199 / 242
ミッション12 舞台と遠征
517 嫁ぐのか?
エルセリアは、集中するということも知り、興味を持つものも増えていた。もちろん、勉強も進んでいる。かなり遅いスタートだったが、学園に通うようになる頃には追いつくだろう。
「まあ、意外にも細かい作業ができるんだよな」
「はいっ! 刺繍も得意になりました! 今は、お兄いさまのベールを作ったりしています!」
「「……なんて?」」
「銀糸で真っ白なベールに刺繍をしています!」
それは知らなかったとフィルズは一瞬思考が止まる。
「……偽装結婚でもしろと?」
「きっと、いずれっ、使える時は来るんじゃないかとっ!」
「俺、偽装結婚しそうなん? それも花嫁?」
「っ、ドレスはお待ちください!! でも、必ず! 最高のものをご用意してみせますっ!!」
「ドレスも着るの? 妹が作ったドレス着て? 嫁ぐのか? どこに?」
さすがのフィルズでも混乱した。エルセリアが当たり前のように、自信満々に言うからだ。
「やべえな、あの妹……フィルが混乱してる……やべえ女だ……」
スピークが感心しながらも少し怖がっている。
「でも、迷っているのです……花嫁のドレスよりも先に、わ、私とっ、お揃いっ、お揃いのドレスをっ……ああっ、揃いなんてっ、どうしようぅぅぅっ、あ……」
力説というか、熱がこもり過ぎたのか、ふっとエルセリアは倒れた。鼻血も出ていた。これを、スピークが珍しいものを見るように見つめている。
「おい。フィル。妹が倒れたぞ? 鼻血出てる」
「……大丈夫だ。多分回収班が来る」
フィルズがそう言い終えるよりも早く、隣の号車からクルシュが走ってきた。
「うわ~、どれだけ興奮したんですか……」
「クルシュ……こいつ、大丈夫なのか? こんなに何度も気絶して」
「はあ……健康上の問題は、今のところないと先生方も仰っておられまして……」
クルシュは、そう説明しながらエルセリアをベッドに運んでいく。先生と言うのは、フーマとゼセラのことだろう。
「子どもの内に何度か鼻血も出していれば、強くなるとかなんとか……微笑ましげに言っておられました」
「あ、うん。なんとなく分かった」
子どもは不意に鼻血を出すことがある。不思議と大人になるとそれがなくなるのだ。それが強くなると言うことなのだろう。それと同じ扱いというわけだ。
「それにしても……俺、花嫁にされそうなんだが?」
「フィーリア姫ブランドは人気らしいですけど」
「なんだって?」
聞いたことのある名だとフィルズはまさかと思った。
「え? 坊ちゃんの女装の時のやつです。公爵領では、憧れの令嬢というか、お姫様とのことで、坊ちゃん、いくつか写真もお撮りになったでしょう。とても可愛らしくて……プロマイドは大人気ですよ? リゼンっ、旦那様もかなり買い集めていました」
「……どこの部署だ? そういえば、リニがやたらと服着せて来て、アンジがすげえ写真撮っていった時が……」
「それだろ」
スピークが断定する。
リニは服飾専門部署のまとめ役。女装が常の可愛らしい青年だ。アンジはカメラマンとして日々どこかに出向いている。ついこの前は、どこに潜って来たんだと思うくらい泥だらけになって帰ってきて、フラメラとクラルスに笑われていた。その二人がタッグを組んだようだ。
「マジか……店のためだからとかモデルはやったが……そんなことに……」
「許可取ってんじゃねえの? 商会長だろ」
「リニ達には、人様に迷惑かけるようなことしなけりゃ、ある程度の経営方針の権限は与えてるんだよ。ガチガチにしたら面白みがねえじゃん。それに、やりたい事で楽しんで仕事してもらうのが俺の理想だし」
「へえ」
一番好きなことを仕事に出来る人は少ない。けれど出来るならばそうして欲しいもの。フィルズとしてもそれが理想だった。
リニもアンジも、好きな事を貫いているところだ。変に口出ししてやる気を削ぐなんてことは、やりたくない。
今回のことも、少し困るとは思うがモチベーションが上がるならまあいいかとフィルズは思っていた。
「現状は把握する必要がありそうだが……今はいいや。で? スピじい。合格はまだなんだな?」
「おお……そうなんだが……こいつら勘もいいし、こいつも来たから言うが、今回のは視察って体だろ? 侵入しなくてもよくね?」
こいつらと言うのは、セルジュ達のこと。こいつと言って指を向けたのは、クルシュにだ。そして、そもそもの目的を思い出す。
「そうなんだよな~」
