32 / 211
4th ステージ
032 ウチの友達が来るゆうだけや
しおりを挟む
クイントを伯爵領へ送って次の日の夜。クイントから連絡が入った。彼は宣言通り本気で仕事をしたらしい。
『明日の昼頃にはそちらに着けそうです。昼食、ご一緒できませんか?』
これに、どう答えようか迷った。
「ええけど、こんなど田舎に、宰相さんが満足出来るような店はないで? ウチはいつも使用人らと食堂で食べるしなあ」
『それで構いませんよ?』
「へ? いやいや、当主居らんで?」
『ヘルナ様達はいらっしゃるのでは?』
さすがというか、クイントはほんの少しの情報で正しく推測する。楽で良いが全てを見透かされていそうで怖い。
「そりゃあ、ばあちゃんらとは一緒に食べるけど……ほんまにええん?」
『ええ。その方が部下達も一緒にできそうですし。私も実は、賑やかな方が好きなんです。普通に下町の居酒屋とかでも嬉しいくらいで』
「は? 宰相さんが?」
なんだかとんでもない話を聞いた。
『ふふ。子どもの頃はヤンチャだったのですよ。突然、次期当主と言われるようになってからしばらくは反発もしましたからね』
「それは……ありそうやね」
『ヤンチャな私、どうですか?』
「嫌いやないわ」
なぜかスルッと出ていた。口説かれているのだろうかと混乱したためだ。
『っ、それは良かった。では、昼に』
「気いつけてな」
『はい。おやすみなさい、リン。是非、私との夢を見てくださいね』
「そ、それは断言できんわ……おやすみ……」
なんだろう。この恋人のような会話。
「これは……術中にはまっとるんでは……? おかしい……おかしいで……十歳児を本気で口説くとかおかしいやろっ」
そうして悶えること数分。考えても分からんと不貞寝した。
翌日、朝食の席で祖父母と魔法師長に話すことにする。
「おはようさん。ケンじいちゃん。よお眠れたか?」
魔法師長の名をケンレスティン・シュバークという。ティンと呼ぶ者が多いらしいが、前世の記憶を持つリンディエールにはケンの方が馴染みがある。なので、ケンじいちゃんと呼ぶようになった。
「はい。おはようございます。リンさん。あのような素晴らしい寝具は初めてで、かつてなく気持ちよく目覚めることができました」
「そりゃ良かったわ」
様付けはやめてほしいと頼んだため、魔法師長はさん付けでリンディエールを呼ぶ。
リンディエールは魔法師長用に寝具一式を新たに用意していた。可愛らしいおじいちゃんな魔法師長には、長生きして欲しいと願って、硬すぎず、柔らか過ぎないマットと枕。重くない掛け布団を用意したのだ。もちろん、少し前から祖父母にも提供済みだ。
体が痛くならないと好評だったため、現在少しずつ住み込みの使用人達用にも作製中である。客室には既に入れてあるので、クイントもきっと喜んでくれるはずだ。
魔法師長は昨日のうちに祖父母の友達ポジションをすぐに確立し、使用人達とも穏やかに笑い合うようになっていた。なので、当主への挨拶もせずに普通に食堂で食べている。
予定では宰相であるクイントと共に当主へ挨拶することになっているので問題はない。ただ、当主がこれを知っているかどうかをリンディエールは知らない。
「……本当に一日で終わらせるとは思いませんでした……あ、いえ、あの子は昔から有言実行が常でしたけれど……」
クイントの魔法の師であり、教育係でもあったという魔法師長も驚いていた。
「宰相さんらしいわ。護送するん見送ったら、残った護衛連れてこっちに向かうそうやで」
「ご当主へのご挨拶が早まりそうですね……」
残念そうにするのは、ここへ来て一日、魔法師長としてではなく、気さくな祖父母の友人としての滞在がとても気に入ったからだろう。
「せやけど、あの宰相さんのことや。早くても顔合わせるんは夜やない? 辺境伯へ挨拶ゆうか、普通にウチの家に遊びに行くみたいなノリやったで?」
