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第一章 秘伝のお仕事
021 親子は難しい
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2018. 1. 15
**********
夜が明けた。一仕事終えた高耶は、気分を落ち着けるためにもと、一人で部屋の温泉に浸かっていた。
露天風呂から見えるのは、朝靄に包まれる幻想的な山の風景。しかし、高耶は景色を楽しむように見えていても、その実、充雪の気配を見つけようと集中していた。
「あのジジィ……これは山神の所か?」
自身の力が山に流れている事を悟った高耶は、恐らく充雪が山神の所にいるのだと察した。
「まったく……」
イレギュラーな事が起こったのは明白。だが、今は繋がりを強化している状態だ。こちらから働きかけることはできないが、充雪から連絡を取ることは難しくない。それをしないのは、忘れているのか、山神に面倒な事を押し付けられてそれに思い至らないかのどちらかだろう。
「脳筋だしな……仕方ない」
動きながらも思考し、計算するという芸当が出来ないのは知っている。良いも悪くも、反射や直感でもって結果を出すのが脳筋だ。高耶も悪いことだとは思っていない。そこまで至るには、相当の経験則が必要なのだから。
「俺がおかしいのか?」
歴代の当主の中ではかなり異端だ。充雪はたまに高耶の事を父親である夜鷹のようだと言う。自分が追い求めていた人物像そのものだと。
そんな思考に浸っていると、そこへ父がやってきた。
「おはよう、高耶君。朝風呂良いねぇ」
「おはようございます」
隣りに入ってきた父に挨拶する。父は肩まで湯に浸かりながら景色を見る。
「スゴイねぇ……綺麗だ」
「ええ」
一緒になって、今度は何も考えず眼前に広がる景色を見つめた。
「……」
静かに見つめる高耶へ目を向けた父は首を傾げた。
「何か悩んでる?」
「……いえ……あ~、いや、少しだけ……」
なぜわかったのかという思いのせいで、どんな顔をしていいのか戸惑う。今までならば何でも誤魔化せた。否、誤魔化そうと思った。けれど、今は違う。
「ちょっと、トラブっているみたいです」
「誰と?」
「……神と……ですかね。あそこに見える山です。あそこには、古い神がいます。邪魔をされているわけではないようですけど……」
山を見つめる高耶の目は、いつの間にか鋭い光を宿していた。
「神様が相手なの?」
「いいえ、神様は協力者です。だから、まぁ、なんとかなります」
「ははっ、神様が協力者だなんてね」
それからしばらく、黙って湯に浸かっていた。次第に明るくなってくる山の様子を確認してようやく湯から上がったのだ。
朝食は、部屋に用意してもらった。のんびりと、高耶の式である珀豪と共に食事ができて優希も喜んでいた。
「ハクちゃん、これたべる?」
《我の事より、これを食べよ。野菜はしっかり取らねばいかんぞ》
「は~い」
むしろ、優希の世話を珀豪が進んで焼いていた。
《主よ。我はこのままで良いか?》
「ああ。優希が気に入ってるみたいだし、お前も子ども好きだろう」
《む、う、うむ……否定できん……》
珀豪は面倒見が良い。それが最も発揮されるのが子ども相手の時だ。
「……」
「母さん、どうかしたのか?」
母は先ほどから全く口を開いていない。朝食を食べる速度や一口の量が異様に遅いし小さいのも気になった。母の目は、珀豪と優希に向いていた。
「高耶……」
「あ、ああ。なんだ?」
「……あなたが手がかからなかったのって、ハク君がいたからじゃないの?」
「ん?」
意味がすぐには分からなかった。それを察したのだろう。母は更に続ける。
「だって、高耶、留守番も、買い物もお料理も全部、いつの間にかできるようになったし、私は手がかからなくて良いわって思ってただけだったけど……良く考えたらおかしいじゃない」
高耶は父が死んで、家で一人になっても、全く手のかからない子だった。それはもちろん、充雪や式達のおかげではあった。
「……まぁ、珀豪達と誓約したのが十一だったかな……充雪はそれより前から一緒にいたから……」
「やっぱりっ。なんで言わないのよ!」
「いや……その……」
言えなかったという事は昨晩話したはずなのだがと高耶は苦笑する。これに、助け舟を出してくれたのは父だ。
「まぁまぁ、高耶君は僕達の事を思って言わなかったんだから。ねっ」
「そ、そうだけど……」
納得できないと顔をしかめる母。これでは高耶の邪魔になると判断した珀豪が言う。
《主よ。外に出るのではないのか? 家族は我が守ろう》
「あ、ああ。頼む。俺は道場に行ってくるから」
「ハクちゃんといっしょにいていいの?」
《うむ。主の許可は取ったぞ》
「わぁ~いっ」
父も今日は一日、のんびりとこの旅館で過ごすと決めたらしい。話し相手にも珀豪は適任だ。
