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006 選んでくれるか?
シルフィスカは舞踏会などの出席の連絡を前もってと約束しなかった。本来ならば、夜会や舞踏会のドレスを仕立てるのには、招待状を受け取ってすぐにでも準備を始めるものだ。
一度袖を通したドレスは着ないというのが貴族の常識。とはいえ、そこまでお金の余裕のない下級貴族は、同じドレスでもデザインを少し変えて誤魔化す。それにも前もって時間は必要だった。
だが今回、旦那の補佐達はドレスを仕立てる時間も与えずに出席できないようにしてやろうと考えており、これによる誓約違反でシルフィスカが苦しめばと思っていた。
旦那にすると、ドレスは仕立てる時間がいるのだという事情がコロッと抜けていた。
だが、シルフィスカはちゃんと考えて誓約時に前日で良いと答えたのだ。問題はない。
「それじゃあ、ジーナ。選んでくれるか? 色別で並べてあるから、先に色を選んでくれ」
「……ナニコレ……」
ジーナを案内したのは貰い受けた屋敷の地下に増設された衣装部屋だった。
そこにはデザインも様々な数百着のドレスが並んでいる。
「何って、ドレスだ。あ、あっちの小部屋には普段着用のものもあるぞ。壁際にあるのが靴と引き出しにアクセサリーが入ってる。サイズは自動調整機能が付いているから、気にせずにな。なんならジーナも選ぶか? 赤いダグの付いてないやつなら大丈夫だぞ。因みに普段着用の方は好きに持って行ってくれて構わん。寧ろ持って行ってくれ」
「……」
煌びやかなドレスの山。王女や王妃でもこれほど持ってはいないだろう。それも、自動調整機能が付いているということは、全て迷宮産の最高品質だ。
「ちょっ、ちょっと……これ全部……?」
「ん? どうかしたか? あ、ジーナも多少は持ってるよな。まず契約上限確認しとこう。こっちに診断石があるから」
呆然として動かなくなったジルナリスの手を引っ張って部屋の角へ行く。そこには、水晶玉がある。
「ほれ、ジーナ。手を置いて」
「……」
こちらを向かないが、素直に手を出したので気にしない。
そこに出たのは、自動調整機能の付いた服とどれだけ契約できるかという数だ。魔力量によって変わる。
ーーーー
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ーーーー
実にシンプルだ。自動調整機能の付いた服は魔導具の部類だ。契約をすればその人だけのものになる。一生着ることができるのだ。
その服を死ぬ時に一緒に埋葬、火葬すれば来世は着るものに困らず、唯一のパートナーと出会うこともできるというジンクスがある。
「ジーナ、意外と持ってないんだな。というか、五着も契約出来るとはさすがだ」
「……」
一般人ならば一着が限度。とはいえ、先ずお目にかかることはない。この自動調整機能付きの服は迷宮でほんの時折手に入るものだ。そして、こんなものに値段は付けられない。
個人で取り引きをして売り買いはするが、まず市場には流れない。自動調整機能を再現出来る者はおらず、とても高価になるのだ。よって、商業ギルドでも売れる上限というのが決まっており、ほとんど買い取り不可と宣言されてしまっていた。これはもう何百年も前の決まり事なので今や常識だ。
「これだけあるのに、ほとんど金にならんし、知り合いにやるくらいしかなくてなあ。とはいえ、契約数に限りもあるし、こうして飾っておくだけになっているんだ」
「……」
未だに復活しないジルナリスに首を傾げ、目の前で手を振ってみせる。
「お~い。ジーナ、戻ってこいよ。まったく、これくらいで驚いていてどうするんだか……あ、そうだ。旦那様の服は決まってんのか? なんなら揃いのがあるんだ。その方が面倒がなくていいんだが」
「っ、なっ、まさか、幻の男女組みのドレスがあるって言うの!?」
「お、戻ってきた。そうそう。王家とかにプレゼントしてもいたんだが、それでも追いつかなくて……っ」
「見せてっ!!」
「……お、おう……」
すごい食いつき具合だ。確かに男女ペアになった夜会セットは幻と言われるほど手に入れるのが難しい。希少価値が高いのだ。
しかし、そこはシルフィスカだ。結構な数が並んでいた。