「……ありそうです……」
「ん~……あ、シュルじい。宰相さんが来るゆう話、当主にはどう伝わっとるん?」
ちょうど通りかかった家令のシュルツを捕まえた。
「ご予定ですか? 明日の昼前にお着きになり、昼食をお出しして落ち着かれた頃にご挨拶となります。夕食まで歓談され、領の視察は二日目になりますね。ああ、そうです。旦那様が明日の晩餐はお嬢様もと考えておられるようでしたが、いかがいたしますか?」
「なんや。それウチが決めてええんか?」
「はい」
令嬢たるもの、父親の言うことは絶対というのが普通ではないのか。そう首を傾げながら考える。
「そうやね……できればやめた方がよさそうやけど……宰相さんに決めてもらうわ」
「左様ですか……」
一体どうゆう関係だと考えていそうだ。そんなシュルツに、リンディエールは変更を伝える。
「シュルじい。宰相さんの予定が変わったんよ。一日前倒しや。昼はここで一緒に食べるよって、厨房にも伝えてや。宰相さんの連れてくる護衛の五人も一緒するで、よろしゅうな。部屋の準備は出来とるやろ?」
「へ? あ、は、はい。出来ております……え?」
「当主への挨拶とかは宰相さんが来てから考えてもらうわ。一応は領主館に連絡……は、知らせてええなら宰相さんがするか。出迎えは……」
どうするかなと考えていると、魔法師長がおずおずと声をかけてくる。
「あの……恐らくクイント様なら、リンさんがいらっしゃれば問題ないかと……当主に挨拶と言っていますが、間違いなく目的はリンさんです。なので、ファルビーラ様とヘルナ様もいらっしゃれば一応の体面は整うかと」
それでいいのかと思わなくもないが、きちんと当主の出迎えが要るようならば、連絡するだろう。
「お忍びゆう体にもなるか……一日早く来てゆっくりするゆうことやね。当主の予定はそのままにしといてや。変更するんやったら、宰相さんが連絡するわ。シュルじいと部屋の世話するメイドさんらには一日前倒しで悪いけどな」
それほど手のかかる人でもないだろう。ただ、人は増えるので、食事は気にしてもらわなくてはならない。
「増える食事の人数は料理長に伝えといてえな。ここで食べるやろうけど、あんま気負うなゆうといて」
「……承知しました」
色々と呑み込んだ顔で、シュルツは厨房へ向かって行った。
「それにしても、こちらの食事はとても美味しいですねえ。朝からこんなに食べられるか心配だったのですが……食べられたことに驚いています」
「良かったわ。無理せんで、食べれるだけ食べてや。最近は栄養もきちんと計算できとるでな。帰りにレシピや献立も渡すわ。ケンじいちゃんには元気でいてもらわな。なっ」
「っ……ありがとうございます」
感動された。本心なので嬉しいものだ。
その時、厨房から料理長が駆け出してきた。
「リ、リン嬢ちゃん! さ、さい、宰相様がここに! ここでお昼におた、お食べに!?」
「なんやハゲ。落ち着きいや」
「できるわけないでしょうっ」
「できな、ちょい水かぶって来い。まったく、デカい図体しとんのに、肝はちっさいなあ」
「そ、そんなどうしようも……っ」
大の男が十歳児に泣きついている状況はどうなのだろうか。注目する使用人たち。これにより『えっ!? 宰相様がここで!?』と動きを止める。リンディエールは変わらず食事を進めていた。
「ウチの友達が来るゆうだけや」
「じょ、嬢ちゃんのともっ、友達……友達? 友達なら……え!? 宰相様が友達!?」
動揺しすぎだ。
「うっさいわ! だいたいなあ。王都の王付きの近衛騎士が憧れてますゆうて頭下げるヘルナばあちゃんと、一応英雄のファルじいちゃんが平気なんやったら、王様来ても大したことあらへんわ!」
「え、あ……たしかに……?」
料理長だけでなく、他の使用人達もヘルナとファルビーラを見て、うんと頷く。引き合いに出された二人はなんとも言えない顔をしていたが気にしない。事実だ。
