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第二章
067 遊ばせません
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2019. 9. 10
***********
朶輝が数日ぶりに帰ってきた領城は、見たことも聞いたこともないほど賑やかだった。
窓の外を領官達が走っていく様子に目を向ける。
「お前ら! 仕事だっ! 現場行くぞ!」
「「「おぉっ!!」」」
武官に混じって文官が居たように思ったが、気のせいだろうかと首を傾げながら進む。
「見て見て! また直しの指示もらっちゃった♪」
「お前またかよっ! よくやった! 額に飾るぞ!」
「今度はここ!! ここに置こう」
「う~む。益々他に見せられん部屋になったなっ」
「あははっ、本当ですよ~」
気になる。
どうなっているんだと朶輝は足を止めた。しかし、すぐにまた一歩踏み出す。というか、壁際に避けるように一歩移動した。
「印もらってきま~っす」
「うおっ、ちょい待てっ、今日は俺の番だろうが!」
「そんなん知るかっ。早いもん勝ちだぁぁぁっ」
「ふざけんな!! この野郎!」
廊下を凄い勢いで文官が駆けて行った。あいつら、走れたのかと目を丸くする。
「妖魔だ! 妖魔が出たぞ! 行くぞ!」
「待てっ! 今回は俺らが出る約束だぞ!」
「早いもん勝ちに決まってんだろうが!」
「ふざけんなっ!!」
武官と同じだったんだと先ほどの文官達のやりとりと同じものを見て、朶輝は目を瞬かせた。
「……どうなっているのでしょう……」
たった数日で何が起きたのか。
混乱しながら、朶輝は首領の執務室へ向かった。しかし、その手前から長い文官の列ができていた。
「これは?」
朶輝に気付いた文官達がビシッと背筋を伸ばす。
「お帰りなさいませ! 朶輝様!」
「……一体これは何事ですか?」
「印をいただきに参りました」
「裁可のですか? 置いて行ってくれればいいのですよ?」
「いいえ! ここでお待ちします!」
「……」
そういえば、彼らは手に何も持っていない。
「他に仕事は……」
「ありません! 裁可待ちです!」
「……そうですか……わかりました……」
「「「っ!?」」」
朶輝から薄ら寒い何かを感じ、文官達はブルリと震えて混乱する。
それらを無視して、朶輝は執務室へ入った。
そこでは、樟嬰と珀楽が静かに仕事をしていた。朶輝はその様子を見てほぅと息をついた。こんなにも心地の良い空気を、かつて執務室で感じたことがあっただろうか。
すると、樟嬰が不意に顔を上げた。
「朶輝! 帰ってきたか」
「っ、は、はい。ただいま戻りました」
樟嬰に輝くような笑みで歓迎されドギマギしてしまう。
「ああ。これで珀楽を休ませてやれる」
「おやおや。わたくしはまだまだ大丈夫ですぞ?」
「お前の大丈夫は信用ならん」
「これは手厳しい」
珀楽が朗らかに笑う。こんなにも和やかに笑う姿を始めて見た。
「おい、誰か。珀楽を部屋まで連れて行ってくれ」
「「「はい!」」」
「そのような大事ではありませんが?」
「そう思うなら一人で立ってみろ。フラフラではないか」
「これはこれは、気付きませんでしたなぁ」
「笑い事ではないだろう……水分も取らせてくれ」
「「「はっ!!」」」
珀楽は前首領を捕らえてすぐに休めはしたが、たった数日で肉付きがよくなるわけがない。骨が浮く寸前の、実年齢よりも老いた姿になってしまっているのだ。それをどうにかしなければ安心はできない。
できれば、正常な状態に戻るまで仕事をさせたくなかったのだが、珀楽自身が仕事をしなければ死んでしまうと言って執務室に取り憑いたのだ。
食事は取らせていたし、休憩もさせていたのだが、それだけでは療養にはならない。
