エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

文字の大きさ
45 / 206
5th ステージ

045 育て方を間違ったのかしら……

しおりを挟む
シュラは周りの視線を気にすることなく一礼して戻って行く。しかし、転移門手前で一度立ち止まった。その視線がグランギリアに向かうのが分かる。

「ん? ああ。グラン。シュラはずっと会いたがっとってん。そっちが落ち着いたらプリエラちゃんと一緒に引き取るで、挨拶はそん時にな」
「承知しました」
「……はい」

シュラが渋々ながら納得して戻って行ったのを見送り、クイントと王を見る。

「ほんなら、仕事頑張ってんか」
「……俺にももう少し優しくしてくれていいんだぞ?」
「土産は持たせたで、それ以上は今はナシや。早うアレを片付けえ」
「分かった! クイント行くぞ!」

アレと言って差されたクイントを見て王も納得した。

「ちっ。リン、またすぐに連絡しますから」
「たまには息子達の相手もせえよ。なんぞ、面白い情報でもあったら聞くけどなあ」
「なるほど。リンが楽しめそうな情報を集めてみますね!」
「……そんな前向きなんはいらんねやけど……」

これでは諜報活動しろと言っているようなものだが、本人がそれで良さそうなので良しとしよう。

「ケンじいちゃん。分かっとる思うけど、健康には気いつけなあかんで」
「はい。体力もつけますね」
「程々にな」

そうして、静かに馬車が門を通って行った。

それに続いて、名残惜しげにクイント達が帰って行く。見送りが済むと、すぐに門を消した。

「はあ……終わったな。みんなお疲れさん」

リンディエールが緊張状態だったメイド達やシュルツ達を振り返って言えば、あからさまにほっとしたようだった。

ヘルナがそんな彼らを見てクスクスと笑った。

「ふふふ。さすがに緊張してたのねえ。宰相さんがあんなに気さくな方だとは私も思わなかったし。あなた達は驚いたでしょう。国王まで来られるし」

本当にそうだとメイド達も笑う。国王のことについては、心の平穏のために幻だったとして片付けたようだ。

「さあ、隣の邪魔な伯爵は処分されたわ。告白大会もあるし、これから忙しくなるわよ!」
「ばあちゃん、そっちもあるやろうけど、森の管理もせんとあかんで。冒険者ギルドへ通達頼むわ。とりあえず『暗闇の森』は全部こっちの管轄になるゆうことを伝えといてえな」
「分かったわ。あなた、そっちは頼むわね」
「おう。あ~、ちょうど良い。あいつらも結局この辺に落ち着くつもりらしいし、声かけとくか」

ファルビーラとヘルナの冒険者仲間の二組の夫婦は、終の住処となる場所を探していた。リンディエールの薬で若返ったこともあり、それほど慌てることもなくなったが、この辺境の地に腰を据えることにしたらしい。

伝説も持つパーティにつられて、冒険者達も徐々に集まっていた。後進の指導もと頑張ってくれる予定だという。

「頼んだで。ウチは……プリエラちゃんとかと話詰めよかな。グラン行こか」
「はい」
「ほな、出かけてくる」

そう伝えてリンディエールは、グランギリアを連れてその場から消えた。

残された辺境伯家一同で、これに唖然とするのは夫妻とフィリクスだけ。他は使用人達も含めて、リンディエールだしと納得済みだ。なので、この場の解散もすぐ。

「旦那様、奥様。我々は仕事に戻らせていただきます」
「あ、ああ……」
「そ、そうね……」

労いの言葉もリンディエールからもらったので、使用人達ももう何も言わない。綺麗に一礼して解散だ。それを見送って、ヘルナも動く。

「私は商業ギルドに行ってくるわ。あなたは冒険者ギルドね」
「おう。さっさと話してくる。そ、その……途中まで一緒に行くか」
「ふふ。そうね」

ヘルナが自然に手を差し出す。二人で腕を組んで歩き出した。

ファルビーラは後年、足を悪くしていたため、ヘルナと一緒に出歩くことが出来なかった。ついこの間、リンディエールにそのことを指摘され、最近はヘルナと並んで出かけるようにしている。

腕まで組むのはリンディエールも知らない。だが、これにより『あんな夫婦になりたい』と多くの若者達が憧れるようになり、結果的に婚活ブームがきているようだ。告白大会にもいい具合に興味を引けている。

一方で、辺境の頑固な親父達も、照れながら夫婦の在り方を変えようとしているらしく、熟年の夫婦達にも影響が出ていた。

とても平和だ。

「……っ」
「っ……」

そんなヘルナとファルビーラの様子を初めて見たディースリムとセリンは、最初のうちは呆然としていたが、次第に顔を赤らめていく。

同じように見ていたフィリクスは目を丸くしたまま感心していた。

「……すごい……お祖母様とお祖父様、あんなに仲が良かったんですね」
「いや……私も知らなかった……」
「……」

フィリクスとディースリムの言葉を聞きながら、セリンは羨ましそうに義父母の背中を見つめ、やがて肩を落とした。そこで気付いたのは、夫婦仲の良さだけではない。

セリンにとってはヘルナは強く信念を持った女性で、何かや誰かには決して流されない。ずっと自分とは全く正反対な義母ヘルナが苦手だった。

いつだって自由で、奔放で、めちゃくちゃなことも時にはする人。努力しなくても、周りが動いて、何もしなくても事が解決する。そんな恵まれた人だと思っていたのだ。

セリンは否定されることが怖くて、教えられた通り、お手本通りにしか動けない。ヘルナを見ているとそんな自分が浮き彫りにされた。だから避けていた。正面から向き合うことをしなかった。

