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第二章
061 邪魔をしたね
キリアルートは、かつて何度か胡散臭いと周りの親しい者から言われた笑みを浮かべて今世の実父である王を見下ろす。
「仮にも一国の王が、癇癪持ちの女児に振り回されてどうするのですか? アレに、王妃としての価値どころか、貴族令嬢としての価値もないでしょう」
「っ……」
王は言葉に詰まる一方で、自分の悪口を言われたという自覚があったアルマリアは激昂する。
「なっ、なんですって!!」
「黙りなさい」
「っ、んんっ!?」
キリアルートの静かなその一言で、セルティとユウリが動いた。セルティはアルマリアの父親なのだろう。駆け出そうとしていた初老の男の前に立って静止させている。そして、ユウリは二本の指をアルマリアの方に向けたことで、金色に光る輪がアルマリアの顔に嵌り、口と鼻を塞いでいた。
「ユウリ。鼻は出さないと呼吸ができないよ」
「失礼いたしました。キリにあのような女の吐いた息が届くのが嫌で……」
「そう。ありがとう。けど、あんなに欲に塗れた汚い魂を神々の下にやりたくないんだ。自然消滅するまで生かしたいから」
「なるほど……承知いたしました。気を付けます。セルティ様も」
「分かりました」
「お願いね」
「「「「「……っ」」」」」
微笑むキリアルートと、承知しましたと頷くユウリ達に、この場に集まる貴族達はゆっくりとその意味を理解して青ざめた。
「っ、んっ! んんっ!!」
アルマリアは、血走った目でキリアルートの方を見て、口もとを掻きむしる。
「はあ……ユウリ。足を縛っておいて。口はいいよ。仕方ないから喋らせてあげよう。セルティ。そちらの男性も、隣に。同じように拘束を」
「はっ!」
「リーツ。その男の情報をくれるかな」
リーツは内ポケットから手帳を取り出して開く。
「はい。フートルマ・クイスト侯爵。クイスト家には婿養子として入っています。前妻であるクイスト家の長女を現在の妻と共謀して毒殺。家の乗っ取りに成功しています」
「へえ……」
「なっ!? 何をっ!!」
「続けて?」
「き、きさまっ、ぐっ! くそっ! 外せっ」
「っ、お、お父様っ」
両足を光の輪で止められているため、そのまま倒れることしか出来なかった男は、床でもがいているだけだ。その状態で移動しようとすれば、とても滑稽な格好になるのは分かっているのだろう。動けずにいた。
因みに、アルマリアはもうほぼ最初から寝転がっている。
よって、リーツは気にせず続けた。
「先代は長女を亡くしたことで心を病み、領地に隠居。これ幸いと散財を繰り返しています」
「散財してもなんとかなっているのは何を?」
クイスト侯爵家が資金難に陥っているという情報はない。仮にお金が不足していれば、父親の統治力を理由に、アルマリアも叩きやすくなっていたはずだ。それがなかった上に、大貴族の出としてアルマリアがいつまでも大きな顔をしていた。家の財政に困ってはいなかったということだ。
「……真面目に働いています」
「なんだって?」
「はい。もちろん、いくつか裏取引きも確認されておりますが、娘と妻に貢ぐために毎日忙しく働いていますね。休むこともなく。妻の方がかなり奔放に愛人を囲っていますが、それにも気付かずに……」
「っ、な!? あ、愛人……?」
「昔から変わらずなので、最近に始まったことではないのですが……言うべきではありませんでしたか……」
「……」
侯爵は、転がったまま動かなくなった。かなり衝撃だったようだ。恐らく、妻への想いは本物だったのだろう。
「真っ白になっているねえ……」
「……」
「その奔放な妻らしき人が逃げようとしているから捕まえてくれる?」
「わたくしが参ります」
サリーが、そっとこの場を抜け出そうとするその人、アルマリアの母を拘束して連れて来た。
「っ、ちょっ、ぶ、無礼者っ!」
「彼女は貴族の夫人よりは立場が上だよ。暴れる方が無礼だからね?」
「なんですって……?」
「神より、第二位の証をいただいております。聖女のサリーと申します」
そう言って、サリーは服の襟に付けられている五円玉そっくりな形と大きさのブローチを手で示して見せる。
「っ、聖女……!?」
この世界で聖女と聖人は神の遣い。各五人ずつが王族と同じ扱いとなる。更に、大聖女と大聖者が王と同等の地位となり、全て神からの証が与えられる。人格や能力の低下があれば、それらは剥奪されることになっている。
