18 / 468
第一章 秘伝のお仕事
018 やるべき事
しおりを挟む
2018. 1. 8
**********
高耶は、道場を見せてもらえるかと老人に尋ねた。家族達がそろそろ食事処から出てきそうだが、ここでやれる事は先に済ませてしまいたい。
「これがうちの道場だ」
「では、少し上がらせてもらいます」
そう言って、高耶は道場へ足を踏み入れる。そして、取り出した札に力を込めると、上へ飛ばす。その札は上空に留まり、四角に向けて光の筋を伸ばした。ここまでほんの十秒。
「これはっ……」
「どうぞ、こちらへ。過去の様子を一緒に見てみましょう」
「あ、ああ……」
道場の端の方に腰を下ろすと、そこへ老人を手招く。
腰を下ろしたのを確認してから中央に浮遊する札に向けて力を飛ばせば、瞬間、光が道場を満たした。
眩しさに目を一度閉じた後、目の前に見えたのは、過去の情景だ。老人にも見えている。
「なんとっ……これは……っ」
「過去、この場であった情景です。奥義が失伝する前の稽古の様子ですね」
「っ……」
薄い人々の影が動き回っている。立体映像の発想はここから出来たのではないかと思われる。そんな人々の稽古の様子を高耶は真剣に、何も見逃さないつもりで見つめる。
動き方や、恐らく師匠である者の教え方。それらを総合し、この道場が受け継いできた技術を理解していく。
「あっ、あれはっ」
場面が目まぐるしく変わっていく中、老人が思わず声を上げた。それがおそらく奥義だ。
高耶は、一挙手一投足、全てを見逃さなかった。それを見終わると、術を解く。
「秘伝の……あれはっ……」
「ええ。あれが失伝した奥義で間違いないでしょう」
「そう……あれがっ、あれがっ、奥義っ……」
感動する老人。しかし、次第に肩を落とした。
「ワシがもう少し若ければっ……」
奥義を受け継ぐには、老人には時間も体力も無くなってしまっている。だが、それでもそれを可能にするのが秘伝の力だ。
「問題ありません。では明日、お会いしましょう。今日はゆっくりお休みください」
「えっ、あ、ああ……」
高耶はあっさりと立ち上がる。老人は、未だ夢見心地のように座り込んで道場を見つめていた。
「先にこっちをどうにかしたいが……」
階段を下りながら、目の前に広がる山を見つめる。しかし、次第にその目には剣呑さが増していた。こうして外に出た事で感じる違和感。それは、先日この地にやってきた時には感じなかったものだ。
「……鬼の力が増している……?」
神の方の力は、高耶の作った呪具で安定し、増している。しかし、鬼の方も様子が変わっていたのだ。
「あれが連動した……とは考え難いな。土地が離れ過ぎている……」
何かから力を供給している。そう直感が告げていた。
「じいさん」
小さく呟くように呼べば、充雪が高耶と同じように山を睨みつけるようにして頭上に現れる。
《誰かが山に入ったようだ》
高耶が尋ねたかった答えを充雪がくれる。
「鬼に接触したと?」
《ああ。だが……これが妙なのだ。人と断言できん》
「は?」
なんの冗談かと思わず振り仰ぐ。しかし、冗談を言っているような表情ではなかった。
「……なら霊か?」
《いや、それほど不確かでもない。山にはそういったものが多いが、干渉できるほどの力はないだろう。神の力も弱ってはいるが、強い方だ》
悪さをしたり、それこそ人に危害を加えるような悪霊と呼ばれるものは、神の力によって浄化される。その力がないほど弱い神ではないのだ。
「……探れるか?」
《分からんな。神にも対抗する鬼を唆すようなやつだ……》
「繋がりを強くしておく。頼めるか?」
《任せろ。お主が気合いを入れるなら問題ない》
「なら頼んだ」
《おう》
神にまでなった偉大な先祖であり、師匠であっても、高耶と充雪はお互いを信頼し合える相棒なのだ。
相手がもしも神さえも滅してしまえる程の力を有していたとしても、高耶の術によって繋がりを強くしておくことで、その消滅を免れる。魂と魂を繋げるその技は、一流の術者のものだ。
それを可能にする力量。それを高耶は持っている。
山へ向かっていく充雪を見送っていると、優希達がやってきた。
「おにいちゃ~ん。えっと……おはなしおわった?」
抱き着いてきた優希は、一瞬キョロキョロと辺りを見回して尋ねてくる。どうやら充雪を探しているようだ。高耶が空中に向かって話している様子が見えていたのだろう。
「終わったよ」
笑みを見せながら言うと、優希は残念だというように顔をしかめた。どうやら、充雪と話したかったらしい。
「今、仕事中だから、それが終わったらな」
「うんっ」
少し厄介な仕事だが、夜までには一度帰ってくるだろう。しかし、高耶の予想とは裏腹に、充雪は次の日にも帰って来なかったのだ。
**********
高耶は、道場を見せてもらえるかと老人に尋ねた。家族達がそろそろ食事処から出てきそうだが、ここでやれる事は先に済ませてしまいたい。
「これがうちの道場だ」
「では、少し上がらせてもらいます」
そう言って、高耶は道場へ足を踏み入れる。そして、取り出した札に力を込めると、上へ飛ばす。その札は上空に留まり、四角に向けて光の筋を伸ばした。ここまでほんの十秒。
「これはっ……」
「どうぞ、こちらへ。過去の様子を一緒に見てみましょう」
「あ、ああ……」
道場の端の方に腰を下ろすと、そこへ老人を手招く。
腰を下ろしたのを確認してから中央に浮遊する札に向けて力を飛ばせば、瞬間、光が道場を満たした。
眩しさに目を一度閉じた後、目の前に見えたのは、過去の情景だ。老人にも見えている。
「なんとっ……これは……っ」
「過去、この場であった情景です。奥義が失伝する前の稽古の様子ですね」
「っ……」
薄い人々の影が動き回っている。立体映像の発想はここから出来たのではないかと思われる。そんな人々の稽古の様子を高耶は真剣に、何も見逃さないつもりで見つめる。
動き方や、恐らく師匠である者の教え方。それらを総合し、この道場が受け継いできた技術を理解していく。
