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第五章 秘伝と天使と悪魔
234 頭が痛いです
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霊界は、天界や地獄界にも繋がっている。だが、明確に力や存在によって棲み分けができており、一番浅い場所には、次への行き先さえ決まっていない霊や妖が居る。
強い未練もなく、死を受け入れた者の魂は、真っ直ぐに神判の場へと向かっていくのに対し、そこに留まるのは怨霊に近しい者たちだ。
妖の力を受けて怨霊となり、現世へ戻ろうとする場合も多い。そういう者たちが、霊穴が開くと出てきやすい。
自然に発生してしまう霊穴は、そうした浅い場所に開くものなのだ。
だから、霊界の深い悪魔達の住む場所と繋がってしまうことなどあり得なかった。悪魔とは、召喚の儀式によってしか道の通らない深い世界にいるのだから。
「っ、上級だ……っ、上級の悪魔がっ……っ」
関わりの深い祓魔師たちは、近付いてくる、その力の大きさに腰を抜かしていた。
若い者たちはあり得ない、感じたことのない悪魔の気配に混乱し、少しでも距離を取ろうと、この場を逃げ出していく。だが、どのみち、この高耶の結界から出れば、動けなくなるので、年配の者たちが慌てて捕まえていた。
そんな様子を見て、恐る恐る近付いてきた統二が不思議そうに確認する。
「兄さん……っ、あの人達は専門家ですよね?」
「ああ……こちら側に出て来られるのは、中級までが限界だからな」
上級など、完全に伝説扱いなのだ。それも、中級でさえ、現代ではほとんど出くわさない。
「なぜです?」
「悪魔は、対価によって出てくるものだ。その人の時間だったり、誰かの命や血が対価になる。だが、個人や集団であっても、用意できる限界はあるだろう?」
「……大勢を生贄にとか、現代では無理ですよね……」
「そう。だから、今出せる対価で現れる悪魔は、下級のものが精々だ。中級が稀に引っ掛かるくらいで、上級なんて、気配を感じることさえなかったんだ」
儀式によって出てくる以外にも、局所的に個人の負の感情によって小さな霊穴が開き、そこでタイミング悪く波長が合い、対価となり得るものを差し出しても良いと思ってしまえば、その人に憑くこともある。
それも、下級が一般的だ。大陸の方が人が多いし、小さな霊穴が開きやすい性質の地形が各所にある。だから、悪魔の被害が大きい。
「何より、悪魔の怖さを、彼らは知っているんだろう」
「……専門家なのに逃げ出すとか……なんなの、あいつら。役に立たないならせめて、兄さんの盾になるべきだ」
「……」
統二はどうも、高耶を蔑ろにした若者達を許していないらしい。
これを聞いていたのだろうか。レスターが、真剣な表情で近付いてきた。
「高耶様。この場の者たちを、このままお任せしてもよろしいでしょうか」
「……どうするのですか?」
「今回、連れてきた者は、封印術の使い手が多いのです。どうにか、封印してみます」
「……」
高耶は考えていた。
出てこようと、近付いて来ている上級の悪魔は、常盤と黒艶の結界からは、簡単には出て来られないはずだ。それだけの力はある。それと同等以上の力を持つ者が、この場にいる祓魔師達の中に居るだろうか。
「『……どれほどの確率で可能ですか?』」
正しくそれを知るため、言語を変える。彼の母国語ではない日本語では、正確に細かいニュアンスを掴むことはできないと思ったのだ。
「『……三……いえ、二割でしょう……中級相手でさえ、四割が良いところです』」
「『それでは危険過ぎます……まだしばらくは、式達の結界で阻むことができます。だからまず、あなた方には……あの滝の裏で隠れているものを、お願いしたい』」
高耶は、相手に気付いていることを気付かれないよう、レスターに目配せしながら告げた。
「『っ、隠れてっ……まさかっ……あそこに悪魔が……』」
レスターも悟られないよう、気を付けながら、慎重に気配を感じとる。
「『ええ。恐らく、霊穴から既に出てきていたのでしょう。水神の加護のある、あの滝を結界と認識して出られなかったようですが……こちらが気付いたと知られれば恐らく……』」
「『……っ、結界だろうと構わず出て来ようとする……』」
実際は結界のような感覚があるだけで、結界ではないのだ。問題なく出てくるだろう。だから、こちらが気付いていることを、まだ悟られてはいけない。
「『これは……っ、下級悪魔が……三十は居ますね……』」
「『気取られないよう、近付けますか?』」
「『すぐに指示を出し……っ』」
その時だ。気付いた者達が大きな声を出した。それは、若者達だった。
「『あそこっ。滝の裏に、悪魔がいるぞ!』」
「『間違いない! 気配がある!』」
「『隠れているんだ! 急いでこっちからっ』」
高耶は思わず頭を抱え、レスターは怒りで顔を真っ赤にした。
