エセ関西人(笑)ってなんやねん!? 〜転生した辺境伯令嬢は親友のドラゴンと面白おかしく暮らします〜

紫南

文字の大きさ
48 / 212
6th ステージ

048 病み具合?

しおりを挟む
貴族の子息子女は、一年に一度、十歳になる年から学園に入学する十五歳になる歳までの五回、王城で行われる『お披露目会』へ参加することになっている。

強制ではないが、ここで顔を見せることで、繋がりを作り、各家の跡取りに問題がないことをアピールできる。

十五歳になるまでに長子をここに連れて来られた親達はほっとしながら自慢する。それが叶わなかった場合でも、次男以降の後を継がせる者を紹介して顔繋ぎをする。

同時に子ども達のお見合いの場でもある。跡取り達は自分の片腕になりそうな者を探すし、婚約者となり得る者を確認する。

特に子女達は必死だ。次男以降の者でも、もしかしたら跡取りとなるかもしれない。逆に長子であっても、体調不良を隠して出席している者もいるのだ。見極めが大事だった。

十五の年で入る学園での交友関係もここで講じることになる。

親にとっても、子ども達にとっても、このお披露目会は重要なものなのだ。

「あぁぁぁ……面倒くさ……」

リンディエールは、今年で十歳。兄のフィリクスは十三歳だ。よって、両親と共に『お披露目会』出席のため、馬車で王都を目指していた。

馬車は当然だがリンディエールとフィリクス、そして、両親の四人で乗っている。これがまた気まずい。一日何度かの休憩で、馬車を降りるのだが、馬車に戻る時に憂鬱だと肩を落とす。

「お嬢様……それ、毎回休憩終わりに言っておられますよね……」

ひと月前、新しく侍従となったセラビーシェルが困った表情で馬車まで付き添ってくれていた。侍従としての姿もかなり様になっている。

「だってなあ、馬車の旅とか……ほんま退屈やねん……せや、ラビたん交代せえへん?」
「本心だって分かりますけど、できません」
「ほんならギリ兄と交代とか」

ギリアンは今回、護衛隊長として馬で馬車と並走しているのだ。

「ギリアンさん泣きますよ?」
「それ見たいわ」
「……」

リンディエールの顔はマジだった。

離れていたが、これらが聴こえていたのだろう。グランギリアが微笑みながら手を差し伸べてくる。リンディエールは反射的にその手を取った。

「いけませんよリン様。冗談になりません。ただでさえギリアンは落ち込んでいましたからね」
「ん? なんやギリ兄。地味に引っ張るなあ」
「さすがに……守るべき主人のお嬢様に率先して盗賊退治などされたら、護衛の者として立つ背がありませんからね」
「ちょい、ストレス発散しただけやんか」

王都は目前まで来ているが、ここまでの道中、大繁殖期の影響で魔獣は多いし、盗賊は出るしと色々あった。

最初はリンディエールも、仕事を取るのもと思い、馬車の中で大人しくしていたのだが、やはり守られるだけというのは落ち着かない。そこで、護衛達だけでは少々手をやくだろうという百人規模の盗賊を相手に、ストレス発散を兼ねて挑んだのだ。

結果は十五分ほどの軽い運動で終わった。リンディエールの一人勝ち。有酸素運動になるまでいかなかったという残念な結果だ。

改めてリンディエールの強さを実感し、護衛のギリアンは落ち込んだというわけだ。

「リン様にとってはそうでも、一般的には違いますからね? それと……リン様の身長ではあの馬は乗りこなせません」
「……せやった……現実は残酷やな……」
「そこまで落ち込まれると……」

さすがのグランギリアも苦笑だ。ここで、セラビーシェルが不思議そうに尋ねてきた。

「お嬢様は乗馬の経験が?」
「あるで。というか……アレは普通の馬とちゃうんやけど」
「普通の馬ではない?」
「せや。ユニコーンでなあ『ツノ持ち迷宮』でテイムしてん」
「へ? え? 迷宮の魔獣や魔物はテイムできないのでは?」

迷宮の魔獣や魔物は本来の肉体がない。迷宮に生み出された生き物だと言われている。迷宮から出ることが出来ないのだ。よって、従魔にすることはできない。

「案外古い迷宮の奥の方に野生のが居るんよ。入り込んどってなあ。それもあり得へん進化しとる。あれは迷宮が飼っとるんやね。普通は迷宮が隠すんやけど……なんや自慢したくなったんか、手に負えんくなったんやろ。隠し部屋で一対一にされてな……」
「……それ『迷宮の腹』というやつでは……?」

