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494 小心者なので
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2016. 9. 23
**********
王都に着いたティアとルクスは、ゼブロを連れて王宮へ向かう。
この時、すでにティアはバトラールの姿になっていた。ただでさえ、銀に輝く体毛を持った大型のフットウルフは目立つ。そんなゼブロの隣を、こちらも目立つ赤味がかった長い髪の美女が歩いているのだ。
昼を過ぎた辺りの大通りは、軽いパニック状態だった。
「みんな、避けていくな……」
「怖がらなくてもいいのになぁ」
「いや……それとはまた別だと思うぞ……」
ティアは人々が大袈裟に道を空けるのは、ゼブロを怖がってのものだと思っていた。
しかし、実態はまるで時の英雄の凱旋を見るような、堂々としたティアとゼブロの姿に気圧された為だ。
日の光を反射するほどのゼブロの見事な毛並みと、その光を集めるかのように見えるティアの姿。ルクスの存在など、全くといっていいほど人々の目に入らないだろう。
例え、これがシェリスであったとしても、ティアとゼブロの並ぶ姿には霞んでしまったはずだ。
ルクスは大層、居心地が悪い思いをしていた。
「シルはさすがに、まだ戻って来ないよな……」
こんなにも心細く感じるのは初めてだと、ルクスは無理と承知でも仲間を求めずにはいられなかったようだ。しかし、ティアには違う意味に聞こえたらしい。
「ん? あ~、やっぱしちょい便利に使い過ぎた? シルって、そうは見えないけど有能だよね~」
「……そうは見えないは余計だ……」
男爵の所から役目を終えてすぐに、馬を乗り潰しながら夜通し駆けて追い付こうとするような、そんな無茶を無茶と思わずにやってのける者が、普通であるはずがない。
ティアも、出来ると確信しているからシルに頼るのだ。それを少しだけ羨ましいとも思う。
だが今はそんな事よりも、この浮きまくった状況のそばに一人でいるのは辛い。そんなルクスの思いが届いたのは目的地に辿り着いた時だった。
王宮の前まで来ると、門前にビアンが待っていたのだ。
「ビアン……」
門前の兵にまで存在を感知されなかったらと思い、少々不貞腐れていたルクスは、思わず縋るような目を向けていた。
「ルクス……大変だったな……」
ビアンはティアとゼブロが並ぶ様子と、その後ろを所在無げについてくるルクスを見て、ルクスの心情を正確に理解したようだ。
「ありがとう……なんだか精霊達を無視していた昔の自分を猛烈に反省したくなった……」
「っ、そうか……以後、私も気を付けよう……」
「んん? 何言ってんの? ルクス」
「……いいんだ……気にするな……」
「ふぅ~ん」
二人して落ち込む様子が気になったが、二人にしか分からない事情でもあるのだろうと割り切り、ティアはあっさり頭を切り替える。
「そういえば、ビアンさん、なんか久し振り」
「そうだね。その姿だと……うん……」
そう応えを返したビアンは、小さく数歩下がった。
「腰が引けてる」
「う、うん……申し訳ない……」
「まぁいいけど。まだ慣れない?」
「というか、もう条件反射みたいなものだから……申し訳ない……」
「仕方ないか」
「はい……」
ウルスヴァンもそうだが、ビアンもバトラールモードのティアには、まだ慣れないようだ。どうしても近付き難く思えてしまうのだという。こればかりは時間をかけて慣れてもらうしかない。
ティアとルクスは、ゼブロを王宮の騎獣小屋に預けると、ビアンについて王が待つという会議室へ向かった。
「ところで、ビアンさんは、なんで私がこの姿じゃなきゃダメなのか知ってる?」
「えっ、あ、え、えっと……」
なんだか妙に余所余所しい。目が完全に泳いでいるのだ。これで知らないとは言わせない。
「なんで?」
ティアがジト目を向ければ、ビアンは肩を大きく落とした。
「バレたんだ……」
「なにが?」
