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048 私と彼の師匠の名は
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『真の聖女』と聞いて、シルフィスカに集まった視線。それがレイルには不快だったようだ。
レイルは名残惜しげにシルフィスカからゆっくりと手を離し、その前に歩み出た。
貴族達の目から隠すように。
これに、スラハ司教は謝罪した。
「っ……あ、失礼いたしました……っ」
そう口にはしたが、スラハ司教にはもう、シルフィスカが聖女であるという事実から目を逸らすことはできなかった。
そして、ここで貴族達が気付く。
「……彼女が妻ということは……ゼスタート家とこの国を出て行くのでは……」
「っ、せ、聖女なのだろう!? 出て行かれては困るではないかっ」
「ま、待てよ……そ、そうだ。彼女はまさか、最年少特級冒険者のシルフィ殿! ならば……間違いない。『武神』……いや、『殺戮の黒き聖女』だ!」
「あの初代聖女様に匹敵するほどの力を持つと言う!」
騒々しくなっていく。『殺戮の黒き聖女』という物騒な二つ名ではあるが、貴族達は知っていた。
その力は欠損さえ瞬く間に再生させ、死の淵にある命さえ救い上げるのだと。冒険者の中で囁かれだした当初は誰も信じなかった。しかし、一年、二年と過ぎれば、それは当たり前のように語られるようになっていた。
信じるしかなかったのだ。
「最年少で最強の冒険者とも聞いたが、それはどうなのだ?」
「本当らしい。聞いた話では誰も踏破できなかった迷宮を、彼女が次々と踏破して回ったとか」
「古代の遺跡の探索も、彼女に依頼すれば集団暴走の危機から逃れることができたという国は多いと聞く」
「だが、どう見てもうちの娘よりも年下だぞ」
「確か、十五頃と聞いたが」
色々言っているなあとシルフィスカは呑気に、未だ動かない目の前のレイルの背中を見つめる。
「それで強いなど……信じられん……年齢を偽っているのではないか? そうだ。あの呪術師とも関係があるようだったし……何か特別な術でもあるのでは……」
「そういえば、兄弟子? とか言っていましたなあ」
「呪術師が兄弟子とは……良くないのでは?」
そんな声が聞こえて、アークィードにも視線が向かう。
彼らは『呪術王』のことを正確に理解できていないのだ。スラハ司教とアークィードの会話は聞いていても『呪術王』が元神子であったということさえ、教会の上層部しか知らないのだから。
次第に、シルフィスカの存在に疑問を抱くようになる貴族達。それを感じて、ビスラやケルスト達が動いた。弟子達とジルナリス、ベルタ・ゼスタートがシルフィスカの元へ歩み寄る。
「何も分かっちゃいねえんだな」
「別に分からなくていいんですけどね。師匠のことは私たちが知っていれは良いんですから」
ビスラとフランがレイルの両側に立って、貴族達を睨み付ける。更に壁を作る気らしい。お陰でほとんど貴族達が見えなくなった。だが、確実に威圧しているのが分かって、すかさず二人に注意する。
「ビスラ、フラン。あまり威圧するな」
「いいじゃねえっすか。どうせ、この国からは出てくんだし、なんならムカつく奴の一人か二人ぶっ飛ばしても」
「私も同意見です。師匠のことを何も知らないくせに、決めつけるような者達など、死んでもいいかと」
相当不快だったようだ。
その時、リンティスが喚いた。
「なんでよ……なんであんたが、そんなにモテてるのよ!!」
シルフィスカの周りは、すっかり弟子達に囲まれていた。
これに意見したのは、ヒリアリアとクルチスだ。
「間違いなくあなたのような者より、尊く、美しいですから、不思議ではないでしょう」
「僻むしか能のない、クズビッチが何を意見しているのかしら? 滑稽だわ」
「なっ、なんですって!?」
貴公子のようなヒリアリアに目も向けられず、大人の女性の色香漂うクルチスに臭いモノでも見るような目で見られて、さすがのリンティスも反論を止めた。
ヒリアリアが続ける。
