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ミッション12 舞台と遠征
493 異質でしたからね
フラメラの実家であるキートル伯爵家では、公開審判後、ようやくそれ以前の日常が戻りつつあった。先代当主であるフラメラの父と当代である兄の腕に嵌められた金の腕輪の重さにも慣れた所だ。とはいえ、ふとした時に目に入るのは避けられない。
「クソっ! まだフラメラからの返事は来ないのか!」
あの日、王都へ招集された数日前に、当主の交代が成った所だった。当主として王への謁見もできる良い機会だと喜んでいたフラメラの兄、フィラス・ラト・キートルは、まさかの断罪劇にすごすごと帰るしかなかった。
何とかして、王へと繋ぎを取り、全ては前当主の責任だからと許してもらおうと思った。しかし、関わったとされる完璧な証拠書類を用意され、反論も出来ず、更には金の腕輪は罪人の証だとまで言われるようになり、何も出来なかったのだ。
だが、その間に追放となったはずのフラメラの罪が冤罪であり、実質、唯一の王妃として返り咲くと聞き、希望を持った。フラメラから取りなしてもらえば、この不名誉な金の腕輪も外されるだろうと思ったのだ。
「何通出したと思ってるんだ!」
そこに先代である父親もやって来る。こちらもイラついている。
「ああ……私の方も返事がない……っ、あの愚図は……っ、本当に使えんっ」
「……」
「……」
現当主と先代当主の父子がイライラと歩き回る執務室。書類を整理しながら、侍従と家令は内心悪態を吐いていた。
想いは同じだ。
『幼い頃から散々、嫌われるような言動をしておいて、今更助けてくれるはずがないだろう!』
毎度これを心の中で言葉にしていたが、そろそろ要約して『バカめ』と思うだけになってきたこの頃だ。
そして、ここで満を辞して家令が手紙を差し出した。
「先ほど届いておりました。フラメラ様からです」
「何!?」
「なぜ早く渡さない!!」
「どのような手紙も、まとめて夕食後にお渡しするようにとおっしゃったのは旦那様方です」
「っ、それでも! 時と場合によるだろうが!!」
「それは失礼いたしました。ですが、今出しましたので、問題ないのでは?」
「くっ……っ」
「貴様っ……っ」
この家令は、先々代の当主がどこかから連れて来た者で、その血筋は深い神の加護を持つため、何があっても追放などしてはならないと取り決められていた。教会の神の下で『何があっても彼の血筋を当家の家令として遇すること』と誓約したらしい。
よって、多少口が悪くても、反抗的でも罰を与えることも追放することもできなかった。もう一人この場に居る当主の侍従は彼の息子だ。
「どうぞ、わたくしに構わず、先に手紙のご確認を」
「っ、そうだった」
「よし! 読むぞ」
「……」
「……」
切り替えは早いのは感心すべき所かもしれない。
手紙を広げ、二人で覗き込む。それだけ期待しているのだろう。自分たちも返り咲くのだと。しかし、求める答えではなかったようだ。ふるふると怒りで震え出すのが分かった。
「っ、あの女っ!! なんだ! この訳のわからん手紙は!!」
「手紙の書き方さえ分からんのではないかっ!? これだから女はっ!」
手紙を床に叩きつけるように落とし、二人は部屋を出て行った。頭を冷やしてくるようだ。これは散々家令から言われたことを自然と実行しているだけ。
『執務室で怒鳴り散らすのはみっともない。外で頭を冷やしてきてください。物に当たるとかもやめてくださいね。幼子のようです』
きちんと聞くということは、素直な所もあるのだろうと家令は思っている。
小鬼のように暴れる二人がいなくなったところで、家令の息子は手紙を拾い上げる。
「指摘しなくて良かったんですか? 物に当たってますねと」
「後で自分たちで気付いて動揺するでしょう。子どもですよねえ。あの二人は、中々大人になりませんねえ」
「怒りっぽいのはなぜでしょうね。ストレスなどほとんどないと思うのですが」
「甘やかし過ぎましたかねえ」
「先々代様が早く亡くなったのが良くなかったのでは?」
「そうですねえ……いえ……学園での交友関係が良くなかったのでしょうよ」
「あ~……」