この事実が世界に公開されたのは、実はキリアルートが生まれた頃だ。それまで、教会は異世界から召喚された聖女や勇者の愚かな行いによって、力が削がれに削がれてしまっていたのだ。
聖女や勇者は国が召喚していたため、教会は手を出さず、しかし、彼らが問題を起こせば、教会のせいだとされ、印象を更に悪くされていた。
そこで、キリアルートが転生した時に、全世界に神達は神託を下ろした。全ての王族と教会の関係者全てにだ。
これまでの異世界からの召喚は神が許したものではなかったと言うこと。今後は召喚することが出来ないようにしたということ。聖女や聖人、勇者は変わらずこの世界に生まれるが、それらは教会が管理、保護が必要な場合は保護し、国の力が必要な場合は、その要請に国は必ず応えることが約束された。
もちろん、国がそれを突っぱねた場合、神から衰退の呪いをかけると宣言された。これまで勝手をしてきたことへの代償でもある。
これらは翌日には全ての国民に公開された。
よって、位を持つ聖女が、王族相当の立場の者だということはこの場の誰もが知っていた。
「第……二位……嘘よ……っ、せ、世界で、神に認められた聖女は五人しかいないのよ!? この国に、それも、あんな子どもに従うような者がっ」
「キリ様を指差すなんて……っ」
「ひっ」
「サリー」
「失礼いたしました」
「うん。彼女の罪は、姉を毒殺したことと、夫を裏切っていたこと。それと、娘の教育を怠ったことだ。それ以外は今は良いよ」
「はい。承知いたしました」
サリーは落ち着いて礼をし、ユウリの隣に戻って行った。プライドが高そうなので、縛らなくても多くの者の目の向く場所から、無様に逃げようとはしないだろう。何より、側でゆっくりと起き上がった彼女の夫が止めるはずだ。
「ひっ」
夫の暗い瞳が向けられ、その場から動けなくなっていたので問題はなさそうだ。
「さて。こちらの話を進めてもいいかな。僕も暇じゃないんだよ」
「「「「「っ……」」」」」
キリアルートが誰なのかということなど、この場の誰もがもうどうでも良くなっていた。聖女が従っているのだ。神だと言われても不思議には思わない。それだけ、聖女の立場は見直されていた。
「そこの、転がっている王妃やその親達の処分は王家に頼もう。教会が手を出すことはしない。ただし、息子は別だ。環境を変え、何を正しいとするのかを教えることで、今の彼が、元から持っている性質による歪みを抱えているのかを確認する。更生できるかは、彼自身の力によるだろうね。そこの確認は教会で数年過ごしてもらって行おう。いいかな。国王」
「っ、あ、ああ……」
王は、キリアルートが自分の息子だと気付いている。しかし、今のキリアルートは、黒髪黒眼。証明するには、キリアルート本人にしか無理だ。明かす気がないのならば、どうにも出来ない。
しかし、ここで転がっていた王妃が主張する。
「ふっ、ふざけないで!! 私は聖女の血を引く尊い存在よ!! 私こそが聖女よ! あんな地味女が聖女になれるなら、私こそっ」
侯爵家には、異世界から来た聖女の血が入っているのは確かだった。しかし、キリアルートは笑う。
「ふふっ」
「なっ、なによっ」
「いやあ。残念だけどね。血は関係ないんだよ。聖女の素質はね。本来魂で決まるんだ。だから、聖女は何度生まれ変わっても聖女だし、聖人も同じだ。あなたのような者が聖女だなんて……それこそ、神が禁じた異世界からの召喚でもされなければあり得ない」
アレは、神が同情して能力を後付けするからだ。
サリーまでもが聖女になれたのは、キリアルートの影響だ。聖女や聖人の素質だけを持っている者はそれなりにいる。ただ、本物になれるまで自分を見つめて鍛えられるかが大事だ。素質だけの者は、それに気付いて鍛えなければ、いつまで経っても候補止まりでしかなかった。
因みに、勇者は別だ。確かに勇者として覚醒しやすい素質は大事だが、生まれてから人生を歩むことで魂を磨いていく過程で勇者と認められる輝きを生み出す。よって、勇者は年老いてから覚醒する者もいる。
「特に、欲に忠実で、我慢をするということを知らない者が聖女の素質を持っているなんてことは絶対にないからね。自分がわがままだって、自覚くらいは……あるよね?」
「私がワガママですって!?」
「……少しの自覚もないの? 幸せな性格だねえ。周りだけがひたすら迷惑するだけか……これを王妃に認めた王家の資質も疑いたくなるね」
「っ、それはっ」
王が慌てて弁明しようとする。だが、キリアルートは手で制した。
