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連載
529 母子に見えます?
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2016. 11. 23
**********
学園街にあるヒュースリー伯爵家の屋敷。そこへ、月が白く輝く頃、ティア達は到着した。
「ついたぁ」
「ついたよぉ」
「……眠くないの?」
《マティも眠くないよ》
「……」
イルーシュとカイラントと手を繋ぎ、ティアはバトラールモードで街を歩いてきた。
マティに乗せてそのまま運ぼうとしたのだが、歩くと言って聞かなかったのだ。
イルーシュとカイラントの身分証は発行されていたので、門も問題なく通れる。ただ、明日以降、バトラールに子どもがいると噂になりそうだ。
嬉しそうにぴったりと両側にくっ付いている双子。足元には小さな子犬姿のマティ。街を散策しながらはしゃぐ子どもを連れていてる姿は、目立つだろう。
そうして、やっとの思いで屋敷に辿り着いたのだ。
「ただいま……」
「お帰りなさいませ」
ラキアは双子を見た後もいつも通りの笑顔で迎え入れてくれる。
「ごめんね、ラキアちゃん。急にこの子達連れてくる事になっちゃったんだけど……」
ラキアの負担になってしまうと、申し訳ない思いでそう言えば、ラキアは笑みを深める。
「ご心配には及びません。お二人のベッドは、簡易ですが、ティア様のお部屋に用意させていただきました。初めてのお屋敷で心細いかと思いましたので」
「え……なんで用意できてるの?」
二人を連れてくるとは事前に話していない。急遽決まった事なのだ。それなのに、既にベッドまで用意出来ていると言う。
「お二人を近く、サルバのお屋敷にとお話されていましたので、この時間と、お二人の懐きようを風の噂で耳にしまして、こうなるのではないかと予想いたしました」
「……クロちゃんはわかるけど、ラキアちゃんまで……」
「兄にはまだまだ敵いません」
「……」
マクレート兄妹恐るべし。
「あ、申し遅れました。わたくし、ラキアと申します。ティア様の僕ですので、なんでも仰ってください」
「こら……」
子どもには理解出来ないかもしれないが、僕と言うのは、良い言葉ではないのでやめてほしい。
「はじめまして、イルーシュです」
「カイラントです。おせわになります」
「はい。お世話させていただきます」
しっかりと挨拶も出来るようになった二人だ。
「では、湯浴みのお支度も出来ておりますので、お二人を先に。ティア様は、カル様がお待ちです」
「……早いな……」
予想よりも遥かに早いお越しだ。ラキアに双子と湯浴み好きなマティも任せ、少しばかり緊張しながら談話室へと向かう。
そこでは、アデルとキルシュが楽しそうにカルツォーネを挟んで話をしていた。
「では、こちらの歴史書に書かれている事は嘘なのですか?」
「嘘という程のものではないが、事実ではない。こういうものは、別方向からも見るべきだ。ティアが別の人の書いた歴史書を幾つか持っているから、見せてもらうといい」
「はい」
キルシュはカルツォーネに過去の話を聞くのが楽しいらしい。会うたびに、色々と話をせがんでいた。
「こんな……感じ?」
「おや、上手く出来たね。そうだ。それが魔石だよ」
「やったっ。出来たっ」
アデルは、魔導具の作り方を教えてもらっているようで、ようやく魔核を魔石へと変換する事が出来るようになったらしい。
二人の相手をしていたカルツォーネは、部屋の入り口に立ったティアに気付き、顔を上げる。いつも通りの煌めく笑顔付きだ。
「やぁ、ティア。待ってたよ」
「ごめん……こんなに早く来られるとは思ってなかった……」
苦笑いを浮かべ、ティアは一応言い訳をしておく。
「全速力で来たからね。それで、ティア。私の知らない内に色々とあったんだってね。可愛い弟も出来たみたいだし、話してもらおうかな?」
「……はい……」
煌めきの中に、何か黒いものがあると感じる。魔王様相手に言い訳もこれ以上は出来ないと察し、肩を落としたのだった。
**********
舞台裏のお話。
ウル「カル様がいらしていたのですか?」
サクヤ「ええ……」
ウル「どうかしました?」
サクヤ「かなり怒っていたから、ティアが大丈夫かしらと思って……」
ウル「何かしました?」
サクヤ「髪の色、変わったの話してなかったみたいなのよ……」
ウル「それは……怒るかもしれませんね……」
サクヤ「よね……カルに言ってないって事は、あの変態エルフやファルにも言ってないわね……まったく困った子だわ」
ウル「あまり報告するような大した事だと思っていないのでは? こう言ってはなんですが、ティアさんは少し感覚がズレていたりしますし……」
サクヤ「そうね……やっぱり生まれた環境なのかしら。王女気質って言うの? けっこう溜め込むのよね……甘ちゃんな王女だったら良かったんだけど」
ウル「こればかりは、周りで変えていかないければならないのかもしれません」
サクヤ「えぇ……ティアの場合、甘やかすくらいが丁度いいのかもしれないわね。頼る事を知らないんだもの」
ウル「心配している事を、理解してもらわなくてはいけません」
サクヤ「なら、ウルもちょっと甘やかしてやってね」
ウル「えっ……いえ、あの……」
サクヤ「なによ。取って食ったりしないって言ってるでしょ?」
ウル「わ、私に頼るような方ではないかと……」
サクヤ「でもこの前、ティアが倒れた時はすっごく心配してたじゃない?」
