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001 マジでブタ小屋の方がマシ
シルフィスカという名を受けて十二年。
十二年も生きてこられたのは、はっきり言って奇跡に近かった。
生家であるベリスベリー伯爵家は外でクズと罵られるのが当たり前なくらい驚くほどクズな家だった。
「このゴミがっ。どこでこんなに金を盗んできたっ」
「っ……」
そんな一族に生まれ、その両親にゴミ扱いされる自分は一体何をしたのか。疑問を持って数年。答えは見つけられないままだ。
伯爵位にあるだけでここまで酷く傲慢にはならない。この一族は何代かに一人、聖女と呼ばれる治癒魔法の名手が生まれる家系らしい。自分たちの血は尊いのだと言って憚らないのだ。
そこに次女として生まれたのがシルフィスカだった。
「チッ、あんな託宣さえなければお前など、さっさとどこぞへ売ってやったものをっ」
「……」
太った丸い体と手足。それから繰り出される蹴りや拳はそれほど痛くはない。だって、短いのだ。筋肉は大きくなった体を支えるために多少はあるが、その他は脂だろう。だから、それほど脅威は感じてはいない。
何より、シルフィスカは十歳になる前から、とある方の勧めで屋敷を度々抜け出しては体を鍛えていた。今や屈強な男の拳さえ効かない。
とはいえ、アザは出来るし、痛がっていると見せなくては長く続く。だから、こんな時はひたすら小さくなってそれを必死で耐えているように見せるのだ。
「ふぅ、ふぅ……ふんっ。これはもらってやるっ。感謝しろっ」
「……」
運動など満足にしたことのない体では、足を上げ下げするだけで汗だくになる。息切れを起こし、醜い父親という生き物は部屋から出て行った。
「うっ……」
痛みではなく、部屋に充満した臭いに吐き気を覚えて急いで窓を開けに行く。
「はあっ……マジでブタ小屋の方がマシな臭いだ……あれが人とか笑えるんだが」
普段、家族や屋敷の者たちには言葉も知らない哀れな娘という印象を与えるため、口を開かない。だが、完全に近くに人の気配がなくなった今、思う存分悪態をつけた。
「ったく、空間魔法を習得しといて良かったよな……あのブタめっ、メシも出さんくせに金をせびりに来るとかどこまでクズなんだ」
食事が与えられなくなり、小さな物置のような部屋に押し込められたのは八才になる年だった。飢え死にする気はなく、仕方なく冒険者ギルドへ仕事の紹介をしてもらいに行った。
そこで一日のわずかな食事を取れるようになると、ますます放っておいても問題ないと認識された。
だが、別にそれは良かったと思っている。今更世話になるとか考えられなかったのだから。
「はあ……ってかあのバカ師匠、一体どんな託宣を下ろしたんだ?」
先ほど、思わずというように呟かれたそれが気になった。
「託宣って言ったよな? 何隠してやがる?」
空に向かってそう口にすると、何かが震えるような感覚の後、その気配が完全に消えた。
「っ……閉めやがったな……覚えてろよ、今回の技の修得が終われば、またそっちに行くんだからなっ」
必死で目を逸らす師匠の姿が見えた気がした。
「クソっ、こんな家、治癒魔法の素質が出やすい場所にあるってだけの価値しかないというのにっ」
シルフィスカは、治癒魔法の適性が血にあるのではないと知っている。たまたま、この伯爵家がある場所が精霊や神に愛された場所であっただけだ。
しかし、それもシルフィスカで最後となると聞いている。
「あれだけのクズが住んでるんだ、加護なんて一気に薄れるに決まってる。そんな奴らを大事にする教会も腐敗するし……終わったなこの国。破滅の道を順調に進んでいるようで何よりだ」
シルフィスカの姉が次の聖女として認識されたのは二年前。
シルフィスカがその資格を持つかどうかの査察の前日に、姉は呪術師を使いシルフィスカを呪った。姉は自分よりも妹であるシルフィスカの方が力があることを妬んだのだ。
それにより、シルフィスカはそれまで使えていた治癒魔法が使えなくなった。お陰でこうして物置きに放り込まれたのだ。
呪術は禁忌とされている。行使した者には凄惨な死が待っている。だから姉が行使したわけではない。自分の手を汚さないのがクズ一族の信条だ。
その時、姉は四つ年上の十二才。そんな子どもが言葉巧みに男を騙し、涙ながらに情に訴えたらしい。見た目だけは良いのだ。ただ、最近は嫌味な顔に変わってきた。おばさんになったら、さぞ悪役顔になることだろう。ザマァみろ。
呪術によって使えなくなった治癒魔法。それを、シルフィスカは呪印の解読をすることで少しだけ変化させて他人には問題なく行使できるように戻した。
しかし、自身への行使は効果がほとんどなく、その上、他人からの治癒魔法は全く効かない状態だ。先ほど殴り蹴られて負った打ち身はゆっくりと自己治癒力によって治していくしかない。
この弊害なのか、シルフィスカは痛覚というものが欠落していた。お陰で、怪我をしていても気付かないのでそちらの方が問題だった。