「そんで? ここに居んの、魔法師長のケンじいちゃんやけど、どうなん?」
「……え? ま、魔法師長……さま? ファルビーラ様達のご友じ……ん?」
しばらく整理する時間をやるべきだろう。さっさと食べてしまうことにする。
そんなリンディエールを見て、魔法師長が祖父母に声をかけていた。
「いつも……このように?」
「リンは大人相手でも平気で説教するからな……領主の護衛も、話を聞かんかったら遠慮なく蹴り飛ばすし……」
「使用人達はリンちゃんをこの家のお嬢様というか……主人並に考えてる節があるのよね……実力もあるし……当主とリンの命令が別だったら、リンの方を優先すると思うわ」
「……それほどですか……」
使用人達のリンディエールに対する信頼は大きい。普段家に居ない当主よりも、長男の部屋に入り浸っている夫人よりも上なのだ。
ここでようやく料理長が再起動する。
「はっ……大丈夫な気がしてきました……」
「そうか。なら良かったわ」
「はい……」
それでも未だ、不安そうな表情を向けてくる。厨房から覗き見ている他の料理人達もだ。これは確かな言葉が欲しい時だ。ここの使用人達は甘えたが多い。ただしこれは、リンディエールにしか向けられない。
「はあ……あんなあ、普段、手え抜いとんのか?」
「へ? いいえ!」
「ウチは、あんたらが勤勉なのも分かっとる。お客が来るなら特別な料理を思うかもしれん。けどなあ。普段やらん料理をその時一度のために出す方がよっぽど失礼やで」
慣れないものを出して失敗するのはバカのやることだ。
「いつも、今より上を目指しとんとちゃうんか?」
「目指してます……分かって……っ」
分かってくれていたのかと料理長は言葉を詰まらせる。
「努力しとんのは分かっとるし、誰より食べるウチらのことを考えとるやろ。そうやないと、料理人があんな真面目に本読んで勉強せえへんわ。寄越したんウチやけど、料理人は実践あるのみっちゅう風潮があるん知っとるで」
「……リン嬢ちゃん……っ」
こんなお子様に言われて、その料理人の常識をあっさり無視した料理長を、リンディエールは口にはしないが尊敬している。それに倣い、他の料理人達も教本を手に取った。この家の料理人達を誇らしく思う。
「それでもこんなガキの言うように勉強したんや。これで大成せんかったらウチが悪い」
「っ、そん……っ」
誰かのせいにしたいならすればいいと笑ってやった。
「けどなあ。これだけは言っとくで。自信持ちい。王宮料理人なんてきっと大したことあらへんわ。実践だけやないて分かったやろ」
「はい。きちんとした専門の知識が必要だと俺らは分かってます!」
感覚だけではダメだ。根拠のある知識がなくてはならない。それを、彼らは理解していた。
「なら、あんたらがこの国で最先端の料理人や。そんな料理人達が作る料理がお客に出す自信ないて言うなや? 今までの経験と知識と味覚を信じい。あんたらが美味い思うもんを出せばええねん。普段と変わらんわ!」
「っ、はい!」
早よ行けと手を振ると、料理長は厨房に駆け込んで行った。迎え入れる料理人達は目を潤ませながら、やる気を漲らせていた。
「やるぞぉぉぉ!!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
そんな料理人達の声を聞きながら、リンディエールは満足げに笑みを浮かべる。だが、口にしたのは別のこと。
「相変わらず、暑くさい連中やな」
「リンちゃん……嬉しいくせに」
「マジでリンにこの家任せた方が良い気がするわ……」
「なんとっ、なんと素晴らしいっ。感動いたしました!」
「ノリがええだけやで?」
そう言いながらも、優しい目をしていたリンディエールだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また二日空きます。
よろしくお願いします!
