エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

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6th ステージ

046 あの子は大成すんで

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リンディエールがグランギリアと転移した先は、今回捕まったガスラ伯爵領を挟んだ向こう側。武を誇るリフス伯爵領の領主館のすぐ側だった。

グランギリアは、リンディエールが向かおうとしている先にある領主館の中の気配を探る。

「プリエラの所ではないのですか?」
「ん? ああ、先にベンちゃんに会いにな。今の時間は丁度軽食の時間やねん」
「ベンディ・リフス伯爵ですね」

ベンディは、日が昇りはじめる頃には朝の鍛錬をする。ひと汗かいた後水浴びしながら、その日の予定を聞く。

軽く朝食をとって領主館に。優先すべき書類に目を通してから朝議。一通りの報告を聞いて軽食を取るのだ。

「ベンちゃんの一日はなあ、えらい規則的なんよ。予定しとらん時はこの時間と、夜の晩酌の時くらいしか時間が取れんでなあ。さっさと要件だけ言うてプリエラちゃんのとこ行こか」
「承知しました」

因みに、規則的なスケジュールはリフス家当主の伝統だ。効率を重視して最適化されていると盲目的に信じられている。リンディエールとしては、もう少し余裕を持っても良いと思う。そういう所は、頑固な武闘派らしい。

この領主館では、リンディエールの顔を知っている者が多い。よって、顔パスで奥までずんずん進む。

執務室の扉は大きく開け放たれていた。

時間を無駄にしないというリフス家当主の精神の表れの一つだ。扉を開けておけば誰が来たかすぐに確認できる。何より、扉を開けるのが面倒。そして、見えていれば例えそれが敵であっても返り討ちにできる。そう考えての仕様らしい。

初めてここに来る者は驚くだろう。だが、リンディエールには見慣れた光景だ。因みに、他の部署も全部扉を開け放っている。



『ノックして許可をもらって扉を開けるとか時間の無駄だし面倒臭い』



これが本音だと思う。リンディエールもこれには同意する。扉を外さないのは、万が一の為の盾にとの考えから。頭は悪くないのだ。

リンディエールは焼き菓子を食べながら書類を仕分けするベンディの姿を確認し、声をかけた。

「ベンちゃん。邪魔すんで」
「……リンか……誰だそれ」

ベンディは顔を上げてリンディエールの後ろに従うグランギリアへ目を向ける。若干声に機嫌の悪さが出ていた。何かが気に入らないのだろう。

武人らしい寡黙で頑固そうな見た目。骨格は当然だがしっかりとしており、大柄だ。目つきもキリリとしていると言えば聞こえはいいが、万人受けはしない。

因みに声は低くてリンディエールとしてはイイ男の部類になる。

「ウチの侍従長のグランギリアや。よろしゅうな」
「……そうか……用件はなんだ」

静かに頭を下げるだけのグランギリアから視線を外し、ベンディはリンディエールへ目を向ける。得体は知れないが、リンディエールに害はないと納得したようだ。

「ガスラ伯爵が捕まったんは、もう知っとるやろ。決定はしとらんが隣の土地、面倒見てもらうことになりそうやで頼むわ」
「……森に接している所は要らんぞ」
「そこは分かっとる。その辺は辺境で見るで、心配要らへんよ」
「分かった……後は?」

ぶっきらぼうに言ってはいるが、ベンディは内心ソワソワしている。数少ない友人の一人がリンディエールだ。当主の慣例のために今回のように予定に組み込まれていない面会ではあまり時間が割けないが、ベンディとしては一緒にお茶を楽しみたい所。それが出来ないので不機嫌なのだ。

「スミーちゃんをそろそろ引き取るわ。もう退職願いは出とるやろ」

スミーとはプリエラの今回の偽名だ。

「……ああ……契約が切れるまで後一週間ほどだ」
「そりゃ良かった。引き留められたらどないしよか思っとったんよ」
「引き留めたら……」
「絶交してスミーちゃんさらってく」
「っ……分かった……」

これは内心、すごく落ち込んだなとリンディエールはクスリと笑う。古参の文官や補佐官達もそれを察していた。ベンディは見た目に似合わず寂しがり屋だ。

「無理を通すんや。礼はせんとなあ。何か欲しいもんとか、お願いはあらへんか?」

プリエラのメイドとしての能力は高い。そんなメイドを引き抜くようなものなのだ。お礼をしてもいいだろう。

「……なら、三男を……連れていってほしい……」
「……ラビたんか……ほんまに家から出すんやね」
「一族の決まりだ……」

リフス家の直系は、十二歳である程度の強さを持っていなくてはならない。それが認められなければ、一族の名を捨てさせる。適当な親戚筋にその後の養育を任せたり、信用の置ける者へ託すのだ。