「気配消すとか、音立たずに動くとか、そこんとこがなければ、優秀だぞ? 隠し通路とか、隠し部屋もきっちり探し出しやがったし」
「なに? 悔しいの?」
「……クロコ達がそもそもの家の構造をいじりだした。やべえ家ができそうなんだよ……」
「忍者屋敷か……需要ありそうだな……」
「期待すんじゃねえよ! 目的を見失ってんだよ! 訂正してくれ!」
忍者屋敷は分からないだろうが、スピークの長年の経験で得た勘が、面倒臭そうなことになると警鐘を鳴らしているようだ。
今も周りに音が漏れないように細心の注意を払いながら、家の改造を行っているようだ。その内に大工に弟子入りする者が出そうだ。
「あそこは、買い取るつもりだし、この際、取り壊す前に弄るなら特に問題ない」
「だからってよお……」
「爆破するとかしなけりゃいいよ。でだ。明日、昼の営業終わったら、そのまま領主邸に乗り込もう。メルさんも行くか?」
「もちろんよ! ようやく一発殴れるわね!」
「問答無用なのはナシな? せめて、口で負かしてからにしてくれ。じゃないと、後で五月蝿そうだ」
十分喋らせて、言い負かせてからの方が、自分の考えより、暴力に訴えられたから負けたとのだと言って、後々になっても絡んでくる可能性が低くなる。
「分かったわ! やってみせるわ!」
「おう。リュブラン、見ててくれな?」
「うん。任せて」
「えっ!?」
「嫌なのか?」
「嫌なのですか?」
フラメラの少し嫌がるような声に、フィルズとリュブランが真顔で迫る。
「うっ……だって、最近のリュブランはちょっと……」
「なんです?」
不満っぽい言い方ではない。リュブランは純粋に不思議そうに尋ねていた。これには、フラメラの方が苦しくなる。そして、恥ずかしそうに告白した。
「っ……こ、小言が……多いの……」
「小言……」
「「「「「小言……」」」」」
親が子どもに言う文句ではなかったため、子ども達の思考は停止した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「まあ、意外にも細かい作業ができるんだよな」
「はいっ! 刺繍も得意になりました! 今は、お兄いさまのベールを作ったりしています!」
「「……なんて?」」
「銀糸で真っ白なベールに刺繍をしています!」
それは知らなかったとフィルズは一瞬思考が止まる。
「……偽装結婚でもしろと?」
「きっと、いずれっ、使える時は来るんじゃないかとっ!」
「俺、偽装結婚しそうなん? それも花嫁?」
「っ、ドレスはお待ちください!! でも、必ず! 最高のものをご用意してみせますっ!!」
「ドレスも着るの? 妹が作ったドレス着て? 嫁ぐのか? どこに?」
さすがのフィルズでも混乱した。エルセリアが当たり前のように、自信満々に言うからだ。
「やべえな、あの妹……フィルが混乱してる……やべえ女だ……」
スピークが感心しながらも少し怖がっている。
「でも、迷っているのです……花嫁のドレスよりも先に、わ、私とっ、お揃いっ、お揃いのドレスをっ……ああっ、揃いなんてっ、どうしようぅぅぅっ、あ……」
力説というか、熱がこもり過ぎたのか、ふっとエルセリアは倒れた。鼻血も出ていた。これを、スピークが珍しいものを見るように見つめている。
「おい。フィル。妹が倒れたぞ? 鼻血出てる」
「……大丈夫だ。多分回収班が来る」
フィルズがそう言い終えるよりも早く、隣の号車からクルシュが走ってきた。
「うわ~、どれだけ興奮したんですか……」
「クルシュ……こいつ、大丈夫なのか? こんなに何度も気絶して」
「はあ……健康上の問題は、今のところないと先生方も仰っておられまして……」
クルシュは、そう説明しながらエルセリアをベッドに運んでいく。先生と言うのは、フーマとゼセラのことだろう。
「子どもの内に何度か鼻血も出していれば、強くなるとかなんとか……微笑ましげに言っておられました」
「あ、うん。なんとなく分かった」
子どもは不意に鼻血を出すことがある。不思議と大人になるとそれがなくなるのだ。それが強くなると言うことなのだろう。それと同じ扱いというわけだ。
「それにしても……俺、花嫁にされそうなんだが?」
「フィーリア姫ブランドは人気らしいですけど」
「なんだって?」
聞いたことのある名だとフィルズはまさかと思った。
「え? 坊ちゃんの女装の時のやつです。公爵領では、憧れの令嬢というか、お姫様とのことで、坊ちゃん、いくつか写真もお撮りになったでしょう。とても可愛らしくて……プロマイドは大人気ですよ? リゼンっ、旦那様もかなり買い集めていました」