『明日の昼頃にはそちらに着けそうです。昼食、ご一緒できませんか?』
これに、どう答えようか迷った。
「ええけど、こんなど田舎に、宰相さんが満足出来るような店はないで? ウチはいつも使用人らと食堂で食べるしなあ」
『それで構いませんよ?』
「へ? いやいや、当主居らんで?」
『ヘルナ様達はいらっしゃるのでは?』
さすがというか、クイントはほんの少しの情報で正しく推測する。楽で良いが全てを見透かされていそうで怖い。
「そりゃあ、ばあちゃんらとは一緒に食べるけど……ほんまにええん?」
『ええ。その方が部下達も一緒にできそうですし。私も実は、賑やかな方が好きなんです。普通に下町の居酒屋とかでも嬉しいくらいで』
「は? 宰相さんが?」
なんだかとんでもない話を聞いた。
『ふふ。子どもの頃はヤンチャだったのですよ。突然、次期当主と言われるようになってからしばらくは反発もしましたからね』
「それは……ありそうやね」
『ヤンチャな私、どうですか?』
「嫌いやないわ」
なぜかスルッと出ていた。口説かれているのだろうかと混乱したためだ。
『っ、それは良かった。では、昼に』
「気いつけてな」
『はい。おやすみなさい、リン。是非、私との夢を見てくださいね』
「そ、それは断言できんわ……おやすみ……」
なんだろう。この恋人のような会話。
「これは……術中にはまっとるんでは……? おかしい……おかしいで……十歳児を本気で口説くとかおかしいやろっ」
そうして悶えること数分。考えても分からんと不貞寝した。
翌日、朝食の席で祖父母と魔法師長に話すことにする。
「おはようさん。ケンじいちゃん。よお眠れたか?」
魔法師長の名をケンレスティン・シュバークという。ティンと呼ぶ者が多いらしいが、前世の記憶を持つリンディエールにはケンの方が馴染みがある。なので、ケンじいちゃんと呼ぶようになった。
「はい。おはようございます。リンさん。あのような素晴らしい寝具は初めてで、かつてなく気持ちよく目覚めることができました」
「そりゃ良かったわ」
様付けはやめてほしいと頼んだため、魔法師長はさん付けでリンディエールを呼ぶ。
リンディエールは魔法師長用に寝具一式を新たに用意していた。可愛らしいおじいちゃんな魔法師長には、長生きして欲しいと願って、硬すぎず、柔らか過ぎないマットと枕。重くない掛け布団を用意したのだ。もちろん、少し前から祖父母にも提供済みだ。
体が痛くならないと好評だったため、現在少しずつ住み込みの使用人達用にも作製中である。客室には既に入れてあるので、クイントもきっと喜んでくれるはずだ。
魔法師長は昨日のうちに祖父母の友達ポジションをすぐに確立し、使用人達とも穏やかに笑い合うようになっていた。なので、当主への挨拶もせずに普通に食堂で食べている。
予定では宰相であるクイントと共に当主へ挨拶することになっているので問題はない。ただ、当主がこれを知っているかどうかをリンディエールは知らない。
「……本当に一日で終わらせるとは思いませんでした……あ、いえ、あの子は昔から有言実行が常でしたけれど……」
クイントの魔法の師であり、教育係でもあったという魔法師長も驚いていた。
「宰相さんらしいわ。護送するん見送ったら、残った護衛連れてこっちに向かうそうやで」
「ご当主へのご挨拶が早まりそうですね……」
残念そうにするのは、ここへ来て一日、魔法師長としてではなく、気さくな祖父母の友人としての滞在がとても気に入ったからだろう。
「せやけど、あの宰相さんのことや。早くても顔合わせるんは夜やない? 辺境伯へ挨拶ゆうか、普通にウチの家に遊びに行くみたいなノリやったで?」
「……ありそうです……」
「ん~……あ、シュルじい。宰相さんが来るゆう話、当主にはどう伝わっとるん?」
ちょうど通りかかった家令のシュルツを捕まえた。