「分からないかな。私たちの今があるのも、この方のお陰です。現在世界に六人しか存在しない特級冒険者の内、彼女を含めた五人が彼女の弟子である私たちだ。それだけの才が、只人にあると思われますか」
しばらくは必死でそのあり得ない情報を誰もが頭で整理する。一人を除く特級冒険者の全てが、シルフィスカの弟子であると言っているのだと理解した貴族達は、徐々にその事実に近付いていく。
「まさか、本当に師弟関係だと……」
「先程、あの二人も師匠だと言っていなかったか? 先日、叙勲された者だろう」
ビスラとフランをよくよく見て、それが先日の叙勲者であると知り動揺する。
「彼らがそれを返上したという噂はまさか……」
「彼女が師匠だというのならば理解できる……国を出て行くというのもただの噂ではないのでは……」
師匠を冤罪で傷付けられたとすれば、弟子である彼らがそのような行動に出たという噂も信じられると納得していく。
「……待てよ……武神……聖女……治癒魔法を最高までに高めた者は、神との謁見が叶うという伝説……」
「それはっ、ただの伝説……真実だというのか?」
「確か……神からこの世の知識、武術、魔法の全てを授けられた真の聖女や神子は……いずれ神となると……っ」
「だから『真の聖女』……」
スラハ司教が言ったはず。シルフィスカを見て『真の聖女』と。それは神の領域に届くほどの力を有した存在を意味する。そういうことだったのかと、動揺しながらも得心した。
ここでリンティスが復活する。彼女は混乱しながらも冷静に、それらの会話を拾っていたのだ。
「嘘よ……あいつが聖女なんて……っ、そうよ! 別人だわ! お前は、私の妹に成りすましているのね! あいつは、治癒魔法を使えないはずだもの!」
これに、レイルが冷えた目で問いかけた。
「なぜそう思う」
注目されたということ。レイルに目を向けられたということで、リンティスは瞬時に気を良くした。だから、言わなくても良いことまで口にしたのだ。
「っ、だって、アークに治癒魔法が使えないように、使えば死ぬように呪ってもらったんだもの! あいつは聖女になれないわ!」
「……」
笑顔で、拘束されているというのに、若干誇らしげにそう口にしたリンティス。これは、ベリスベリー夫妻も知らなかったらしい。
目を丸くして、リンティスを見つめた。そんな非情なことを、自身の妹にしていたのかと貴族達は絶句する。
「ふふん。ほら、そいつは偽者よ。あいつが身代わりを立てたのね。あら。これはいけないわ。レイル様! ごめんなさい。あの出来損ないが、ゼスタート家を騙して別の人を……あ、そうね……依頼したのね? 特級の冒険者にどうやって依頼をしたのかしら。絶対に見つけ出して、頭を下げさせるわ!」
「……」
もう誰も声を上げない。それに気を良くして、リンティスは更に続けた。
「そうなると……国王様! やはり王女誘拐は妹の仕業ですわ! こうして、私やあちらの特級冒険者に罪を着せたんです! 私は妹が犯人だと王子に言いましたわ。それを、騎士が間違えたんですもの。悪いのはその騎士と妹です!」
「……」
よく口と頭が動くものだと誰もが呆れた。既にこの場で、リンティスに騙されるような者はいない。
「騎士が所属している国に多少は責はあっても、王子や国王様に責任はありませんわ! 悪いのは、依頼した妹よ! そこの特級冒険者さん。悪いのは全部妹。だから……この国を許してちょうだい?」
「……」
最後に上から目線で来たなと、視界が遮られている状態で、シルフィスカはいっそ笑った。
「はははっ。本当に、我が姉ながら面白いほどによく回る口と頭をお持ちだ。そこだけは感心するよ」
シルフィスカはゆっくりとレイルや弟子達を退かせて前に進み出る。
「ここまでくると、ただの姉妹喧嘩に巻き込まれた国が哀れだよ」
「わ、私はあなたと姉妹ではないわ。あなたのような人が妹であるはずないもの」
少しだけリンティスが臆したように見えるのは、堂々としたシルフィスカが眩しかったからだろうか。