「理由は聞かないよ。これは王家の問題だ。僕達が今回介入したのは、あくまでも血縁判定によって切り捨てられようとする者を保護するためだ。これは、この世界全土で教会が行っている特別措置だ。今回は王族相手ということで、僕が来た」
「……そ、それは……っ」
王は期待したようだ。キリアルートが本来の第一王子だと身分を明かしてくれるかもしれないと。そもそも、キリアルート自身に王子であると教えた者がいないと言うことに、気付いていない。
もちろん、キリアルートの様子から、知っているだろうと察せられたのだろうが、それはキリアルートがセルティから聞いただけ。辺境伯も伝えることを忘れている。
この誤解をキリアルートは、あえてそのままにすることにした。
キリアルートの立場を明らかにしたのは、神官達と、戻ってきた司教だ。
「聖下。お待たせいたしました」
司教がそう言って膝をつく。神官達もそれに倣った。『聖下』と呼ばれるのは、唯一『大聖者』のみ。貴族達は、言葉を頭で変換するのに忙しく、呆然としていた。
「うん。保護は頼むよ。後は任せる」
「承知いたしました」
保護した王子の立場をどうするかということもある。王家がどのような発表をするかによって、王子の保護の仕方も変わってくる。
それらのマニュアルは、一年前には整えているので、何とかするだろう。
「それじゃあ、邪魔をしたね。行こう」
「「「「「はい」」」」」
キリアルートは十歳の子どもとは思えないほど堂々と歩き出す。それにセルティ達が従い、教会を出ていく。
そこで、ハッとしたキリアルートの実の両親である王とクレアノール王妃が駆け出した。
「お、お待ちくださいっ」
司教が止めるが、王と王妃にはどうでも良かった。
しかし、外に出ると、キリアルートは今まさに真っ白な飛竜に乗り、飛び立っていた。
「っ、飛竜……っ」
「そんなっ……」
「「「「「わぁぁぁっ」」」」」
外に集まっていた民衆が、それを見送って歓声を送っていた。飛竜は、三、四人乗れる大きさ。二匹の飛竜がキリアルート達を乗せて空の彼方に消えていった。
「「……」」
王と王妃の二人は、それを黙って見送ることしかできなかった。
二人が再びキリアルートと顔を合わせるのは、それから半月後。諸々の処理を終え、辺境伯夫婦の帰還と共に辺境へと会いに行くことになる。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「仮にも一国の王が、癇癪持ちの女児に振り回されてどうするのですか? アレに、王妃としての価値どころか、貴族令嬢としての価値もないでしょう」
「っ……」
王は言葉に詰まる一方で、自分の悪口を言われたという自覚があったアルマリアは激昂する。
「なっ、なんですって!!」
「黙りなさい」
「っ、んんっ!?」
キリアルートの静かなその一言で、セルティとユウリが動いた。セルティはアルマリアの父親なのだろう。駆け出そうとしていた初老の男の前に立って静止させている。そして、ユウリは二本の指をアルマリアの方に向けたことで、金色に光る輪がアルマリアの顔に嵌り、口と鼻を塞いでいた。
「ユウリ。鼻は出さないと呼吸ができないよ」
「失礼いたしました。キリにあのような女の吐いた息が届くのが嫌で……」
「そう。ありがとう。けど、あんなに欲に塗れた汚い魂を神々の下にやりたくないんだ。自然消滅するまで生かしたいから」
「なるほど……承知いたしました。気を付けます。セルティ様も」
「分かりました」
「お願いね」
「「「「「……っ」」」」」
微笑むキリアルートと、承知しましたと頷くユウリ達に、この場に集まる貴族達はゆっくりとその意味を理解して青ざめた。
「っ、んっ! んんっ!!」
アルマリアは、血走った目でキリアルートの方を見て、口もとを掻きむしる。
「はあ……ユウリ。足を縛っておいて。口はいいよ。仕方ないから喋らせてあげよう。セルティ。そちらの男性も、隣に。同じように拘束を」
「はっ!」
「リーツ。その男の情報をくれるかな」
リーツは内ポケットから手帳を取り出して開く。
「はい。フートルマ・クイスト侯爵。クイスト家には婿養子として入っています。前妻であるクイスト家の長女を現在の妻と共謀して毒殺。家の乗っ取りに成功しています」
「へえ……」
「なっ!? 何をっ!!」
「続けて?」
「き、きさまっ、ぐっ! くそっ! 外せっ」
「っ、お、お父様っ」
