逃げ遅れた令嬢は最強の使徒でした

紫南

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033 お側に在りますぞ!

ヘスライルの前王弟。それがマーティウィンだ。

早々に王位継承権を捨て、冒険者をやったり、騎士をやったりしていた変わり者。要するに王宮で缶詰めになるより体を動かしたい人種だった。

剣の腕もこの国で一、二を争う実力者だが、彼は魔力がとてもつもなく多かった。なのに魔法は苦手。膨大な魔力を扱うのは難しく、そのため、幼い頃に挫折してそのままだったらしい。とはいえ、知らず身体強化に使っており、暴走するとか、ダダ漏れとかもなかった。

彼の魔力の波動は、動物達にとても好かれた。見た目ゴツい武闘派。なのに町を歩けば野良猫達が擦り寄り、野良犬が尻尾を振って付いてくる。

森に出れば、本来ならば非常に警戒心の強い無害な野うさぎや鹿、猪が興味深げに近づいてくる。

マーティウィンが外を歩けば、すぐに周りにもふもふ天国が出来上がるという不思議体質だった。

反対に魔獣や魔物達は、その魔力量の多さに怯え、近付いてこない。知能がある程度あるものは、従順を示して命乞いをする有り様。

これが契約魔法、従魔法と呼ばれる魔法の適性を何よりも表すものだった。

因みに、シルフィスカの場合は、しっかりと魔力の操作と調整ができるため、やろうと思えばいつでももふもふ天国を作れたりする。

「マーティ……相変わらず元気そうで良かったよ」
「まだまだ現役は退きませんわ。死ぬまで現役で戦いの場に居るというのが私の夢ですからなあ!」
「お前らしいよ……」

艶々で張りのある肌。血色の良い顔。体格も武人らしいガッシリとしたもので、衰えてはいないのが一目で分かる。肩幅の大きさは筋肉によるもの。これで六十五を過ぎているというから驚きだ。

元々、血筋のせいかここの王家は童顔が多いらしい。見た目はあと十は余裕でサバを読めるだろう。と言っても、昔から童顔なのを気にして上にサバを読むのが彼らの中では常識だ。

「マリアナに見せてもらいましたぞっ。お師匠様の戦いっぷりを!」
「マリアナか……なるほど。あの視線はマリアナの偵察部隊か……」

マリアナとは弟子の一人。年齢はシルフィスカの一つ下の十四歳。彼女はマーティウィンと同じ契約魔法の使い手。そのため、二人は兄妹弟子の中でも特に仲が良い。彼女がマーティンウィンとは違う種類の生き物と契約できる才能の持ち主であるのも大きいだろう。

マリアナに従うのは虫達だった。それらを己の目にしての偵察、隠密行動が得意だ。

戦いの最中、妙に視線を感じると思ったのだ。敵意や見定めるための視線ではなく、無機質な記録をするだけの視線だったため、気にせず仕事をこなした。

「マリアナとは、たまたま国境で会いましてなあ。師匠が戦っていると知って、見せてもらったのですっ。ほとんど飛んでいましたなあ……失礼ですが、怪我をしておられませんかな?」
「……ちょっとな……」
「そうだと思いましたぞっ! マリアナが見ていてかなり殺気立っておりましたしなあっ」

面白かったと笑うマーティンウィン。

「そうか……で、マリアナは……」
「それが、用が出来たと言って、出て行ってしまったのですよ」
「……分かった……」

嫌な予感もしたが、追った所でどうにもならないので諦める。

「それで。もしや、そちらのお三方は私の兄弟子達ですかな?」

弟子達は、顔を合わせたことがなくても、特殊な強者の気配でシルフィスカの弟子であることが分かるらしいというのは、後で聞くことだ。シルフィスカ的には便利だなと思っただけ。

ビスラとフランが立ち上がる。

「俺はビスラだ。よろしく!」
「私はフランです。よろしくお願いします」
「ミィアだ」

ミィアはクールに座ったまま名乗っただけだった。単に自己紹介に慣れていないだけというのは、シルフィスカにしか分からない。

「マーティウィンですわ。これからよろしくお願いしますぞ!」
「おうっ!」
「歓迎します」
「……」

ビスラとフランは自分達の兄弟子であるミィアを確認する。静かに頷いたので、一緒に行動するのも認めるということだ。

シルフィスカは特に弟子達の中での上下関係は気にしないのだが、弟子達には重要なことらしい。年齢よりも、出会いの順番。シルフィスカに弟子と認められた順番が重要なのだ。

因みに一番弟子は、シルフィスカと同じ特級の冒険者だったりする。世界に現在六人しか居ない特級の冒険者。一人を除いた四人がシルフィスカの弟子なのだが、シルフィスカはそこまで把握していなかった。

「それで……そちらがお師匠様の伴侶(仮)ですかな? 誓約で縛るような男を認められんのですがなあ」

魔法の才能があるマーティウィンには、当然のようにシルフィスカとレイルの指にある誓約を示す指輪が見えていた。

静かな殺気がじわりと広がった。震えそうになる体に気合いを入れて、レイルは立ち上がって頭を下げる。

いい意味で、レイルは慣れつつあった。ただ、やはり強者の殺気には敵わない。

「っ、レイルと申します。誓約については、国に帰り次第、破棄させていただきます。私はっ、シルフィを幸せにしたい。今はまだ認めてもらおうとは思っておりません。ですがっ……シルフィを想う気持ちは負けるつもりはありません!」

マーティウィンは鋭い視線で顔を上げたレイルを見つめる。しばらく瞬きもせずにいたが、ふっと空気が緩んだ。

「嘘はないと判断しよう。だが……弟子として……お師匠様を大切に思う者としては、まだ関係を認めることはできん。お師匠様が怪我をしたのも、おヌシとの誓約のせいではないか?」
「っ、はい……」
「で、あれば分かるだろう。おヌシとの関係は、お師匠様の足手まといにしかならん。お師匠様は優しいのでな。弱いおヌシでは、夫としてということ以前に、傍に在ること自体、邪魔でしかない」
「……っ」

レイルは真面目に聞いている。ビスラ達もうんうんと頷き、たまに王達も頷きを見せる。

そんな中、シルフィスカは完全に他人事な気分だった。まるで、話に聞く娘を愛する父親か兄が婚約者を牽制する言い様だ。自分には縁のないものだと思っていたので、とても新鮮な気持ちだった。

優秀なメイドがこんな中でもお茶を淹れてくれるので、本当に他人事な気分だ。

「まあ、私もこれからはお師匠様の傍に居りますでな。見極めさせてもらおう」
「っ……分かりました」

そこでシルフィスカは現実に戻ってきた。

「ん? 傍に居る? マーティ? どういうことだ?」
「む、お師匠様の情報は解禁。ということは、傍に居っても問題ないということでしょう? ならば、今までの不満だった分も含めて、傍に在る所存ですわ。死ぬまでお側に在りますぞ! もちろん、お師匠様が納得できるよう、身辺は綺麗にしてからになりますがなっ。すぐですぞ!」
「……これはいいのか?」

王に目を向ける。すると、反対してどうにかなるとは思えないという表情を返された。

これにより、数日後にはなるが、マーティウィンがシルフィスカの元へ行くことが決まった。

そして、シルフィスカ達は翌日の昼ごろ、国へと帰ったのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回、23日の予定です。
よろしくお願いします◎
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