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第六章 秘伝と知己の集い
326 バランス
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古坂は苦々しげな顔をしながら満や嶺に目を向ける。
「お前らは相変わらずだな。影に隠れてコソコソと」
これには嶺が答える。
「そんなつもりないけど? 友達が危ない時に助けようとするのが普通だろ? けどそっか。お前、友達いないもんな。居たのは取り巻きで、女でも男でも、利害関係だけで繋がってるヤツしか周りに居なかったっけ」
「っ、てめえっ……」
肩を怒らせるのが分かった。顔はきっとはっきりと怒りの表情になっているだろう。
「あっ、もしかして、自覚あったんだ? 悪い悪い。知らないかと思って嫌味言ってみたんだけど」
「っ、このっ!!」
「「「っ……」」」
槇、満、嶺に緊張が走る。
思わず古坂が嶺に掴み掛かろうとし、もう一方の手が握られて上がったのだ。それを見て、高耶は椅子に座ったまま頬杖を突いて口を開く。その声は不思議なくらい響いた。
「それでいいのか?」
「っ!」
ビクリと振り上げた腕が止まる。掴み掛かろうとしていた手も、嶺を庇うように槇が後ろに引っ張り、空ぶっている。
そして、周りの音が消えた。
周りは何も遮蔽物もない広い会場。それも明るい。人が集まってきていることで、ざわざわとした声も聞こえていた。何気なくこのやり取りを見ていた者も居るだろう。
しかし今、全員の視線が奇妙な姿勢で固まる古坂に向いていた。会場はBGMとして流れていた人気歌手の歌だけが響く。
そんな中で、高耶の声がこの場の全員に聞こえたのだ。距離なんて関係なく端の方まではっきりと。
ピンっと糸を張るような、そんな緊張感も孕んだ声だった。だから、誰もが驚いてこちらに目を向けた。
高耶は真っ直ぐに古坂を見ていた。彼と視線は合わないが、古坂はようやく周りの目に気付いたようだ。
気まずくなったのだろう。手をゆっくりと下ろし、古坂は吐き捨てるように言った。
「っ……っ、誰だよ。こんなヤツら呼びやがったのは」
これに返したのは、音響チェックに付き合っていた俊哉だ。不機嫌そうな顔で至極当たり前のことを口にした。
「同窓会なんだから、全員に手紙出すの当たり前じゃん。コイツ嫌いだし出さないでおこうなんて子どもじゃねえんだし」
「「「っ、ぷっ」」」
クスクスと周りが笑いだす。
「確かにっ。出さないとか無理じゃん」
「寧ろ、全員に出すとか頑張ったよな」
「それそれっ。普通は一クラスだけだもんね。学年全員にとか大変じゃん」
これに俊哉の表情は一変し、嬉しそうに笑った。
「お~、分かってくれる? めっちゃ頑張った!」
それで空気は更に緩む。
「頑張ったな~」
「よくやったぞ~」
「ありがとな~」
「「「さすが暇人代表!」」」
「誰だ今のっ!」
「「「よくやった暇人代表!」」」
「だから誰!? 俺忙しかったからな!?」
「「「へえ~」」」
「信じてもらえない!?」
これこそ和泉だよな、なんて声も聞こえる。
そうして、古坂や槇達から視線が外れたのを確認した高耶は、古坂へと声をかけた。
「今のうちに席についたらどうだ?」
「っ……」
ここでようやく、高耶の存在に気付いたらしい。高耶は存在を薄くしていたため、それまで気にならなかったのだ。
これに同意して続けたのが彰彦だ。
「今なら視線も俊哉に向いているからな。あいつはよくやる。あの道化に、少しは感謝することだ」
「っ……」
舌打ち気味な音が聞こえる。睨んでいるんだろうが、あいにくと高耶には大きな口灯蛾しか見えない。
だから、不快なそれを見るよりもと、隣の彰彦の方へ顔を向ける。
「道化か……確かにふざけた所あるしな」
「うむ。あれは我にもできぬキャラだ」