迷宮は未だ分からないことが多い。これもその一つ。『迷宮の腹』とは、裏ボスの居る隠し部屋のことをいう。裏ボスは最下層のボスより強い場合が多く、冒険者は死を覚悟しなくてはならない。

隠し部屋であることで、絶対に遺体は出てこず、別の誰かが入ったとしてもそこには形跡もない。だから迷宮が冒険者を喰らうための部屋だと恐れられていた。

裏ボスは時折外の魔獣を招き入れ、迷宮内で育ったものが成る。そのため、テイマーにとっては一世一代の大博打の場だ。

「そうそう。あそこ、よくウチは呼ばれるんよ。美味そうに見えるんかいな……まあ、お宝も魔獣もいただいとるんは今んとこウチの方やけども」
「っ、危ないのでヤメてください!」

セラビーシェルは本気の泣きそうな顔で訴えてきた。冒険者にとって別名『死に部屋』と呼ばれるのだ。普通は避けて通る。

この部屋。優しいのはボス部屋と違って、裏ボスに攻撃するまでは逃げられる。不思議と魔獣が部屋から出てくることもないので、助かる可能性は高い。

ただし、一度でも攻撃してしまうと倒すまで部屋から出られなくなるので判断は間違えてはならない。

「そんなん言われても、刺激を求めたい年頃やねん。楽しませてえな♪」
「で、でも……っ、リン様に何かあったら……っ」
「おわっ、美少年が泣くんはあかんでっ」

リンディエールは普通に焦った。ハラハラと涙を流すセラビーシェル。

めちゃくちゃ可愛い。

『これぞ薄幸の美少年だ!』と少し興奮するのは変態の気があるのだろうか。自分の性癖がちょっと心配になるリンディエールだ。

こういう時、グランギリアは助けてくれない。セラビーシェルに同意しているためだろう。ここで口を出すのは最近は決まってシュラだ。

「お嬢様……ラビはお嬢様の非常識さにまだ慣れておりません。怖がらせないでください」
「シュラ……最近、グランやプリエラに似てきたなあ……」
「お褒めにあずかり光栄です」

侍女として迎え入れたシュラは、今までのように、リンディエールから出される課題をただ遂行するだけではなくなった。

どうやら、プリエラやグランギリアにリンディエールに常識を教えるのも仕事だと言い含められたらしい。

それとどうやら、弟弟子であるセラビーシェルを可愛がっているようだ。

「口煩あなって……」
「リン様」
「おおう……グランも厳しなったな……」
「リン様のことを思えばこそです。リア様に叱られますよ」
「うっ……」

グランギリアは、ヒストリアのことを『リア様』と呼ぶようになった。リンディエール以外、ヒストリアを知る者はそう呼ぶ。

「ラビがリン様の非常識に染まる前に、常識を学んでください」
「努力するわ……」

どうやら、ヒストリアはリンディエールの育て方を間違ったとグランギリアに洩らしたらしい。今更過ぎるが、常識を教えてやって欲しいと頭を下げたという。

両親よりもよっぽど親のようだ。

十歳という節目を意識したのはリンディエール本人ではなく周りの人々だった。

馬車に戻ると、フィリクスが話しかけてきた。この休憩が王都までの道のりで最後の休憩場所。王都はもう目前だ。

「リン。疲れたの?」
「精神的な疲れや……今更常識がどうの言われてもなあ……」
「あ~……うん。難しいけど、頑張って欲しいかな。心臓に悪いし」

フィリクスはこのひと月ほどで、リンディエールの非常識さも理解した。それだけ付き纏ったともいえる。今ではリンディエールも他人よりはかなり兄妹の距離に近付いたと思っている。

「鍛えられるやん」
「そこは鍛えなくていい部分だからね? 何より、リンが一歩間違えば危ない目に合うとか考えると……うん。やっぱり、私の部屋の中に鳥籠を大きくしたような可愛いのを用意しようかな。大丈夫。私も一緒に入るからね」
「……」
「……フィリクス……っ」

あえて檻と言わないのがフィリクスらしい。

向かいで聞いていた父ディースリムは言葉を失い、母セリンは衝撃で涙を浮かべていた。最近は時折本気でフィリクスに怯えている両親だ。

リンディエールも目を泳がせる。

「……遠慮するわ……そんなら書庫に籠った方がなんぼかマシや……」
「そう? 二人でいたらきっと楽しいよ? 本持ち込む?」
「秘密基地感覚なん?」
「え? 監禁だよ?」
「……さよか……」