「はぁ……苦労して呪解薬を作ったのに、国に接収されるし……師匠に国は潰すなって言われてるからやらんが……ああ。そうだ。間接的にならいいんじゃないか?」
黒い笑みを浮かべれば、そこで頭に声が響いた。
『ダメに決まっとろう! オヌシは希代の最強の神の使徒だという自覚がないんかい!』
「長ぇよ。なんだ『希代の最強の神の使徒』って……ってかやらんぞ、じじいの使いっ走りなんて! 破壊神か邪神の使いっ走りなら喜んでやるが?」
寧ろ、こんなクズの血筋が教会を牛耳っている世界など滅ぼしてやりたい。
『ワシは創造神じゃ! 最高神ぞ!』
「へいへい……なら、この不幸な女を一人、ここから脱走しても問題なくしてくれませんかねえ。ご自慢の託宣とやらで」
『むむ……いや、せめて後数年……あの呪印さえなければ計算的には今頃大丈夫だったんじゃがなぁ……』
ブツブツと呟くそれを聞いて青筋が立つ。
「やっぱ、じじいの事情かよ。 このクソ師匠が。 何が最高神だ? 引き摺り下ろしてやっから顔を出しやがれっ」
『ふ、ふ~ん……つ、捕まるかいっ。まだまだ弟子には負けんわい!』
「言ったなこのヤロウっ……次会った時が命日だ。墓用意して待っとけ!」
日頃から荒くれ者達と一緒に仕事をしているせいで、すっかり言葉遣いは汚くなってしまった。だが、お陰で絶好調だ。
『ワシ神さまじゃも~ん。死なんも~ん』
「なるほど。ならばどれだけ死ぬ思いをしても死なんのだな? 切り刻んで燃やして、灰にしてから次元の狭間に捨ててやんよっ」
『なっ、なっ、さすがにそこまでされたらムリ!! ごめんなさいっ!』
「謝って済んだら刑法なんて必要ねえんだよ!」
自分のことながら、相当鬱憤が溜まっていたらしい。これで討伐の仕事を一つ二つ受ければスッキリしそうだ。
「あぁぁ~、もう腹立つ! うっしゃっ、竜の迷宮でドラゴン虐殺でもしてくっか」
『……い、行ってらっしゃい……』
シルフィスカ・ベリスベリー
生まれながらにして、聖女としての高い素質を持ち、たった二年で治療魔法を最高峰まで極めた伯爵令嬢。彼女はその力により最高神との謁見をも可能にした。
託宣ではなく、直接神と語り合うことができるのだ。寧ろ、拳でも語り合える彼女は、神の手ほどきにより、この世界の全ての魔術と武術を会得していく。
その甲斐あってこの後三年で最強の武神とまで呼ばれるようになる。しかし、そうして着々と外での地盤作りをしていた彼女に、次なる試練が訪れるのだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回は明日投稿。
その後は5日毎の予定です。
よろしくお願いします◎
十二年も生きてこられたのは、はっきり言って奇跡に近かった。
生家であるベリスベリー伯爵家は外でクズと罵られるのが当たり前なくらい驚くほどクズな家だった。
「このゴミがっ。どこでこんなに金を盗んできたっ」
「っ……」
そんな一族に生まれ、その両親にゴミ扱いされる自分は一体何をしたのか。疑問を持って数年。答えは見つけられないままだ。
伯爵位にあるだけでここまで酷く傲慢にはならない。この一族は何代かに一人、聖女と呼ばれる治癒魔法の名手が生まれる家系らしい。自分たちの血は尊いのだと言って憚らないのだ。
そこに次女として生まれたのがシルフィスカだった。
「チッ、あんな託宣さえなければお前など、さっさとどこぞへ売ってやったものをっ」
「……」
太った丸い体と手足。それから繰り出される蹴りや拳はそれほど痛くはない。だって、短いのだ。筋肉は大きくなった体を支えるために多少はあるが、その他は脂だろう。だから、それほど脅威は感じてはいない。
何より、シルフィスカは十歳になる前から、とある方の勧めで屋敷を度々抜け出しては体を鍛えていた。今や屈強な男の拳さえ効かない。
とはいえ、アザは出来るし、痛がっていると見せなくては長く続く。だから、こんな時はひたすら小さくなってそれを必死で耐えているように見せるのだ。
「ふぅ、ふぅ……ふんっ。これはもらってやるっ。感謝しろっ」
「……」
運動など満足にしたことのない体では、足を上げ下げするだけで汗だくになる。息切れを起こし、醜い父親という生き物は部屋から出て行った。
「うっ……」
痛みではなく、部屋に充満した臭いに吐き気を覚えて急いで窓を開けに行く。
「はあっ……マジでブタ小屋の方がマシな臭いだ……あれが人とか笑えるんだが」
普段、家族や屋敷の者たちには言葉も知らない哀れな娘という印象を与えるため、口を開かない。だが、完全に近くに人の気配がなくなった今、思う存分悪態をつけた。
「ったく、空間魔法を習得しといて良かったよな……あのブタめっ、メシも出さんくせに金をせびりに来るとかどこまでクズなんだ」
食事が与えられなくなり、小さな物置のような部屋に押し込められたのは八才になる年だった。飢え死にする気はなく、仕方なく冒険者ギルドへ仕事の紹介をしてもらいに行った。