「……どこの部署だ? そういえば、リニがやたらと服着せて来て、アンジがすげえ写真撮っていった時が……」
「それだろ」
スピークが断定する。
リニは服飾専門部署のまとめ役。女装が常の可愛らしい青年だ。アンジはカメラマンとして日々どこかに出向いている。ついこの前は、どこに潜って来たんだと思うくらい泥だらけになって帰ってきて、フラメラとクラルスに笑われていた。その二人がタッグを組んだようだ。
「マジか……店のためだからとかモデルはやったが……そんなことに……」
「許可取ってんじゃねえの? 商会長だろ」
「リニ達には、人様に迷惑かけるようなことしなけりゃ、ある程度の経営方針の権限は与えてるんだよ。ガチガチにしたら面白みがねえじゃん。それに、やりたい事で楽しんで仕事してもらうのが俺の理想だし」
「へえ」
一番好きなことを仕事に出来る人は少ない。けれど出来るならばそうして欲しいもの。フィルズとしてもそれが理想だった。
リニもアンジも、好きな事を貫いているところだ。変に口出ししてやる気を削ぐなんてことは、やりたくない。
今回のことも、少し困るとは思うがモチベーションが上がるならまあいいかとフィルズは思っていた。
「現状は把握する必要がありそうだが……今はいいや。で? スピじい。合格はまだなんだな?」
「おお……そうなんだが……こいつら勘もいいし、こいつも来たから言うが、今回のは視察って体だろ? 侵入しなくてもよくね?」
こいつらと言うのは、セルジュ達のこと。こいつと言って指を向けたのは、クルシュにだ。そして、そもそもの目的を思い出す。
「そうなんだよな~」
「気配消すとか、音立たずに動くとか、そこんとこがなければ、優秀だぞ? 隠し通路とか、隠し部屋もきっちり探し出しやがったし」
「なに? 悔しいの?」
「……クロコ達がそもそもの家の構造をいじりだした。やべえ家ができそうなんだよ……」
「忍者屋敷か……需要ありそうだな……」
「期待すんじゃねえよ! 目的を見失ってんだよ! 訂正してくれ!」
忍者屋敷は分からないだろうが、スピークの長年の経験で得た勘が、面倒臭そうなことになると警鐘を鳴らしているようだ。
今も周りに音が漏れないように細心の注意を払いながら、家の改造を行っているようだ。その内に大工に弟子入りする者が出そうだ。
「あそこは、買い取るつもりだし、この際、取り壊す前に弄るなら特に問題ない」
「だからってよお……」
「爆破するとかしなけりゃいいよ。でだ。明日、昼の営業終わったら、そのまま領主邸に乗り込もう。メルさんも行くか?」
「もちろんよ! ようやく一発殴れるわね!」
「問答無用なのはナシな? せめて、口で負かしてからにしてくれ。じゃないと、後で五月蝿そうだ」
十分喋らせて、言い負かせてからの方が、自分の考えより、暴力に訴えられたから負けたとのだと言って、後々になっても絡んでくる可能性が低くなる。
「分かったわ! やってみせるわ!」
「おう。リュブラン、見ててくれな?」
「うん。任せて」
「えっ!?」
「嫌なのか?」
「嫌なのですか?」
フラメラの少し嫌がるような声に、フィルズとリュブランが真顔で迫る。
「うっ……だって、最近のリュブランはちょっと……」
「なんです?」
不満っぽい言い方ではない。リュブランは純粋に不思議そうに尋ねていた。これには、フラメラの方が苦しくなる。そして、恥ずかしそうに告白した。
「っ……こ、小言が……多いの……」
「小言……」
「「「「「小言……」」」」」
親が子どもに言う文句ではなかったため、子ども達の思考は停止した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
あなたにおすすめの小説
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
<完結>金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて
碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。
美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。
第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。