聖人様は自重せずに人生を楽しみます!◀︎ですので、拝まないでもらえます?

紫南

文字の大きさ
59 / 70
第一章

059 王が不憫で……

キリアルートが出て行ってしばらくしてから、ようやく領主達は正気に戻った。

「はっ……なんの話をしていたんだったか……」
「終わりましたよ。そして、シェルマ様ももう役目を果たされに行かれました。ほら」

彼は領主の補佐官だ。副団長でもある。領城に戻ってきたなら頭を切り替え、机仕事に精を出す。現在は報告書を作成中だ。

ピンポンパンポ~ン

少し間抜けな音が響き、放送が始まる。

『迷宮放出における魔獣の混乱は落ち着いています。西地区に出していた避難指示は解除。本日まで領城や各避難場所で過ごし、明日以降自宅に戻ってもらうことになります。繰り返します』

ハキハキとした声で堂々と放送しているのが聞こえる。

「西地区は空き巣の注意が必要なので、これより警備隊を出します。避難している住民達は、奥様が対応していますが、一度顔を見せに行ってください」
「あ、ああ……避難させてくれたのか……確かに、こうしてシェルマの避難するようにという声が森に居た時にも聞こえたが……」
「ええ。キリアルート様が全て指示を出してくれたそうです。それと、こちらの報告書に目を通してください」
「なんの報告書だ?」
「留守中の城内でのことです」
「ここの? いったい…………っ!? こ、これはっ、本当のことか!?」

それは、執事長の書いた報告書だ。キリアルートへの仕打ちを全て書き出してあった。

「な、なぜこんなことに……?」
「だから言ったんですよ。確かにあまり人に知られるのは良くありませんが、ここは閉鎖的な土地です。王都までは気を付けていれば届きません。王族の悪口だって言えますよ」
「いやっ、それは……っ」

マズいだろうと領主は顔を青ざめさせるが、補佐官は気にしない。

「奥様には言っておくべきだったんです。あと、あの男に媚びるしか脳のないバカな女達も、さっさと放逐すべきでした」
「こ、これは知らない! こ、こんな者達だったなんて……」

それは二人の侍女達のこと。男でも女でも、本性というのは、異性には中々見破れないものだ。問題のあった侍女達は、特に領主に良い顔をして装ってきた。幼馴染のようなものにもなっているが、子どもの頃からずっと女達は妻の座を狙っていたのだろう。物心ついた時から装われてはわからない。

「彼女達の両親は亡くなっていますし、彼女達もこの道しかないと思ってきたのでしょう。根性というか、執念ですね」
「……そうなのか……」

そんな想いを向けられていたということにさえ気付かなかったようだ。

「彼女達のことは良いです。問題のあった犯罪組織が潰れたのもまあ……結果的には良かった。あの方を巻き込んだのはいただけませんが……」
「ああ……」

そこで、静かに聞き耳を立てていたギルド長が口を挟む。

「副団長……いや、補佐官殿。我々も巻き込むつもりですかな?」
「察していただいて感謝します。ここにいるのは、あの方に心酔している部隊の者と我々だけですからね」

この場に残っているのは、領主とその騎士団の実力者三名。その中にはユウリの父親もいる。そして、今回の後方支援に走り回ってくれた部隊の隊長と副隊長とビルス。それからギルド長とカルツだけだった。

キリアルートが出て行く時に指示を受けて出て行った者も居たため、これだけのメンバーが残るだけとなっていた。

「良い具合にここに残ってもらえて助かります。今から言う事は他言無用でお願いします。ほら、ハイル。さっさと話しましょう。逃げられる前に」
「逃げられる? え? 何を?」

領主であるハイラウス・リ・セルティアをハイルと愛称で呼び、補佐官は急かせる。少し鈍感な所のあるハイラウスの尻を叩くのは慣れていた。遠慮がないとも言う。

「キリアルート様のことに決まっているでしょう。ボケないでください」
「え? いや、だが……っ、分かった。き、キリアルート様は、第一王子殿下であらせられるっ」
「「「「「はあ!?」」」」」
「いや……だから……その……妹に頼まれて……預かっているんだ。王宮は安全ではないからと……」
「「「「「っ……」」」」」

王宮が安全ではない理由を、誰もが知っていた。この辺境の地であっても、無理やり輿入れした王妃の話は届いていた。

昔からやりたい放題のワガママ令嬢というのは、有名だった。貴族と関わらないようにと民達が子ども達に言い聞かせる時でも、その傍若無人な貴族令嬢の話を例え話にして脅すくらいだ。

「それは……なるほど……あの欲深い王妃にもしバレたとしても、こんな土地では良い暮らしは出来ないと思って興味をなくしそうですねえ」
「そうですね。私もそれは思いました。さすがはベル様です。それも見越して兄であるハイルに任せたのでしょう」

