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2016. 7. 1
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ティアは王達との密会が終わると、そのまま外からエルヴァストの部屋を訪れた。勿論、兵達に気付かれてはいない。
遅くなっていたこともあり、エルヴァストは既に就寝していたのだが、構わずテラスから窓の鍵を開けて入り込んだ。
そして、エルヴァストのベッドの上で丸くなって眠るフラムをそっと回収する。
その際、少しだけ身じろいだエルヴァストの顔を覗き込み、ティアは呟いた。
「疲れた顔して……」
エルヴァストはフェルマー学園を卒業してから、王太子の補佐をすべく、国政の勉強など、国の事を多く学んでいる。
日々、尊敬する兄の役に立とうと勉学に励むエルヴァスト。しかし、口さがない貴族達には、未だ軽んじられているようだ。
静かにその寝顔を見つめるティアの隣に、火王が姿を現す。
《エルは我慢強い。それが心配だ》
「そうだね……もっと頼って良いからね」
そう言って、ティアはエルヴァストの額に加護をと願って口付ける。
それからサイドテーブルにヒュースリーの屋敷から採ってきたラキアが育てた花を一輪飾り、疲れを取る為に、とっておきの滋養のドリンクをリボンをかけて置いておく。
「またね。エル兄様」
そして、ティアはまたそっと窓から抜け出すと、王宮を後にしたのだ。
◆◆◆◆◆
ティアは、フラムが眠ってしまったので、一晩王都の外で家を出して一夜を明かすと、日が昇る前に目覚めたフラムに乗って屋敷へと帰り着いた。
そこでは当然のようにラキアが出迎える。
「おはよう。ラキアちゃん」
「おはようございます、ティア様。すぐに朝食の用意を致します」
「いいよ。みんなまだ寝てるんでしょ? ルクスの朝稽古に付き合ってくるから」
「承知しました。では、お帰りをお待ちいたします」
「うん」
ルクスはいつも学園街の屋敷に滞在している間は、庭で稽古をしているはずなのだが、今日は侯爵の連れて来た護衛達もいるので、広い冒険者ギルドの訓練場に行っていた。
冒険者ギルドは閉まる事がない。夜でも常に冒険者達が仕事で出入りしている。特に朝は、体をほぐす為にも訓練場へ行く者が多かった。
ティアがギルドへ入っていくと、顔馴染みの職員や冒険者達が笑みを見せる。そんな彼らに手を振って、地下にある訓練場への階段を降りていく。
訓練場にはまだ朝日が昇りはじめたばかりだというのに、既に二十人強の人が集まっていた。
ここは学園街だ。それほど冒険者が多くはない。一日もかからない距離に王都がある事もあり、他の街とほとんど変わらない。それでもこれだけの人数が朝稽古に来るのには理由があった。
「お願いしまっす」
「……あぁ、いつでも良い……」
まるでどこかの道場のように、一人の指導者を取り囲んで手合わせを見つめている。
そのたった一人に順番に相手をしてもらい、指導された事を少し離れておさらいしながらも、他人の手合わせを誰もが時に食い入るように見ているのだ。
「ファル兄ってばまた……」
フェルマー学園の創設者の夫であるマートゥファル・マランド。竜人族である彼は、今現在、竜人族の里の外に出ている唯一の竜人族だ。
ファルは、ひと月毎にこの学園街と、サルバを交互に行き来し、滞在している。
その間、それぞれの冒険者ギルドで一人剣の訓練をしていたのだが、ティアの友人達を筆頭に手合わせを願い出るようになると、多くの冒険者達も混ざるようになり、現在のような状態になっていた。
しばらくファルを中心とする稽古を見守っていたティアだったが、ルクスが気付いたようだ。
「ティアっ。おはよう。昨日はどこへ行っていたんだ?」
「王宮。ちょっと詰めたい話もあったから」
「あまり無茶を言って困らせるんじゃないぞ?」
「分かってる。常識の範囲内って気をつけてるから」
「そうか?」
ルクスはこの頃、ティアの行動を煩く注意しなくなった。どこへ行くにも着いて来たがっていた過保護さが、少し和らいだようだ。
どうやらこれはティアの見た目が関係しているようで、大人へと日々近づいていくティアを目にして、守るべき子どもではなく、一人の人として見えるようになったのだろう。
「それで? ティアもやるか?」
ルクスが笑みを浮かべ、朝稽古をどうだと言う。こんな所も変わった。それは、ファルに稽古をつけてもらった事で、腕に自信がついたからだ。
「言ったね? 朝からボロボロにしてやるんだから」
「うっ、棍棒だよな?」