「『バカどもが!』」
次の瞬間、それを合図のように、一斉に滝から悪魔達が飛び出してきたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
強い未練もなく、死を受け入れた者の魂は、真っ直ぐに神判の場へと向かっていくのに対し、そこに留まるのは怨霊に近しい者たちだ。
妖の力を受けて怨霊となり、現世へ戻ろうとする場合も多い。そういう者たちが、霊穴が開くと出てきやすい。
自然に発生してしまう霊穴は、そうした浅い場所に開くものなのだ。
だから、霊界の深い悪魔達の住む場所と繋がってしまうことなどあり得なかった。悪魔とは、召喚の儀式によってしか道の通らない深い世界にいるのだから。
「っ、上級だ……っ、上級の悪魔がっ……っ」
関わりの深い祓魔師たちは、近付いてくる、その力の大きさに腰を抜かしていた。
若い者たちはあり得ない、感じたことのない悪魔の気配に混乱し、少しでも距離を取ろうと、この場を逃げ出していく。だが、どのみち、この高耶の結界から出れば、動けなくなるので、年配の者たちが慌てて捕まえていた。
そんな様子を見て、恐る恐る近付いてきた統二が不思議そうに確認する。
「兄さん……っ、あの人達は専門家ですよね?」
「ああ……こちら側に出て来られるのは、中級までが限界だからな」
上級など、完全に伝説扱いなのだ。それも、中級でさえ、現代ではほとんど出くわさない。
「なぜです?」
「悪魔は、対価によって出てくるものだ。その人の時間だったり、誰かの命や血が対価になる。だが、個人や集団であっても、用意できる限界はあるだろう?」
「……大勢を生贄にとか、現代では無理ですよね……」
「そう。だから、今出せる対価で現れる悪魔は、下級のものが精々だ。中級が稀に引っ掛かるくらいで、上級なんて、気配を感じることさえなかったんだ」
儀式によって出てくる以外にも、局所的に個人の負の感情によって小さな霊穴が開き、そこでタイミング悪く波長が合い、対価となり得るものを差し出しても良いと思ってしまえば、その人に憑くこともある。
それも、下級が一般的だ。大陸の方が人が多いし、小さな霊穴が開きやすい性質の地形が各所にある。だから、悪魔の被害が大きい。
「何より、悪魔の怖さを、彼らは知っているんだろう」
「……専門家なのに逃げ出すとか……なんなの、あいつら。役に立たないならせめて、兄さんの盾になるべきだ」
「……」
統二はどうも、高耶を蔑ろにした若者達を許していないらしい。
これを聞いていたのだろうか。レスターが、真剣な表情で近付いてきた。
「高耶様。この場の者たちを、このままお任せしてもよろしいでしょうか」
「……どうするのですか?」
「今回、連れてきた者は、封印術の使い手が多いのです。どうにか、封印してみます」
「……」
高耶は考えていた。
出てこようと、近付いて来ている上級の悪魔は、常盤と黒艶の結界からは、簡単には出て来られないはずだ。それだけの力はある。それと同等以上の力を持つ者が、この場にいる祓魔師達の中に居るだろうか。
「『……どれほどの確率で可能ですか?』」
正しくそれを知るため、言語を変える。彼の母国語ではない日本語では、正確に細かいニュアンスを掴むことはできないと思ったのだ。
「『……三……いえ、二割でしょう……中級相手でさえ、四割が良いところです』」
「『それでは危険過ぎます……まだしばらくは、式達の結界で阻むことができます。だからまず、あなた方には……あの滝の裏で隠れているものを、お願いしたい』」
高耶は、相手に気付いていることを気付かれないよう、レスターに目配せしながら告げた。
「『っ、隠れてっ……まさかっ……あそこに悪魔が……』」
レスターも悟られないよう、気を付けながら、慎重に気配を感じとる。
「『ええ。恐らく、霊穴から既に出てきていたのでしょう。水神の加護のある、あの滝を結界と認識して出られなかったようですが……こちらが気付いたと知られれば恐らく……』」
「『……っ、結界だろうと構わず出て来ようとする……』」
実際は結界のような感覚があるだけで、結界ではないのだ。問題なく出てくるだろう。だから、こちらが気付いていることを、まだ悟られてはいけない。
「『これは……っ、下級悪魔が……三十は居ますね……』」
「『気取られないよう、近付けますか?』」
「『すぐに指示を出し……っ』」
その時だ。気付いた者達が大きな声を出した。それは、若者達だった。
「『あそこっ。滝の裏に、悪魔がいるぞ!』」
「『間違いない! 気配がある!』」
「『隠れているんだ! 急いでこっちからっ』」
高耶は思わず頭を抱え、レスターは怒りで顔を真っ赤にした。
「『バカどもが!』」
次の瞬間、それを合図のように、一斉に滝から悪魔達が飛び出してきたのだ。
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