「っ……あぁぁぁっ、ナニコレっ、ナニコレぇぇぇぇっ」
「いや、何といわれても、セット品だ」
「何でこれがこんなにあるのっ!?」
襟を掴まれてガクガクと揺すられる。軽く三十ペアはあるだろうか。一画が全てそれなのだ。
「ちょっ、だから、何でって、言われても、ほら、呪解石を、手に入れる、ために、迷宮を……上限まで周回しまくってただろ……」
ようやく離された。当時、迷宮に取り憑かれた気狂いだとまで言われていた頃を思い出してくれたらしい。
「はあ……その後に呪術師用の護り服を手に入れるのに、またバカみたいに周回して、結果的にこうなった」
「……呪術師用の護り服……?」
「そうだよ。あれは、呪解石を手に入れた者にしかドロップしない物の一つなんだ」
「……なにそれ……」
仕方なく説明する。
そもそも、呪解石とは、呪解薬を作るために必須の材料だ。
シルフィスカは、姉にかけられた呪術を解くため、これをずっと求めていた。ただしこの呪解石は、三十五以上の迷宮を各三百回まで周回し、合計一万回以上にならないとドロップしないというクソ設定だ。
それも一人で。パーティでも可能だが、その場合は途中で一人でも欠けるとそこでリセットされる。
八歳から十二歳まで、多い日には一日に五十周した。孤独に、パーティとは逆に途中でパーティを組むとそこでリセットされるのだから、弱音なんて吐いていられない。
お陰で気狂いだと呼ばれる時が多々あった。
「呪解石を手に入れてから、次にリセットがかかる五年後までの間に、それぞれの迷宮で特別なドロップ品が出るようになるんだ。ドレスとか装飾品類が出る『仮面の迷宮』だと、呪術を行使した人の衰弱を少しだけ緩やかにできる服が出るんだよ」
「……なんでそんなものが必要だったのよ。呪術を使った奴のこと、憎んでたじゃない」
「ああ。私にかけた奴はな。あれは完全にあっちの都合、自業自得だろう? けど、呪術に手を出すのは、そういう奴だけじゃないからな」
呪おうとするほど、憎い相手がいる場合もある。そうして、彼らは自らの命を懸けてでも呪術師として身を落としてしまうのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、20日の予定です。
よろしくお願いします◎
一度袖を通したドレスは着ないというのが貴族の常識。とはいえ、そこまでお金の余裕のない下級貴族は、同じドレスでもデザインを少し変えて誤魔化す。それにも前もって時間は必要だった。
だが今回、旦那の補佐達はドレスを仕立てる時間も与えずに出席できないようにしてやろうと考えており、これによる誓約違反でシルフィスカが苦しめばと思っていた。
旦那にすると、ドレスは仕立てる時間がいるのだという事情がコロッと抜けていた。
だが、シルフィスカはちゃんと考えて誓約時に前日で良いと答えたのだ。問題はない。
「それじゃあ、ジーナ。選んでくれるか? 色別で並べてあるから、先に色を選んでくれ」
「……ナニコレ……」
ジーナを案内したのは貰い受けた屋敷の地下に増設された衣装部屋だった。
そこにはデザインも様々な数百着のドレスが並んでいる。
「何って、ドレスだ。あ、あっちの小部屋には普段着用のものもあるぞ。壁際にあるのが靴と引き出しにアクセサリーが入ってる。サイズは自動調整機能が付いているから、気にせずにな。なんならジーナも選ぶか? 赤いダグの付いてないやつなら大丈夫だぞ。因みに普段着用の方は好きに持って行ってくれて構わん。寧ろ持って行ってくれ」
「……」
煌びやかなドレスの山。王女や王妃でもこれほど持ってはいないだろう。それも、自動調整機能が付いているということは、全て迷宮産の最高品質だ。
「ちょっ、ちょっと……これ全部……?」
「ん? どうかしたか? あ、ジーナも多少は持ってるよな。まず契約上限確認しとこう。こっちに診断石があるから」
呆然として動かなくなったジルナリスの手を引っ張って部屋の角へ行く。そこには、水晶玉がある。
「ほれ、ジーナ。手を置いて」
「……」
こちらを向かないが、素直に手を出したので気にしない。
そこに出たのは、自動調整機能の付いた服とどれだけ契約できるかという数だ。魔力量によって変わる。