そこで一日のわずかな食事を取れるようになると、ますます放っておいても問題ないと認識された。
だが、別にそれは良かったと思っている。今更世話になるとか考えられなかったのだから。
「はあ……ってかあのバカ師匠、一体どんな託宣を下ろしたんだ?」
先ほど、思わずというように呟かれたそれが気になった。
「託宣って言ったよな? 何隠してやがる?」
空に向かってそう口にすると、何かが震えるような感覚の後、その気配が完全に消えた。
「っ……閉めやがったな……覚えてろよ、今回の技の修得が終われば、またそっちに行くんだからなっ」
必死で目を逸らす師匠の姿が見えた気がした。
「クソっ、こんな家、治癒魔法の素質が出やすい場所にあるってだけの価値しかないというのにっ」
シルフィスカは、治癒魔法の適性が血にあるのではないと知っている。たまたま、この伯爵家がある場所が精霊や神に愛された場所であっただけだ。
しかし、それもシルフィスカで最後となると聞いている。
「あれだけのクズが住んでるんだ、加護なんて一気に薄れるに決まってる。そんな奴らを大事にする教会も腐敗するし……終わったなこの国。破滅の道を順調に進んでいるようで何よりだ」
シルフィスカの姉が次の聖女として認識されたのは二年前。
シルフィスカがその資格を持つかどうかの査察の前日に、姉は呪術師を使いシルフィスカを呪った。姉は自分よりも妹であるシルフィスカの方が力があることを妬んだのだ。
それにより、シルフィスカはそれまで使えていた治癒魔法が使えなくなった。お陰でこうして物置きに放り込まれたのだ。
呪術は禁忌とされている。行使した者には凄惨な死が待っている。だから姉が行使したわけではない。自分の手を汚さないのがクズ一族の信条だ。
その時、姉は四つ年上の十二才。そんな子どもが言葉巧みに男を騙し、涙ながらに情に訴えたらしい。見た目だけは良いのだ。ただ、最近は嫌味な顔に変わってきた。おばさんになったら、さぞ悪役顔になることだろう。ザマァみろ。
呪術によって使えなくなった治癒魔法。それを、シルフィスカは呪印の解読をすることで少しだけ変化させて他人には問題なく行使できるように戻した。
しかし、自身への行使は効果がほとんどなく、その上、他人からの治癒魔法は全く効かない状態だ。先ほど殴り蹴られて負った打ち身はゆっくりと自己治癒力によって治していくしかない。
この弊害なのか、シルフィスカは痛覚というものが欠落していた。お陰で、怪我をしていても気付かないのでそちらの方が問題だった。
「はぁ……苦労して呪解薬を作ったのに、国に接収されるし……師匠に国は潰すなって言われてるからやらんが……ああ。そうだ。間接的にならいいんじゃないか?」
黒い笑みを浮かべれば、そこで頭に声が響いた。
『ダメに決まっとろう! オヌシは希代の最強の神の使徒だという自覚がないんかい!』
「長ぇよ。なんだ『希代の最強の神の使徒』って……ってかやらんぞ、じじいの使いっ走りなんて! 破壊神か邪神の使いっ走りなら喜んでやるが?」
寧ろ、こんなクズの血筋が教会を牛耳っている世界など滅ぼしてやりたい。
『ワシは創造神じゃ! 最高神ぞ!』
「へいへい……なら、この不幸な女を一人、ここから脱走しても問題なくしてくれませんかねえ。ご自慢の託宣とやらで」
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「言ったなこのヤロウっ……次会った時が命日だ。墓用意して待っとけ!」
日頃から荒くれ者達と一緒に仕事をしているせいで、すっかり言葉遣いは汚くなってしまった。だが、お陰で絶好調だ。
『ワシ神さまじゃも~ん。死なんも~ん』
「なるほど。ならばどれだけ死ぬ思いをしても死なんのだな? 切り刻んで燃やして、灰にしてから次元の狭間に捨ててやんよっ」
『なっ、なっ、さすがにそこまでされたらムリ!! ごめんなさいっ!』
「謝って済んだら刑法なんて必要ねえんだよ!」
自分のことながら、相当鬱憤が溜まっていたらしい。これで討伐の仕事を一つ二つ受ければスッキリしそうだ。
「あぁぁ~、もう腹立つ! うっしゃっ、竜の迷宮でドラゴン虐殺でもしてくっか」
『……い、行ってらっしゃい……』
シルフィスカ・ベリスベリー
生まれながらにして、聖女としての高い素質を持ち、たった二年で治療魔法を最高峰まで極めた伯爵令嬢。彼女はその力により最高神との謁見をも可能にした。
託宣ではなく、直接神と語り合うことができるのだ。寧ろ、拳でも語り合える彼女は、神の手ほどきにより、この世界の全ての魔術と武術を会得していく。
その甲斐あってこの後三年で最強の武神とまで呼ばれるようになる。しかし、そうして着々と外での地盤作りをしていた彼女に、次なる試練が訪れるのだった。
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