エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

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5th ステージ

045 育て方を間違ったのかしら……

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シュラは周りの視線を気にすることなく一礼して戻って行く。しかし、転移門手前で一度立ち止まった。その視線がグランギリアに向かうのが分かる。

「ん? ああ。グラン。シュラはずっと会いたがっとってん。そっちが落ち着いたらプリエラちゃんと一緒に引き取るで、挨拶はそん時にな」
「承知しました」
「……はい」

シュラが渋々ながら納得して戻って行ったのを見送り、クイントと王を見る。

「ほんなら、仕事頑張ってんか」
「……俺にももう少し優しくしてくれていいんだぞ?」
「土産は持たせたで、それ以上は今はナシや。早うアレを片付けえ」
「分かった! クイント行くぞ!」

アレと言って差されたクイントを見て王も納得した。

「ちっ。リン、またすぐに連絡しますから」
「たまには息子達の相手もせえよ。なんぞ、面白い情報でもあったら聞くけどなあ」
「なるほど。リンが楽しめそうな情報を集めてみますね!」
「……そんな前向きなんはいらんねやけど……」

これでは諜報活動しろと言っているようなものだが、本人がそれで良さそうなので良しとしよう。

「ケンじいちゃん。分かっとる思うけど、健康には気いつけなあかんで」
「はい。体力もつけますね」
「程々にな」

そうして、静かに馬車が門を通って行った。

それに続いて、名残惜しげにクイント達が帰って行く。見送りが済むと、すぐに門を消した。

「はあ……終わったな。みんなお疲れさん」

リンディエールが緊張状態だったメイド達やシュルツ達を振り返って言えば、あからさまにほっとしたようだった。

ヘルナがそんな彼らを見てクスクスと笑った。

「ふふふ。さすがに緊張してたのねえ。宰相さんがあんなに気さくな方だとは私も思わなかったし。あなた達は驚いたでしょう。国王まで来られるし」

本当にそうだとメイド達も笑う。国王のことについては、心の平穏のために幻だったとして片付けたようだ。

「さあ、隣の邪魔な伯爵は処分されたわ。告白大会もあるし、これから忙しくなるわよ!」
「ばあちゃん、そっちもあるやろうけど、森の管理もせんとあかんで。冒険者ギルドへ通達頼むわ。とりあえず『暗闇の森』は全部こっちの管轄になるゆうことを伝えといてえな」
「分かったわ。あなた、そっちは頼むわね」
「おう。あ~、ちょうど良い。あいつらも結局この辺に落ち着くつもりらしいし、声かけとくか」

ファルビーラとヘルナの冒険者仲間の二組の夫婦は、終の住処となる場所を探していた。リンディエールの薬で若返ったこともあり、それほど慌てることもなくなったが、この辺境の地に腰を据えることにしたらしい。

伝説も持つパーティにつられて、冒険者達も徐々に集まっていた。後進の指導もと頑張ってくれる予定だという。

「頼んだで。ウチは……プリエラちゃんとかと話詰めよかな。グラン行こか」
「はい」
「ほな、出かけてくる」

そう伝えてリンディエールは、グランギリアを連れてその場から消えた。

残された辺境伯家一同で、これに唖然とするのは夫妻とフィリクスだけ。他は使用人達も含めて、リンディエールだしと納得済みだ。なので、この場の解散もすぐ。

「旦那様、奥様。我々は仕事に戻らせていただきます」
「あ、ああ……」
「そ、そうね……」

労いの言葉もリンディエールからもらったので、使用人達ももう何も言わない。綺麗に一礼して解散だ。それを見送って、ヘルナも動く。

「私は商業ギルドに行ってくるわ。あなたは冒険者ギルドね」
「おう。さっさと話してくる。そ、その……途中まで一緒に行くか」
「ふふ。そうね」

ヘルナが自然に手を差し出す。二人で腕を組んで歩き出した。

ファルビーラは後年、足を悪くしていたため、ヘルナと一緒に出歩くことが出来なかった。ついこの間、リンディエールにそのことを指摘され、最近はヘルナと並んで出かけるようにしている。

腕まで組むのはリンディエールも知らない。だが、これにより『あんな夫婦になりたい』と多くの若者達が憧れるようになり、結果的に婚活ブームがきているようだ。告白大会にもいい具合に興味を引けている。

一方で、辺境の頑固な親父達も、照れながら夫婦の在り方を変えようとしているらしく、熟年の夫婦達にも影響が出ていた。

とても平和だ。

「……っ」
「っ……」

そんなヘルナとファルビーラの様子を初めて見たディースリムとセリンは、最初のうちは呆然としていたが、次第に顔を赤らめていく。

同じように見ていたフィリクスは目を丸くしたまま感心していた。

「……すごい……お祖母様とお祖父様、あんなに仲が良かったんですね」
「いや……私も知らなかった……」
「……」

フィリクスとディースリムの言葉を聞きながら、セリンは羨ましそうに義父母の背中を見つめ、やがて肩を落とした。そこで気付いたのは、夫婦仲の良さだけではない。

セリンにとってはヘルナは強く信念を持った女性で、何かや誰かには決して流されない。ずっと自分とは全く正反対な義母ヘルナが苦手だった。

いつだって自由で、奔放で、めちゃくちゃなことも時にはする人。努力しなくても、周りが動いて、何もしなくても事が解決する。そんな恵まれた人だと思っていたのだ。

セリンは否定されることが怖くて、教えられた通り、お手本通りにしか動けない。ヘルナを見ているとそんな自分が浮き彫りにされた。だから避けていた。正面から向き合うことをしなかった。

