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第三章 真実を知る家族
030 忍び込んだ影
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ザサスに報告をし、屋敷で夕食を済ませた理修達は地球に戻ってきた。
司を送り届け、自宅に着く頃には深夜を回っていた。当然家に明かりは点いていない。
静かに自室へと入り、机の上に荷物を置くと、そこに手紙が置かれていた。
「母さん?」
それが母の字だと気付いて驚く。そこには『明日の朝、話がしたい』と書かれていた。
何事かと思いながら、ここ数日電源を切っていたスマホを確認する。メールが五件。
拓海、明良、父、叔母、そして、氷坂の名前。氷坂以外は皆一様に、帰って来たら話がしたいと言うもの。こんなことは初めてで、理修は訳が分からない。
だが、氷坂のメールを読んで目を見開いた。
『リュートリールの事、シャドーフィールドの事、全て話しました』
「……簡潔過ぎです……」
事情は確かにこれだけで充分理解できた。だが、突然に過ぎる。
「総帥か……」
指示をしたのは、十中八九あの人だろうと予想できる。確かに婚約も決まった今、タイミングとしては文句はない。だが一言欲しかったとも思う。
「あの人は……過保護なんだか、義務的なんだか、よく分からないのよね……」
こうして、オルバルトは自ら理修の中の信用を削っていくのだか、それに気付く事はない。
全ては夜が明けてからと、理修は久しぶりの自分のベッドに潜り込んだ。
次の日。
いつもよりも早く目が覚めた理修は苦笑を浮かべる。柄にもなく緊張しているようだ。忘れない内にと、八時に叔母へメールが届くように予約設定をし、キッチンへ向かった。
今日もまた、司にお礼を兼ねてお弁当を作る。するとそこで拓海と明良が起きてきた。
「おはよう」
「「お帰り」」
そう二人の声がかぶった。途端に気まずそうにお互いにそっぽを向くのを見て、笑ってしまう。
「ふふ、ただいま」
「「…………」」
「どうかした?」
いつもなら、笑うなとか言ってくる所だが、二人は動かない。
「手伝ってくれないの?」
「いや、手伝う」
「悪い……」
二人は、どう話を切り出したものかと迷っているようだ。こればかりは仕方がないだろう。
「二人ともさ、お昼一緒に食べない?司も居るんだけど、良ければ」
「司?ああ、梶原先輩か……わかった」
「おお……どこでだ?」
「三階の渡り廊下で待ってて。お弁当も私が持っていくから」
二人は一瞬怪訝な顔をしたが、なんとか頷いた。そして、理修はそれならばと、重箱を取り出す。それに明良がギョッとした。
「な、なんで重箱……?」
「うん?まとめられるじゃない。昔の人って天才よね。量に合わせていくらでも重ねられるんだもの」
並べられた八個の大箱に、蓋が一つしかないぞと言って、まさかなと飽きれた声で拓海が感想を述べる。
「……限度はあると思うんだが……」
「そう?大丈夫よ。持てるわ」
「「八段だぞ!?」」
「うん。司が四つと、私が一つ。二人で一つと半分じゃ足りない?」
「いや……」
「充分だ……」
四つなのかと驚き、次にそういう問題じゃないんだがと悩む二人。今日は息ピッタリだった。
理修は全く違う事を考えながら次々と料理を完成させていく。
考えても無駄なのかと諦めた二人は、ようやく動き出した。
「どんどん作るから、冷める前に詰めていってくれる?」
「は?冷まさなくていいのか?」
「だって、出来立ての温かさのままがいいでしょ?」
「?お弁当だろ?」
「うん……?あぁ、ごめん。説明しなきゃね。ゲームとかであるでしょ?アイテムボックス」
突然なんだと固まる二人。
「それがなんだよ」
「だから、あれがあるんだよ」
「「は?」」
「あれ?マコさ……氷坂さんから聞いたんだよね?私が魔術師だって」
「「え?」」
「え?」
何だか会話が噛み合っていない気がする。
「ん?だって、真子さん話したって……?」
そこで、もしかしてと気付いた。
「まさか、話したのって、じい様の事だけ?」
「「…………」」
コクリと頷く二人に、あららと、とぼけるしかなかった。
「まぁ、その話もお昼にね。とりあえず、手伝って」
そう話を切り上げ、大量のお弁当を作り上げていったのだ。
朝食が整う頃、父と母が揃って起きてきた。二人とも、いつもよりも少し早い。
「おはよう。と、お帰り」
「おはよう。ただいま」
普段と変わらない様子の父。だが、拓海と明良の顔を見て首を傾げた。
「どうしたんだ?夜更かしでもしたか?目が……」
「……ちょっとな……」
「……大丈夫だよ……」
「そ、そうか?」
拓海と明良は、そう言って虚ろな目をしてゆっくりと席に着いた。さすがに驚いたようだ。