「ご予定ですか? 明日の昼前にお着きになり、昼食をお出しして落ち着かれた頃にご挨拶となります。夕食まで歓談され、領の視察は二日目になりますね。ああ、そうです。旦那様が明日の晩餐はお嬢様もと考えておられるようでしたが、いかがいたしますか?」
「なんや。それウチが決めてええんか?」
「はい」
令嬢たるもの、父親の言うことは絶対というのが普通ではないのか。そう首を傾げながら考える。
「そうやね……できればやめた方がよさそうやけど……宰相さんに決めてもらうわ」
「左様ですか……」
一体どうゆう関係だと考えていそうだ。そんなシュルツに、リンディエールは変更を伝える。
「シュルじい。宰相さんの予定が変わったんよ。一日前倒しや。昼はここで一緒に食べるよって、厨房にも伝えてや。宰相さんの連れてくる護衛の五人も一緒するで、よろしゅうな。部屋の準備は出来とるやろ?」
「へ? あ、は、はい。出来ております……え?」
「当主への挨拶とかは宰相さんが来てから考えてもらうわ。一応は領主館に連絡……は、知らせてええなら宰相さんがするか。出迎えは……」
どうするかなと考えていると、魔法師長がおずおずと声をかけてくる。
「あの……恐らくクイント様なら、リンさんがいらっしゃれば問題ないかと……当主に挨拶と言っていますが、間違いなく目的はリンさんです。なので、ファルビーラ様とヘルナ様もいらっしゃれば一応の体面は整うかと」
それでいいのかと思わなくもないが、きちんと当主の出迎えが要るようならば、連絡するだろう。
「お忍びゆう体にもなるか……一日早く来てゆっくりするゆうことやね。当主の予定はそのままにしといてや。変更するんやったら、宰相さんが連絡するわ。シュルじいと部屋の世話するメイドさんらには一日前倒しで悪いけどな」
それほど手のかかる人でもないだろう。ただ、人は増えるので、食事は気にしてもらわなくてはならない。
「増える食事の人数は料理長に伝えといてえな。ここで食べるやろうけど、あんま気負うなゆうといて」
「……承知しました」
色々と呑み込んだ顔で、シュルツは厨房へ向かって行った。
「それにしても、こちらの食事はとても美味しいですねえ。朝からこんなに食べられるか心配だったのですが……食べられたことに驚いています」
「良かったわ。無理せんで、食べれるだけ食べてや。最近は栄養もきちんと計算できとるでな。帰りにレシピや献立も渡すわ。ケンじいちゃんには元気でいてもらわな。なっ」
「っ……ありがとうございます」
感動された。本心なので嬉しいものだ。
その時、厨房から料理長が駆け出してきた。
「リ、リン嬢ちゃん! さ、さい、宰相様がここに! ここでお昼におた、お食べに!?」
「なんやハゲ。落ち着きいや」
「できるわけないでしょうっ」
「できな、ちょい水かぶって来い。まったく、デカい図体しとんのに、肝はちっさいなあ」
「そ、そんなどうしようも……っ」
大の男が十歳児に泣きついている状況はどうなのだろうか。注目する使用人たち。これにより『えっ!? 宰相様がここで!?』と動きを止める。リンディエールは変わらず食事を進めていた。
「ウチの友達が来るゆうだけや」
「じょ、嬢ちゃんのともっ、友達……友達? 友達なら……え!? 宰相様が友達!?」
動揺しすぎだ。
「うっさいわ! だいたいなあ。王都の王付きの近衛騎士が憧れてますゆうて頭下げるヘルナばあちゃんと、一応英雄のファルじいちゃんが平気なんやったら、王様来ても大したことあらへんわ!」
「え、あ……たしかに……?」
料理長だけでなく、他の使用人達もヘルナとファルビーラを見て、うんと頷く。引き合いに出された二人はなんとも言えない顔をしていたが気にしない。事実だ。
「そんで? ここに居んの、魔法師長のケンじいちゃんやけど、どうなん?」