さっさと答えろという思いが声を低くする。それに小さく背中を震わせたビアンは、ちらりとルクスへ視線を送った。そうして、小さな声で答えたのだ。
「レイナルート様に、君の事がバレたんだ」
「それが何か問題なの?」
「……」
ティアは知らない。王太子がバトラールへ密かに抱いた恋心。婚約の話が出ても、本心はまだバトラール・フィスマに囚われているのだという事を。
だから、ビアンは言いにくそうにしていた。ルクスは察している。分からないのは本人だけだ。
そんなティアだけが理解できない雰囲気が気に入らなかった。イラついた声音でティアは再び問い掛ける。
「だからなに?」
バトラールの姿でそう言うのは、ビアンとルクスの心臓に悪いらしい。ティアとしての本来の姿の時よりも、明らかに今の方が一瞬で『気分が悪かったから』の一言でもって城を吹き飛ばしてしまいそうだからかもしれない。
しかし、この場で迂闊な事は口に出来ない。ビアンは内側に感じている恐怖を抑え込みながら、目的の部屋の前まで急いだ。
「事情は部屋の中でお聞きになってください……」
そう言って、会議室の扉をノックしたのだ。
**********
舞台裏のお話。
マティ《ねえ、マスター。王太子が主にプロポーズしたらどうする?》
シル「……」
シェリス「バトラールの姿のティアに求婚が出来る度量があるようには思えませんね」
マティ《もし、もしもそうなったらどうする?》
シェリス「まずティアが、相手にするとは思えません」
マティ《言いたくないの?》
シェリス「……縛り上げ、吊るしてから、斬り裂いてやりましょう……」
マティ《聞かない方が良かったね……》
シル「殺気を感じましたよ……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
会話は選びましょうね。
ビアンさんもビクビクです。
口調は完全に女王様モードになっていませんが、見た目の迫力はあります。
わざわざバトラールモードにならなくてはならなかった理由は……。
では次回、一日空けて25日です。
よろしくお願いします◎
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王都に着いたティアとルクスは、ゼブロを連れて王宮へ向かう。
この時、すでにティアはバトラールの姿になっていた。ただでさえ、銀に輝く体毛を持った大型のフットウルフは目立つ。そんなゼブロの隣を、こちらも目立つ赤味がかった長い髪の美女が歩いているのだ。
昼を過ぎた辺りの大通りは、軽いパニック状態だった。
「みんな、避けていくな……」
「怖がらなくてもいいのになぁ」
「いや……それとはまた別だと思うぞ……」
ティアは人々が大袈裟に道を空けるのは、ゼブロを怖がってのものだと思っていた。
しかし、実態はまるで時の英雄の凱旋を見るような、堂々としたティアとゼブロの姿に気圧された為だ。
日の光を反射するほどのゼブロの見事な毛並みと、その光を集めるかのように見えるティアの姿。ルクスの存在など、全くといっていいほど人々の目に入らないだろう。
例え、これがシェリスであったとしても、ティアとゼブロの並ぶ姿には霞んでしまったはずだ。
ルクスは大層、居心地が悪い思いをしていた。
「シルはさすがに、まだ戻って来ないよな……」
こんなにも心細く感じるのは初めてだと、ルクスは無理と承知でも仲間を求めずにはいられなかったようだ。しかし、ティアには違う意味に聞こえたらしい。
「ん? あ~、やっぱしちょい便利に使い過ぎた? シルって、そうは見えないけど有能だよね~」
「……そうは見えないは余計だ……」
男爵の所から役目を終えてすぐに、馬を乗り潰しながら夜通し駆けて追い付こうとするような、そんな無茶を無茶と思わずにやってのける者が、普通であるはずがない。
ティアも、出来ると確信しているからシルに頼るのだ。それを少しだけ羨ましいとも思う。
だが今はそんな事よりも、この浮きまくった状況のそばに一人でいるのは辛い。そんなルクスの思いが届いたのは目的地に辿り着いた時だった。
