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522 学園案内
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2016. 11. 11
**********
ティアが教室の入り口に立つと、全員の視線が集まった。
「失礼します」
そう一言、はっきりと響く声でティアは告げる。すると、近くにいた女生徒が頬を赤らめ、緊張した面持ちで尋ねてきた。
「ヒュ、ヒュースリーさん……どういったご用件かしら……」
「学園長から、ヒュリア様に学園を案内するように申しつかりました」
「私を?」
そうして、ゆっくりとヒュリア・ウィストが立ち上がった。
長いストレートの金の髪。多くの女性徒よりも背が高くスラリと伸びた手足も長い。少々気が強そうな目鼻立ちのはっきりとした顔。美しい王女だった。
「はい。学内をご案内させていただきます」
「そう……ありがとう。お願いするわ」
教科書類が入っているのだろう。重そうな鞄を持ち、ティアの待つ入り口まで来る。
「ではこちらへ。失礼いたしました」
ポカンと口を開けてティアとヒュリアが出て行くのを見ていた生徒達に笑顔を向けておく。そうして、廊下を並んで歩き出す。
それからしばらくして、ティアは生徒達の姿が見えなくなった場所で、ヒュリアへ手を差し出す。
「お荷物は、先に寮へ届けさせましょう」
「え、えぇ……」
ティアは今一度生徒達がいないかを気配で確認すると、天井に向かって声をかける。
「ディン」
「はっ。ここに」
「え!?」
ティアの傍らに、一人の少年が現れた。
「彼はディン。この学園を守る警備の一人です」
「……」
笑顔で言い切ってみたティアだが、ヒュリアは簡単に騙されるような人ではなかったようだ。
「警備って……そんな、今まで気配もなかったわ……ただの警備なはずがありませんわっ」
ヒュリアは国を顧みずに遊学してはいるが、愚かなわけではない。頭の悪い常識も何も分かっていない馬鹿貴族のような王女だったら嫌だと思ってはいたが、その心配はないようだ。
「失礼しました。確かに、ただの警備ではありません。彼は人の国で、最も身体能力に優れた一族の出です。それも、その中でトップクラス。十人からなる一族で最も優秀な精鋭部隊の一人です」
ディンとは十番目の意味。最年少十九才。優秀な若者だ。
「ディン。ヒュリア様のお荷物を寮に届けてちょうだい」
「承知いたしました。失礼いたします」
「……お願いするわ……」
「はい。お付きのメイドにお渡しいたします。では」
そういって現れた時同様に、一瞬で姿を消した。
どこかに隠し通路でもあるのではないかと、ヒュリアはキョロキョロと辺りを見回す。しかし、その様子をティアが笑みを浮かべて見ている事に気付き、咳払いをして背筋を伸ばした。
「そ、それで、これから案内してくださるというのは、どちらから?」
「ええ、ではまず、この学園の創立者であるフェルマー・マランドの肖像画がある本館へ行きましょう」
「まぁっ、それは見る事ができるの? そういえば、この学園はかなり歴史あるものだとお聞きしましたわ」
「はい。創立についてご興味がおありですか?」
「もちろんっ、教えていただけますっ?」
身を乗り出して、興奮した様子でティアに詰め寄るヒュリア。これにはティアも驚いて目を瞠る。
「し、失礼しました……私ったら……」
「ふふっ、構いません。ヒュリア様は探究心がおありだと聞き及んでおりますから、興味を持っていただけたら、私も嬉しいです」
ティアはヒュリアについて評価をグッと上げる。最初は気難しい印象だったが、どうも同類な気がするのだ。
その後、ヒュリアを案内しながら、学園に正確に伝わっていない秘話も交え、フェルマーの事やその夫であるファルの事も思わず話してしまった。
「ヒュースリーさんはまだ中学部だというのに、色々な事を良くご存知なのですね」
学園を回り終える頃には、ヒュリアは笑顔でティアの隣を歩いていた。
「知らない事を知るのが楽しいのです。様々な事を知っている友人達に見つけた疑問をぶつけるのが遊びみたいなもので、昔は散々友人達を困らせました」
「そうなの? 物知りなご友人がいたものねぇ」
