秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
16 / 463
第一章 秘伝のお仕事

016 眠るものは

しおりを挟む
2018. 1. 3

**********

旅行二日目の朝。
昨晩眠ったのは十二時を回った頃。お陰でいつもよりは睡眠時間が取れた。

優希が隣にいたこともあり、少々布団は狭かったが、目覚めはすこぶる良かった。

充雪の話に興奮していた優希も、高耶が眠る頃には眠っていた。今はまだ目を覚ましてはいない。

時刻は朝の七時。両親もまだ目覚めていないらしい。高耶は一人身支度を整え、今日の予定を考える。

《お、起きたのか? それ、材料を集めておいたぞ》
「早いな。なら、優希達が起きる前に完成させるか」

そうして、一時間ほどで呪具が完成した。

八時。優希が目を覚ました。それと同時に、襖の向こうで人の動く気配がする。

「おはよう、おにいちゃん……」
「ああ、おはよう。母さん達も起きたみたいだから、着替えておいで」
「うん。あ……セツじぃは?」

襖を開けようとして、優希が振り返る。高耶は苦笑し、指を空中に向ける。

「ここにいる。また夜にな」
「うんっ。セツじぃ、またおはなし、きかせてね」
《おうっ》

充雪の声は優希には聞こえないが、頷いてやると、笑顔で襖を開けて出て行った。

「で? この余ったやつで優希が見えるようにする呪具を作れってことか?」
《察しがいいな。さすがはオレの見込んだ男だ》
「おい……」

こういう時だけ調子がいい。充雪が集めてきた材料の中に、明らかに必要となる材料とは違うものが紛れ込んでいた。

それらを集めると、まさに妖が視えるようになる呪具を作るためのものが残っていたのだ。

「作っても、使うのは俺といる時だけになるぞ。今はただでさえ危ないかもしれないんだ。視えるってだけで攻撃してくるのもいるからな」

妖は、視えないからこそ悪さができる。自分たちの仕業だと分からないから、面白いのだ。けれど、そこに視えるものが現れれば、水を差すことになる。

弱い妖ならば、視られたという衝撃で消滅することさえあるのだが、視えるというだけで敵視され、危害を加えられることもあるのだ。

妖相手に戦う手段を持たない者が視えるのは良いことではない。

《むむ……確かに……》
「同時に結界を周りに張れるようなものならいいんだがな……」
《っ、できそうじゃないかっ!?》
「呪具は専門外だろうが……まぁ、時間をかければなんとか……」

無理ではないかもしれない。高耶は、何かを作ったりするのが嫌いではない。新しい呪具もそれなりに作ってきた。今回作った呪具もアレンジされているもので、かなり効果が高くなっている。

《やるぞっ。いいだろう?》
「……ここにいる間にできればだぞ……」
《徹夜しろっ。大丈夫だ。なんとかなるっ》
「俺は生身だ。爺さんと一緒にするなよ?」

どうにも最近、よく無茶を押し付けられる。生身の人間なのだと忘れられていやしないかと心配になるほどだ。

「おにいちゃ~ん。あさごはんいこ」
「ああ……これ、仕掛けてきておいてくれ。こっちの作業は後だ」
《おうっ、任せろっ》

充雪に神のための呪具を頼み、高耶は腰を上げた。笑顔で待っている優希の頭を撫で、朝食に出かけたのだ。

◆◆◆◆◆

どす黒い感情が渦巻き、集まっていく。それは、つい最近から得られるようになった彼の餌だ。お陰で忌々しい人の施した術も、その上から抑えつけてくる神の力も跳ね除けられそうだ。

しかし、後一歩という所で、なぜかふっと神の力が強まった。

《なぜ……なぜ、ここまでの力があの神にあるっ……》

長い間地道に、集めた負の感情から細く細く糸を紡ぎ、愚かな人々の心から、その神の記憶を消していった。信仰が神の力だ。それが無くなれば弱まっていく。そうしてここまで弱めたというのに、何が起きたというのか。

《どうしてっ……》

深淵の中、それは考える。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。

『悔しいか』
《っ……》
『力を貸してやろうか』
《……誰だ……》

おかしな気配だった。妖とも人とも思えない。けれど、神ではないことは確かだ。

『鬼よ。人が、神が憎くはないか。この地上が欲しくはないか』
《……憎いっ、封じた『人』が! 欲しいっ、自由が!》
『ならば打ち破ってみせろ。餌はあちらにもあるぞ』
《っ……いいぞ、そうか、あの感情よりもっ……いいぞ、いいぞ!》

手繰り寄せていた感情よりも上質な負の感情。近くにあったというのに、なぜ気付かなかったのか。

『くくっ、封印が解けるのも、時間の問題だな……』

そうして、それは静かに去っていったのだ。
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」 魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。 ――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。 「ここ……どこ?」 現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。 救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。 「ほら、食え」 「……いいの?」 焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。 行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。 旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。 「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」 「ウチの子は天才か!?」 ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。 これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。 ※若干の百合風味を含みます。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...