煌焔〜いつか約束の地に至るまで〜

紫南

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第一章

018 共闘する者

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2018. 10. 18

**********

行きと同じように、閻黎と朔兎を伴って端から飛び立った樟嬰は、一路黄城に向かい、閻黎を送り届ける。

「では、老師。玉との会談を取り付けてください。私は、葉月城にて情報を整理しておきます」

そう言い残して朔兎と二人、朝靄に煙る空を翔け出した。

「朔兎。手伝ってくれ」

そうして、懐に忍ばせていた青く大きな花びらを数枚手渡す。

「その花びらは、地霊達の好物だ。地面に一枚置くと、地霊達が居れば必ず、色が抜けて白くなる。お前は東側から葉月城まで戻り、途中の五つの領で、地霊の有無を確認してきてくれ。
私は、西の方から戻る」
「わかりました」
「くれぐれも、妖魔を見ても無茶をするなよ。約定を忘れるな」
「はい……」

お互い、舞うように天馬を別の方角へと向けた。

「私も、大概甘いな……」

人など、どうなっても構わないはずなのに、朔兎の事となると少し心が騒ぐ。葵に言われたとしても、自分が本当に人を好きなのか分からなかった。けれど、朔兎や三妃、朶輝達が住む場所は守りたいと思う。

曖昧なのは血のせいなのか。そうであるのならば、どう在るべきなのか。ただ、そんな事を今はゆっくりと考えている時間はない。

どうにかすると決めたのならば、やれることをしよう。進路を定めながら、邪念を振り払うように頭を一つ振った。

「さぁ。どう出る」

向かう先の領は、絶壁のすぐだ。その壁の上から、下へと微かではあるが黒い瘴気が流れ込んでいるのが確認できた。それは、第一界が近づいて来ている証拠だ。

端よりも、防御膜が薄い。それ故にこうして下層に近付くにつれて外からも瘴気が入り込んでしまうのだ。

人の目でも判別できるほどの濃い瘴気はまだないが、壁のすぐ下に居を構える者達はもう満足に動けなくなっているだろう。

絶望的な状況に、ほんの少しの希望を願って素早く地に降りて花びらを置く。

「駄目か……」

瞬時に変わるはずの色に変化はない。民家を見渡せば、作物が殆ど見当たらず、物音一つしない。気を探れば、か細い魂の脈動が幾つも感じられる。瘴気のせいだけではない。満足に食事を取る事も出来ずに弱っているのだ。

「領主は何をしているっ……」

天馬に飛び乗り、領城へと回り込めば、閑散とした門前が確認できた。以前の領主会議の様子を思い出してみると、一時期よりも大人しかったように思う。あれは弱っていたのかもしれない。