強いから何でもできるんだと思っていた義母が、先ほど普通の夫人に見えた。自分と同じように夫を愛し、家族を愛する人に見えた。

自分とは相容れない存在だと思い込んでいたことに気付いたのだ。

「……私……お義母様は、いつだって自由にされて……努力もしない。そんな、私とは違う、恵まれた方だと思っていたの……けど、違うのね」
「……セリン?」

セリンは晴れやかに笑った。

「ああして、ご自分で常に動かれるから、周りが動くのね。それに……」

目を向けたのは、リンディエールが消えた場所。

「私……自分は誰よりも努力しているって思い上がっていたわ。お義母様はもっと努力なさっていたのね。何も……分かろうとしていなかったわ……あの子のことも……何も知らないのに決めつけて……」

隣の領主のことも何も知らなかったことに気付いた。何一つ話に入れなかった。女はそれで良いと実母にも言われてそう思っていたけれど、それではダメだと目が覚めた。

「夫であるあなたのことも、この領のことも何も知らないって気付いたわ」
「セリン……」
「ふふ。私……先ほどのお義母様とお義父様を見て羨ましいと思ったわ。仲が良くて羨ましいって……でも、違うわ。私もあなたとああして、領のために一緒に仕事ができたらって……それが羨ましかったの」
「っ……」

もやもやとした気持ちが、全て明らかになった瞬間だった。

「それだけじゃないわ……リンと……ああして話せたらいいのにって……頼りにされたら嬉しいって思ったの」

随分と遅すぎる気付きだった。けれど、それでもと思う。

「ねえ、あなた。私、努力するわ。あの子から話しかけてくれるようになりたいから。宰相様や、国王様まで頼りにしてるのよ? 私達の娘はすごいわ。自慢の娘よ。それなのに、親として頼ってもらえないのは寂しいわ」
「ああ……そうだな。せめて親として認められるように努力しよう。まだ、あんなに小さいんだ。娘なら、もっと甘えてもいい時期なのに……」

誰かに頼ることを知る前に、頼られることを知ってしまった娘。それが自分たちのせいだと理解して、申し訳なかった。

「食事くらい、一緒に取れるようにならないといけないわね」
「そうだな……いや、目標が低すぎるか……」

ディースリムとセリンは顔を見合わせて苦笑する。なんて情けない親かと肩を落とす。

そんな二人に追い討ちをかけるのがフィリクスだ。

「急激に関わりを持とうとすれば嫌われますよ?」
「……」
「そ、そうなの?」
「ええ。それと、くれぐれも私とリンの邪魔をしないでください」
「……」
「……」

きっぱりと言うフィリクスに、父母は少しイラついた。

「……フィリクス。お前こそ、急激に構いすぎて嫌われるんじゃないか?」
「っ、そ、そんなことないです。私は兄として、側に居るだけです」
「関わらなかった期間は私達全員同じではない? なら、私も母親として側に居てもいいわよね?」
「……年齢が近いほどリンには気安いはずです」

苦しい言い訳だ。

「そうは言うが、リンの側に居るのはかなり年上の者ばかりだぞ」
「そうよね。それこそ、メイド長は私よりも少し上よ? リンの侍従だって、魔族の方ですもの。ずっと年上だと思うわ」
「それを考えると、リンは年の離れた者との交流が慣れていそうだな」
「寧ろ、年の近い子の方が付き合い辛いかもしれないわね?」
「……っ」

フィリクスは不利を悟った。

「そんなっ……い、いや、なら僕だけ特別に……そうだ! 特別な関係を築けばいい!」
「……」
「……」
「そうと決まれば、情報収集だ!!」

フィリクスは切り替えの早い子だった。諦めも悪い。決めたらまず全力でそれを貫く。

屋敷の中に駆け込んで行ったフィリクスを見送り、ディースリムとセリンは呟いた。

「育て方間違ったのかしら……」
「間違ったかもな……」

後悔しきりだ。だが、ようやくスタートラインに立ったことは確かだ。

「そうだ。あの子も……ジェルラスも呼び戻そうか」
「そうねっ。そうしましょう。いつまでもお母様達に任せておいてはいけないわっ」

ディースリムとセリンは、リンディエールの弟であるジェルラスを呼び戻すと決めたのだ。

************
読んでくださりありがとうございます◎
次回、四日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 609

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

逆行転生、一度目の人生で婚姻を誓い合った王子は私を陥れた双子の妹を選んだので、二度目は最初から妹へ王子を譲りたいと思います。

みゅー
恋愛
アリエルは幼い頃に婚姻の約束をした王太子殿下に舞踏会で会えることを誰よりも待ち望んでいた。 ところが久しぶりに会った王太子殿下はなぜかアリエルを邪険に扱った挙げ句、双子の妹であるアラベルを選んだのだった。 失意のうちに過ごしているアリエルをさらに災難が襲う。思いもよらぬ人物に陥れられ国宝である『ティアドロップ・オブ・ザ・ムーン』の窃盗の罪を着せられアリエルは疑いを晴らすことができずに処刑されてしまうのだった。 ところが、気がつけば自分の部屋のベッドの上にいた。 こうして逆行転生したアリエルは、自身の処刑回避のため王太子殿下との婚約を避けることに決めたのだが、なぜか王太子殿下はアリエルに関心をよせ……。 二人が一度は失った信頼を取り戻し、心を近づけてゆく恋愛ストーリー。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

処理中です...