「あっ、あれはっ」
場面が目まぐるしく変わっていく中、老人が思わず声を上げた。それがおそらく奥義だ。
高耶は、一挙手一投足、全てを見逃さなかった。それを見終わると、術を解く。
「秘伝の……あれはっ……」
「ええ。あれが失伝した奥義で間違いないでしょう」
「そう……あれがっ、あれがっ、奥義っ……」
感動する老人。しかし、次第に肩を落とした。
「ワシがもう少し若ければっ……」
奥義を受け継ぐには、老人には時間も体力も無くなってしまっている。だが、それでもそれを可能にするのが秘伝の力だ。
「問題ありません。では明日、お会いしましょう。今日はゆっくりお休みください」
「えっ、あ、ああ……」
高耶はあっさりと立ち上がる。老人は、未だ夢見心地のように座り込んで道場を見つめていた。
「先にこっちをどうにかしたいが……」
階段を下りながら、目の前に広がる山を見つめる。しかし、次第にその目には剣呑さが増していた。こうして外に出た事で感じる違和感。それは、先日この地にやってきた時には感じなかったものだ。
「……鬼の力が増している……?」
神の方の力は、高耶の作った呪具で安定し、増している。しかし、鬼の方も様子が変わっていたのだ。
「あれが連動した……とは考え難いな。土地が離れ過ぎている……」
何かから力を供給している。そう直感が告げていた。
「じいさん」
小さく呟くように呼べば、充雪が高耶と同じように山を睨みつけるようにして頭上に現れる。
《誰かが山に入ったようだ》
高耶が尋ねたかった答えを充雪がくれる。
「鬼に接触したと?」
《ああ。だが……これが妙なのだ。人と断言できん》
「は?」
なんの冗談かと思わず振り仰ぐ。しかし、冗談を言っているような表情ではなかった。
「……なら霊か?」
《いや、それほど不確かでもない。山にはそういったものが多いが、干渉できるほどの力はないだろう。神の力も弱ってはいるが、強い方だ》
悪さをしたり、それこそ人に危害を加えるような悪霊と呼ばれるものは、神の力によって浄化される。その力がないほど弱い神ではないのだ。
「……探れるか?」
《分からんな。神にも対抗する鬼を唆すようなやつだ……》
「繋がりを強くしておく。頼めるか?」
《任せろ。お主が気合いを入れるなら問題ない》
「なら頼んだ」
《おう》
神にまでなった偉大な先祖であり、師匠であっても、高耶と充雪はお互いを信頼し合える相棒なのだ。
相手がもしも神さえも滅してしまえる程の力を有していたとしても、高耶の術によって繋がりを強くしておくことで、その消滅を免れる。魂と魂を繋げるその技は、一流の術者のものだ。
それを可能にする力量。それを高耶は持っている。
山へ向かっていく充雪を見送っていると、優希達がやってきた。
「おにいちゃ~ん。えっと……おはなしおわった?」
抱き着いてきた優希は、一瞬キョロキョロと辺りを見回して尋ねてくる。どうやら充雪を探しているようだ。高耶が空中に向かって話している様子が見えていたのだろう。
「終わったよ」
笑みを見せながら言うと、優希は残念だというように顔をしかめた。どうやら、充雪と話したかったらしい。
「今、仕事中だから、それが終わったらな」
「うんっ」
少し厄介な仕事だが、夜までには一度帰ってくるだろう。しかし、高耶の予想とは裏腹に、充雪は次の日にも帰って来なかったのだ。
224
あなたにおすすめの小説
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~
ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。
絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。
彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。
営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。
「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」
転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。
だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。
ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。
周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。
「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」
戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。
現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。
「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」
これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。
騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。
「お前との婚約は破棄だ」
ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!?
※3連休中は一日5話投稿。その後は毎日20時に一話投稿となります。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる