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連載
436 捕らえられた者
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2016. 6. 19
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その部屋はティアの私室として当てがわれた場所の二つ隣。使用人用の小さな部屋だ。
ティアは中にいる二つの気配を確認し、ノックをする。すぐに内側から開けられたドア。その向こうにはカランタがいた。
「サっ、ティア……っ」
カランタは、成長したティアの姿に驚いたようだ。突き当たりにある表に面した窓が開いている。どうやら、演説する声は聞いていたようだが、その姿は確認していなかったのだろう。
「入るよ」
「う、うん」
緊張した面持ちのカランタの脇をすり抜け、ティアは部屋の中へと入っていく。
ティアの部屋よりも当然、遥かに狭いが、物置のような狭さではない。一人用の宿の部屋に比べれば広い方だろう。
奥にはベッドが一つに、小さなテーブルと椅子が二脚。小さいがクローゼットもある。
そのベッドに腰掛け、呆然とティアを見上げているのは、スィールと名乗ったあの神笛の使い手だった。
「具合が悪いと聞いてたが、顔色は良さそうだな」
そう言って、ティアはスィールの前に立っち、身を屈めて顔を覗き込む。
声も出せずに混乱しているらしいスィールに、ティアは問いかけた。
「私の事、覚えているか?」
「え……あっ」
服装や髪の色など、出会った時とは印象が違うため、気付かないかもしれないとは思っていたが、案の定、気付いていなかったようだ。
「あの時は取り逃がしたが、ようやくじっくりと話せる」
先ほどまで町の人々の前にいた時とはまた違う印象。好戦的な戦闘モードのティアだ。
今の姿と合間って、かなりの迫力があった。
「な、なにを……っ」
スィールは微かに体を震わせる。優しくしてやる義理もないので、ティアは姿勢を正すと、上から問いかけた。
「神笛は壊した」
「っ……」
その時の事を思い出したのだろう。悔しそうに顔を顰めるのを見下ろしながら、ティアは続ける。
「お前の組織での存在意義はなくなった。いい機会だろう。組織の根城はどこだ。ライダロフとジェルバ、それと……サティアを名乗る馬鹿はどこにいる」
「くっ、サティア様を愚弄するっぅッ……!」
ティアはスィールを殴り飛ばした。
「ちょっ、ティアっ」
派手に窓際の壁まで吹っ飛び、動けなくなっているスィールに駆け寄ってカランタが非難する。
「コレで殴らなかっただけ良かったと思いなよ。まったく、本当にイライラする」
ティアはロッドを持ったままだ。咄嗟の行動とはいえ、カルツォーネから借りているロッドを使わなかっただけまだ冷静だったといえた。
ティアはロッドを床に突き立てると、椅子に座って足を高く組む。
そして、壁に背を預けたまま立ち上がれずにいるスィールを見下ろした。
「お前のスィールとしての記憶も、サティアだという認識も偽りだ。だいたい、スィールだってんなら、剣くらい持ってんのが当然だろ。それとあいつはもっとバカで、明るい奴だった。いつだって、どんな絶望的な状況が前にあっても希望を見出す天才だったよ」
ティアは身を屈め、足に肩肘をついて腕を組む。そこに顎を乗せて、昔を懐かしむように目をスィールからそらした。
そんなティアの様子と言葉に、スィールは呆然としながら問いかけた。
「あんた……何者だ……?」
今更過ぎるその質問に、ティアは魅力的に笑った。
「言わなかったか? バトラールだ。あの国の……亡霊さ」
「っ……」
スィールは再び表情を強張らせる。得体の知れない者と対峙しているという不安と恐怖がその顔に映されていた。
静かに見つめ合う二人。そこで、スィールの隣に屈んでいたカランタが口を開いた。
「彼女がサティアだよ」
「は……」
そんな事を言われても、理解するはずがないだろうに、カランタはスィールを見つめて告げた。
「女神サティア。彼女は……馬鹿な王のせいで死んでしまった王女だよ」
そう言って、カランタは涙を浮かべながら言ったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