「いや。これは、本当に遺憾……信じたくない事実だが、私はシルフィスカ・ベリスベリーとして生まれた者だ。まあ、お前たちは私の名など覚えてはいまい。かろうじて、出生届けに名があって良かった。私自身、師匠に呼ばれるまで、自分の名を知らなかったのだからな」
「っ……」
目を泳がせるベリスベリー夫妻。今ようやく、シルフィスカの名を思い出したのだろう。忘れていた事実に、動揺しているらしい。どこまでもクズな親だ。
一方で、貴族達はここで改めてシルフィスカが冷遇されていたという事実を実感していた。娘の名前さえ呼ばず、娘本人でさえ、名前を把握出来ていなかったという状況が、いかに異常かを理解したのだ。
「なんてことだ……」
「同じ人の親として考えられん……」
「……彼女の師匠は呪術師か……だが、なぜ親さえも口にしない名が分かったんだ?」
アークィードは呪術師。そのアークィードを兄弟子と呼んだのだ。呪術師が師匠だと思っても仕方がないだろう。だが、次第に落ち着いてきた者達がそれに気付く。
「いや、まさか……神なのではないか?」
「っ、神に謁見が叶うほどの『真の聖女』だというのならば……っ」
貴族達は息を呑む。その答えに辿り着いていても、神と謁見など、多くの神官でさえ信じてはいても、叶うことのない絵空事でしかないのだ。貴族達が本当の意味で信じられるはずがなかった。
シルフィスカも、ここまできたならばと思う。何より、シルフィスカのことではなく、アークィードをただの呪術師のままにしておきたくはなかったのだ。
アークィードは紛うこと無き、神の一番弟子なのだから。
「私と彼の師匠の名はアウルバウス……この世界の創造神にして唯一神。アウルバウス神だ」
ヒクリと喉を鳴らす者が大半だった。それに笑いながらシルフィスカは付け足す。
「だから言っただろう? 『出生届けに名があって良かった』と。神への報告がなければ、私は未だに自身の名を知らずにいたよ」
「っ!!」
シルフィスカにとっては笑い話。だから、今この場でこれに誰も笑ってくれなかったのは残念だなと肩をすくめた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、26日の予定です!
よろしくお願いします◎
レイルは名残惜しげにシルフィスカからゆっくりと手を離し、その前に歩み出た。
貴族達の目から隠すように。
これに、スラハ司教は謝罪した。
「っ……あ、失礼いたしました……っ」
そう口にはしたが、スラハ司教にはもう、シルフィスカが聖女であるという事実から目を逸らすことはできなかった。
そして、ここで貴族達が気付く。
「……彼女が妻ということは……ゼスタート家とこの国を出て行くのでは……」
「っ、せ、聖女なのだろう!? 出て行かれては困るではないかっ」
「ま、待てよ……そ、そうだ。彼女はまさか、最年少特級冒険者のシルフィ殿! ならば……間違いない。『武神』……いや、『殺戮の黒き聖女』だ!」
「あの初代聖女様に匹敵するほどの力を持つと言う!」
騒々しくなっていく。『殺戮の黒き聖女』という物騒な二つ名ではあるが、貴族達は知っていた。
その力は欠損さえ瞬く間に再生させ、死の淵にある命さえ救い上げるのだと。冒険者の中で囁かれだした当初は誰も信じなかった。しかし、一年、二年と過ぎれば、それは当たり前のように語られるようになっていた。
信じるしかなかったのだ。
「最年少で最強の冒険者とも聞いたが、それはどうなのだ?」
「本当らしい。聞いた話では誰も踏破できなかった迷宮を、彼女が次々と踏破して回ったとか」
「古代の遺跡の探索も、彼女に依頼すれば集団暴走の危機から逃れることができたという国は多いと聞く」
「だが、どう見てもうちの娘よりも年下だぞ」
「確か、十五頃と聞いたが」
色々言っているなあとシルフィスカは呑気に、未だ動かない目の前のレイルの背中を見つめる。
「それで強いなど……信じられん……年齢を偽っているのではないか? そうだ。あの呪術師とも関係があるようだったし……何か特別な術でもあるのでは……」
「そういえば、兄弟子? とか言っていましたなあ」
「呪術師が兄弟子とは……良くないのでは?」
