秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
294 / 463
第六章 秘伝と知己の集い

294 軍配は上がりました

しおりを挟む
相田優也は、間違いなく高耶のファンだ。

町中でばったり会ったら、運命だと一瞬にしてテンションがMAXになるくらいに。

どうしてここにと問いかけるより先に、嬉しくて証拠写真をと思うくらいに大好きだった。よって、今更ながらに気付いたようだ。

「はっ! もしかして、師範もモデルなんですか!?」
「ああ……」

そこで、そういえばと高耶は先程までの統二達の行動を思い出す。

「相田……優也は、妹がいるのか」

統二が言っていた相田という女子生徒。そう、同じ苗字もないだろう。その女子生徒が優也の妹かと当たりを付ける。

それは正解だったらしい。

「はいっ」
「妹がいるなんてはじめて聞いたな」
「あははっ。まあ、そうっすね。師範に紹介なんてしませんから。男兄弟でもいるって言わないっすよ。もちろん、妹に師範の事も絶対話しません!」
「……」

これは嫌われてないかと高耶は不安に思った。それを聞いて、改めて思い出してみても、指導している者たちの兄弟の話を、一度として直接聞いていないと気付く。

兄弟がいると伝わってきても、それを確かめることがなかった。その話に加わることもなかったのだ。上手くそれを避けられていた気もする。

もちろん、高耶にその話題を避けていたのは、彼らなりの理由があった。

「妹や姉なんて、師範を見たら一発で惚れますもんっ。それで師範の手を煩わせるとか、仕事の邪魔するとかあったら死にたくなるじゃないっすか!」
「……え……」
「うわ~……」
「「さすが」」

意味が分からず戸惑う高耶。俊哉は、分かるけどそこまでかと感心。統二と二葉は同意するとはっきり頷いた。

「他の人たちもそうっすよ。何より、ライバル増えるの困るんで」
「……ライバル……?」
「はい! それなりに戦いはあるんすよっ」
「……」

どう反応すればいいのか、高耶には分からなかった。

そこで、統二と二葉が高耶の前に出る。

「統二? 二葉くん?」
「兄さんは何も言わなくていいから」
「寧ろ、話しかけるとか許す気ないんで」
「はあ……」

どうやら、相田という女生徒。優也の妹が近付いて来たようだ。しかし、統二達よりも先に、実の兄という検問があった。

「ちょっと兄貴。知り合いなの?」
「ん? ああ。けど、お前は話しかけるの禁止。頭が高い」
「はあ? な、なんでよ! 意味わかんない。妹だって紹介するだけじゃない!」
「師範に妹を紹介するのは協定違反だ」
「どこのよ!」
「色々だ。特に『思春期頃~二十代の女』は要注意でな。お前はダメだ」
「だからっ、なんでよ!」

周りは、完全に見物に回っていた。高耶とお近付きになりたくても、知り合いの妹さえダメというなら、近づけない。

「この時点でダメなんだよ。俺に紹介しろってことは、知り合いである俺の妹っていう優位性を見込んでんだろ? 師範には、そんな俗物な感情で近付いて欲しくねえの」
「っ、それこそ意味分かんないわよっ」

相田という女生徒、今自分がどういう表情をしているか分かっていないのだろう。かなり必死の表情だ。あまり良い顔ではない。

「先ず、行儀良くしろ。遠くから見るのは許す。声かけは挨拶の範囲内のみ。写真は同意を得てから。気軽なお触りは当然禁止だ」
「どこのファンクラブよ!」
「師範のファンクラブだ。非公式だけどな!」
「なによっ、それ!」

充雪にファンクラブだと言われたことはあるが、完全に冗談だと思っていた高耶だ。

そこで、統二が口を挟んだ。

「相田さん。言ってましたよね? 兄さんには頼まれたって近付かないって」
「っ、それは……っ」
「気軽に話しかけられると思わないでください」
「そうそう。何より、自分で言ったことは、守らないとなあ」
「っ……」

統二と二葉に言い負かされ、悔しそうな顔をする相田。兄も味方にはならないと知り、睨んでいた。

そうこうしていると、全校生徒達が集まり始めたらしい。統二が担当の教師へ声をかける。

「先生。打ち合わせを始めないといけないかと」
「っ、あ、ああ。では、この後の流れの説明をさせていただきます」

そうして、この混乱はなんとか収めることができた。

その後、高耶が舞台に上がると、ものすごい歓声が響いた。さすがの高耶も驚いたほどだ。

思えば、ピアノを弾く所では、皆が行儀よく、無闇に騒ぐことはない。相手が立場もある大人だからというのもあるだろう。気絶する時も静かだというのは、聞いたことがあった。

こうした、若い子相手にというのは、高耶としては初めての経験だったのだ。

舞台を下りると、俊哉が笑いながら肩を叩く。

「いやあ、すごかったなあ。若いって怖いわ。見たか? 座り込んだ女の子とかいたぞ」
「……面白がるな……」
「いや、もっとドタバタ倒れるの想定してたからさ~。あれか? あんま目向けないようにしてたのか?」
「……出る時に優也が、そうした方が良いって言ったんだよ……」
「マジかっ、ナイス! ファインプレー!」
「……」

やっぱり神気だろうかと、はじめて知る状況に高耶は内心、少しばかり混乱していた。

そうした落ち着かない心中に戸惑っていると、不意に、何かを感じた。

「……なんだ……?」

どこからだろうかと気配を探るも、次の打ち合わせ場所に案内すると言われ、断念する。

「……危ない感じ……ではないか……」
「兄さん? どうしました?」

統二が不思議そうに高耶の顔を見上げてくる。危機的な感覚はない。統二も気にしていないということなら大丈夫だろうと、問題も頭の端に寄せる。

「いや……で? 次は何をするんだ?」
「生徒会メンバーと、デザイナーとの顔合わせですっ」

嬉しそうな統二に手を引かれ、高耶はこの場を後にする。

その時、トクリと闇が拍動したことには気付かなかった。





**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

処理中です...