趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南

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ミッション12 舞台と遠征

467 絶品である!

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この日、フィルズは王宮に作った獄舎に神殿長と大聖女と共に行くことになっていた。

公爵領から神によって転移させられてきた神殿長シエルは、二日前から。大聖女レナは昨日からフィルズの王都の屋敷に泊まっていた。

「ん~っ。飽きるまでここに居たいわ。いいわよね。シエルじいは、公爵領のセイルブロードで毎日のように遊んでいるんでしょ?」
「遊んでいるとは心外な。日々人々との交流の場として活用させてもらっているのですよ」
「モノは言いようね」

毎日生き生きと、シエルはセイルブロードに通い、人々と交流しているのは事実だ。

そんな言い合いをする二人と共に、馬車置き場へと向かうフィルズは、そういえばと苦笑する。

「いつも忙しく交流してるのは知ってるぜ? オヤジさん達と裸の付き合いとか言って浴場に居たと思ったら、プールで若いのと競泳? 町のお母さん達とケーキ屋でお茶して、女の子達とマナー教室や語学教室だっけ? 神官達から捕まらないって連絡来る時があるんだが?」

分身しているのではなかろうかというほど、神出鬼没。それも、公爵領だけでなくこちらにも出没する。神殿長もイヤフィスをつけてはいるが、あえて無視する時もあるようだ。まあ、誰かが何かを相談している時には取らない。

人との交流が多くなれば、必然的に応答できる時は限られて来る。そうなると、居場所の確認のため、フィルズの方に連絡が入るというわけだ。隠密ウサギが神殿長の居場所を把握していないはずがない。

そんな毎日が、神殿長にはこの上なく充実したものらしい。少し誇らしげだった。

「かつてないほど、とても充実した日々を送っていますよ」
「いいな~。私もここに住みたい」
「レナ姉は常に移動するのが楽しいって言ってたじゃん」
「まあね? 新しい商品を仕入れたりするのとか、その土地に行ってみないと良い物かどうかも分からないし。私自身で判断したいから人任せにもしないけど。でも、ここを知っちゃうとね~」

今やここは、世界でも類を見ない大人気の娯楽施設になっているのだ。

「商品も、ここに居た方が面白いのが手に入るしっ。あのエアーテントヤバいわよ! 冒険者だけじゃなくて商人や貴族にもバカみたいに売れるからっ」
「あははっ。お陰様で、大型のは半年先まで予約で埋まってるよ」

比較的作りやすいため、それほど予約も抱えずに済んでいる。しかし、生産所は常にフル稼働していた。

「あ、折り畳み椅子って今、どれだけ出せる? 修道院でいくつか注文入ってるんだけど」
「それなりの数揃ってるぜ? ただ、カラーバリエーションが増えたから、後で見て行ってよ。街中で使う用に、派手なの増やしたんだ」
「なにそれ! 赤とかある!?」
「あるぜ。あと、テーブルも」
「ヤバいわ! 確認する! もうっ、ここに来る度に新しい商品が出来てるんだものっ。ううっ……悔しいけど私は留まれないし……ウチの子を置いていこうかしら」

最新の商品の仕入れ契約が遅れるのが、レナにはもどかしくなっているようだ。

「そういえば、あそこ、また何か建てるの?」

不意に見えたのは、フィルズが先日買った土地だ。住居が五つくらいあったが、既に取り壊していた。

「まあな。明日から建築にかかるが、出来上がるのは三ヶ月後くらいだな。それくらいにまた来てよ」
「分かったわ。本当に色々思いつくんだから」

少し呆れた様子のレナ。そして、馬車置き場に着いた。そこには、三台の護送車を囲んで神殿騎士達が待っていた。とはいえ、ただ待っていたわけではなく、話し相手は居たようだ。そこには和やかな雰囲気があった。

「では、キラ様の喫茶店での一推しは、Cセットなのですね!」
《うむ。程よく甘い餡子のアイスふわふわのロールパンが今の時期は絶品である!》
「キラ様、餡子好きなんですねえ。分かります! ケーキ屋の新商品の水まんじゅうも美味しいと聞きましたよ!」
《アレか! 冷えたのがまたいいのだ!》
「それは確かに。私はその水まんじゅうをお土産にすると決めました!」
「私はやはりパンですね! アンパン! アレは疲れが取れる上にお腹も膨れて最高です!」
《うむ! 餡子は至高なり!》
「「「同感です!」」」

ビズの背中に乗ってゆらゆらと機嫌よく尻尾を揺らす黒いドラゴン。それを囲んで、騎士達が興奮気味に餡子について語っていた。

綺羅キラ……」
《む? おお。主殿。時間か?》
「ああ……綺羅はまた餡子の普及活動か……」
《ふっ。当然である! アレを知らずによく生きて来られたものだと、日々過去を振り返っておるよ》
「気に入り過ぎだろ……お陰で餡子のメニューが大発生中だ……」
《良いことだな!》

鱗がまるでキラキラと光り、夜空に星が輝くように見えることから、クロ改め、綺羅キラと名付けたドラゴンは、すっかり餡子の虜だ。甘党という程甘いのは好みではないため、程よい甘味に調整している。とはいえ、食に目覚めた綺羅は、常に新たな物を求めて食べまくっていた。

《やあねえ。甘いものばっかり。太るわよ》

そう言って馬車の屋根の上から飛んできたのは、アカだ。

《ふん。そういうお前は辛いものばかり食べたがると、食堂のクマ殿を困らせておったではないか》
《あの刺激がいいんじゃない!》
《カッカとし過ぎるのも問題だろうに。性格がこれ以上キツくなるのはいただけんぞ》
《辛いもの食べたからってそんな風にはならないわよ!》

こうした不毛な言い争いが起きるのも今では日常茶飯だ。そして、これを治めるのは末っ子の役目だ。

《なに~? アカネ姉もキラ兄も元気だね~。ボクはねえ、甘いのと辛いのを交互に食べるのが良いと思うよ?》
《うっ、うむ……》
《そ、そうね……口直しはあっても良いかしら……》

ちなみに、二体とも名はかつて仲の良かった賢者に教えてもらった言葉を採用していた。どちらも空に関係したものだった。

《うん。けどねえ。ボクはここで食べるものは全部好きっ》
《そうだな。うむ。なんでも美味いな》
《美味しいものばかりよねっ》
《えへへ》
《うむうむ》
《うんうん》

こうして落ち着くというのがいつものパターンだ。大変仲がよろしい。末っ子最強。策士とも言う。

「よし。落ち着いた所で、出発するか。尋問とかメシが不味くなるからさっさと終わらせようぜ。美味しく昼メシを食うために」
「「「ご飯のために!」」」
「ですね!」
「やる気出るわ!」

これから行くのは気が滅入る所だ。とてもゆるい気合いの入れ方だが、活力にはなる。それで良いと誰も疑問に思うこともなく出発した。






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読んでくださりありがとうございます◎




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