マティ《挨拶はどうしたの? サラちゃん》
ザラン「ぅっ、マティ⁉︎」
マティ《主が怒ってたよ? 子分なんだからちゃんと挨拶しなきゃ》
ザラン「いや、あの状況でどうやって……って、子分じゃねぇよ!」
アデル「でも、ティアに会いに来たんでしょ?」
ザラン「お、おう……いや、マスターが珍しくこっちに留まってるから何があったのか確認しにっ……」
マティ《素直じゃないなぁ。マスターの事を聞いて、主に何かあったんだって分かったんでしょ? それで心配になって来たくせに》
ザラン「ぐっ……べ、べつに……」
アデル「ザランさんって、ティアが絡むと意地張るよね」
エル「好いた者の前で素直になれないのは辛いな」
ベル「今ならまだ間に合う。目を覚ましてください。ティアを好きなんて……っ」
キルシュ「ベル先輩。信じられないのは分かりますが、落ち着いてください」
ザラン「だから違うって!」
ユフィア「あら。好きだと認めれば、きっと色々見えてきますわよ? 誰かを好きになる事は誇るべきものですわ」
ザラン「……え~っと……はい……」
マティ《それじゃぁ、いっぱい覚悟しなきゃね》
ザラン「は?」
アデル「あははっ、ティアが好きなら、いっぱいライバルがいるもん。あ、あっちに天使様がいるから、あとで頼んでおいてあげるね。五回ぐらい生き返れるように」
キルシュ「それ、出来るのか?」
アデル「だって天使様だし」
キルシュ「そうか……だが、五回は少ないかもしれない」
アデル「なら十回?」
ザラン「まてまてっ、何の話だ⁉︎」
マティ《サラちゃん心配しないで。主にフラれたら、マティがお嫁さんにもらってあげるからね》
ザラン「っだからっ、何の話だ!!」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
サラちゃんの未来の話です。
この人のお仕置きがまだでしたからね。
捕まえて、色々吐かせるつもりだったようです。
素直に教えてくれればいいのですが。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
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その部屋はティアの私室として当てがわれた場所の二つ隣。使用人用の小さな部屋だ。
ティアは中にいる二つの気配を確認し、ノックをする。すぐに内側から開けられたドア。その向こうにはカランタがいた。
「サっ、ティア……っ」
カランタは、成長したティアの姿に驚いたようだ。突き当たりにある表に面した窓が開いている。どうやら、演説する声は聞いていたようだが、その姿は確認していなかったのだろう。
「入るよ」
「う、うん」
緊張した面持ちのカランタの脇をすり抜け、ティアは部屋の中へと入っていく。
ティアの部屋よりも当然、遥かに狭いが、物置のような狭さではない。一人用の宿の部屋に比べれば広い方だろう。
奥にはベッドが一つに、小さなテーブルと椅子が二脚。小さいがクローゼットもある。
そのベッドに腰掛け、呆然とティアを見上げているのは、スィールと名乗ったあの神笛の使い手だった。
「具合が悪いと聞いてたが、顔色は良さそうだな」
そう言って、ティアはスィールの前に立っち、身を屈めて顔を覗き込む。
声も出せずに混乱しているらしいスィールに、ティアは問いかけた。
「私の事、覚えているか?」
「え……あっ」
服装や髪の色など、出会った時とは印象が違うため、気付かないかもしれないとは思っていたが、案の定、気付いていなかったようだ。
「あの時は取り逃がしたが、ようやくじっくりと話せる」
先ほどまで町の人々の前にいた時とはまた違う印象。好戦的な戦闘モードのティアだ。
今の姿と合間って、かなりの迫力があった。
「な、なにを……っ」
スィールは微かに体を震わせる。優しくしてやる義理もないので、ティアは姿勢を正すと、上から問いかけた。
「神笛は壊した」
「っ……」
その時の事を思い出したのだろう。悔しそうに顔を顰めるのを見下ろしながら、ティアは続ける。
「お前の組織での存在意義はなくなった。いい機会だろう。組織の根城はどこだ。ライダロフとジェルバ、それと……サティアを名乗る馬鹿はどこにいる」