同じ派閥の者達や友人達は、軒並み金の腕輪を付けられているのだ。問題はそこだろう。
「一番影響を受ける時期ですからねえ。あとは……先々代の奥様が甘えを許さない方でしたから……男顔負けのしっかりとした方だったのですが、他の夫人と比べてしまうと、異質でしたからね」
「奥様達のように旦那様達に媚びを売るだけの能無しではなかったということでしょう? 何が悪いんですか」
「はっきり言うものではありませんよ。あの足りない感じが令嬢の普通です」
「では、フラメラお嬢様が普通ではなかったと」
「そうですね。お嬢様は、先々代の奥様にそっくりです。見た目も恐らく本来の性格も」
「本来の……我慢しておられたんでしょうか……」
「そうでしょうね……」
父親がフラメラを嫌うのは、厳しかった実の母親に似ていたから。兄が嫌うのは、自分よりも能力が上だと無意識に感じ取っていたから。
そして、フラメラの母親も自分よりも賢しく、可愛らしい見た目に嫉妬したため、フラメラは孤独だった。見栄や虚勢を張っていなければ、誰も助けてはくれなかった。そこで少し歪んでしまったのだ。
そんなフラメラを気の毒に思う同世代となる侍従の男は、拾い上げた手紙をそっと開いた。そして、目を丸くした。
「ん? どうしました?」
そんな息子の様子を見て、家令は首を傾げた。
「こ、これ……『近々、供を連れてそちらに確認に参ります』……お嬢様がお帰りに……っ」
「里帰りなど、一度もしなかったお嬢様が……っ、待ってください……供を連れて……確認……まさか……」
「父上? っ、あっ! こ、これ! この紙っ、後ろに薄く紋様がっ」
「っ! 間違いありません! セイスフィア商会の商紋っ!」
光に透かすと見える紙に描かれた紋様は、間違いなくセイスフィア商会のものだった。
「となると……っ、これは恐らく、供は商会の者……そして、確認とは……視察」
「っ、視察……」
「セイスフィア商会が国のために暗躍したというのは知られていますからね。これは……そろそろ旦那様達も長年のツケを払う時がやって来たようですねえ」
「……っ」
家令は楽しそうに笑う。フラメラが直接引導を渡しに来るのだと思う外なかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
◉毎週火曜日投稿
『聖人様は自重せずに人生を楽しみます!◀︎ですので、拝まないでもらえます?』
も是非よろしくお願いします◎
「クソっ! まだフラメラからの返事は来ないのか!」
あの日、王都へ招集された数日前に、当主の交代が成った所だった。当主として王への謁見もできる良い機会だと喜んでいたフラメラの兄、フィラス・ラト・キートルは、まさかの断罪劇にすごすごと帰るしかなかった。
何とかして、王へと繋ぎを取り、全ては前当主の責任だからと許してもらおうと思った。しかし、関わったとされる完璧な証拠書類を用意され、反論も出来ず、更には金の腕輪は罪人の証だとまで言われるようになり、何も出来なかったのだ。
だが、その間に追放となったはずのフラメラの罪が冤罪であり、実質、唯一の王妃として返り咲くと聞き、希望を持った。フラメラから取りなしてもらえば、この不名誉な金の腕輪も外されるだろうと思ったのだ。
「何通出したと思ってるんだ!」
そこに先代である父親もやって来る。こちらもイラついている。
「ああ……私の方も返事がない……っ、あの愚図は……っ、本当に使えんっ」
「……」
「……」
現当主と先代当主の父子がイライラと歩き回る執務室。書類を整理しながら、侍従と家令は内心悪態を吐いていた。
想いは同じだ。
『幼い頃から散々、嫌われるような言動をしておいて、今更助けてくれるはずがないだろう!』
毎度これを心の中で言葉にしていたが、そろそろ要約して『バカめ』と思うだけになってきたこの頃だ。
そして、ここで満を辞して家令が手紙を差し出した。
「先ほど届いておりました。フラメラ様からです」
「何!?」
「なぜ早く渡さない!!」
「どのような手紙も、まとめて夕食後にお渡しするようにとおっしゃったのは旦那様方です」
「っ、それでも! 時と場合によるだろうが!!」
「それは失礼いたしました。ですが、今出しましたので、問題ないのでは?」
「くっ……っ」
「貴様っ……っ」