「誰もいない……のか……っ?」

城の奥に感じる拍動は正常で、問題はないように思える。

《ッガァァァッ》

耳障りな音が響き渡った。

「ッ……ァっ」

次いで悲鳴が聞こえてきた。

「っ……ここで待っていてくれよっ」

反射的に上空で、天馬に言い聞かせ、人の身長より高い所から、地に軽やかに降り立つ。

人がいるのならば話も聞けるだろう。何より、これ以上大地を血で汚したくない。樟嬰は未だに悲鳴が上がり続ける場所へと走った。

◆  ◆  ◆

駆け付けた先では、動き辛い身体を必死に地面に這わせながら逃げ惑う人々と、それを追い、切り裂いていく妖魔がそこここにあった。

「カルマか……っ、多いな……」

現れた妖魔は、カルマという小さな小屋ほどの大きさで、鶏のような姿をしている。

毒々しい赤の毛に、黒い嘴。奴らは、人を丸呑みにしてしまう。飛ぶことが出来ないのが、唯一の救いだ。

近場にいた、今にも親子に襲い掛かろうとしている一体に先ずは目標を定め、腰に挿していた得物を引き抜く。

それは、何の変哲もない扇だった。だが、普通の扇ではない。腕の長さ程の大きさで、質も一般的な木ではなかった。

しかし樟嬰は、その扇を開ける事なく、両端の部分を握る。すると、扇が淡い光を発し出す。それが次第に伸び、一本の棒のような形状へと変型した。

「弐の姫【綾】!」

名の解放によって途端に強い光が発っせられる。

駆け出し、次の瞬間には光の中から現れた得物が、深々とカルマの胸へと突き刺さる。

美しい青影桔石を思わせるような青い柄。刺した先には、鋭い大きなやじり。始めの大きな扇からは想像できない槍が、その手にしっかりと握られていた。

《ッガァァァッ》

貫かれたカルマは、断末魔の声を上げると、塵のように空へと消えていった。

「大丈夫か?」
「っ……はい……ありがとう……ございます……っ」
「あぁ。なるべくこの場から離れていなさい」

そう言って次の目標へと駆け出した。

どれも一突きで葬り去っていくが、一向に減っていく気がしない。今ではほとんどのカルマが、樟嬰に狙いを定めて向かって来ていた。

「何体いるんだ……っ」

さすがに疲れてきた。もう二十体は、とうに越えたはずだ。

「ッ……っ」

次の瞬間、わずかに隙ができた。

「っ、しまったッ」

鋭い爪が、腕を引き裂こうと繰り出されていた。間に合わないと覚悟した時、黒い影が、迫りくる爪との間に滑り込んできた。

その人物は、樟嬰と同じで、短槍を手にしていた。考える間もなく叫ぶ。

「胸を狙えッ。それが奴らの弱点だ!」

素早い切替で、爪を払ったかと思うと、次には胸を刺し貫いていた。

「……この動き……どこかで……」
「次が来るぞっ」

鋭い一喝で、思考に沈もうとする意識が途端に蘇った。

◆  ◆  ◆

近付いて来ていた二体を薙ぎ払うと、返しざま左に回り込んできた一体を貫く。

同じように短槍を振り回す影……男は、身体が大きい割に素早く切り替えし、力技で一気に数体を塵へと変えた。

少し数は減ったものの、まだあと半数といったところだろう。囲まれ、中央で背を合わせる形をとった。

「聞くが、まだ行けるか?」
「っ、大分キツイな……あんたは?」
「私も、残りこれだけとなると……一つ、案があるんだが、手伝ってくれるか?」
「いいぜ」

応えざま、また数体を葬り、こちらも倣って得物を振るう。

「城の門の手前に、窪地があるだろう」
「あぁ。その先に岩山へ続く道があるやつだな」
「そう。その岩山への道は、高い岩壁になっている。そこに誘い込む」

向かってくるカルマをまた一体と葬りながらチラリとそちらへ目を向ける。

「こいつらの大きさだと、一列に列ぶな……そこを一突きにするのかっ」
「さすがに無理だろ。だが、手はある。上手い事誘って、時間を稼いでくれ。後は任せてくれていい」
「わかったっ」

いいざま短槍を激しく振るい、激昂したカルマ達を引き付けていく。

ぴったりと男の隣を走り、岩山を目指した。

「おらっ。こつちだっ、ヒヨッコ共っ」

言葉が通じなくとも、馬鹿にされているのが分かるのか、けたたましい声を上げながら、見た目の巨体に合った速さで追ってきている。

「全部着いて来ているようだな……」

上手く引きつけられたようだ。

「もうすぐだそっ。時間を稼ぐと言っても、どうするんだ」
「分かりやすく言えば、魔術を使う。攻撃系のもので特別強力なやつをおみまいしてやるんだ」
「使えるのか!?」

この世界では、魔術はほとんど攻撃に使えるものではない。本来、扱えるのは神族や一部の天臣だけと言われている。先ず魔術を一般に学べる場所がないのだ。素質のある者もかなり限られる。

「あぁ。だが、完璧な威力で全滅させるには、詠唱が必要になる。それも、一定の場所で動かずに……だから詠唱中、邪魔されないようにカルマの相手をしていてもらわなければならない」
「お安い御用だっ」

彼は樟嬰を魔術の扱える限られた者だとあっさり信じた。それに少しばかり拍子抜けする。

そうこうしているうちに、岩山への入り口に差し掛かった。人が五人並んで歩ける程の岩壁の間に出来た道。思った通り、一体ずつしか入って来られないようだ。

「上手くいったな。何処まで行けばいいんだ?」
「確か、この先に二つ大きく曲がる場所があるはずだ。二つ目の場所を抜けた所で始める」
「よしっ。そんじゃぁ、少しちょっかい出しながら、奴らの気が反れないようにしなきゃなっ」

その背中が、やはり、誰かに似ているなと思った。

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読んでくださりありがとうございます◎

次回、また明日19日です。
よろしくお願いします◎
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