王宮の前まで来ると、門前にビアンが待っていたのだ。
「ビアン……」
門前の兵にまで存在を感知されなかったらと思い、少々不貞腐れていたルクスは、思わず縋るような目を向けていた。
「ルクス……大変だったな……」
ビアンはティアとゼブロが並ぶ様子と、その後ろを所在無げについてくるルクスを見て、ルクスの心情を正確に理解したようだ。
「ありがとう……なんだか精霊達を無視していた昔の自分を猛烈に反省したくなった……」
「っ、そうか……以後、私も気を付けよう……」
「んん? 何言ってんの? ルクス」
「……いいんだ……気にするな……」
「ふぅ~ん」
二人して落ち込む様子が気になったが、二人にしか分からない事情でもあるのだろうと割り切り、ティアはあっさり頭を切り替える。
「そういえば、ビアンさん、なんか久し振り」
「そうだね。その姿だと……うん……」
そう応えを返したビアンは、小さく数歩下がった。
「腰が引けてる」
「う、うん……申し訳ない……」
「まぁいいけど。まだ慣れない?」
「というか、もう条件反射みたいなものだから……申し訳ない……」
「仕方ないか」
「はい……」
ウルスヴァンもそうだが、ビアンもバトラールモードのティアには、まだ慣れないようだ。どうしても近付き難く思えてしまうのだという。こればかりは時間をかけて慣れてもらうしかない。
ティアとルクスは、ゼブロを王宮の騎獣小屋に預けると、ビアンについて王が待つという会議室へ向かった。
「ところで、ビアンさんは、なんで私がこの姿じゃなきゃダメなのか知ってる?」
「えっ、あ、え、えっと……」
なんだか妙に余所余所しい。目が完全に泳いでいるのだ。これで知らないとは言わせない。
「なんで?」
ティアがジト目を向ければ、ビアンは肩を大きく落とした。
「バレたんだ……」
「なにが?」
さっさと答えろという思いが声を低くする。それに小さく背中を震わせたビアンは、ちらりとルクスへ視線を送った。そうして、小さな声で答えたのだ。
「レイナルート様に、君の事がバレたんだ」
「それが何か問題なの?」
「……」
ティアは知らない。王太子がバトラールへ密かに抱いた恋心。婚約の話が出ても、本心はまだバトラール・フィスマに囚われているのだという事を。
だから、ビアンは言いにくそうにしていた。ルクスは察している。分からないのは本人だけだ。
そんなティアだけが理解できない雰囲気が気に入らなかった。イラついた声音でティアは再び問い掛ける。
「だからなに?」
バトラールの姿でそう言うのは、ビアンとルクスの心臓に悪いらしい。ティアとしての本来の姿の時よりも、明らかに今の方が一瞬で『気分が悪かったから』の一言でもって城を吹き飛ばしてしまいそうだからかもしれない。
しかし、この場で迂闊な事は口に出来ない。ビアンは内側に感じている恐怖を抑え込みながら、目的の部屋の前まで急いだ。
「事情は部屋の中でお聞きになってください……」
そう言って、会議室の扉をノックしたのだ。
**********
舞台裏のお話。
マティ《ねえ、マスター。王太子が主にプロポーズしたらどうする?》
シル「……」
シェリス「バトラールの姿のティアに求婚が出来る度量があるようには思えませんね」
マティ《もし、もしもそうなったらどうする?》
シェリス「まずティアが、相手にするとは思えません」
マティ《言いたくないの?》
シェリス「……縛り上げ、吊るしてから、斬り裂いてやりましょう……」
マティ《聞かない方が良かったね……》
シル「殺気を感じましたよ……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
会話は選びましょうね。
ビアンさんもビクビクです。
口調は完全に女王様モードになっていませんが、見た目の迫力はあります。
わざわざバトラールモードにならなくてはならなかった理由は……。
では次回、一日空けて25日です。
よろしくお願いします◎
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