね。湿度高めというか、纏わりついてくる感じが不快で」

肺から汚染されていくようで、とにかく不快な空気が霊界にはある。ヒヤリとする冷気も感じるのに、緩いような、とにかく気持ち悪いのだ。もちろん、瘴気も混じっており息苦しくなる。

しかし、普通は不快という言葉で済んでしまうものではないらしい。

「……高耶くん……もしかして、少しは霊界に入ったりできるのかい……?」
「ええ。憑いているのも、アレですし、耐性があるんです」

アレと口にした時、そこに充雪が現れる。

《アレとはなんだ! アレとは!》
「じいさん……まさか、あそこから戻ってきたのか?」

充雪は、未だに霊界で少しずつ鬼についての情報を集めていたのだ。とはいえ、ずっと行きっぱなしではない。時折は優希の護衛として側に居る時もある。

《おう。今回はかなり奥まで行っていたから、そらそろヤバいと思って、どうやって戻ろうかと悩んでいたら、お前の気配がするじゃないか! そんで、あんな大穴! これがラッキーというのだろう! ツイてる! マジ消えるかと思った!》
「……」

いくら充雪が神であり、霊体であっても、霊界の奥は瘴気が濃すぎて、存在に侵食されかねないのだそうだ。

浅い所では、最早情報はないと判断し、奥まで行ったは良いが、予想よりもキツかったらしい。それも、存在が危ぶまれるほどに。

「何してんだ……完全に消えなくても、侵食された部分を浄化するのに、何十年か眠る事になるだろっ」
《っ、心配か?》
「優希の機嫌が悪くなるだろうが」
《……だな……》

心配していない訳ではないが、完全に消えないことは分かっているので、高耶としては、しばらく会えない間、当主としてなんとか一人でやるだけのこと。だから、気になるのは充雪をおじいちゃんと慕う優希に、会えなくなることをどう伝えるかだ。

これには、充雪も納得した。高耶の家は優希を中心にして回っている。

「ん? おい、じいさん。まさか……繋がってる場所は、かなり奥ということか?」

少し、異常だとは思っていた。離れていても感じる強い瘴気。今までの霊穴より、深い部分で繋がっているのではないかと思わずにはいられない。

充雪さえ、ヤバいと言う深さの場所。そこに、繋がっているのではないか。その予想は残念ながら外れていなかった。

《おうっ。だって、六階だもんよ》
「六ッ!? っ、常盤! 浄化結界! 【黒艶】! 断絶結界で遮断だ!」
《はっ!》
《了解だ》

予想よりも遥かに深い場所と繋がっていた。これが人里に近ければ、そこも無事ではない。

高耶は次々に指示を出す。

「【珀豪】! 【清晶】! 手分けして辺り一帯を浄化だ! 瘴気を人里に流すな!」
《承知》
《水神にも協力してもらう》

今までも、水によって遮断されていた。何より、力のある水神だ。川があれば、そこで食い止めてくれるだろう。

「【天柳】、綺翔と果泉と共に、土地神に協力を仰ぎ、土地の浄化を頼む。これ以上影響が拡がらないように留めてくれ」
《承知しました》
《諾》
《はい!》

これで持ち堪えながら、霊穴を一刻も早く閉じなければならない。だが、あれほど大きく、更に深い所に繋がる霊穴を、すぐに閉じるなど無理な話だ。

「安倍家に連絡入れたけど、これはちょっと人の手には余るよ……高耶くんの式だから、持ち堪えられてるようなものだ……どうしようか……」

青ざめた様子で、何とか連絡を取っていた蓮次郎だが、前例のない事態に、頭を抱えてしまっていた。

その時、恐る恐る霊穴の様子を見ていたらしい祓魔師エクソシスト達が騒ぎ始めた。

「っ、こ、こんな大きな力のっ……あ、悪魔が出てくるぞ!!」

高耶も先程から感じていた。霊穴の向こう側から近付いてくる大きな気配。常盤と黒艶の結界を二重にして対策しているとはいえ、厳しい状況になりつつあった。

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読んでくださりありがとうございます◎
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