強いから何でもできるんだと思っていた義母が、先ほど普通の夫人に見えた。自分と同じように夫を愛し、家族を愛する人に見えた。

自分とは相容れない存在だと思い込んでいたことに気付いたのだ。

「……私……お義母様は、いつだって自由にされて……努力もしない。そんな、私とは違う、恵まれた方だと思っていたの……けど、違うのね」
「……セリン?」

セリンは晴れやかに笑った。

「ああして、ご自分で常に動かれるから、周りが動くのね。それに……」

目を向けたのは、リンディエールが消えた場所。

「私……自分は誰よりも努力しているって思い上がっていたわ。お義母様はもっと努力なさっていたのね。何も……分かろうとしていなかったわ……あの子のことも……何も知らないのに決めつけて……」

隣の領主のことも何も知らなかったことに気付いた。何一つ話に入れなかった。女はそれで良いと実母にも言われてそう思っていたけれど、それではダメだと目が覚めた。

「夫であるあなたのことも、この領のことも何も知らないって気付いたわ」
「セリン……」
「ふふ。私……先ほどのお義母様とお義父様を見て羨ましいと思ったわ。仲が良くて羨ましいって……でも、違うわ。私もあなたとああして、領のために一緒に仕事ができたらって……それが羨ましかったの」
「っ……」

もやもやとした気持ちが、全て明らかになった瞬間だった。

「それだけじゃないわ……リンと……ああして話せたらいいのにって……頼りにされたら嬉しいって思ったの」

随分と遅すぎる気付きだった。けれど、それでもと思う。

「ねえ、あなた。私、努力するわ。あの子から話しかけてくれるようになりたいから。宰相様や、国王様まで頼りにしてるのよ? 私達の娘はすごいわ。自慢の娘よ。それなのに、親として頼ってもらえないのは寂しいわ」
「ああ……そうだな。せめて親として認められるように努力しよう。まだ、あんなに小さいんだ。娘なら、もっと甘えてもいい時期なのに……」

誰かに頼ることを知る前に、頼られることを知ってしまった娘。それが自分たちのせいだと理解して、申し訳なかった。

「食事くらい、一緒に取れるようにならないといけないわね」
「そうだな……いや、目標が低すぎるか……」

ディースリムとセリンは顔を見合わせて苦笑する。なんて情けない親かと肩を落とす。

そんな二人に追い討ちをかけるのがフィリクスだ。

「急激に関わりを持とうとすれば嫌われますよ?」
「……」
「そ、そうなの?」
「ええ。それと、くれぐれも私とリンの邪魔をしないでください」
「……」
「……」

きっぱりと言うフィリクスに、父母は少しイラついた。

「……フィリクス。お前こそ、急激に構いすぎて嫌われるんじゃないか?」
「っ、そ、そんなことないです。私は兄として、側に居るだけです」
「関わらなかった期間は私達全員同じではない? なら、私も母親として側に居てもいいわよね?」
「……年齢が近いほどリンには気安いはずです」

苦しい言い訳だ。

「そうは言うが、リンの側に居るのはかなり年上の者ばかりだぞ」
「そうよね。それこそ、メイド長は私よりも少し上よ? リンの侍従だって、魔族の方ですもの。ずっと年上だと思うわ」
「それを考えると、リンは年の離れた者との交流が慣れていそうだな」
「寧ろ、年の近い子の方が付き合い辛いかもしれないわね?」
「……っ」

フィリクスは不利を悟った。

「そんなっ……い、いや、なら僕だけ特別に……そうだ! 特別な関係を築けばいい!」
「……」
「……」
「そうと決まれば、情報収集だ!!」

フィリクスは切り替えの早い子だった。諦めも悪い。決めたらまず全力でそれを貫く。

屋敷の中に駆け込んで行ったフィリクスを見送り、ディースリムとセリンは呟いた。

「育て方間違ったのかしら……」
「間違ったかもな……」

後悔しきりだ。だが、ようやくスタートラインに立ったことは確かだ。

「そうだ。あの子も……ジェルラスも呼び戻そうか」
「そうねっ。そうしましょう。いつまでもお母様達に任せておいてはいけないわっ」

ディースリムとセリンは、リンディエールの弟であるジェルラスを呼び戻すと決めたのだ。

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読んでくださりありがとうございます◎
次回、四日空きます。
よろしくお願いします◎
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