女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

閑話2-8 双子の休暇①

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2018. 10. 29

**********

それは、ティアがベリアローズや彼の婚約者になったユフィア、その弟のキルシュ、学友のアデルを連れて長期休暇にサルバに帰ってくるという二日前のこと。

かつて、最強の女騎士と呼ばれたアリア・マクレートの子孫である双子のユメルとカヤルは、その能力を十全に発揮しながら、現在、ヒュースリー伯爵家の執事として働いている。

その日、屋敷を管理する家令のリジット・バーンズにそんな二人は昼ごろに呼び出しを受けていた。

「呼び出しって、なんだろうね? カヤルは思い当たることある?」
「ううん。だって僕ら、最近は特に失敗とかしてないよ?」
「だよね?」

ちょっとおっとりしているところのある弟のカヤルも思い当たらないのならば、何だろうとユメルはリジットの待つ部屋のドアをノックした。

「ああ、来ましたか」

好々爺然としたリジットは、温和な表情そのままに迎え入れてくれた。

「「お待たせしました。何のご用でしょうか」」
「明日からの事です。あなた方お二人は、明日より一週間、休暇となります」
「「休暇?」」

休暇って何?

今まで休息日はあったが、長期の休暇などなかった。欲しいとも思わなかったし、家はこの屋敷だ。何かしていないと落ち着かないくらいには仕事に慣れている。

「はい。明日の夕刻頃、ギルドよりグリフォンを二頭お借りし、学園街のお屋敷での休暇を楽しんで来てください」
「「グリフォン?」

このサルバから、学園街までは馬車で数日かかる。何度か届け物をする時に馬で行ったことはあるのだが、わざわざグリフォンを使って行ったことはない。

妹のラキアや兄のクロノスなんかは、馬よりも走った方が速いと言って、文字通り走って行く。二人もそれで行けないこともないのだが、まさかここでグリフォンを使えと言われるとは思わなかった。

「ただし、二日後の明朝にはあちらに着くのが条件です。遅れる事のないように願いますね」
「「それって……」」

グリフォンで行けという事ではなく、グリフォンを届けろということではないか。

「帰りは、一週間後に同じようにグリフォンに乗ってお帰りいただきます」
「「……」」

また連れ帰って来いって事ですね。わかります。

「久し振りに妹との水入らず。楽しんで来てください」

その笑顔は好きですが、同時に『何やってもらおうかな』と到着して直ぐにこき使うつもりのラキアの笑顔が見えた気がした。

「「……休暇って何……?」」

それっておいしいの?

◆  ◇  ◆

学園街の別邸。
そこでは普段から、妹のラキアがメイドとして屋敷の全てを管理している。

ティア達が留守にするこの長期休暇で、屋敷の一画に薬草園を作ろうと計画していたらしく、ユメルとカヤルは着いて早々にグリフォンの世話から始まり、庭の手入れに駆り出されていた。

ラキア本人は、商業ギルドに薬草園の登録をしてくるからと出かけて行き、兄二人に一息付かせる気もない。だから、居ない内にそろそろ一服でもするかとお互い同時に顔を上げた。しかしその時、ラキアが帰ってきたのだ。

「ラキア、随分早かったね。申請書類出すだけにしても早くない?」
「忘れ物?」

商業ギルドはここから徒歩で十五分ほど。薬草園の申請書類を受理してもらうのにも時間がかかるはずだ。それなのに、三十分もしない時間で戻ってきたのだ。

「全部完了したけど?」
「「登録も?」」
「当然でしょ?」
「「……」」

どうやら、ラキアのスペックを侮っていたらしい。

「ここから歩いて、飛んで、ギルドまで五分だし」
「飛んで!?」
「五分!?」

分からん。どんな道だろう。自分達が見つけられない経路があるはずがないのに。

「直通通路なら三分なんだけど、昼間は使えないから仕方ないよね」
「どこにそんなのあるの!?」
「昼間はって何!?」

色々よく分からない。

「商業ギルドも冒険者ギルドも、ちょっとは待たされるけど、結構優先してもらってるから」
「へ、へぇ……けど、貴族関係だからって、ギルドは優先しないはずだけど……」
「特に商業ギルドはそういうところ堅いしね」