リンディエールが『ラビたん』と呼んだ三男、セラビーシェルは、自身に自信が持てない子だった。外に出るより部屋に引きこもっていたいと考えるような子だ。本人も、父や兄達とは合わないと思っているため、一族から出て行くことには納得しているらしい。

「難儀なもんやね……ええで。ウチが養ったる。そんで……いつかベンちゃん達をビックリさせたるわ。あの子は大成すんで」
「……アレが?」
「せや。楽しみにしとき」
「分かった……」

セラビーシェルは少し変わった子だ。だが、大きな可能性を秘めた子でもある。ただ、今のままではリフス家に居るのは辛いだろう。この一族の慣習も良し悪しだ。

「ほんなら、スミーちゃんと一緒に引き取るよって、よろしゅうな」
「ああ……」

用は済んだと背を向けようとしたリンディエール。だが、補佐官達は何か言いたげなベンディの様子に気付いたらしく、まだ待ってくれと目で訴えてきた。

ここの人たちは当主が好き過ぎるというか、甘やかしている気がする。

仕方なくもう一度ベンディに目を向けた。今のベンディは寡黙な武人ではなく、奥手な文官にしか見えない。

「っ、その……今度……手合わせしようっ」
「ええで! 予定空けといてや?」

そこで思い付いた。ベンディも通信の魔導具を持っているのだ。

「あ、せっかくやし、コレ登録するか」
「っ、するぞ!」

すごい食いつきだった。

「ほな、連絡待っとるわ」
「ああ」

リンディエールがベンディと登録する間、ベンディの補佐官がグランギリアに通信の魔導具の登録をしていた。やはり甘やかしているんじゃないかと思う。

領主館を出ると、次にプリエラの住む借家に向かう。彼女は住み込みのではなく、町に家を借りていた。

「ここがプリエラん家や」
「小さいですね」
「女の一人暮らしならこんなもんやで」
「なるほど」

グランギリアは何度か頷いていた。こういう情報は機会があればしっかり収集していくようだ。

ドアをノックすると、すぐに四十代ごろの女性が顔を出す。

「リン様。お久しぶりでございます」
「久し振りやな。なんや、プリエラちゃんは女っぷりが上がったんやないか?」
「ふふ。リン様ったら。あ……グランギリア様もお久しぶりでございます。お変わりなくお過ごしでしたでしょうか」

グランギリアへ顔を向け、プリエラは少し頬を赤く染める。プリエラにとって、グランギリアは憧れの人であり、自慢の師匠だ。少し昔よりも若返っていても、グランギリアならそんなこともあるかと納得済みらしい。

「ええ。プリエラも元気そうですね。あんなに小さかった子が……見違えましたよ。素敵なレディになりましたね」
「っ、そんな……ふふ。嬉しいです。どうぞ中へ」

本当に嬉しそうなプリエラ。

招かれた家の中は、質素ではあるがとても落ち着いた雰囲気だった。

グランギリアにも座ってもらい、お茶をしながら話を始める。

「では……セラビーシェル様もお連れになるのですね」
「そうなったわ。プリエラちゃんはラビたんと会ったことは?」
「お顔を拝見したことはありますが……あまり人と関わりを持とうとする方ではないようでしたので……その……担当のメイドたちも数日で交代しているようです。特定の方が付くことはありませんね」

セラビーシェルは気難しい子だと思われている。そのため、メイドたちにも嫌がられているのだ。

「リン様はお話なさったことがあるのですか? そのように……愛称で呼ばれるくらいですし」
「まあな。ちょいラビたんの秘密を知ってもうた関係でなあ」
「秘密……ですか?」
「せや。まあ、そうやなあ……プリエラちゃん、残りの一週間、ラビたんの担当にならへんか?」
「お願いすれば、恐らく可能ではありますが……?」

優秀なメイドであるプリエラ。その最後の働きに、問題児とされるセラビーシェルの担当をする。可能だろう。寧ろ歓迎されそうだ。

問題児バンザイ。

「さすがやな。ところで……それとは別に先にお願いしたいんやけど」
「なんでしょうか」
「プリエラちゃん、ウチの侍女長になってくれんか」
「っ、喜んでお受けいたします!」
「ほんまか! ありがとうな! シュラもおるで、そっちの教育も引き続き頼むわ」
「お任せください!」

これで安心して話が進められるというものだ。

「グラン、頼んでおいた制服は二枚ともできとるか?」
「はい。それならばこちらに。リン様には大きいですが、どなたのですか?」

グランギリアに時間に余裕があれば頼むと、頼んでおいた。取り出して見せたその二枚を確認し、リンディエールはニヤリと笑った。

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