両足を光の輪で止められているため、そのまま倒れることしか出来なかった男は、床でもがいているだけだ。その状態で移動しようとすれば、とても滑稽な格好になるのは分かっているのだろう。動けずにいた。
因みに、アルマリアはもうほぼ最初から寝転がっている。
よって、リーツは気にせず続けた。
「先代は長女を亡くしたことで心を病み、領地に隠居。これ幸いと散財を繰り返しています」
「散財してもなんとかなっているのは何を?」
クイスト侯爵家が資金難に陥っているという情報はない。仮にお金が不足していれば、父親の統治力を理由に、アルマリアも叩きやすくなっていたはずだ。それがなかった上に、大貴族の出としてアルマリアがいつまでも大きな顔をしていた。家の財政に困ってはいなかったということだ。
「……真面目に働いています」
「なんだって?」
「はい。もちろん、いくつか裏取引きも確認されておりますが、娘と妻に貢ぐために毎日忙しく働いていますね。休むこともなく。妻の方がかなり奔放に愛人を囲っていますが、それにも気付かずに……」
「っ、な!? あ、愛人……?」
「昔から変わらずなので、最近に始まったことではないのですが……言うべきではありませんでしたか……」
「……」
侯爵は、転がったまま動かなくなった。かなり衝撃だったようだ。恐らく、妻への想いは本物だったのだろう。
「真っ白になっているねえ……」
「……」
「その奔放な妻らしき人が逃げようとしているから捕まえてくれる?」
「わたくしが参ります」
サリーが、そっとこの場を抜け出そうとするその人、アルマリアの母を拘束して連れて来た。
「っ、ちょっ、ぶ、無礼者っ!」
「彼女は貴族の夫人よりは立場が上だよ。暴れる方が無礼だからね?」
「なんですって……?」
「神より、第二位の証をいただいております。聖女のサリーと申します」
そう言って、サリーは服の襟に付けられている五円玉そっくりな形と大きさのブローチを手で示して見せる。
「っ、聖女……!?」
この世界で聖女と聖人は神の遣い。各五人ずつが王族と同じ扱いとなる。更に、大聖女と大聖者が王と同等の地位となり、全て神からの証が与えられる。人格や能力の低下があれば、それらは剥奪されることになっている。
この事実が世界に公開されたのは、実はキリアルートが生まれた頃だ。それまで、教会は異世界から召喚された聖女や勇者の愚かな行いによって、力が削がれに削がれてしまっていたのだ。
聖女や勇者は国が召喚していたため、教会は手を出さず、しかし、彼らが問題を起こせば、教会のせいだとされ、印象を更に悪くされていた。
そこで、キリアルートが転生した時に、全世界に神達は神託を下ろした。全ての王族と教会の関係者全てにだ。
これまでの異世界からの召喚は神が許したものではなかったと言うこと。今後は召喚することが出来ないようにしたということ。聖女や聖人、勇者は変わらずこの世界に生まれるが、それらは教会が管理、保護が必要な場合は保護し、国の力が必要な場合は、その要請に国は必ず応えることが約束された。
もちろん、国がそれを突っぱねた場合、神から衰退の呪いをかけると宣言された。これまで勝手をしてきたことへの代償でもある。
これらは翌日には全ての国民に公開された。
よって、位を持つ聖女が、王族相当の立場の者だということはこの場の誰もが知っていた。
「第……二位……嘘よ……っ、せ、世界で、神に認められた聖女は五人しかいないのよ!? この国に、それも、あんな子どもに従うような者がっ」
「キリ様を指差すなんて……っ」
「ひっ」
「サリー」
「失礼いたしました」
「うん。彼女の罪は、姉を毒殺したことと、夫を裏切っていたこと。それと、娘の教育を怠ったことだ。それ以外は今は良いよ」
「はい。承知いたしました」
サリーは落ち着いて礼をし、ユウリの隣に戻って行った。プライドが高そうなので、縛らなくても多くの者の目の向く場所から、無様に逃げようとはしないだろう。何より、側でゆっくりと起き上がった彼女の夫が止めるはずだ。
「ひっ」
夫の暗い瞳が向けられ、その場から動けなくなっていたので問題はなさそうだ。
「さて。こちらの話を進めてもいいかな。僕も暇じゃないんだよ」
「「「「「っ……」」」」」
キリアルートが誰なのかということなど、この場の誰もがもうどうでも良くなっていた。聖女が従っているのだ。神だと言われても不思議には思わない。それだけ、聖女の立場は見直されていた。
