女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
344 / 457
連載

494 小心者なので

しおりを挟む
2016. 9. 23

**********

王都に着いたティアとルクスは、ゼブロを連れて王宮へ向かう。

この時、すでにティアはバトラールの姿になっていた。ただでさえ、銀に輝く体毛を持った大型のフットウルフは目立つ。そんなゼブロの隣を、こちらも目立つ赤味がかった長い髪の美女が歩いているのだ。

昼を過ぎた辺りの大通りは、軽いパニック状態だった。

「みんな、避けていくな……」
「怖がらなくてもいいのになぁ」
「いや……それとはまた別だと思うぞ……」

ティアは人々が大袈裟に道を空けるのは、ゼブロを怖がってのものだと思っていた。

しかし、実態はまるで時の英雄の凱旋を見るような、堂々としたティアとゼブロの姿に気圧された為だ。

日の光を反射するほどのゼブロの見事な毛並みと、その光を集めるかのように見えるティアの姿。ルクスの存在など、全くといっていいほど人々の目に入らないだろう。

例え、これがシェリスであったとしても、ティアとゼブロの並ぶ姿には霞んでしまったはずだ。

ルクスは大層、居心地が悪い思いをしていた。

「シルはさすがに、まだ戻って来ないよな……」

こんなにも心細く感じるのは初めてだと、ルクスは無理と承知でも仲間を求めずにはいられなかったようだ。しかし、ティアには違う意味に聞こえたらしい。

「ん? あ~、やっぱしちょい便利に使い過ぎた? シルって、そうは見えないけど有能だよね~」
「……そうは見えないは余計だ……」

男爵の所から役目を終えてすぐに、馬を乗り潰しながら夜通し駆けて追い付こうとするような、そんな無茶を無茶と思わずにやってのける者が、普通であるはずがない。

ティアも、出来ると確信しているからシルに頼るのだ。それを少しだけ羨ましいとも思う。

だが今はそんな事よりも、この浮きまくった状況のそばに一人でいるのは辛い。そんなルクスの思いが届いたのは目的地に辿り着いた時だった。

王宮の前まで来ると、門前にビアンが待っていたのだ。

「ビアン……」

門前の兵にまで存在を感知されなかったらと思い、少々不貞腐れていたルクスは、思わず縋るような目を向けていた。

「ルクス……大変だったな……」

ビアンはティアとゼブロが並ぶ様子と、その後ろを所在無げについてくるルクスを見て、ルクスの心情を正確に理解したようだ。

「ありがとう……なんだか精霊達を無視していた昔の自分を猛烈に反省したくなった……」
「っ、そうか……以後、私も気を付けよう……」
「んん? 何言ってんの? ルクス」
「……いいんだ……気にするな……」
「ふぅ~ん」

二人して落ち込む様子が気になったが、二人にしか分からない事情でもあるのだろうと割り切り、ティアはあっさり頭を切り替える。

「そういえば、ビアンさん、なんか久し振り」
「そうだね。その姿だと……うん……」

そう応えを返したビアンは、小さく数歩下がった。

「腰が引けてる」
「う、うん……申し訳ない……」
「まぁいいけど。まだ慣れない?」
「というか、もう条件反射みたいなものだから……申し訳ない……」
「仕方ないか」
「はい……」

ウルスヴァンもそうだが、ビアンもバトラールモードのティアには、まだ慣れないようだ。どうしても近付き難く思えてしまうのだという。こればかりは時間をかけて慣れてもらうしかない。

ティアとルクスは、ゼブロを王宮の騎獣小屋に預けると、ビアンについて王が待つという会議室へ向かった。

「ところで、ビアンさんは、なんで私がこの姿じゃなきゃダメなのか知ってる?」
「えっ、あ、え、えっと……」

なんだか妙に余所余所しい。目が完全に泳いでいるのだ。これで知らないとは言わせない。

「なんで?」

ティアがジト目を向ければ、ビアンは肩を大きく落とした。

「バレたんだ……」
「なにが?」

さっさと答えろという思いが声を低くする。それに小さく背中を震わせたビアンは、ちらりとルクスへ視線を送った。そうして、小さな声で答えたのだ。

「レイナルート様に、君の事がバレたんだ」
「それが何か問題なの?」
「……」

ティアは知らない。王太子がバトラールへ密かに抱いた恋心。婚約の話が出ても、本心はまだバトラール・フィスマに囚われているのだという事を。

だから、ビアンは言いにくそうにしていた。ルクスは察している。分からないのは本人だけだ。

そんなティアだけが理解できない雰囲気が気に入らなかった。イラついた声音でティアは再び問い掛ける。

「だからなに?」

バトラールの姿でそう言うのは、ビアンとルクスの心臓に悪いらしい。ティアとしての本来の姿の時よりも、明らかに今の方が一瞬で『気分が悪かったから』の一言でもって城を吹き飛ばしてしまいそうだからかもしれない。

しかし、この場で迂闊な事は口に出来ない。ビアンは内側に感じている恐怖を抑え込みながら、目的の部屋の前まで急いだ。

「事情は部屋の中でお聞きになってください……」

そう言って、会議室の扉をノックしたのだ。

**********

舞台裏のお話。

マティ《ねえ、マスター。王太子が主にプロポーズしたらどうする?》

シル「……」

シェリス「バトラールの姿のティアに求婚が出来る度量があるようには思えませんね」

マティ《もし、もしもそうなったらどうする?》

シェリス「まずティアが、相手にするとは思えません」

マティ《言いたくないの?》

シェリス「……縛り上げ、吊るしてから、斬り裂いてやりましょう……」

マティ《聞かない方が良かったね……》

シル「殺気を感じましたよ……」


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


会話は選びましょうね。


ビアンさんもビクビクです。
口調は完全に女王様モードになっていませんが、見た目の迫力はあります。
わざわざバトラールモードにならなくてはならなかった理由は……。


では次回、一日空けて25日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。