ベルトリードは、王妃の一人である騎士だ。主君の息子を、最も安全な場所にと思うのは当然だろう。

「ベルトリードお嬢様ですか」

ギルド長も彼女のことは知っていたため、懐かしそうに目を細める。

「ええ。ハイルと違い、とても頭のキレる方でもありますからね。まあ、このように愛人の子と誤解して、冷遇するとは思ってもみなかったでしょうが」
「おやおや。それは大変ですなあ。しかし、第一王子ですかな? 強欲王妃が第一王子を産んだと聞いておりましたが?」
「実際はクレアノール様の御子であるキリアルート様の方が早くお生まれだったそうです」
「「「は?」」」

ここでは、補佐官と領主以外は知らない事実だったため、何気なく聞いていた他の者達はポカンとしていた。しかし、それに構わず補佐官とギルド長は話を続ける。

「強欲王妃には困ったものですなあ。しかし、クレアノール様の御子は病弱で療養中だと……そうですか。いやあ、お元気でよかった。あの強欲王妃の子は、既にあの血を継いで傍若無人だと聞いておりますのでな……王が不憫で……」

ワガママなのは当然で、乱暴者。大人になるのが今から恐ろしいと言われているらしい。

「よくご存知なのですね」
「ええ。王都ギルドから愚痴が聞こえてくるのですよ。欲しいものがあると取ってこいとギルドの方に依頼があるらしくて……下手に関わると周りも巻き込むからと、誤爆依頼だと言われているとか」
「最悪ですね……」
「ええ。本当に。ですから、あのような御子がおられること……とても嬉しく思います。我々も守りましょう。何よりもこの領を今回被害なく守れたのはあの方のお陰ですからね」
「その通りですね……あの歳で恐ろしいほどの統率力、指揮力……どのような大人になられるのか……」
「楽しみですなあ」

キリアルートに期待せずにはいられなかった。

そしてこの年、この世界で初めて迷宮が攻略される。これにより、迷宮資源の有用性が証明され、迷宮のある領地を治める領主達は、今まで目も向けなかった辺境伯に頭を下げて、攻略のいろはを教えてもらうことになる。

多くの魔導具が辺境伯領の職人達の手で作り出されるようになり、五年もすれば国で一、二を争う大領地となった。

いつの間にか、キリアルートも血筋判定が可能な歳となっていた。




**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、新章です!



感想 107

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜

As-me.com
恋愛
 事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。  金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。 「きっと、辛い生活が待っているわ」  これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。 義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」 義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」 義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」  なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。 「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」  実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!  ────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?

呪毒鑑定士の令嬢、冤罪で追放されたので国中の「呪い」を解除して回る

あめとおと
恋愛
王宮で地味に「呪物の鑑定と浄化」を担っていた伯爵令嬢。異世界から来た「聖女」に、汚いものを扱う不浄な女だと蔑まれ、婚約者の王子からも「お前の代わりは聖女がいる」と断罪・追放される。 しかし、彼女が密かに浄化していたのは、王宮の地下に溜まった建国以来の強大な呪いだった。彼女が去った瞬間、王宮は真っ黒な泥に沈み、王子たちの顔には消えない呪いの痣が浮き上がる。

「ちょっと待った」コールをしたのはヒロインでした

みおな
恋愛
「オフェーリア!貴様との婚約を破棄する!!」  学年の年度末のパーティーで突然告げられた婚約破棄。 「ちょっと待ってください!」  婚約者に諸々言おうとしていたら、それに待ったコールをしたのは、ヒロインでした。  あらあら。婚約者様。周囲をご覧になってくださいませ。  あなたの味方は1人もいませんわよ?  ですが、その婚約破棄。喜んでお受けしますわ。

婚約破棄されたので田舎の一軒家でカフェを開くことにしました。楽しく自由にしていたら居心地が良いとS級冒険者達が毎日通い詰めるようになりました

緋月らむね
ファンタジー
私はオルレアン侯爵令嬢のエルティア。十四歳の頃、家の階段を踏み外して頭を打った衝撃で前世を思い出した。    前世での名前は坂島碧衣(さかしまあおい)。祖父母の引退後、祖父母の経営していた大好きなカフェを継ぐつもりでいたのに就職先がブラック企業で過労の挙句、継ぐ前に死んでしまった。そして、自分が息抜きでやっていた乙女ゲーム「星屑のカンパニー」の悪役令嬢、オルレアン侯爵令嬢エルティアに転生してることに気がついた。  エルティアは18歳の舞踏会で婚約破棄を言い渡される。それだけならまだしも、婚約者から悪役令嬢として断罪され、婚約破棄され、父親から家を追い出され、よからぬ輩に襲われて殺される。  前世だってやりたかったことができずに死んでしまったのに、転生してもそんな悲惨な人生を送るなんて、たまったもんじゃない!!それなら私は前世継ごうと思っていた祖父母のやっていたようなカフェを開いて楽しく自由な人生を送りたい。  森が開けた自然豊かな場所で念願のカフェを侍女のシサとともに開いて楽しく自由にカフェをやっていたら、個性豊かなS級冒険者たちが常連として私のカフェにやってくるようになりました!