先程二人は、出来上がったお弁当の重箱を、理修がアイテムボックスへ収納する所を見てしまったのだ。手品と同じようなものだと思ってくれると期待していたのだが、やはりショッキングな光景だったようだ。
悪い事をしたなと思いながら、理修も席につくと、珍しく母と目が合った。
「理修……その、これを……」
母が突然、差し出してきたのは、見たことのある表紙の本。それが、祖父の物だと気付いて目を見開く。
「これをどこでっ……真……氷坂さんが?」
「えぇ……」
成る程と納得する。これを読めば、確かに祖父の事が分かるだろう。
「ちゃんと、読めましたか?」
「え?」
「ふふっ、コレ、全部で確か十冊あって、実は同じ物がもう一冊ずつあるの」
「なんでだい?」
受け取った本を開いて中の文字を確認する。そこで、それまで黙っていた父が面白そうに身を乗り出すようにして理由を訊ねた。
「これは、じい様の記録帳で、本当はあっち……トゥルーベルの言葉で書いてたんだけど、お祖母様が『私も読みたい』って言うから、文字の練習がてら書き直したんだって」
「もしかして、字の練習帳……?」
呆然とする家族に、もちろん中身は改竄してないよと付け足す。
「なら、本当にお父さんは……異世界から来たの……?」
母が恐る恐る訊ねた。
「うん。異世界、トゥルーベルから来た魔術師だった」
「なんで……っ」
母が怒ったように、椅子を倒して突然、立ち上がった。
「母さん?」
「っなんで話してくれなかったのよ!娘なのよ?」
「母さん……」
「肝心な事はいつも何一つ話してくれなくて、でも、分かってくれって顔をしてっ……っふざけないでよ!!」
「母さっ……!?」
父と一緒に、母に手を伸ばそうとした時、それは現れた。
「っえっ、なに……っ!?」
母のブレスレットが赤黒く変色して膨張する。そこから影が飛び出したのだ。
《グルルルルっ》
「なにっ?なんなの!?」
パニックになった母に向かって、それは突然牙を剥いた。
《ガルルルァ!》
「ッ、ちっ【エヴィ】ッ」
理修が出した小さな魔法陣から飛び出したものが、獣の形をした黒い影を弾き飛ばした。
《ギャゥゥッ》
「ふっ……!」
それが壁に叩きつけられた瞬間、理修は手元にあったフォークを投げつけた。勿論、魔術で強化済みだ。
《グフっ………》
しかし、壁に縫い止められた獣は、次の瞬間には霧散し、消えてしまったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 8. 4
司を送り届け、自宅に着く頃には深夜を回っていた。当然家に明かりは点いていない。
静かに自室へと入り、机の上に荷物を置くと、そこに手紙が置かれていた。
「母さん?」
それが母の字だと気付いて驚く。そこには『明日の朝、話がしたい』と書かれていた。
何事かと思いながら、ここ数日電源を切っていたスマホを確認する。メールが五件。
拓海、明良、父、叔母、そして、氷坂の名前。氷坂以外は皆一様に、帰って来たら話がしたいと言うもの。こんなことは初めてで、理修は訳が分からない。
だが、氷坂のメールを読んで目を見開いた。
『リュートリールの事、シャドーフィールドの事、全て話しました』
「……簡潔過ぎです……」
事情は確かにこれだけで充分理解できた。だが、突然に過ぎる。
「総帥か……」
指示をしたのは、十中八九あの人だろうと予想できる。確かに婚約も決まった今、タイミングとしては文句はない。だが一言欲しかったとも思う。
「あの人は……過保護なんだか、義務的なんだか、よく分からないのよね……」
こうして、オルバルトは自ら理修の中の信用を削っていくのだか、それに気付く事はない。
全ては夜が明けてからと、理修は久しぶりの自分のベッドに潜り込んだ。
次の日。
いつもよりも早く目が覚めた理修は苦笑を浮かべる。柄にもなく緊張しているようだ。忘れない内にと、八時に叔母へメールが届くように予約設定をし、キッチンへ向かった。
今日もまた、司にお礼を兼ねてお弁当を作る。するとそこで拓海と明良が起きてきた。
「おはよう」
「「お帰り」」
そう二人の声がかぶった。途端に気まずそうにお互いにそっぽを向くのを見て、笑ってしまう。
「ふふ、ただいま」
「「…………」」
「どうかした?」
いつもなら、笑うなとか言ってくる所だが、二人は動かない。
「手伝ってくれないの?」
「いや、手伝う」
「悪い……」
二人は、どう話を切り出したものかと迷っているようだ。こればかりは仕方がないだろう。
「二人ともさ、お昼一緒に食べない?司も居るんだけど、良ければ」
「司?ああ、梶原先輩か……わかった」
「おお……どこでだ?」
「三階の渡り廊下で待ってて。お弁当も私が持っていくから」
二人は一瞬怪訝な顔をしたが、なんとか頷いた。そして、理修はそれならばと、重箱を取り出す。それに明良がギョッとした。