「選ばせてあげよう。どの私がお好み?」
「ぐっ……こ、棍棒で……」
「え? 鞭もあるよ?」
「やめてくれっ!」
こんな時の反応も楽しむティアだ。
真っ赤になった顔を背け、咳払いをすると、ルクスは気を取り直し、ティアと距離を空けて向かい合う。
それを確認して、ティアはアイテムボックスから愛用の棍棒を取り出した。
「それじゃぁ、はじめよう」
「あぁ」
しばらくすると、皆の目が集まるようになるが、それはいつもの事なのだった。
************************************************
舞台裏のお話。
ラキア「キルシュさん。アデルさん。おはようございます」
キルシュ「おはよう」
アデル「おっはよ~。ティアは?」
ラキア「ギルドに行かれました」
アデル「あぁぁっ、出遅れた……」
キルシュ「ルクスさんも行ったのか……うちの護衛に気を遣わなくてもいいのに……」
アデル「朝稽古なんてしないもんね」
キルシュ「ケイ兄上がいれば違うんだろうがな……」
アデル「そういえば、ケイギルお兄さんって、最近良くここに顔を出すよね? 王宮勤務のはずでしょ?」
ラキア「ケイギルさんでしたら、先々月でしたか……紅翼に移ったそうですよ?」
キルシュ「えっ⁉︎」
アデル「あら~……やっちゃったね……」
キルシュ「……よりにもよってティア崇拝の……」
アデル「違うよ。キルシュ。ティアじゃなくて、バトラール女王様崇拝だよ」
ラキア「騎士では最強の部隊ですからね。さすがはティア様です」
キルシュ「……ど……どうすれば……」
アデル「諦めなよ。大丈夫。身体的な害はないし」
キルシュ「なぜそこで身体と限定した?」
ラキア「そうですね。害どころか。体は鍛えられます」
キルシュ「だから、なぜ『体』と限定する⁉︎」
アデル「やだなぁ。分かってるでしょ?」
ラキア「聞きたいのですか?」
キルシュ「もう何も言わないで……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
はい。精神面の保障はなしです。
変化があります。
ファル兄も生き生きと、日々ティアや友人達の傍で暮らしています。
ルクスは頼もしくなりました。
では次回、一日空けて3日です。
よろしくお願いします◎
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ティアは王達との密会が終わると、そのまま外からエルヴァストの部屋を訪れた。勿論、兵達に気付かれてはいない。
遅くなっていたこともあり、エルヴァストは既に就寝していたのだが、構わずテラスから窓の鍵を開けて入り込んだ。
そして、エルヴァストのベッドの上で丸くなって眠るフラムをそっと回収する。
その際、少しだけ身じろいだエルヴァストの顔を覗き込み、ティアは呟いた。
「疲れた顔して……」
エルヴァストはフェルマー学園を卒業してから、王太子の補佐をすべく、国政の勉強など、国の事を多く学んでいる。
日々、尊敬する兄の役に立とうと勉学に励むエルヴァスト。しかし、口さがない貴族達には、未だ軽んじられているようだ。
静かにその寝顔を見つめるティアの隣に、火王が姿を現す。
《エルは我慢強い。それが心配だ》
「そうだね……もっと頼って良いからね」
そう言って、ティアはエルヴァストの額に加護をと願って口付ける。
それからサイドテーブルにヒュースリーの屋敷から採ってきたラキアが育てた花を一輪飾り、疲れを取る為に、とっておきの滋養のドリンクをリボンをかけて置いておく。
「またね。エル兄様」
そして、ティアはまたそっと窓から抜け出すと、王宮を後にしたのだ。
◆◆◆◆◆
ティアは、フラムが眠ってしまったので、一晩王都の外で家を出して一夜を明かすと、日が昇る前に目覚めたフラムに乗って屋敷へと帰り着いた。
そこでは当然のようにラキアが出迎える。
「おはよう。ラキアちゃん」
「おはようございます、ティア様。すぐに朝食の用意を致します」
「いいよ。みんなまだ寝てるんでしょ? ルクスの朝稽古に付き合ってくるから」
「承知しました。では、お帰りをお待ちいたします」
「うん」
ルクスはいつも学園街の屋敷に滞在している間は、庭で稽古をしているはずなのだが、今日は侯爵の連れて来た護衛達もいるので、広い冒険者ギルドの訓練場に行っていた。
冒険者ギルドは閉まる事がない。夜でも常に冒険者達が仕事で出入りしている。特に朝は、体をほぐす為にも訓練場へ行く者が多かった。
ティアがギルドへ入っていくと、顔馴染みの職員や冒険者達が笑みを見せる。そんな彼らに手を振って、地下にある訓練場への階段を降りていく。