この家令は、先々代の当主がどこかから連れて来た者で、その血筋は深い神の加護を持つため、何があっても追放などしてはならないと取り決められていた。教会の神の下で『何があっても彼の血筋を当家の家令として遇すること』と誓約したらしい。
よって、多少口が悪くても、反抗的でも罰を与えることも追放することもできなかった。もう一人この場に居る当主の侍従は彼の息子だ。
「どうぞ、わたくしに構わず、先に手紙のご確認を」
「っ、そうだった」
「よし! 読むぞ」
「……」
「……」
切り替えは早いのは感心すべき所かもしれない。
手紙を広げ、二人で覗き込む。それだけ期待しているのだろう。自分たちも返り咲くのだと。しかし、求める答えではなかったようだ。ふるふると怒りで震え出すのが分かった。
「っ、あの女っ!! なんだ! この訳のわからん手紙は!!」
「手紙の書き方さえ分からんのではないかっ!? これだから女はっ!」
手紙を床に叩きつけるように落とし、二人は部屋を出て行った。頭を冷やしてくるようだ。これは散々家令から言われたことを自然と実行しているだけ。
『執務室で怒鳴り散らすのはみっともない。外で頭を冷やしてきてください。物に当たるとかもやめてくださいね。幼子のようです』
きちんと聞くということは、素直な所もあるのだろうと家令は思っている。
小鬼のように暴れる二人がいなくなったところで、家令の息子は手紙を拾い上げる。
「指摘しなくて良かったんですか? 物に当たってますねと」
「後で自分たちで気付いて動揺するでしょう。子どもですよねえ。あの二人は、中々大人になりませんねえ」
「怒りっぽいのはなぜでしょうね。ストレスなどほとんどないと思うのですが」
「甘やかし過ぎましたかねえ」
「先々代様が早く亡くなったのが良くなかったのでは?」
「そうですねえ……いえ……学園での交友関係が良くなかったのでしょうよ」
「あ~……」
同じ派閥の者達や友人達は、軒並み金の腕輪を付けられているのだ。問題はそこだろう。
「一番影響を受ける時期ですからねえ。あとは……先々代の奥様が甘えを許さない方でしたから……男顔負けのしっかりとした方だったのですが、他の夫人と比べてしまうと、異質でしたからね」
「奥様達のように旦那様達に媚びを売るだけの能無しではなかったということでしょう? 何が悪いんですか」
「はっきり言うものではありませんよ。あの足りない感じが令嬢の普通です」
「では、フラメラお嬢様が普通ではなかったと」
「そうですね。お嬢様は、先々代の奥様にそっくりです。見た目も恐らく本来の性格も」
「本来の……我慢しておられたんでしょうか……」
「そうでしょうね……」
父親がフラメラを嫌うのは、厳しかった実の母親に似ていたから。兄が嫌うのは、自分よりも能力が上だと無意識に感じ取っていたから。
そして、フラメラの母親も自分よりも賢しく、可愛らしい見た目に嫉妬したため、フラメラは孤独だった。見栄や虚勢を張っていなければ、誰も助けてはくれなかった。そこで少し歪んでしまったのだ。
そんなフラメラを気の毒に思う同世代となる侍従の男は、拾い上げた手紙をそっと開いた。そして、目を丸くした。
「ん? どうしました?」
そんな息子の様子を見て、家令は首を傾げた。
「こ、これ……『近々、供を連れてそちらに確認に参ります』……お嬢様がお帰りに……っ」
「里帰りなど、一度もしなかったお嬢様が……っ、待ってください……供を連れて……確認……まさか……」
「父上? っ、あっ! こ、これ! この紙っ、後ろに薄く紋様がっ」
「っ! 間違いありません! セイスフィア商会の商紋っ!」
光に透かすと見える紙に描かれた紋様は、間違いなくセイスフィア商会のものだった。
「となると……っ、これは恐らく、供は商会の者……そして、確認とは……視察」
「っ、視察……」
「セイスフィア商会が国のために暗躍したというのは知られていますからね。これは……そろそろ旦那様達も長年のツケを払う時がやって来たようですねえ」
「……っ」
家令は楽しそうに笑う。フラメラが直接引導を渡しに来るのだと思う外なかった。
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