「……え? ま、魔法師長……さま? ファルビーラ様達のご友じ……ん?」
しばらく整理する時間をやるべきだろう。さっさと食べてしまうことにする。
そんなリンディエールを見て、魔法師長が祖父母に声をかけていた。
「いつも……このように?」
「リンは大人相手でも平気で説教するからな……領主の護衛も、話を聞かんかったら遠慮なく蹴り飛ばすし……」
「使用人達はリンちゃんをこの家のお嬢様というか……主人並に考えてる節があるのよね……実力もあるし……当主とリンの命令が別だったら、リンの方を優先すると思うわ」
「……それほどですか……」
使用人達のリンディエールに対する信頼は大きい。普段家に居ない当主よりも、長男の部屋に入り浸っている夫人よりも上なのだ。
ここでようやく料理長が再起動する。
「はっ……大丈夫な気がしてきました……」
「そうか。なら良かったわ」
「はい……」
それでも未だ、不安そうな表情を向けてくる。厨房から覗き見ている他の料理人達もだ。これは確かな言葉が欲しい時だ。ここの使用人達は甘えたが多い。ただしこれは、リンディエールにしか向けられない。
「はあ……あんなあ、普段、手え抜いとんのか?」
「へ? いいえ!」
「ウチは、あんたらが勤勉なのも分かっとる。お客が来るなら特別な料理を思うかもしれん。けどなあ。普段やらん料理をその時一度のために出す方がよっぽど失礼やで」
慣れないものを出して失敗するのはバカのやることだ。
「いつも、今より上を目指しとんとちゃうんか?」
「目指してます……分かって……っ」
分かってくれていたのかと料理長は言葉を詰まらせる。
「努力しとんのは分かっとるし、誰より食べるウチらのことを考えとるやろ。そうやないと、料理人があんな真面目に本読んで勉強せえへんわ。寄越したんウチやけど、料理人は実践あるのみっちゅう風潮があるん知っとるで」
「……リン嬢ちゃん……っ」
こんなお子様に言われて、その料理人の常識をあっさり無視した料理長を、リンディエールは口にはしないが尊敬している。それに倣い、他の料理人達も教本を手に取った。この家の料理人達を誇らしく思う。
「それでもこんなガキの言うように勉強したんや。これで大成せんかったらウチが悪い」
「っ、そん……っ」
誰かのせいにしたいならすればいいと笑ってやった。
「けどなあ。これだけは言っとくで。自信持ちい。王宮料理人なんてきっと大したことあらへんわ。実践だけやないて分かったやろ」
「はい。きちんとした専門の知識が必要だと俺らは分かってます!」
感覚だけではダメだ。根拠のある知識がなくてはならない。それを、彼らは理解していた。
「なら、あんたらがこの国で最先端の料理人や。そんな料理人達が作る料理がお客に出す自信ないて言うなや? 今までの経験と知識と味覚を信じい。あんたらが美味い思うもんを出せばええねん。普段と変わらんわ!」
「っ、はい!」
早よ行けと手を振ると、料理長は厨房に駆け込んで行った。迎え入れる料理人達は目を潤ませながら、やる気を漲らせていた。
「やるぞぉぉぉ!!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!」」」」」
そんな料理人達の声を聞きながら、リンディエールは満足げに笑みを浮かべる。だが、口にしたのは別のこと。
「相変わらず、暑くさい連中やな」
「リンちゃん……嬉しいくせに」
「マジでリンにこの家任せた方が良い気がするわ……」
「なんとっ、なんと素晴らしいっ。感動いたしました!」
「ノリがええだけやで?」
そう言いながらも、優しい目をしていたリンディエールだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
また二日空きます。
よろしくお願いします!