「な、なんで重箱……?」
「うん?まとめられるじゃない。昔の人って天才よね。量に合わせていくらでも重ねられるんだもの」
並べられた八個の大箱に、蓋が一つしかないぞと言って、まさかなと飽きれた声で拓海が感想を述べる。
「……限度はあると思うんだが……」
「そう?大丈夫よ。持てるわ」
「「八段だぞ!?」」
「うん。司が四つと、私が一つ。二人で一つと半分じゃ足りない?」
「いや……」
「充分だ……」
四つなのかと驚き、次にそういう問題じゃないんだがと悩む二人。今日は息ピッタリだった。
理修は全く違う事を考えながら次々と料理を完成させていく。
考えても無駄なのかと諦めた二人は、ようやく動き出した。
「どんどん作るから、冷める前に詰めていってくれる?」
「は?冷まさなくていいのか?」
「だって、出来立ての温かさのままがいいでしょ?」
「?お弁当だろ?」
「うん……?あぁ、ごめん。説明しなきゃね。ゲームとかであるでしょ?アイテムボックス」
突然なんだと固まる二人。
「それがなんだよ」
「だから、あれがあるんだよ」
「「は?」」
「あれ?マコさ……氷坂さんから聞いたんだよね?私が魔術師だって」
「「え?」」
「え?」
何だか会話が噛み合っていない気がする。
「ん?だって、真子さん話したって……?」
そこで、もしかしてと気付いた。
「まさか、話したのって、じい様の事だけ?」
「「…………」」
コクリと頷く二人に、あららと、とぼけるしかなかった。
「まぁ、その話もお昼にね。とりあえず、手伝って」
そう話を切り上げ、大量のお弁当を作り上げていったのだ。
朝食が整う頃、父と母が揃って起きてきた。二人とも、いつもよりも少し早い。
「おはよう。と、お帰り」
「おはよう。ただいま」
普段と変わらない様子の父。だが、拓海と明良の顔を見て首を傾げた。
「どうしたんだ?夜更かしでもしたか?目が……」
「……ちょっとな……」
「……大丈夫だよ……」
「そ、そうか?」
拓海と明良は、そう言って虚ろな目をしてゆっくりと席に着いた。さすがに驚いたようだ。
先程二人は、出来上がったお弁当の重箱を、理修がアイテムボックスへ収納する所を見てしまったのだ。手品と同じようなものだと思ってくれると期待していたのだが、やはりショッキングな光景だったようだ。
悪い事をしたなと思いながら、理修も席につくと、珍しく母と目が合った。
「理修……その、これを……」
母が突然、差し出してきたのは、見たことのある表紙の本。それが、祖父の物だと気付いて目を見開く。
「これをどこでっ……真……氷坂さんが?」
「えぇ……」
成る程と納得する。これを読めば、確かに祖父の事が分かるだろう。
「ちゃんと、読めましたか?」
「え?」
「ふふっ、コレ、全部で確か十冊あって、実は同じ物がもう一冊ずつあるの」
「なんでだい?」
受け取った本を開いて中の文字を確認する。そこで、それまで黙っていた父が面白そうに身を乗り出すようにして理由を訊ねた。
「これは、じい様の記録帳で、本当はあっち……トゥルーベルの言葉で書いてたんだけど、お祖母様が『私も読みたい』って言うから、文字の練習がてら書き直したんだって」
「もしかして、字の練習帳……?」
呆然とする家族に、もちろん中身は改竄してないよと付け足す。
「なら、本当にお父さんは……異世界から来たの……?」
母が恐る恐る訊ねた。
「うん。異世界、トゥルーベルから来た魔術師だった」
「なんで……っ」
母が怒ったように、椅子を倒して突然、立ち上がった。
「母さん?」
「っなんで話してくれなかったのよ!娘なのよ?」
「母さん……」
「肝心な事はいつも何一つ話してくれなくて、でも、分かってくれって顔をしてっ……っふざけないでよ!!」
「母さっ……!?」
父と一緒に、母に手を伸ばそうとした時、それは現れた。
「っえっ、なに……っ!?」
母のブレスレットが赤黒く変色して膨張する。そこから影が飛び出したのだ。
《グルルルルっ》
「なにっ?なんなの!?」
パニックになった母に向かって、それは突然牙を剥いた。
《ガルルルァ!》
「ッ、ちっ【エヴィ】ッ」
理修が出した小さな魔法陣から飛び出したものが、獣の形をした黒い影を弾き飛ばした。
《ギャゥゥッ》
「ふっ……!」
それが壁に叩きつけられた瞬間、理修は手元にあったフォークを投げつけた。勿論、魔術で強化済みだ。
《グフっ………》
しかし、壁に縫い止められた獣は、次の瞬間には霧散し、消えてしまったのだ。
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2019. 8. 4
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