せめて珀楽が納得できるよう、朶輝が帰ってくるまでという約束で仕事をさせていたのだ。
「ほっほっほっ。仕方ありませんな。では、樟嬰様。朶輝殿。失礼いたします」
「二日休みだからな? 部屋でゴロゴロしていろ」
「難しいですなぁ」
「分かった。お前達。珀楽を月下楼に連れて行け。これを緑林殿に渡してくれ」
「ん? お待ちください樟嬰様? なぜ月下楼に……」
「休め。行け」
「「「はい!」」」
「え? いえ、わたくしは一人でも……」
緑林に任せれば、食事も風呂も寝床も問題ない。ちょっと良い宿での療養というものになるだろう。大変な贅沢だが、樟嬰にとってはなんて事はない。朶輝もうんうんと頷いて珀楽を見送った。
「さて、朶輝。帰って来て早々だが、頼むぞ」
「承知しました。さっさとあれらを追い出してお茶の時間にいたしましょう」
「……? そうだな」
樟嬰は何かヒヤリとしたものを朶輝から感じながらも仕事を再開する。
隣の席に着いた朶輝を横目で見ると、なんだか黒い笑みを浮かべていた。
「朶輝? なにか企んでいるか?」
「企むとは人聞きが悪いですよ? ただ、ここで待つ時間があるならば、仕事量が少ないということですからね。能力があるのなら、それに見合った仕事を与えなくてはもったいない」
「……それはまあ……そうだな」
「「「……っ」」」
チラリと樟嬰が目を向ける先には、盛大に目をそらす文官達。
「きちんと個人の力量を把握して仕事を割り振るのも私の仕事ですので」
「……任せる。ほどほどにな?」
「ほどほどというのが分かりませんが、余すことなく力が発揮できるように割り振ります」
「「「……」」」
絶対に使い潰される。馬車馬のように働かせられる未来が見え、文官達の目が死んだ。
***********
読んでくださりありがとうございます◎
次回20日の予定です。
よろしくお願いします◎
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朶輝が数日ぶりに帰ってきた領城は、見たことも聞いたこともないほど賑やかだった。
窓の外を領官達が走っていく様子に目を向ける。
「お前ら! 仕事だっ! 現場行くぞ!」
「「「おぉっ!!」」」
武官に混じって文官が居たように思ったが、気のせいだろうかと首を傾げながら進む。
「見て見て! また直しの指示もらっちゃった♪」
「お前またかよっ! よくやった! 額に飾るぞ!」
「今度はここ!! ここに置こう」
「う~む。益々他に見せられん部屋になったなっ」
「あははっ、本当ですよ~」
気になる。
どうなっているんだと朶輝は足を止めた。しかし、すぐにまた一歩踏み出す。というか、壁際に避けるように一歩移動した。
「印もらってきま~っす」
「うおっ、ちょい待てっ、今日は俺の番だろうが!」
「そんなん知るかっ。早いもん勝ちだぁぁぁっ」
「ふざけんな!! この野郎!」
廊下を凄い勢いで文官が駆けて行った。あいつら、走れたのかと目を丸くする。
「妖魔だ! 妖魔が出たぞ! 行くぞ!」
「待てっ! 今回は俺らが出る約束だぞ!」
「早いもん勝ちに決まってんだろうが!」
「ふざけんなっ!!」
武官と同じだったんだと先ほどの文官達のやりとりと同じものを見て、朶輝は目を瞬かせた。
「……どうなっているのでしょう……」
たった数日で何が起きたのか。
混乱しながら、朶輝は首領の執務室へ向かった。しかし、その手前から長い文官の列ができていた。
「これは?」
朶輝に気付いた文官達がビシッと背筋を伸ばす。
「お帰りなさいませ! 朶輝様!」
「……一体これは何事ですか?」
「印をいただきに参りました」
「裁可のですか? 置いて行ってくれればいいのですよ?」
「いいえ! ここでお待ちします!」
