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9th ステージ
092 全部やればええねん!
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ついに怪盗決行という前日。
衣装を初めて身に付け、ヒストリアにお披露目し、着心地を確認していたリンディエールは、とあることに気付いた。
「……なあ、ヒーちゃん……思ったんやけど、この世界で怪盗って……おらんよな?」
《ん? そうだな。初だな!》
ヒストリアはとても楽しみにしているようで、当日はしっかり使い魔で撮影すると張り切っていた。
それに水を差すわけではないが、残念なお報せだ。
「あかんやん! 怪盗のお約束を誰も知らんやん!」
《……あ……》
初だ。初はある意味、誇らしいが、これでは楽しめない。
「ライトで追っかけられるってのもナシ! 行けー、やったれー言うて応援してくれるファンも居らん! 必ず捕まえて見せるでっ、と警備をガチガチにしてくれる人もおらんやん!」
《ま、まさか……相手の裏をかき、嘲笑ったりする頭脳戦も……》
「そもそも、そこまで本気にする相手がおらん!」
あれは、必死で追いかけてくれる相手がいるから、成立するドキドキとトキメキだ。キャスト一人では成立しない。
《そうだ……未だにあそこの連中……なんの対策もしていないようだし……そんな……っ、せっかくの生怪盗が……っ》
「いや、生て……」
生ってなんだろうと、少し遠いところを見てしまう。ヒストリアは地味に衝撃を受けているようだ。
《リンのお披露目……これを、大勢の者に見せつけようと……スポットライトを浴びるのを想定した、最高の出来だというのに……っ》
ライトを向けられ、後ろに映るシルエットまで計算した見事な衣装。それがお披露目できないなんて、あんまりだと嘆くヒストリアに、リンディエールは危機を感じた。
「ひ、ヒーちゃんが、ガチで落ち込んどる……っ。あかん! あかんで! 怪盗リンリアはウチとヒーちゃん二人の合作や! 最高の状態でお披露目せんとあかん!」
せめて、スポットライトは用意しなくてはと、リンディエールは、そこからスポットライトを実現できるライトの魔法を改良していった。
「大きさ……は、このくらいやな……きちんと光の筋が見えるように……いや、少し霧を出せば……いけるか……?」
《光の筋……重要だぞ。お、いかん。映像で残せるようにとなると……夜仕様でこちらも組み直さんと……》
前日だというのに、二人してうんうん唸りながら術式の組み直しをはじめる。これをヘルナ達が見れば、似た者同士と改めて認識しただろう。
そして、しばらくそれぞれが、それぞれで術式を弄り、同時に答えに辿り着く。
「これはもう、アレやな!」
《これはもう、アレだな!》
「こっちで全部やればええねん!」
《こちらで演出も全部やればいい!》
物はどこにあるのか、全部分かっている。その上、相手が抵抗しないとなれば、リンディエールには簡単過ぎるお仕事だ。
少しは難しくしたい。むしろ、楽しみたい。
一方、ヒストリアはリンディエールが完璧に怪盗をこなす事を疑ってはいない。だから、ヒストリアは完璧にその勇姿を撮影し、記録しなくてはと思っていた。
気持ち的には、娘の出演する劇を撮りたい父親というところだろうか。
「やったるで!」
《やるしかないな!》
そして、決行の時。
リンディエールは見事に登場シーンを演じてみせたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、来週の予定です。
よろしくお願いします!
衣装を初めて身に付け、ヒストリアにお披露目し、着心地を確認していたリンディエールは、とあることに気付いた。
「……なあ、ヒーちゃん……思ったんやけど、この世界で怪盗って……おらんよな?」
《ん? そうだな。初だな!》
ヒストリアはとても楽しみにしているようで、当日はしっかり使い魔で撮影すると張り切っていた。
それに水を差すわけではないが、残念なお報せだ。
「あかんやん! 怪盗のお約束を誰も知らんやん!」
《……あ……》
初だ。初はある意味、誇らしいが、これでは楽しめない。
「ライトで追っかけられるってのもナシ! 行けー、やったれー言うて応援してくれるファンも居らん! 必ず捕まえて見せるでっ、と警備をガチガチにしてくれる人もおらんやん!」
《ま、まさか……相手の裏をかき、嘲笑ったりする頭脳戦も……》
「そもそも、そこまで本気にする相手がおらん!」
あれは、必死で追いかけてくれる相手がいるから、成立するドキドキとトキメキだ。キャスト一人では成立しない。
《そうだ……未だにあそこの連中……なんの対策もしていないようだし……そんな……っ、せっかくの生怪盗が……っ》
「いや、生て……」
生ってなんだろうと、少し遠いところを見てしまう。ヒストリアは地味に衝撃を受けているようだ。
《リンのお披露目……これを、大勢の者に見せつけようと……スポットライトを浴びるのを想定した、最高の出来だというのに……っ》
ライトを向けられ、後ろに映るシルエットまで計算した見事な衣装。それがお披露目できないなんて、あんまりだと嘆くヒストリアに、リンディエールは危機を感じた。
「ひ、ヒーちゃんが、ガチで落ち込んどる……っ。あかん! あかんで! 怪盗リンリアはウチとヒーちゃん二人の合作や! 最高の状態でお披露目せんとあかん!」
せめて、スポットライトは用意しなくてはと、リンディエールは、そこからスポットライトを実現できるライトの魔法を改良していった。
「大きさ……は、このくらいやな……きちんと光の筋が見えるように……いや、少し霧を出せば……いけるか……?」
《光の筋……重要だぞ。お、いかん。映像で残せるようにとなると……夜仕様でこちらも組み直さんと……》
前日だというのに、二人してうんうん唸りながら術式の組み直しをはじめる。これをヘルナ達が見れば、似た者同士と改めて認識しただろう。
そして、しばらくそれぞれが、それぞれで術式を弄り、同時に答えに辿り着く。
「これはもう、アレやな!」
《これはもう、アレだな!》
「こっちで全部やればええねん!」
《こちらで演出も全部やればいい!》
物はどこにあるのか、全部分かっている。その上、相手が抵抗しないとなれば、リンディエールには簡単過ぎるお仕事だ。
少しは難しくしたい。むしろ、楽しみたい。
一方、ヒストリアはリンディエールが完璧に怪盗をこなす事を疑ってはいない。だから、ヒストリアは完璧にその勇姿を撮影し、記録しなくてはと思っていた。
気持ち的には、娘の出演する劇を撮りたい父親というところだろうか。
「やったるで!」
《やるしかないな!》
そして、決行の時。
リンディエールは見事に登場シーンを演じてみせたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
次回、来週の予定です。
よろしくお願いします!
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