「そうだな……彰彦には似合わないかもな」
「陽気なキャラというのは、難しいのだ」
「あ~……俺にも無理だ」
「うむ。高耶にも似合わぬな」
そんな会話をしている間に、古坂は去って行った。
幸い、席はかなり離れているようだ。高耶達の席は会場を入って左端の一番前。
古坂は中央寄りの一番後ろらしい。そこには、俊哉を弄っている三人が居た。彼らは古坂と同じ部屋のはずだ。
彼らに気まずい様子はない。
そうして観察しているのに気付いた彰彦がチラリとそちらを一度確認しただけで正面を向く。それから高耶への説明のため口を開いた。
「あのメンバーならば問題ない。よく考えられているな。あいつらは、誰とでも無難にやれる奴らだ。だからといって、相手に染まることもない。技術レベルも上がっているようだ」
「……」
冷静な分析はまだ続く。
「先ほどの俊哉への弄りも、こちらの雰囲気に気付いてやったのだろう。古坂から皆の気を完全に逸らすためにな。俊哉の意図に気付いてだ。かなり機転が利くようになったようだ」
「……すごいんだな……」
「うむ。コミュ力のレベルが高い奴らは、集まると強力な力を発揮するらしい。合わせ技とは中々やる」
「……そうか……」
彼らがこちらをフォローしようとしていたという彰彦の予想が当たっているのか、高耶が目を向けると、古坂から見えないように、一人が親指を立てて見せていた。
「やはり、学年全員で集まったのは正解だったようだ。一クラスでは無理だっただろうな」
「……なるほど……」
一つのクラスではフォローしきれる者が居なかった。学年全員が集まったから、上手くバランスが取れたようだ。
「これも必然というやつだな」
「……彰彦がそれを言うと、色々と考えさせられるよ……」
「よく考えると良い」
「……そうする……それなら」
それならば、古坂がここに来たのにも意味があるのだろう。そして、ここに高耶がいることにも。
高耶は席を立って俊哉の方へと向かった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「お前らは相変わらずだな。影に隠れてコソコソと」
これには嶺が答える。
「そんなつもりないけど? 友達が危ない時に助けようとするのが普通だろ? けどそっか。お前、友達いないもんな。居たのは取り巻きで、女でも男でも、利害関係だけで繋がってるヤツしか周りに居なかったっけ」
「っ、てめえっ……」
肩を怒らせるのが分かった。顔はきっとはっきりと怒りの表情になっているだろう。
「あっ、もしかして、自覚あったんだ? 悪い悪い。知らないかと思って嫌味言ってみたんだけど」
「っ、このっ!!」
「「「っ……」」」
槇、満、嶺に緊張が走る。
思わず古坂が嶺に掴み掛かろうとし、もう一方の手が握られて上がったのだ。それを見て、高耶は椅子に座ったまま頬杖を突いて口を開く。その声は不思議なくらい響いた。
「それでいいのか?」
「っ!」
ビクリと振り上げた腕が止まる。掴み掛かろうとしていた手も、嶺を庇うように槇が後ろに引っ張り、空ぶっている。
そして、周りの音が消えた。
周りは何も遮蔽物もない広い会場。それも明るい。人が集まってきていることで、ざわざわとした声も聞こえていた。何気なくこのやり取りを見ていた者も居るだろう。
しかし今、全員の視線が奇妙な姿勢で固まる古坂に向いていた。会場はBGMとして流れていた人気歌手の歌だけが響く。
そんな中で、高耶の声がこの場の全員に聞こえたのだ。距離なんて関係なく端の方まではっきりと。
ピンっと糸を張るような、そんな緊張感も孕んだ声だった。だから、誰もが驚いてこちらに目を向けた。
高耶は真っ直ぐに古坂を見ていた。彼と視線は合わないが、古坂はようやく周りの目に気付いたようだ。
気まずくなったのだろう。手をゆっくりと下ろし、古坂は吐き捨てるように言った。
