秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

325 こういうのも居ます

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白いスーツを見て高耶が思うのは、さすがに着たことはないなということだった。だから、その呟きは思わず出た。

「……白いスーツって、普通に売ってるんだな……」
「「「っ、ぷっ」」」

満と嶺、それと、緊張気味だった槇もそれを聞いて吹き出す。予想外の感想だったらしい。

そして、ここでも彰彦はいつも通りだ。

「その辺のショッピングセンターに入っている店には中々置いていないだろうが、ホスト用にと狙って置いている店はあるぞ」
「なるほど……じゃあ、アレはそういう店で……」
「うむ。婚礼用でなければ」
「そうか……十代といっても、もうじきに二十歳だし、結婚してるのもいるかもな」
「因みに、この中で結婚している者が三組と五人居るらしい」

同級生で結婚したのが三組。それ以外で相手がいて、結婚しているのが五人ということ。

「三組ってのは、同級生でってことか……すごいな」
「うむ。ほぼ純愛である」
「へえ」

彰彦の『ほぼ純愛』という言葉には特に触れず納得しておく。

高耶には結婚というのに実感が湧かないが、実際に同級生の中には、既に結婚している者が居ると知って感心してもいた。

考えてみれば、子どももいてもおかしくない年齢だなと不思議な感慨を受ける。

そんな二人の会話を聞いていた満と嶺、槇は、向かって来ている人の事も忘れて必死で笑いを堪えていた。

「なに? ほぼって……ほぼ純愛ってなに?っ」
「既婚者が居るってのは確かに衝撃だけどっ……すごいなって……寧ろ白スーツからその会話来る?」
「純粋過ぎるだろ……っ」

白スーツを見て槇達が先ず思うのは『同窓会にそれ着てくる?』だ。場違いとも言えるし、良い印象は受けない。

それも、槇達にとっては少しばかり因縁のある相手だ。間違いなく嫌な笑い方をしながら近付いて来ているのだから、気分も悪い。知らず体も強張る。

しかし、高耶と彰彦の会話を聞いていたら、それもほぐれたようだ。

だから、険悪な雰囲気になることなく向き合えた。

「よお。白木。久しぶりだな」
「……ああ」
「お前が来るとは思わなかったぜ」
「そうか……」
「……」

会話が成り立たない。高耶には、二人の関係が見えず、不思議そうに見ていることしかできない。

大体、相手が誰なのかが分からなかった。顔を知っていたとしても、その顔には覆い隠すくらい大きな口灯蛾が憑いており、高耶には顔が判別出来なかったのだ。

それを知ってか知らずか、彰彦が囁いた。見事に高耶にだけ聞こえるよう、調整した囁きだ。彼は特殊能力を持っていると言っていいのではないだろうか。

「古坂だ。高耶とは同じクラスになっていない」
「……だよな……」

知らないのは当たり前ということで、良かったと少しほっとする高耶だ。こうも顔と名前が一致しないどころか知らないというのは、高耶としても、ないわと思っていたのだ。

とはいえ、相変わらず女子で名前がすぐに分かる者はいなさそうだ。

「そうか。中学の頃の二人を知らなかったな」
「ああ」

高耶は父親が亡くなったことで、小学校を卒業すると、違う土地へと移った。よって、中学まで持ち上がりであるこの場にいる同級生達とは違い、記憶の中の顔も朧げなのはある意味仕方がない。

小学生の頃からの面影を見つけるのは難しいだろう。

そして、彰彦が考えた末に説明する。

「ふむ……何と言うか……あの二人は、拳で語り合う仲だった」
「そうなのか」

ここで少しばかり認識のズレが出る。拳で語り合うと高耶が聞けば、それは『良いライバル』『高め合える仲』となる。

とはいえ、高耶も世間での認識とのズレをそれなりに理解しているため、納得したあとに首を捻った。

「あ、そうか……逆か。仲が悪い?」
「刃傷沙汰になったことも三度ほどある」
「それは……なるほど……」

一度の刃傷沙汰なら、わざとではないかもしれないが、三度となると故意だろう。

相当仲が悪いのだと認識できた。

古坂という白スーツは、いかにも顔を歪めていそうな口調で喋っていた。

「高校も退学になったんだってなあ。お前が行けたんだ。レベルもそう大したこともない所だったんだろ? そんな所も卒業できないとか、もはやクズだな。ああ、中学の時からお前はクズだったか」
「……」
「「っ……」」

槇の顔色に変化はない。寧ろ、満と嶺がキレそうになっている。良い友人だなと、高耶は一歩引いて見ていた。

だが、古坂が喋るごとに、口灯蛾の鱗粉が舞うのだ。良い気分はしない。

テーブルを挟んだ向こうであっても、視えている高耶にすれば、槇達の並べられたカトラリーに鱗粉が降りかかっているのが見えるのだ。いくら視えない振りが得意でも、不快さに眉根が寄るのは仕方がなかった。

槇はまっすぐ古坂を見つめるだけ。それが古坂には気に入らなかったようだ。

「なんだよその目。あ~、やっぱお前はアレだ。妹が行方不明で可哀想な奴で、グレても仕方ないよな~って思われたかったんだろ? 良かったよなあ。俺より可哀想な奴で。先生達も中学の頃はまだ気い遣ってたもんなあ」
「っ……」

槇の顔色が変わった。

彼も分かっていたのだろう。状況に甘えていた所もあるのだと。今槇が世話になっている所では、そうして自覚を促すこともできる大人達が集まっている。

だから槇も、むやみに手を出したりしなくなったのだ。

しかし、これはダメだろう。

最初に立ち上がって口を開いたのは満だった。

「古坂、お前、相変わらず性格の悪い奴だな。お前みたいなのに群がる女が、未だに同級に居るってのは信じたくなかったぜ」

高耶は、まさかの周りの女の子達への牽制に目を丸くした。

傍に居た女子達も、古坂の言動が不快だったのだろう。眉を寄せている者もいた。そんな女子達は、今だと思ったらしい。

「っ、ちょっ、あ、わ、私達は……ちょっと挨拶しただけよ……」
「そ、そうよ……も、もう行くわ」
「じゃあ私も……」
「うん……」

あっさり女子達は散らばっていった。

「おいっ」

古坂がその背中に声をかけても、怯えるだけで足は止まらなかった。

「ちっ」

舌打ちする古坂。満が少し満足そうに見えたのを見て、高耶は納得する。

「なるほど……やるな……」
「アレは昔からそうだ。周りに被害を出さないためにも、他を離すのが上手い。もう一人は、やめ時を見定める役だな」
「へえ……」

満は、周りを逃す役だったようだ。そして嶺は、折を見て教師を呼んで来る役だったという。

しかし、今回はどう収めるのか。

高耶は完全に見ものに回っていた。








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読んでくださりありがとうございます◎
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