煌焔〜いつか約束の地に至るまで〜

紫南

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第二章

062 捕らえられた者

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2019. 7. 20

**********

部屋に飛び込んで来たのは叉獅だった。しかし、首領を捕らえて戻ってきたはずの叉獅の表情は曇っていた。

「どうしたのですか? 捕らえてきたのでしょう?」

朶輝も捕らえて来たということを疑ってはいなかった。しかし、叉獅はそれでもはっきりとしない表情をしている。

そこで、樟嬰は予想を口にした。

「五体満足では捕らえられなかったか」
「っ……はい。樟嬰殿に薬を渡されていなかったら死んでいました」

首領とその補佐は、叉獅達が見つけた時には、妖魔に襲われて瀕死の状態だったらしい。妖魔を部下達に任せ、叉獅は急いで樟嬰から受け取っていた薬を使ったのだ。

あと一歩遅ければ、確実に死んでいただろう大怪我だったようだ。

「生きてはいるのですね?」

思わず立ち上がって問いかける朶輝に、叉獅は顔をしかめた。

「今は辛うじて……としか言えません」
「……そうですか……」

朶輝はゆっくりと脱力するようにして椅子に腰かけて呟いた。これを見て、樟嬰は苦笑しながら忠告する。

「朶輝。休んでいる暇はないぞ。生きている内に調書を取れ。証人は多めにな。ほれ、急げ」
「あっ、そうですね。はい!」

朶輝は慌てて立ち上がり、叉獅と共に部屋を飛び出した。首領が捕らえられている牢へと案内される間に各部署の文官の代表達に声をかける。

そうして、十数名の立会人を得て、そこへ辿り着いた。

「ご苦労様です!」

見張りの武官に挨拶され、牢の中を覗き込むと、片腕と片足を失くした首領が転がっていた。

「っ……」

まだそれらを失くしたという自覚が持てないのか、それとも、それを自覚することを恐れて避けているのか。

男は、震えながらもキッとこちらを睨みつけていた。

「っ、わ、わたしにこんなことをして良いと思っているのか!! 華月院が黙ってはいないぞ!!」

気丈なことで結構だと朶輝は気を引き締めて、鉄格子越しにそれを見つめた。

「覚悟はできております。ですが、何よりも先にあなたを首領の座から退けることが優先されるのです」
「っ、そ、そんなことは許されん!!」

喚く男に、朶輝は常の冷静さを発揮して答えた。

「誰の許しも必要ありませんよ。今日、この時をもって、あなたを更迭いたします。華月院にも先日抗議を入れさせていただき、回答をいただいております」
「ふんっ、そらみろっ。お前達は全員ただでは……」
「こちらは、あなたを華月院より追放するとの誓約書です」
「……なに……?」

呆けたような表情を見せながらも、朶輝が見せる誓約書を確認したようだ。

「っ……そ、そんなバカなっ……」
「華月院の印も間違いなく入っています。正式な誓約書です。では次に、罪状と事実確認をさせていただきます」

そうして、華月院から見放されたと理解した男は、力なくうなだれながら、全ての罪を認めていった。実に呆気ないものだ。

首領が捕らえられたことはすぐに領民へ発表された。そして、同時に終身刑を言い渡したとも伝えられている。

「処刑じゃなくて良かったのか?」

叉獅は改めて首領が行なってきた罪の数々を知り、憮然とした表情で朶輝に確認する。

「もはや、一瞬で終わらせて下がる溜飲などではないでしょう。領民、皆に納得してもらうには、これしかありません。磔にして晒した所で、あの様な醜い様では、見るのも嫌でしょうからね」

何気に酷い言い様だ。だが、あの様に片方の手足を失った姿になっても許せないものは許せない。それが朶輝をはじめとした文官達の総意だ。

寧ろ、その姿を見るだけで苛立ちそうなので、牢に永久的に入れておこうという考えだ。

ただし、あの状態で長く生きられるとは思わない。見張りの武官達によれば、無い腕や足が痛いと喚く回数が日に日に増えていっているらしいのだ。

叉獅もそこを指摘した。

「どのみち、あのまま長くは保たないだろうな。まあ、反省する時間は取れるということか」
「反省する頭があればいいのですけれどね」
「……それはたしかに……」

同情する気もサラサラないということがよく分かったと叉獅は苦笑するしかなかった。

「それはそうと、次の首領はどうするんだ? ずっと空けといていいもんじゃないだろ。また華月院が出てくるかもしれないと噂が広がっていたぞ」

領民達は、次の首領が誰になるのかということを気にしている。その中には、朶輝をという声が多かった。

「そうですね。早く決めなくてはなりませんね」

その時の朶輝の表情は、イタズラを思い付いた子どものような、彼にしては珍しいものだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、30日の投稿予定です。
よろしくお願いします◎
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