そんな声が聞こえて、アークィードにも視線が向かう。
彼らは『呪術王』のことを正確に理解できていないのだ。スラハ司教とアークィードの会話は聞いていても『呪術王』が元神子であったということさえ、教会の上層部しか知らないのだから。
次第に、シルフィスカの存在に疑問を抱くようになる貴族達。それを感じて、ビスラやケルスト達が動いた。弟子達とジルナリス、ベルタ・ゼスタートがシルフィスカの元へ歩み寄る。
「何も分かっちゃいねえんだな」
「別に分からなくていいんですけどね。師匠のことは私たちが知っていれは良いんですから」
ビスラとフランがレイルの両側に立って、貴族達を睨み付ける。更に壁を作る気らしい。お陰でほとんど貴族達が見えなくなった。だが、確実に威圧しているのが分かって、すかさず二人に注意する。
「ビスラ、フラン。あまり威圧するな」
「いいじゃねえっすか。どうせ、この国からは出てくんだし、なんならムカつく奴の一人か二人ぶっ飛ばしても」
「私も同意見です。師匠のことを何も知らないくせに、決めつけるような者達など、死んでもいいかと」
相当不快だったようだ。
その時、リンティスが喚いた。
「なんでよ……なんであんたが、そんなにモテてるのよ!!」
シルフィスカの周りは、すっかり弟子達に囲まれていた。
これに意見したのは、ヒリアリアとクルチスだ。
「間違いなくあなたのような者より、尊く、美しいですから、不思議ではないでしょう」
「僻むしか能のない、クズビッチが何を意見しているのかしら? 滑稽だわ」
「なっ、なんですって!?」
貴公子のようなヒリアリアに目も向けられず、大人の女性の色香漂うクルチスに臭いモノでも見るような目で見られて、さすがのリンティスも反論を止めた。
ヒリアリアが続ける。
「分からないかな。私たちの今があるのも、この方のお陰です。現在世界に六人しか存在しない特級冒険者の内、彼女を含めた五人が彼女の弟子である私たちだ。それだけの才が、只人にあると思われますか」
しばらくは必死でそのあり得ない情報を誰もが頭で整理する。一人を除く特級冒険者の全てが、シルフィスカの弟子であると言っているのだと理解した貴族達は、徐々にその事実に近付いていく。
「まさか、本当に師弟関係だと……」
「先程、あの二人も師匠だと言っていなかったか? 先日、叙勲された者だろう」
ビスラとフランをよくよく見て、それが先日の叙勲者であると知り動揺する。
「彼らがそれを返上したという噂はまさか……」
「彼女が師匠だというのならば理解できる……国を出て行くというのもただの噂ではないのでは……」
師匠を冤罪で傷付けられたとすれば、弟子である彼らがそのような行動に出たという噂も信じられると納得していく。
「……待てよ……武神……聖女……治癒魔法を最高までに高めた者は、神との謁見が叶うという伝説……」
「それはっ、ただの伝説……真実だというのか?」
「確か……神からこの世の知識、武術、魔法の全てを授けられた真の聖女や神子は……いずれ神となると……っ」
「だから『真の聖女』……」
スラハ司教が言ったはず。シルフィスカを見て『真の聖女』と。それは神の領域に届くほどの力を有した存在を意味する。そういうことだったのかと、動揺しながらも得心した。
ここでリンティスが復活する。彼女は混乱しながらも冷静に、それらの会話を拾っていたのだ。
「嘘よ……あいつが聖女なんて……っ、そうよ! 別人だわ! お前は、私の妹に成りすましているのね! あいつは、治癒魔法を使えないはずだもの!」
これに、レイルが冷えた目で問いかけた。
「なぜそう思う」
注目されたということ。レイルに目を向けられたということで、リンティスは瞬時に気を良くした。だから、言わなくても良いことまで口にしたのだ。
「っ、だって、アークに治癒魔法が使えないように、使えば死ぬように呪ってもらったんだもの! あいつは聖女になれないわ!」
「……」
笑顔で、拘束されているというのに、若干誇らしげにそう口にしたリンティス。これは、ベリスベリー夫妻も知らなかったらしい。