話してから少しばかり焦ったのは内緒だ。ティア自身、ヒュリアに心を許しはじめているようだ。
クスクスと笑い合い、学園の外に出る。その時だった。
「っ!?」
キラリと光る何かがヒュリア目掛けて飛んで来るのが見えた。
「危ないっ!」
ティアは咄嗟にヒュリアの腕を引っ張る。そこへ、間に入ったのは、シルだった。
光るそれを叩き落とすと、ティアへ声をかける。
「ティア様、お怪我は」
「ないよ。ヒュリア様も無事」
既にシルが出てくると同時にクィーグの者達が飛んで来た方角へ向けて調べに動き出している。しかし、ティアは注意深くシルの叩き落としたそれーー短く、黒いナイフへ目を向ける。
「不用意にそれに触らないで。何か術が掛かってる……サクヤ姐さんを呼んで来て」
「はっ」
シルが駆けていくのを見送り、ナイフへ今一度目を向けたティアは、次いでゆっくりとヒュリアを振り返ったのだった。
**********
舞台裏のお話。
キルシュ「……なぁ……今の見たか?」
アデル「……凄いよ……ティアがいつもよりも数倍増しのぶ厚い皮を被ってるっ」
キルシュ「信じられない……それも、なんでか自然に見える……」
アデル「ティアって、演技力高いよねっ」
キルシュ「あぁして化けの皮を被るから、ウル先生が怖がるんじゃ……」
アデル「それあるねっ。でも、なんかやっぱりティアって元王女様なんだなって思った」
キルシュ「そうかっ。だから自然なのかっ」
アデル「あれ、もう一つのティアなのかもね。装ってるわけじゃなくて、王女のティア……」
キルシュ「そうかもな……でも、やっぱりらしくない」
アデル「うんっ。ティアは魔獣相手に戦ってる時の方が楽しそうだもん」
キルシュ「……それもどうかと思うがな……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
いっぱい被れる皮を持っています。
王女様は、ティアちゃんと相性が良さそうです。
はっきりした物言いで国を出て遊学している人ですからね。
自分の思った事を言えるのは、ちょっとティアちゃんに似ているのかもしれません。
さて、これは暗殺未遂?
では次回、一日空けて13日です。
よろしくお願いします◎
**********
ティアが教室の入り口に立つと、全員の視線が集まった。
「失礼します」
そう一言、はっきりと響く声でティアは告げる。すると、近くにいた女生徒が頬を赤らめ、緊張した面持ちで尋ねてきた。
「ヒュ、ヒュースリーさん……どういったご用件かしら……」
「学園長から、ヒュリア様に学園を案内するように申しつかりました」
「私を?」
そうして、ゆっくりとヒュリア・ウィストが立ち上がった。
長いストレートの金の髪。多くの女性徒よりも背が高くスラリと伸びた手足も長い。少々気が強そうな目鼻立ちのはっきりとした顔。美しい王女だった。
「はい。学内をご案内させていただきます」
「そう……ありがとう。お願いするわ」
教科書類が入っているのだろう。重そうな鞄を持ち、ティアの待つ入り口まで来る。
「ではこちらへ。失礼いたしました」
ポカンと口を開けてティアとヒュリアが出て行くのを見ていた生徒達に笑顔を向けておく。そうして、廊下を並んで歩き出す。
それからしばらくして、ティアは生徒達の姿が見えなくなった場所で、ヒュリアへ手を差し出す。
「お荷物は、先に寮へ届けさせましょう」
「え、えぇ……」
ティアは今一度生徒達がいないかを気配で確認すると、天井に向かって声をかける。
「ディン」
「はっ。ここに」
「え!?」
ティアの傍らに、一人の少年が現れた。
「彼はディン。この学園を守る警備の一人です」
「……」
笑顔で言い切ってみたティアだが、ヒュリアは簡単に騙されるような人ではなかったようだ。
「警備って……そんな、今まで気配もなかったわ……ただの警備なはずがありませんわっ」
ヒュリアは国を顧みずに遊学してはいるが、愚かなわけではない。頭の悪い常識も何も分かっていない馬鹿貴族のような王女だったら嫌だと思ってはいたが、その心配はないようだ。
「失礼しました。確かに、ただの警備ではありません。彼は人の国で、最も身体能力に優れた一族の出です。それも、その中でトップクラス。十人からなる一族で最も優秀な精鋭部隊の一人です」