貴族関係者を優先するなんてことをすれば、ギルドの信用問題になるのだから。ザルバでも領主権限なんて当然、使えない。

「伯爵家だからじゃなくて『ティア様のメイドだから』ってことでね」
「「……それならあり得る……」」

何故だろう。納得できた。何をしたんだろうと気になりはするが、ここはあえて聞かない選択をする。心の平穏を守るならば、常に自分達で心がけるのが大事だ。決して、周りに任せてはいけない。

「種とか苗の手配もしてきたし、こっちは?」
「あ、うん。薬草園の場所は、あと囲いを付ければ完成かな」
「庭の侵入者用の罠の調整も済んだよ」

本邸でもそうだが、ヒュースリー伯爵家は侵入者対策に力を入れている。今日も既に数人、庭で行き倒れていた。

「やっぱり、王都が近いからかな? 結構多いね」
「ラキア、回収大変じゃない?」

伯爵家は、昔から敵が多いらしく、他家が時折手を出してくる。

伯爵領は特別立地が良いとか、特産品があるとか、そういう別段目立つものはない。けれど、同じような領であっても、明らかに違うところがある。

それは、人気だ。人口は年々増え続けており、国内で『最も住みやすい領』と言われている。その理由は兵の質であったり、冒険者達の心構えであったりする。それらは町の雰囲気に直結するのだ。

何よりもヒュースリー伯爵の人柄が大きい。当代だけでなく、先代も、その先代も信頼できる人物だったらしい。気さくで、領内の視察の時も民の方から声をかける場面が見られる。それに一つずつ熱心に耳を傾けてくれるので、好感度は高い。

そんな人だからこそ、貴族からは憎まれ、煙たがられる。

「最近は人手を借りてるから、そんなに苦労してないかな。それに、わざわざ領兵に届けに行かなくても、門先に置いておけば回収してくれるし」
「……どっからそんな人手を?」
「……何その自動回収体制。羨ましいんだけど」

ラキアが問題なくこの罠だらけの庭に入ることを許す者がここにいるとは知らなかった。

何より気になるのは自動回収。本邸では、領主邸なのに、兵を呼びつけたりしない。ユメルかカヤルが運ぶのが常だ。

「朝回収されて、尋問も任せちゃうし、遅くても昼には黒幕が割れるから、手間っていえば、そのリストアップ作業くらい?」
「「その尋問技術スゴイ……コワイ」」

凄いが、怖い。

本邸もエゲツない感じにするが、時間はそれなりにかかるし、尋問するこちらとしても心が痛む。

「捕まえたのは、この三人だけ?」
「そうだよ」
「あと二人来たけど、この庭に入る前に逃げちゃったんだよね」
「良い判断だよね」
「うんうん。中々、見どころあるよ」

二人で頷き合う。

「敵に感心してどうすんの。それ、また来るよ?」
「「大丈夫」」

そこは対策した。

「入り口を優しくしたからね」
「甘い罠で、油断させるからね」
「「ティア様直伝だからねっ」」

一見しては理解できない。同じ罠はないし、かかれば絶対に逃げ出せない。

「成る程。それなら、確実だね。さすがは、ティア様」

讃えることは忘れない。完全にティアに毒されているラキアだ。

「……僕らを褒めてよ……」
「……仕掛けるのは僕らなのに……」
「ティア様のお知恵を拝借できるんだもの。有難く仕掛けるんだよ。失敗なんて許されないから」

そうかもしれないと思ってしまうのは、同じくティアに毒されているからか。

「あれ……なんかプレッシャーなんだけど……」
「罠を仕掛けてるのは僕らなのに、なんで身の危険を感じるんだろうね……」

逃がしたりなんかしたらどんなお仕置きをされるかわからない。

「充分、気を引き締めて、さっさと仕上げてね」
「「はい……」」

やっぱり、これって休暇じゃなくないかと再認識してしまった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎

次回、明日30日0時投稿予定
②へつづく
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