「くっ、サティア様を愚弄するっぅッ……!」
ティアはスィールを殴り飛ばした。
「ちょっ、ティアっ」
派手に窓際の壁まで吹っ飛び、動けなくなっているスィールに駆け寄ってカランタが非難する。
「コレで殴らなかっただけ良かったと思いなよ。まったく、本当にイライラする」
ティアはロッドを持ったままだ。咄嗟の行動とはいえ、カルツォーネから借りているロッドを使わなかっただけまだ冷静だったといえた。
ティアはロッドを床に突き立てると、椅子に座って足を高く組む。
そして、壁に背を預けたまま立ち上がれずにいるスィールを見下ろした。
「お前のスィールとしての記憶も、サティアだという認識も偽りだ。だいたい、スィールだってんなら、剣くらい持ってんのが当然だろ。それとあいつはもっとバカで、明るい奴だった。いつだって、どんな絶望的な状況が前にあっても希望を見出す天才だったよ」
ティアは身を屈め、足に肩肘をついて腕を組む。そこに顎を乗せて、昔を懐かしむように目をスィールからそらした。
そんなティアの様子と言葉に、スィールは呆然としながら問いかけた。
「あんた……何者だ……?」
今更過ぎるその質問に、ティアは魅力的に笑った。
「言わなかったか? バトラールだ。あの国の……亡霊さ」
「っ……」
スィールは再び表情を強張らせる。得体の知れない者と対峙しているという不安と恐怖がその顔に映されていた。
静かに見つめ合う二人。そこで、スィールの隣に屈んでいたカランタが口を開いた。
「彼女がサティアだよ」
「は……」
そんな事を言われても、理解するはずがないだろうに、カランタはスィールを見つめて告げた。
「女神サティア。彼女は……馬鹿な王のせいで死んでしまった王女だよ」
そう言って、カランタは涙を浮かべながら言ったのだ。
************************************************
舞台裏のお話。
マティ《挨拶はどうしたの? サラちゃん》
ザラン「ぅっ、マティ⁉︎」
マティ《主が怒ってたよ? 子分なんだからちゃんと挨拶しなきゃ》
ザラン「いや、あの状況でどうやって……って、子分じゃねぇよ!」
アデル「でも、ティアに会いに来たんでしょ?」
ザラン「お、おう……いや、マスターが珍しくこっちに留まってるから何があったのか確認しにっ……」
マティ《素直じゃないなぁ。マスターの事を聞いて、主に何かあったんだって分かったんでしょ? それで心配になって来たくせに》
ザラン「ぐっ……べ、べつに……」
アデル「ザランさんって、ティアが絡むと意地張るよね」
エル「好いた者の前で素直になれないのは辛いな」
ベル「今ならまだ間に合う。目を覚ましてください。ティアを好きなんて……っ」
キルシュ「ベル先輩。信じられないのは分かりますが、落ち着いてください」
ザラン「だから違うって!」
ユフィア「あら。好きだと認めれば、きっと色々見えてきますわよ? 誰かを好きになる事は誇るべきものですわ」
ザラン「……え~っと……はい……」
マティ《それじゃぁ、いっぱい覚悟しなきゃね》
ザラン「は?」
アデル「あははっ、ティアが好きなら、いっぱいライバルがいるもん。あ、あっちに天使様がいるから、あとで頼んでおいてあげるね。五回ぐらい生き返れるように」
キルシュ「それ、出来るのか?」
アデル「だって天使様だし」
キルシュ「そうか……だが、五回は少ないかもしれない」
アデル「なら十回?」
ザラン「まてまてっ、何の話だ⁉︎」
マティ《サラちゃん心配しないで。主にフラれたら、マティがお嫁さんにもらってあげるからね》
ザラン「っだからっ、何の話だ!!」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
サラちゃんの未来の話です。
この人のお仕置きがまだでしたからね。
捕まえて、色々吐かせるつもりだったようです。
素直に教えてくれればいいのですが。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
応援ありがとうございます!
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