ディンとは十番目の意味。最年少十九才。優秀な若者だ。
「ディン。ヒュリア様のお荷物を寮に届けてちょうだい」
「承知いたしました。失礼いたします」
「……お願いするわ……」
「はい。お付きのメイドにお渡しいたします。では」
そういって現れた時同様に、一瞬で姿を消した。
どこかに隠し通路でもあるのではないかと、ヒュリアはキョロキョロと辺りを見回す。しかし、その様子をティアが笑みを浮かべて見ている事に気付き、咳払いをして背筋を伸ばした。
「そ、それで、これから案内してくださるというのは、どちらから?」
「ええ、ではまず、この学園の創立者であるフェルマー・マランドの肖像画がある本館へ行きましょう」
「まぁっ、それは見る事ができるの? そういえば、この学園はかなり歴史あるものだとお聞きしましたわ」
「はい。創立についてご興味がおありですか?」
「もちろんっ、教えていただけますっ?」
身を乗り出して、興奮した様子でティアに詰め寄るヒュリア。これにはティアも驚いて目を瞠る。
「し、失礼しました……私ったら……」
「ふふっ、構いません。ヒュリア様は探究心がおありだと聞き及んでおりますから、興味を持っていただけたら、私も嬉しいです」
ティアはヒュリアについて評価をグッと上げる。最初は気難しい印象だったが、どうも同類な気がするのだ。
その後、ヒュリアを案内しながら、学園に正確に伝わっていない秘話も交え、フェルマーの事やその夫であるファルの事も思わず話してしまった。
「ヒュースリーさんはまだ中学部だというのに、色々な事を良くご存知なのですね」
学園を回り終える頃には、ヒュリアは笑顔でティアの隣を歩いていた。
「知らない事を知るのが楽しいのです。様々な事を知っている友人達に見つけた疑問をぶつけるのが遊びみたいなもので、昔は散々友人達を困らせました」
「そうなの? 物知りなご友人がいたものねぇ」
話してから少しばかり焦ったのは内緒だ。ティア自身、ヒュリアに心を許しはじめているようだ。
クスクスと笑い合い、学園の外に出る。その時だった。
「っ!?」
キラリと光る何かがヒュリア目掛けて飛んで来るのが見えた。
「危ないっ!」
ティアは咄嗟にヒュリアの腕を引っ張る。そこへ、間に入ったのは、シルだった。
光るそれを叩き落とすと、ティアへ声をかける。
「ティア様、お怪我は」
「ないよ。ヒュリア様も無事」
既にシルが出てくると同時にクィーグの者達が飛んで来た方角へ向けて調べに動き出している。しかし、ティアは注意深くシルの叩き落としたそれーー短く、黒いナイフへ目を向ける。
「不用意にそれに触らないで。何か術が掛かってる……サクヤ姐さんを呼んで来て」
「はっ」
シルが駆けていくのを見送り、ナイフへ今一度目を向けたティアは、次いでゆっくりとヒュリアを振り返ったのだった。
**********
舞台裏のお話。
キルシュ「……なぁ……今の見たか?」
アデル「……凄いよ……ティアがいつもよりも数倍増しのぶ厚い皮を被ってるっ」
キルシュ「信じられない……それも、なんでか自然に見える……」
アデル「ティアって、演技力高いよねっ」
キルシュ「あぁして化けの皮を被るから、ウル先生が怖がるんじゃ……」
アデル「それあるねっ。でも、なんかやっぱりティアって元王女様なんだなって思った」
キルシュ「そうかっ。だから自然なのかっ」
アデル「あれ、もう一つのティアなのかもね。装ってるわけじゃなくて、王女のティア……」
キルシュ「そうかもな……でも、やっぱりらしくない」
アデル「うんっ。ティアは魔獣相手に戦ってる時の方が楽しそうだもん」
キルシュ「……それもどうかと思うがな……」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
いっぱい被れる皮を持っています。
王女様は、ティアちゃんと相性が良さそうです。
はっきりした物言いで国を出て遊学している人ですからね。
自分の思った事を言えるのは、ちょっとティアちゃんに似ているのかもしれません。
さて、これは暗殺未遂?
では次回、一日空けて13日です。
よろしくお願いします◎
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