思わず遠いところを見てしまった。

「……爽やか青年のはずが、なんやのこの闇……いや、病み具合? ヤンデレキャラやなかったはずなんやけどなあ……」

ブツブツと窓の方を向きながら呟く。どうも、リンディエールの知る乙女ゲームとは微妙に違う。主にキャラの性格が。

「ヤンデレなんは、宰相さんとこの長男や聞いとったんに……やっぱ、全ルートやっとくべきやったわ……」

リンディエールはこの世界に酷似した乙女ゲームを前世でプレイしていた。だが、レベル上げのあるゲームの方が好きだった凛は、オススメだといわれた『フィリクスルート』しかプレイしていなかったのだ。

もちろん、情報として登場人物の大まかなプロフィールは確認している。そこで、いわゆるヤンデレキャラは宰相の長男のスレイン・フレッツリーであるはずだった。

「はあ……先が思いやられるわ……」

ため息も出るというものだ。

物思いに更けるリンディエールを、隣からフィリクスは嬉しそうに見つめている。こういうのもこのひと月で慣れた。

しばらくして、不意にディースリムが口を開いた。

「そうだ。フィル、リン、王都に着いたら弟に会いに行くことになっているんだ」
「弟ですか?」
「弟……」

セリンの両親の家に預けた弟を、今回のお披露目会が終わったら、領に連れ帰るつもりらしい。

「そうよ。けど……お母様が許してくれるかしら……引き取るのを拒んでおられるようなのよ」
「……」

どうしましょうと片頬に手を当てて眉を寄せるセリン。普通に観賞用にするにはいいなと思う可愛らしさだ。本当に喋らなければ完璧なのだ。

「おかしいわよね? 私たちに会わせたくないなんて仰るの」
「……おかしいて……もっと早く気付くべきやたんやないか?」
「でも、お願いしているのだし」
「養育費も向こう持ちなん?」

父へ目を向けて確認する。ディースリムはセリンのほわほわとした雰囲気に呑まれていたらしく、はっと慌てて焦点を合わせていた。

「え、あ、いや。充分にお渡ししているよ」
「ふ~ん……」

リンディエールは考え込む。だが、そんな様子を見てディースリムは先ほどよりも慌てた。

「っ、す、すまない! リンにも同じだけこれから使うから! ドレスでも宝石でも好きなものを王都でも買ってくれ!」

セリンが青くなった。こちらの様子を恐る恐る窺っている。

どうやら、リンディエールへの養育費はかなりケチられていたらしい。

「ん? いや、無駄遣いせんでええわ。何より、ウチ個人でもかなり貯め込んどるでなあ。ああ、せや。帰りに馬車買おたるで、覚えといてや」
「へ?」
「え……」
「……馬車……」

ヒラヒラと手を振り、再び思考に沈んでいくリンディエールに、両親もフィリクスも口を噤むしかなかった。

そうして、王都に到着したのだ。

************
読んでくださりありがとうございます◎
すみません!
五日空きます!
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 619

あなたにおすすめの小説

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません

藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。 ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。 「君は分かってくれると思っていた」 その一言で、リーシェは気づいてしまう。 私は、最初から選ばれていなかったのだと。 これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。 後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、 そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。

もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません

まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜

あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。 追放された彼女の能力は―― 魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。 辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、 三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。 一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。 国家結界すら崩壊寸前に――。 「戻ってきてほしい」 そう告げられても、もう遅い。 私を必要としてくれる場所は、 すでに別にあるのだから。 これは、役立たずと呼ばれた令嬢が 本当の居場所と理解者を見つける物語。

【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました

あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。 だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。 彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。 ※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています ★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位 ★他サイト様にも投稿しています!

「その気になれない」と婚約破棄したあなたの、話を聞く必要がありますか?

さんけい
恋愛
国境を守るために結ばれた婚約を、侯爵家の令息は「その気になれない」という身勝手な理由で壊した。しかも婿入りする立場でありながら、愛人を認めろとまで言い出して――。 侮られ、傷つきながらも、伯爵家の跡取り娘エーディアは立ち止まらない。父とともに次の手を打ち、地に足のついた堅実な男ユリウスと出会い、領地と未来を少しずつ立て直していく。 一方、婚約を軽んじた元婚約者は、家にも王都にも見限られ、じわじわと立場を失っていく。 これは、誰かに苦しみを背負わせようとした男が自滅し、自分の足で立つ女が静かに幸福をつかむ、国境領ざまあ婚約破棄譚。 全44話。予約投稿済みです。

処理中です...