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第一章 秘伝のお仕事
018 やるべき事
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2018. 1. 8
**********
高耶は、道場を見せてもらえるかと老人に尋ねた。家族達がそろそろ食事処から出てきそうだが、ここでやれる事は先に済ませてしまいたい。
「これがうちの道場だ」
「では、少し上がらせてもらいます」
そう言って、高耶は道場へ足を踏み入れる。そして、取り出した札に力を込めると、上へ飛ばす。その札は上空に留まり、四角に向けて光の筋を伸ばした。ここまでほんの十秒。
「これはっ……」
「どうぞ、こちらへ。過去の様子を一緒に見てみましょう」
「あ、ああ……」
道場の端の方に腰を下ろすと、そこへ老人を手招く。
腰を下ろしたのを確認してから中央に浮遊する札に向けて力を飛ばせば、瞬間、光が道場を満たした。
眩しさに目を一度閉じた後、目の前に見えたのは、過去の情景だ。老人にも見えている。
「なんとっ……これは……っ」
「過去、この場であった情景です。奥義が失伝する前の稽古の様子ですね」
「っ……」
薄い人々の影が動き回っている。立体映像の発想はここから出来たのではないかと思われる。そんな人々の稽古の様子を高耶は真剣に、何も見逃さないつもりで見つめる。
動き方や、恐らく師匠である者の教え方。それらを総合し、この道場が受け継いできた技術を理解していく。
「あっ、あれはっ」
場面が目まぐるしく変わっていく中、老人が思わず声を上げた。それがおそらく奥義だ。
高耶は、一挙手一投足、全てを見逃さなかった。それを見終わると、術を解く。
「秘伝の……あれはっ……」
「ええ。あれが失伝した奥義で間違いないでしょう」
「そう……あれがっ、あれがっ、奥義っ……」
感動する老人。しかし、次第に肩を落とした。
「ワシがもう少し若ければっ……」
奥義を受け継ぐには、老人には時間も体力も無くなってしまっている。だが、それでもそれを可能にするのが秘伝の力だ。
「問題ありません。では明日、お会いしましょう。今日はゆっくりお休みください」
「えっ、あ、ああ……」
高耶はあっさりと立ち上がる。老人は、未だ夢見心地のように座り込んで道場を見つめていた。
「先にこっちをどうにかしたいが……」
階段を下りながら、目の前に広がる山を見つめる。しかし、次第にその目には剣呑さが増していた。こうして外に出た事で感じる違和感。それは、先日この地にやってきた時には感じなかったものだ。
「……鬼の力が増している……?」
神の方の力は、高耶の作った呪具で安定し、増している。しかし、鬼の方も様子が変わっていたのだ。
「あれが連動した……とは考え難いな。土地が離れ過ぎている……」
何かから力を供給している。そう直感が告げていた。
「じいさん」
小さく呟くように呼べば、充雪が高耶と同じように山を睨みつけるようにして頭上に現れる。
《誰かが山に入ったようだ》
高耶が尋ねたかった答えを充雪がくれる。
「鬼に接触したと?」
《ああ。だが……これが妙なのだ。人と断言できん》
「は?」
なんの冗談かと思わず振り仰ぐ。しかし、冗談を言っているような表情ではなかった。
「……なら霊か?」
《いや、それほど不確かでもない。山にはそういったものが多いが、干渉できるほどの力はないだろう。神の力も弱ってはいるが、強い方だ》
悪さをしたり、それこそ人に危害を加えるような悪霊と呼ばれるものは、神の力によって浄化される。その力がないほど弱い神ではないのだ。
「……探れるか?」
《分からんな。神にも対抗する鬼を唆すようなやつだ……》
「繋がりを強くしておく。頼めるか?」
《任せろ。お主が気合いを入れるなら問題ない》
「なら頼んだ」
《おう》
神にまでなった偉大な先祖であり、師匠であっても、高耶と充雪はお互いを信頼し合える相棒なのだ。
相手がもしも神さえも滅してしまえる程の力を有していたとしても、高耶の術によって繋がりを強くしておくことで、その消滅を免れる。魂と魂を繋げるその技は、一流の術者のものだ。
それを可能にする力量。それを高耶は持っている。
山へ向かっていく充雪を見送っていると、優希達がやってきた。
「おにいちゃ~ん。えっと……おはなしおわった?」
抱き着いてきた優希は、一瞬キョロキョロと辺りを見回して尋ねてくる。どうやら充雪を探しているようだ。高耶が空中に向かって話している様子が見えていたのだろう。
「終わったよ」
笑みを見せながら言うと、優希は残念だというように顔をしかめた。どうやら、充雪と話したかったらしい。
「今、仕事中だから、それが終わったらな」