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実にシンプルだ。自動調整機能の付いた服は魔導具の部類だ。契約をすればその人だけのものになる。一生着ることができるのだ。
その服を死ぬ時に一緒に埋葬、火葬すれば来世は着るものに困らず、唯一のパートナーと出会うこともできるというジンクスがある。
「ジーナ、意外と持ってないんだな。というか、五着も契約出来るとはさすがだ」
「……」
一般人ならば一着が限度。とはいえ、先ずお目にかかることはない。この自動調整機能付きの服は迷宮でほんの時折手に入るものだ。そして、こんなものに値段は付けられない。
個人で取り引きをして売り買いはするが、まず市場には流れない。自動調整機能を再現出来る者はおらず、とても高価になるのだ。よって、商業ギルドでも売れる上限というのが決まっており、ほとんど買い取り不可と宣言されてしまっていた。これはもう何百年も前の決まり事なので今や常識だ。
「これだけあるのに、ほとんど金にならんし、知り合いにやるくらいしかなくてなあ。とはいえ、契約数に限りもあるし、こうして飾っておくだけになっているんだ」
「……」
未だに復活しないジルナリスに首を傾げ、目の前で手を振ってみせる。
「お~い。ジーナ、戻ってこいよ。まったく、これくらいで驚いていてどうするんだか……あ、そうだ。旦那様の服は決まってんのか? なんなら揃いのがあるんだ。その方が面倒がなくていいんだが」
「っ、なっ、まさか、幻の男女組みのドレスがあるって言うの!?」
「お、戻ってきた。そうそう。王家とかにプレゼントしてもいたんだが、それでも追いつかなくて……っ」
「見せてっ!!」
「……お、おう……」
すごい食いつき具合だ。確かに男女ペアになった夜会セットは幻と言われるほど手に入れるのが難しい。希少価値が高いのだ。
しかし、そこはシルフィスカだ。結構な数が並んでいた。
「っ……あぁぁぁっ、ナニコレっ、ナニコレぇぇぇぇっ」
「いや、何といわれても、セット品だ」
「何でこれがこんなにあるのっ!?」
襟を掴まれてガクガクと揺すられる。軽く三十ペアはあるだろうか。一画が全てそれなのだ。
「ちょっ、だから、何でって、言われても、ほら、呪解石を、手に入れる、ために、迷宮を……上限まで周回しまくってただろ……」
ようやく離された。当時、迷宮に取り憑かれた気狂いだとまで言われていた頃を思い出してくれたらしい。
「はあ……その後に呪術師用の護り服を手に入れるのに、またバカみたいに周回して、結果的にこうなった」
「……呪術師用の護り服……?」
「そうだよ。あれは、呪解石を手に入れた者にしかドロップしない物の一つなんだ」
「……なにそれ……」
仕方なく説明する。
そもそも、呪解石とは、呪解薬を作るために必須の材料だ。
シルフィスカは、姉にかけられた呪術を解くため、これをずっと求めていた。ただしこの呪解石は、三十五以上の迷宮を各三百回まで周回し、合計一万回以上にならないとドロップしないというクソ設定だ。
それも一人で。パーティでも可能だが、その場合は途中で一人でも欠けるとそこでリセットされる。
八歳から十二歳まで、多い日には一日に五十周した。孤独に、パーティとは逆に途中でパーティを組むとそこでリセットされるのだから、弱音なんて吐いていられない。
お陰で気狂いだと呼ばれる時が多々あった。
「呪解石を手に入れてから、次にリセットがかかる五年後までの間に、それぞれの迷宮で特別なドロップ品が出るようになるんだ。ドレスとか装飾品類が出る『仮面の迷宮』だと、呪術を行使した人の衰弱を少しだけ緩やかにできる服が出るんだよ」
「……なんでそんなものが必要だったのよ。呪術を使った奴のこと、憎んでたじゃない」
「ああ。私にかけた奴はな。あれは完全にあっちの都合、自業自得だろう? けど、呪術に手を出すのは、そういう奴だけじゃないからな」
呪おうとするほど、憎い相手がいる場合もある。そうして、彼らは自らの命を懸けてでも呪術師として身を落としてしまうのだ。
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次回、20日の予定です。
よろしくお願いします◎
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