「……」
そういえば、彼らは手に何も持っていない。
「他に仕事は……」
「ありません! 裁可待ちです!」
「……そうですか……わかりました……」
「「「っ!?」」」
朶輝から薄ら寒い何かを感じ、文官達はブルリと震えて混乱する。
それらを無視して、朶輝は執務室へ入った。
そこでは、樟嬰と珀楽が静かに仕事をしていた。朶輝はその様子を見てほぅと息をついた。こんなにも心地の良い空気を、かつて執務室で感じたことがあっただろうか。
すると、樟嬰が不意に顔を上げた。
「朶輝! 帰ってきたか」
「っ、は、はい。ただいま戻りました」
樟嬰に輝くような笑みで歓迎されドギマギしてしまう。
「ああ。これで珀楽を休ませてやれる」
「おやおや。わたくしはまだまだ大丈夫ですぞ?」
「お前の大丈夫は信用ならん」
「これは手厳しい」
珀楽が朗らかに笑う。こんなにも和やかに笑う姿を始めて見た。
「おい、誰か。珀楽を部屋まで連れて行ってくれ」
「「「はい!」」」
「そのような大事ではありませんが?」
「そう思うなら一人で立ってみろ。フラフラではないか」
「これはこれは、気付きませんでしたなぁ」
「笑い事ではないだろう……水分も取らせてくれ」
「「「はっ!!」」」
珀楽は前首領を捕らえてすぐに休めはしたが、たった数日で肉付きがよくなるわけがない。骨が浮く寸前の、実年齢よりも老いた姿になってしまっているのだ。それをどうにかしなければ安心はできない。
できれば、正常な状態に戻るまで仕事をさせたくなかったのだが、珀楽自身が仕事をしなければ死んでしまうと言って執務室に取り憑いたのだ。
食事は取らせていたし、休憩もさせていたのだが、それだけでは療養にはならない。
せめて珀楽が納得できるよう、朶輝が帰ってくるまでという約束で仕事をさせていたのだ。
「ほっほっほっ。仕方ありませんな。では、樟嬰様。朶輝殿。失礼いたします」
「二日休みだからな? 部屋でゴロゴロしていろ」
「難しいですなぁ」
「分かった。お前達。珀楽を月下楼に連れて行け。これを緑林殿に渡してくれ」
「ん? お待ちください樟嬰様? なぜ月下楼に……」
「休め。行け」
「「「はい!」」」
「え? いえ、わたくしは一人でも……」
緑林に任せれば、食事も風呂も寝床も問題ない。ちょっと良い宿での療養というものになるだろう。大変な贅沢だが、樟嬰にとってはなんて事はない。朶輝もうんうんと頷いて珀楽を見送った。
「さて、朶輝。帰って来て早々だが、頼むぞ」
「承知しました。さっさとあれらを追い出してお茶の時間にいたしましょう」
「……? そうだな」
樟嬰は何かヒヤリとしたものを朶輝から感じながらも仕事を再開する。
隣の席に着いた朶輝を横目で見ると、なんだか黒い笑みを浮かべていた。
「朶輝? なにか企んでいるか?」
「企むとは人聞きが悪いですよ? ただ、ここで待つ時間があるならば、仕事量が少ないということですからね。能力があるのなら、それに見合った仕事を与えなくてはもったいない」
「……それはまあ……そうだな」
「「「……っ」」」
チラリと樟嬰が目を向ける先には、盛大に目をそらす文官達。
「きちんと個人の力量を把握して仕事を割り振るのも私の仕事ですので」
「……任せる。ほどほどにな?」
「ほどほどというのが分かりませんが、余すことなく力が発揮できるように割り振ります」
「「「……」」」
絶対に使い潰される。馬車馬のように働かせられる未来が見え、文官達の目が死んだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回20日の予定です。
よろしくお願いします◎
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