「そこの、転がっている王妃やその親達の処分は王家に頼もう。教会が手を出すことはしない。ただし、息子は別だ。環境を変え、何を正しいとするのかを教えることで、今の彼が、元から持っている性質による歪みを抱えているのかを確認する。更生できるかは、彼自身の力によるだろうね。そこの確認は教会で数年過ごしてもらって行おう。いいかな。国王」
「っ、あ、ああ……」
王は、キリアルートが自分の息子だと気付いている。しかし、今のキリアルートは、黒髪黒眼。証明するには、キリアルート本人にしか無理だ。明かす気がないのならば、どうにも出来ない。
しかし、ここで転がっていた王妃が主張する。
「ふっ、ふざけないで!! 私は聖女の血を引く尊い存在よ!! 私こそが聖女よ! あんな地味女が聖女になれるなら、私こそっ」
侯爵家には、異世界から来た聖女の血が入っているのは確かだった。しかし、キリアルートは笑う。
「ふふっ」
「なっ、なによっ」
「いやあ。残念だけどね。血は関係ないんだよ。聖女の素質はね。本来魂で決まるんだ。だから、聖女は何度生まれ変わっても聖女だし、聖人も同じだ。あなたのような者が聖女だなんて……それこそ、神が禁じた異世界からの召喚でもされなければあり得ない」
アレは、神が同情して能力を後付けするからだ。
サリーまでもが聖女になれたのは、キリアルートの影響だ。聖女や聖人の素質だけを持っている者はそれなりにいる。ただ、本物になれるまで自分を見つめて鍛えられるかが大事だ。素質だけの者は、それに気付いて鍛えなければ、いつまで経っても候補止まりでしかなかった。
因みに、勇者は別だ。確かに勇者として覚醒しやすい素質は大事だが、生まれてから人生を歩むことで魂を磨いていく過程で勇者と認められる輝きを生み出す。よって、勇者は年老いてから覚醒する者もいる。
「特に、欲に忠実で、我慢をするということを知らない者が聖女の素質を持っているなんてことは絶対にないからね。自分がわがままだって、自覚くらいは……あるよね?」
「私がワガママですって!?」
「……少しの自覚もないの? 幸せな性格だねえ。周りだけがひたすら迷惑するだけか……これを王妃に認めた王家の資質も疑いたくなるね」
「っ、それはっ」
王が慌てて弁明しようとする。だが、キリアルートは手で制した。
「理由は聞かないよ。これは王家の問題だ。僕達が今回介入したのは、あくまでも血縁判定によって切り捨てられようとする者を保護するためだ。これは、この世界全土で教会が行っている特別措置だ。今回は王族相手ということで、僕が来た」
「……そ、それは……っ」
王は期待したようだ。キリアルートが本来の第一王子だと身分を明かしてくれるかもしれないと。そもそも、キリアルート自身に王子であると教えた者がいないと言うことに、気付いていない。
もちろん、キリアルートの様子から、知っているだろうと察せられたのだろうが、それはキリアルートがセルティから聞いただけ。辺境伯も伝えることを忘れている。
この誤解をキリアルートは、あえてそのままにすることにした。
キリアルートの立場を明らかにしたのは、神官達と、戻ってきた司教だ。
「聖下。お待たせいたしました」
司教がそう言って膝をつく。神官達もそれに倣った。『聖下』と呼ばれるのは、唯一『大聖者』のみ。貴族達は、言葉を頭で変換するのに忙しく、呆然としていた。
「うん。保護は頼むよ。後は任せる」
「承知いたしました」
保護した王子の立場をどうするかということもある。王家がどのような発表をするかによって、王子の保護の仕方も変わってくる。
それらのマニュアルは、一年前には整えているので、何とかするだろう。
「それじゃあ、邪魔をしたね。行こう」
「「「「「はい」」」」」
キリアルートは十歳の子どもとは思えないほど堂々と歩き出す。それにセルティ達が従い、教会を出ていく。
そこで、ハッとしたキリアルートの実の両親である王とクレアノール王妃が駆け出した。
「お、お待ちくださいっ」
司教が止めるが、王と王妃にはどうでも良かった。
しかし、外に出ると、キリアルートは今まさに真っ白な飛竜に乗り、飛び立っていた。
「っ、飛竜……っ」
「そんなっ……」
「「「「「わぁぁぁっ」」」」」
外に集まっていた民衆が、それを見送って歓声を送っていた。飛竜は、三、四人乗れる大きさ。二匹の飛竜がキリアルート達を乗せて空の彼方に消えていった。
「「……」」
王と王妃の二人は、それを黙って見送ることしかできなかった。
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