486
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
三歳年下の婚約者は、嘘を覚えた
恋せよ恋
恋愛
ランバート侯爵令嬢フィオーラには三歳年下の病弱な婚約者がいる。
保養地で十二歳まで静養するフィッチモ公爵家の嫡男、エドワード。
病弱で儚げだった可愛い彼を、フィオーラは献身的に励まし支えた。
十四歳でエドワードが健康を取り戻し王都へ戻ると、環境に変化が。
金髪に青い目の整った容姿の公爵家嫡男に群がる令嬢たち。
「三歳年上の年増」「素敵なエドワード様に相応しくないおばさん」
周囲の令嬢たちによるフィオーラへの執拗な侮辱。
そして、エドワードの友人の義妹マリアンヌの甘い誘惑と、接近。
思春期真っ盛りのエドワードと、美しいフィオーラの関係は拗れていく。
二人の婚約の結末は、婚約解消か、継続か、はたまた……。
若い二人の拗れた恋の行方の物語
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
精霊に愛された錬金術師、チートすぎてもはや無敵!?
あーもんど
ファンタジー
精霊の愛し子で、帝国唯一の錬金術師である公爵令嬢プリシラ。
彼女は今日もマイペースに、精霊達と楽しくモノ作りに励む。
ときどき、悪人を断罪したり人々を救ったりしながら。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
◆三人称視点で本格的に書くのは初めてなので、温かい目で見守っていただけますと幸いです◆
このわたくしが、婚約者になるはずでしょう!?
碧井 汐桜香
恋愛
先々代の王女が降嫁したほどの筆頭公爵家に産まれた、ルティアヌール公爵家の唯一の姫、メリアッセンヌ。
産まれた時から当然に王子と結婚すると本人も思っていたし、周囲も期待していた。
それは、身内のみと言っても、王宮で行われる王妃主催のお茶会で、本人が公言しても不敬とされないほどの。
そのためにメリアッセンヌ自身も大変努力し、勉学に励み、健康と美容のために毎日屋敷の敷地内をランニングし、外国語も複数扱えるようになった。
ただし、実際の内定発表は王子が成年を迎えた時に行うのが慣習だった。
第一王子を“ルーおにいさま”と慕う彼女に、第一王子は婚約内定発表の数日前、呼び出しをかける。
別の女性を隣に立たせ、「君とは結婚できない」と告げる王子の真意とは?
7話完結です
悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください
放浪人
恋愛
社交界で“悪女”と呼ばれ、無実の罪で断罪された公爵令嬢リディア。
処刑の刃が落ちた瞬間、彼女は断罪される半年前の朝に時を遡っていた。
「二度目も殺されるなんて御免だわ。私は、何もできない無能な令嬢になって生き延びる!」
有能さが仇になったと悟ったリディアは、プライドも実績も捨てて「無能」を装い、北の辺境・白夜領へ引きこもる計画を立てる。
これで平和なスローライフが送れる……はずだった。
けれど、幼い頃から仕える専属執事・レージだけは誤魔化せない。
彼はリディアの嘘を最初から見抜いているくせに、涼しい顔で「無能な主人」を完璧に演じさせてくれないのだ。
「黙っててと言いましたよね?」
「ええ。ですから黙って、あなたが快適に過ごせるよう裏ですべて処理しておきました」
過保護すぎる執事に管理され、逃げ道を塞がれながらも、リディアは持ち前の正義感で領地の危機を次々と救ってしまう。
隠したいのに、有能さがダダ漏れ。
そうこうするうちに王都からは聖女と王太子の魔の手が迫り――?
「守られるだけはもう終わり。……レージ、私に力を貸しなさい」
これは、一度死んだ令嬢が「言葉」と「誇り」を取り戻し、過保護な執事の手を振りほどいて、対等なパートナーとして共に幸せを掴み取るまでの物語。
奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます
タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。
領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。
奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。
夫は私を愛していないらしい
にゃみ3
恋愛
侯爵夫人ヴィオレッタは、夫から愛されていない哀れな女として社交界で有名だった。
若くして侯爵となった夫エリオットは、冷静で寡黙な性格。妻に甘い言葉をかけることも、優しく微笑むこともない。
どれだけ人々に噂されようが、ヴィオレッタは気にすることなく平穏な毎日を送っていた。
「侯爵様から愛されていないヴィオレッタ様が、お可哀想でなりませんの」
そんなある日、一人の貴婦人が声をかけてきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる