趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション12 舞台と遠征

517 嫁ぐのか?

エルセリアは、集中するということも知り、興味を持つものも増えていた。もちろん、勉強も進んでいる。かなり遅いスタートだったが、学園に通うようになる頃には追いつくだろう。

「まあ、意外にも細かい作業ができるんだよな」
「はいっ! 刺繍も得意になりました! 今は、おあにいさまのベールを作ったりしています!」
「「……なんて?」」
「銀糸で真っ白なベールに刺繍をしています!」

それは知らなかったとフィルズは一瞬思考が止まる。

「……偽装結婚でもしろと?」
「きっと、いずれっ、使える時は来るんじゃないかとっ!」
「俺、偽装結婚しそうなん? それも花嫁?」
「っ、ドレスはお待ちください!! でも、必ず! 最高のものをご用意してみせますっ!!」
「ドレスも着るの? 妹が作ったドレス着て? 嫁ぐのか? どこに?」

さすがのフィルズでも混乱した。エルセリアが当たり前のように、自信満々に言うからだ。

「やべえな、あの妹……フィルが混乱してる……やべえ女だ……」

スピークが感心しながらも少し怖がっている。

「でも、迷っているのです……花嫁のドレスよりも先に、わ、私とっ、お揃いっ、お揃いのドレスをっ……ああっ、揃いなんてっ、どうしようぅぅぅっ、あ……」

力説というか、熱がこもり過ぎたのか、ふっとエルセリアは倒れた。鼻血も出ていた。これを、スピークが珍しいものを見るように見つめている。

「おい。フィル。妹が倒れたぞ? 鼻血出てる」
「……大丈夫だ。多分回収班が来る」

フィルズがそう言い終えるよりも早く、隣の号車からクルシュが走ってきた。

「うわ~、どれだけ興奮したんですか……」
「クルシュ……こいつ、大丈夫なのか? こんなに何度も気絶して」
「はあ……健康上の問題は、今のところないと先生方も仰っておられまして……」

クルシュは、そう説明しながらエルセリアをベッドに運んでいく。先生と言うのは、フーマとゼセラのことだろう。

「子どもの内に何度か鼻血も出していれば、強くなるとかなんとか……微笑ましげに言っておられました」
「あ、うん。なんとなく分かった」

子どもは不意に鼻血を出すことがある。不思議と大人になるとそれがなくなるのだ。それが強くなると言うことなのだろう。それと同じ扱いというわけだ。

「それにしても……俺、花嫁にされそうなんだが?」
「フィーリア姫ブランドは人気らしいですけど」
「なんだって?」

聞いたことのある名だとフィルズはまさかと思った。

「え? 坊ちゃんの女装の時のやつです。公爵領では、憧れの令嬢というか、お姫様とのことで、坊ちゃん、いくつか写真もお撮りになったでしょう。とても可愛らしくて……プロマイドは大人気ですよ? リゼンっ、旦那様もかなり買い集めていました」
「……どこの部署だ? そういえば、リニがやたらと服着せて来て、アンジがすげえ写真撮っていった時が……」
「それだろ」

スピークが断定する。

リニは服飾専門部署のまとめ役。女装が常の可愛らしい青年だ。アンジはカメラマンとして日々どこかに出向いている。ついこの前は、どこに潜って来たんだと思うくらい泥だらけになって帰ってきて、フラメラとクラルスに笑われていた。その二人がタッグを組んだようだ。

「マジか……店のためだからとかモデルはやったが……そんなことに……」
「許可取ってんじゃねえの? 商会長だろ」
「リニ達には、人様に迷惑かけるようなことしなけりゃ、ある程度の経営方針の権限は与えてるんだよ。ガチガチにしたら面白みがねえじゃん。それに、やりたい事で楽しんで仕事してもらうのが俺の理想だし」
「へえ」

一番好きなことを仕事に出来る人は少ない。けれど出来るならばそうして欲しいもの。フィルズとしてもそれが理想だった。

リニもアンジも、好きな事を貫いているところだ。変に口出ししてやる気を削ぐなんてことは、やりたくない。

今回のことも、少し困るとは思うがモチベーションが上がるならまあいいかとフィルズは思っていた。

「現状は把握する必要がありそうだが……今はいいや。で? スピじい。合格はまだなんだな?」
「おお……そうなんだが……こいつら勘もいいし、こいつも来たから言うが、今回のは視察って体だろ? 侵入しなくてもよくね?」

こいつらと言うのは、セルジュ達のこと。こいつと言って指を向けたのは、クルシュにだ。そして、そもそもの目的を思い出す。

「そうなんだよな~」
「気配消すとか、音立たずに動くとか、そこんとこがなければ、優秀だぞ? 隠し通路とか、隠し部屋もきっちり探し出しやがったし」
「なに? 悔しいの?」
「……クロコ達がそもそもの家の構造をいじりだした。やべえ家ができそうなんだよ……」
「忍者屋敷か……需要ありそうだな……」
「期待すんじゃねえよ! 目的を見失ってんだよ! 訂正してくれ!」

忍者屋敷は分からないだろうが、スピークの長年の経験で得た勘が、面倒臭そうなことになると警鐘を鳴らしているようだ。

今も周りに音が漏れないように細心の注意を払いながら、家の改造を行っているようだ。その内に大工に弟子入りする者が出そうだ。

「あそこは、買い取るつもりだし、この際、取り壊す前に弄るなら特に問題ない」
「だからってよお……」
「爆破するとかしなけりゃいいよ。でだ。明日、昼の営業終わったら、そのまま領主邸に乗り込もう。メルさんも行くか?」
「もちろんよ! ようやく一発殴れるわね!」
「問答無用なのはナシな? せめて、口で負かしてからにしてくれ。じゃないと、後で五月蝿そうだ」

十分喋らせて、言い負かせてからの方が、自分の考えより、暴力に訴えられたから負けたとのだと言って、後々になっても絡んでくる可能性が低くなる。

「分かったわ! やってみせるわ!」
「おう。リュブラン、見ててくれな?」
「うん。任せて」
「えっ!?」
「嫌なのか?」
「嫌なのですか?」

フラメラの少し嫌がるような声に、フィルズとリュブランが真顔で迫る。

「うっ……だって、最近のリュブランはちょっと……」
「なんです?」

不満っぽい言い方ではない。リュブランは純粋に不思議そうに尋ねていた。これには、フラメラの方が苦しくなる。そして、恥ずかしそうに告白した。

「っ……こ、小言が……多いの……」
「小言……」
「「「「「小言……」」」」」

親が子どもに言う文句ではなかったため、子ども達の思考は停止した。







**********
読んでくださりありがとうございます◎

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