「っ……っ、誰だよ。こんなヤツら呼びやがったのは」
これに返したのは、音響チェックに付き合っていた俊哉だ。不機嫌そうな顔で至極当たり前のことを口にした。
「同窓会なんだから、全員に手紙出すの当たり前じゃん。コイツ嫌いだし出さないでおこうなんて子どもじゃねえんだし」
「「「っ、ぷっ」」」
クスクスと周りが笑いだす。
「確かにっ。出さないとか無理じゃん」
「寧ろ、全員に出すとか頑張ったよな」
「それそれっ。普通は一クラスだけだもんね。学年全員にとか大変じゃん」
これに俊哉の表情は一変し、嬉しそうに笑った。
「お~、分かってくれる? めっちゃ頑張った!」
それで空気は更に緩む。
「頑張ったな~」
「よくやったぞ~」
「ありがとな~」
「「「さすが暇人代表!」」」
「誰だ今のっ!」
「「「よくやった暇人代表!」」」
「だから誰!? 俺忙しかったからな!?」
「「「へえ~」」」
「信じてもらえない!?」
これこそ和泉だよな、なんて声も聞こえる。
そうして、古坂や槇達から視線が外れたのを確認した高耶は、古坂へと声をかけた。
「今のうちに席についたらどうだ?」
「っ……」
ここでようやく、高耶の存在に気付いたらしい。高耶は存在を薄くしていたため、それまで気にならなかったのだ。
これに同意して続けたのが彰彦だ。
「今なら視線も俊哉に向いているからな。あいつはよくやる。あの道化に、少しは感謝することだ」
「っ……」
舌打ち気味な音が聞こえる。睨んでいるんだろうが、あいにくと高耶には大きな口灯蛾しか見えない。
だから、不快なそれを見るよりもと、隣の彰彦の方へ顔を向ける。
「道化か……確かにふざけた所あるしな」
「うむ。あれは我にもできぬキャラだ」
「そうだな……彰彦には似合わないかもな」
「陽気なキャラというのは、難しいのだ」
「あ~……俺にも無理だ」
「うむ。高耶にも似合わぬな」
そんな会話をしている間に、古坂は去って行った。
幸い、席はかなり離れているようだ。高耶達の席は会場を入って左端の一番前。
古坂は中央寄りの一番後ろらしい。そこには、俊哉を弄っている三人が居た。彼らは古坂と同じ部屋のはずだ。
彼らに気まずい様子はない。
そうして観察しているのに気付いた彰彦がチラリとそちらを一度確認しただけで正面を向く。それから高耶への説明のため口を開いた。
「あのメンバーならば問題ない。よく考えられているな。あいつらは、誰とでも無難にやれる奴らだ。だからといって、相手に染まることもない。技術レベルも上がっているようだ」
「……」
冷静な分析はまだ続く。
「先ほどの俊哉への弄りも、こちらの雰囲気に気付いてやったのだろう。古坂から皆の気を完全に逸らすためにな。俊哉の意図に気付いてだ。かなり機転が利くようになったようだ」
「……すごいんだな……」
「うむ。コミュ力のレベルが高い奴らは、集まると強力な力を発揮するらしい。合わせ技とは中々やる」
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彼らがこちらをフォローしようとしていたという彰彦の予想が当たっているのか、高耶が目を向けると、古坂から見えないように、一人が親指を立てて見せていた。
「やはり、学年全員で集まったのは正解だったようだ。一クラスでは無理だっただろうな」
「……なるほど……」
一つのクラスではフォローしきれる者が居なかった。学年全員が集まったから、上手くバランスが取れたようだ。
「これも必然というやつだな」
「……彰彦がそれを言うと、色々と考えさせられるよ……」
「よく考えると良い」
「……そうする……それなら」
それならば、古坂がここに来たのにも意味があるのだろう。そして、ここに高耶がいることにも。
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