目を丸くして、リンティスを見つめた。そんな非情なことを、自身の妹にしていたのかと貴族達は絶句する。
「ふふん。ほら、そいつは偽者よ。あいつが身代わりを立てたのね。あら。これはいけないわ。レイル様! ごめんなさい。あの出来損ないが、ゼスタート家を騙して別の人を……あ、そうね……依頼したのね? 特級の冒険者にどうやって依頼をしたのかしら。絶対に見つけ出して、頭を下げさせるわ!」
「……」
もう誰も声を上げない。それに気を良くして、リンティスは更に続けた。
「そうなると……国王様! やはり王女誘拐は妹の仕業ですわ! こうして、私やあちらの特級冒険者に罪を着せたんです! 私は妹が犯人だと王子に言いましたわ。それを、騎士が間違えたんですもの。悪いのはその騎士と妹です!」
「……」
よく口と頭が動くものだと誰もが呆れた。既にこの場で、リンティスに騙されるような者はいない。
「騎士が所属している国に多少は責はあっても、王子や国王様に責任はありませんわ! 悪いのは、依頼した妹よ! そこの特級冒険者さん。悪いのは全部妹。だから……この国を許してちょうだい?」
「……」
最後に上から目線で来たなと、視界が遮られている状態で、シルフィスカはいっそ笑った。
「はははっ。本当に、我が姉ながら面白いほどによく回る口と頭をお持ちだ。そこだけは感心するよ」
シルフィスカはゆっくりとレイルや弟子達を退かせて前に進み出る。
「ここまでくると、ただの姉妹喧嘩に巻き込まれた国が哀れだよ」
「わ、私はあなたと姉妹ではないわ。あなたのような人が妹であるはずないもの」
少しだけリンティスが臆したように見えるのは、堂々としたシルフィスカが眩しかったからだろうか。
「いや。これは、本当に遺憾……信じたくない事実だが、私はシルフィスカ・ベリスベリーとして生まれた者だ。まあ、お前たちは私の名など覚えてはいまい。かろうじて、出生届けに名があって良かった。私自身、師匠に呼ばれるまで、自分の名を知らなかったのだからな」
「っ……」
目を泳がせるベリスベリー夫妻。今ようやく、シルフィスカの名を思い出したのだろう。忘れていた事実に、動揺しているらしい。どこまでもクズな親だ。
一方で、貴族達はここで改めてシルフィスカが冷遇されていたという事実を実感していた。娘の名前さえ呼ばず、娘本人でさえ、名前を把握出来ていなかったという状況が、いかに異常かを理解したのだ。
「なんてことだ……」
「同じ人の親として考えられん……」
「……彼女の師匠は呪術師か……だが、なぜ親さえも口にしない名が分かったんだ?」
アークィードは呪術師。そのアークィードを兄弟子と呼んだのだ。呪術師が師匠だと思っても仕方がないだろう。だが、次第に落ち着いてきた者達がそれに気付く。
「いや、まさか……神なのではないか?」
「っ、神に謁見が叶うほどの『真の聖女』だというのならば……っ」
貴族達は息を呑む。その答えに辿り着いていても、神と謁見など、多くの神官でさえ信じてはいても、叶うことのない絵空事でしかないのだ。貴族達が本当の意味で信じられるはずがなかった。
シルフィスカも、ここまできたならばと思う。何より、シルフィスカのことではなく、アークィードをただの呪術師のままにしておきたくはなかったのだ。
アークィードは紛うこと無き、神の一番弟子なのだから。
「私と彼の師匠の名はアウルバウス……この世界の創造神にして唯一神。アウルバウス神だ」
ヒクリと喉を鳴らす者が大半だった。それに笑いながらシルフィスカは付け足す。
「だから言っただろう? 『出生届けに名があって良かった』と。神への報告がなければ、私は未だに自身の名を知らずにいたよ」
「っ!!」
シルフィスカにとっては笑い話。だから、今この場でこれに誰も笑ってくれなかったのは残念だなと肩をすくめた。
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読んでくださりありがとうございます◎
次回、26日の予定です!
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