訓練場にはまだ朝日が昇りはじめたばかりだというのに、既に二十人強の人が集まっていた。
ここは学園街だ。それほど冒険者が多くはない。一日もかからない距離に王都がある事もあり、他の街とほとんど変わらない。それでもこれだけの人数が朝稽古に来るのには理由があった。
「お願いしまっす」
「……あぁ、いつでも良い……」
まるでどこかの道場のように、一人の指導者を取り囲んで手合わせを見つめている。
そのたった一人に順番に相手をしてもらい、指導された事を少し離れておさらいしながらも、他人の手合わせを誰もが時に食い入るように見ているのだ。
「ファル兄ってばまた……」
フェルマー学園の創設者の夫であるマートゥファル・マランド。竜人族である彼は、今現在、竜人族の里の外に出ている唯一の竜人族だ。
ファルは、ひと月毎にこの学園街と、サルバを交互に行き来し、滞在している。
その間、それぞれの冒険者ギルドで一人剣の訓練をしていたのだが、ティアの友人達を筆頭に手合わせを願い出るようになると、多くの冒険者達も混ざるようになり、現在のような状態になっていた。
しばらくファルを中心とする稽古を見守っていたティアだったが、ルクスが気付いたようだ。
「ティアっ。おはよう。昨日はどこへ行っていたんだ?」
「王宮。ちょっと詰めたい話もあったから」
「あまり無茶を言って困らせるんじゃないぞ?」
「分かってる。常識の範囲内って気をつけてるから」
「そうか?」
ルクスはこの頃、ティアの行動を煩く注意しなくなった。どこへ行くにも着いて来たがっていた過保護さが、少し和らいだようだ。
どうやらこれはティアの見た目が関係しているようで、大人へと日々近づいていくティアを目にして、守るべき子どもではなく、一人の人として見えるようになったのだろう。
「それで? ティアもやるか?」
ルクスが笑みを浮かべ、朝稽古をどうだと言う。こんな所も変わった。それは、ファルに稽古をつけてもらった事で、腕に自信がついたからだ。
「言ったね? 朝からボロボロにしてやるんだから」
「うっ、棍棒だよな?」
「選ばせてあげよう。どの私がお好み?」
「ぐっ……こ、棍棒で……」
「え? 鞭もあるよ?」
「やめてくれっ!」
こんな時の反応も楽しむティアだ。
真っ赤になった顔を背け、咳払いをすると、ルクスは気を取り直し、ティアと距離を空けて向かい合う。
それを確認して、ティアはアイテムボックスから愛用の棍棒を取り出した。
「それじゃぁ、はじめよう」
「あぁ」
しばらくすると、皆の目が集まるようになるが、それはいつもの事なのだった。
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舞台裏のお話。
ラキア「キルシュさん。アデルさん。おはようございます」
キルシュ「おはよう」
アデル「おっはよ~。ティアは?」
ラキア「ギルドに行かれました」
アデル「あぁぁっ、出遅れた……」
キルシュ「ルクスさんも行ったのか……うちの護衛に気を遣わなくてもいいのに……」
アデル「朝稽古なんてしないもんね」
キルシュ「ケイ兄上がいれば違うんだろうがな……」
アデル「そういえば、ケイギルお兄さんって、最近良くここに顔を出すよね? 王宮勤務のはずでしょ?」
ラキア「ケイギルさんでしたら、先々月でしたか……紅翼に移ったそうですよ?」
キルシュ「えっ⁉︎」
アデル「あら~……やっちゃったね……」
キルシュ「……よりにもよってティア崇拝の……」
アデル「違うよ。キルシュ。ティアじゃなくて、バトラール女王様崇拝だよ」
ラキア「騎士では最強の部隊ですからね。さすがはティア様です」
キルシュ「……ど……どうすれば……」
アデル「諦めなよ。大丈夫。身体的な害はないし」
キルシュ「なぜそこで身体と限定した?」
ラキア「そうですね。害どころか。体は鍛えられます」
キルシュ「だから、なぜ『体』と限定する⁉︎」
アデル「やだなぁ。分かってるでしょ?」
ラキア「聞きたいのですか?」
キルシュ「もう何も言わないで……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
はい。精神面の保障はなしです。
変化があります。
ファル兄も生き生きと、日々ティアや友人達の傍で暮らしています。
ルクスは頼もしくなりました。
では次回、一日空けて3日です。
よろしくお願いします◎
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