高耶は逃げるように、昨日の道場へ向かうため、旅館を出て行ったのだ。
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夜が明けた。一仕事終えた高耶は、気分を落ち着けるためにもと、一人で部屋の温泉に浸かっていた。
露天風呂から見えるのは、朝靄に包まれる幻想的な山の風景。しかし、高耶は景色を楽しむように見えていても、その実、充雪の気配を見つけようと集中していた。
「あのジジィ……これは山神の所か?」
自身の力が山に流れている事を悟った高耶は、恐らく充雪が山神の所にいるのだと察した。
「まったく……」
イレギュラーな事が起こったのは明白。だが、今は繋がりを強化している状態だ。こちらから働きかけることはできないが、充雪から連絡を取ることは難しくない。それをしないのは、忘れているのか、山神に面倒な事を押し付けられてそれに思い至らないかのどちらかだろう。
「脳筋だしな……仕方ない」
動きながらも思考し、計算するという芸当が出来ないのは知っている。良いも悪くも、反射や直感でもって結果を出すのが脳筋だ。高耶も悪いことだとは思っていない。そこまで至るには、相当の経験則が必要なのだから。
「俺がおかしいのか?」
歴代の当主の中ではかなり異端だ。充雪はたまに高耶の事を父親である夜鷹のようだと言う。自分が追い求めていた人物像そのものだと。
そんな思考に浸っていると、そこへ父がやってきた。
「おはよう、高耶君。朝風呂良いねぇ」
「おはようございます」
隣りに入ってきた父に挨拶する。父は肩まで湯に浸かりながら景色を見る。
「スゴイねぇ……綺麗だ」
「ええ」
一緒になって、今度は何も考えず眼前に広がる景色を見つめた。
「……」
静かに見つめる高耶へ目を向けた父は首を傾げた。
「何か悩んでる?」
「……いえ……あ~、いや、少しだけ……」
なぜわかったのかという思いのせいで、どんな顔をしていいのか戸惑う。今までならば何でも誤魔化せた。否、誤魔化そうと思った。けれど、今は違う。
「ちょっと、トラブっているみたいです」
「誰と?」
「……神と……ですかね。あそこに見える山です。あそこには、古い神がいます。邪魔をされているわけではないようですけど……」
山を見つめる高耶の目は、いつの間にか鋭い光を宿していた。
「神様が相手なの?」
「いいえ、神様は協力者です。だから、まぁ、なんとかなります」
「ははっ、神様が協力者だなんてね」
それからしばらく、黙って湯に浸かっていた。次第に明るくなってくる山の様子を確認してようやく湯から上がったのだ。
朝食は、部屋に用意してもらった。のんびりと、高耶の式である珀豪と共に食事ができて優希も喜んでいた。
「ハクちゃん、これたべる?」
《我の事より、これを食べよ。野菜はしっかり取らねばいかんぞ》
「は~い」
むしろ、優希の世話を珀豪が進んで焼いていた。
《主よ。我はこのままで良いか?》
「ああ。優希が気に入ってるみたいだし、お前も子ども好きだろう」
《む、う、うむ……否定できん……》
珀豪は面倒見が良い。それが最も発揮されるのが子ども相手の時だ。
「……」
「母さん、どうかしたのか?」
母は先ほどから全く口を開いていない。朝食を食べる速度や一口の量が異様に遅いし小さいのも気になった。母の目は、珀豪と優希に向いていた。
「高耶……」
「あ、ああ。なんだ?」
「……あなたが手がかからなかったのって、ハク君がいたからじゃないの?」
「ん?」
意味がすぐには分からなかった。それを察したのだろう。母は更に続ける。
「だって、高耶、留守番も、買い物もお料理も全部、いつの間にかできるようになったし、私は手がかからなくて良いわって思ってただけだったけど……良く考えたらおかしいじゃない」
高耶は父が死んで、家で一人になっても、全く手のかからない子だった。それはもちろん、充雪や式達のおかげではあった。
「……まぁ、珀豪達と誓約したのが十一だったかな……充雪はそれより前から一緒にいたから……」
「やっぱりっ。なんで言わないのよ!」
「いや……その……」
言えなかったという事は昨晩話したはずなのだがと高耶は苦笑する。これに、助け舟を出してくれたのは父だ。
「まぁまぁ、高耶君は僕達の事を思って言わなかったんだから。ねっ」
「そ、そうだけど……」
納得できないと顔をしかめる母。これでは高耶の邪魔になると判断した珀豪が言う。
《主よ。外に出るのではないのか? 家族は我が守ろう》
「あ、ああ。頼む。俺は道場に行ってくるから」
「ハクちゃんといっしょにいていいの?」
《うむ。主の許可は取ったぞ》
「わぁ~いっ」
父も今日は一日、のんびりとこの旅館で過ごすと決めたらしい。話し相手にも珀豪は適任だ。
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