「うんっ」
少し厄介な仕事だが、夜までには一度帰ってくるだろう。しかし、高耶の予想とは裏腹に、充雪は次の日にも帰って来なかったのだ。
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高耶は、道場を見せてもらえるかと老人に尋ねた。家族達がそろそろ食事処から出てきそうだが、ここでやれる事は先に済ませてしまいたい。
「これがうちの道場だ」
「では、少し上がらせてもらいます」
そう言って、高耶は道場へ足を踏み入れる。そして、取り出した札に力を込めると、上へ飛ばす。その札は上空に留まり、四角に向けて光の筋を伸ばした。ここまでほんの十秒。
「これはっ……」
「どうぞ、こちらへ。過去の様子を一緒に見てみましょう」
「あ、ああ……」
道場の端の方に腰を下ろすと、そこへ老人を手招く。
腰を下ろしたのを確認してから中央に浮遊する札に向けて力を飛ばせば、瞬間、光が道場を満たした。
眩しさに目を一度閉じた後、目の前に見えたのは、過去の情景だ。老人にも見えている。
「なんとっ……これは……っ」
「過去、この場であった情景です。奥義が失伝する前の稽古の様子ですね」
「っ……」
薄い人々の影が動き回っている。立体映像の発想はここから出来たのではないかと思われる。そんな人々の稽古の様子を高耶は真剣に、何も見逃さないつもりで見つめる。
動き方や、恐らく師匠である者の教え方。それらを総合し、この道場が受け継いできた技術を理解していく。
「あっ、あれはっ」
場面が目まぐるしく変わっていく中、老人が思わず声を上げた。それがおそらく奥義だ。
高耶は、一挙手一投足、全てを見逃さなかった。それを見終わると、術を解く。
「秘伝の……あれはっ……」
「ええ。あれが失伝した奥義で間違いないでしょう」
「そう……あれがっ、あれがっ、奥義っ……」
感動する老人。しかし、次第に肩を落とした。
「ワシがもう少し若ければっ……」
奥義を受け継ぐには、老人には時間も体力も無くなってしまっている。だが、それでもそれを可能にするのが秘伝の力だ。
「問題ありません。では明日、お会いしましょう。今日はゆっくりお休みください」
「えっ、あ、ああ……」
高耶はあっさりと立ち上がる。老人は、未だ夢見心地のように座り込んで道場を見つめていた。
「先にこっちをどうにかしたいが……」
階段を下りながら、目の前に広がる山を見つめる。しかし、次第にその目には剣呑さが増していた。こうして外に出た事で感じる違和感。それは、先日この地にやってきた時には感じなかったものだ。
「……鬼の力が増している……?」
神の方の力は、高耶の作った呪具で安定し、増している。しかし、鬼の方も様子が変わっていたのだ。
「あれが連動した……とは考え難いな。土地が離れ過ぎている……」
何かから力を供給している。そう直感が告げていた。
「じいさん」
小さく呟くように呼べば、充雪が高耶と同じように山を睨みつけるようにして頭上に現れる。
《誰かが山に入ったようだ》
高耶が尋ねたかった答えを充雪がくれる。
「鬼に接触したと?」
《ああ。だが……これが妙なのだ。人と断言できん》
「は?」
なんの冗談かと思わず振り仰ぐ。しかし、冗談を言っているような表情ではなかった。
「……なら霊か?」
《いや、それほど不確かでもない。山にはそういったものが多いが、干渉できるほどの力はないだろう。神の力も弱ってはいるが、強い方だ》
悪さをしたり、それこそ人に危害を加えるような悪霊と呼ばれるものは、神の力によって浄化される。その力がないほど弱い神ではないのだ。
「……探れるか?」
《分からんな。神にも対抗する鬼を唆すようなやつだ……》
「繋がりを強くしておく。頼めるか?」
《任せろ。お主が気合いを入れるなら問題ない》
「なら頼んだ」
《おう》
神にまでなった偉大な先祖であり、師匠であっても、高耶と充雪はお互いを信頼し合える相棒なのだ。
相手がもしも神さえも滅してしまえる程の力を有していたとしても、高耶の術によって繋がりを強くしておくことで、その消滅を免れる。魂と魂を繋げるその技は、一流の術者のものだ。
それを可能にする力量。それを高耶は持っている。
山へ向かっていく充雪を見送っていると、優希達がやってきた。
「おにいちゃ~ん。えっと……おはなしおわった?」
抱き着いてきた優希は、一瞬キョロキョロと辺りを見回して尋ねてくる。どうやら充雪を探しているようだ。高耶が空中に向かって話している様子が見えていたのだろう。
「終わったよ」
笑みを見せながら言うと、優希は残念だというように顔をしかめた。どうやら、充雪と話したかったらしい。
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