ウル「あ、あれは……あんな風に弱っていたら心配するのは当然かと……」
サクヤ「気に入ってるって言われて嬉しかったでしょ?」
ウル「それは……っ……はい……っ」
サクヤ「ふふふっ。ウルったら、本当は好きなくせに」
ウル「ち、違います!」
サクヤ「懐いたら可愛いわよ~」
ウル「……努力します……っ」
サクヤ「よろしい。思いっきり甘やかして、目指せ寵愛ナンバーワン!」
ウル「なんの話です!?」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
お気に入り登録されました。
子育てに疲れたお母さんのようです。
子ども二人……と一匹。
走り回るような子ではないのは幸いです。
そして現れた魔王様。
全部、洗いざらい吐かせられるのでしょう。
では次回、一日空けて25日です。
よろしくお願いします◎
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学園街にあるヒュースリー伯爵家の屋敷。そこへ、月が白く輝く頃、ティア達は到着した。
「ついたぁ」
「ついたよぉ」
「……眠くないの?」
《マティも眠くないよ》
「……」
イルーシュとカイラントと手を繋ぎ、ティアはバトラールモードで街を歩いてきた。
マティに乗せてそのまま運ぼうとしたのだが、歩くと言って聞かなかったのだ。
イルーシュとカイラントの身分証は発行されていたので、門も問題なく通れる。ただ、明日以降、バトラールに子どもがいると噂になりそうだ。
嬉しそうにぴったりと両側にくっ付いている双子。足元には小さな子犬姿のマティ。街を散策しながらはしゃぐ子どもを連れていてる姿は、目立つだろう。
そうして、やっとの思いで屋敷に辿り着いたのだ。
「ただいま……」
「お帰りなさいませ」
ラキアは双子を見た後もいつも通りの笑顔で迎え入れてくれる。
「ごめんね、ラキアちゃん。急にこの子達連れてくる事になっちゃったんだけど……」
ラキアの負担になってしまうと、申し訳ない思いでそう言えば、ラキアは笑みを深める。
「ご心配には及びません。お二人のベッドは、簡易ですが、ティア様のお部屋に用意させていただきました。初めてのお屋敷で心細いかと思いましたので」
「え……なんで用意できてるの?」
二人を連れてくるとは事前に話していない。急遽決まった事なのだ。それなのに、既にベッドまで用意出来ていると言う。
「お二人を近く、サルバのお屋敷にとお話されていましたので、この時間と、お二人の懐きようを風の噂で耳にしまして、こうなるのではないかと予想いたしました」
「……クロちゃんはわかるけど、ラキアちゃんまで……」
「兄にはまだまだ敵いません」
「……」
マクレート兄妹恐るべし。
「あ、申し遅れました。わたくし、ラキアと申します。ティア様の僕ですので、なんでも仰ってください」
「こら……」
子どもには理解出来ないかもしれないが、僕と言うのは、良い言葉ではないのでやめてほしい。
「はじめまして、イルーシュです」
「カイラントです。おせわになります」
「はい。お世話させていただきます」
しっかりと挨拶も出来るようになった二人だ。
「では、湯浴みのお支度も出来ておりますので、お二人を先に。ティア様は、カル様がお待ちです」
「……早いな……」
予想よりも遥かに早いお越しだ。ラキアに双子と湯浴み好きなマティも任せ、少しばかり緊張しながら談話室へと向かう。
そこでは、アデルとキルシュが楽しそうにカルツォーネを挟んで話をしていた。
「では、こちらの歴史書に書かれている事は嘘なのですか?」
「嘘という程のものではないが、事実ではない。こういうものは、別方向からも見るべきだ。ティアが別の人の書いた歴史書を幾つか持っているから、見せてもらうといい」
「はい」
キルシュはカルツォーネに過去の話を聞くのが楽しいらしい。会うたびに、色々と話をせがんでいた。
「こんな……感じ?」
「おや、上手く出来たね。そうだ。それが魔石だよ」
「やったっ。出来たっ」
アデルは、魔導具の作り方を教えてもらっているようで、ようやく魔核を魔石へと変換する事が出来るようになったらしい。
二人の相手をしていたカルツォーネは、部屋の入り口に立ったティアに気付き、顔を上げる。いつも通りの煌めく笑顔付きだ。
「やぁ、ティア。待ってたよ」
「ごめん……こんなに早く来られるとは思ってなかった……」
苦笑いを浮かべ、ティアは一応言い訳をしておく。
「全速力で来たからね。それで、ティア。私の知らない内に色々とあったんだってね。可愛い弟も出来たみたいだし、話してもらおうかな?」
「……はい……」
煌めきの中に、何か黒いものがあると感じる。魔王様相手に言い訳もこれ以上は出来ないと察し、肩を落としたのだった。
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舞台裏のお話。
ウル「カル様がいらしていたのですか?」
サクヤ「ええ……」
ウル「どうかしました?」
サクヤ「かなり怒っていたから、ティアが大丈夫かしらと思って……」
ウル「何かしました?」
サクヤ「髪の色、変わったの話してなかったみたいなのよ……」
ウル「それは……怒るかもしれませんね……」
サクヤ「よね……カルに言ってないって事は、あの変態エルフやファルにも言ってないわね……まったく困った子だわ」
ウル「あまり報告するような大した事だと思っていないのでは? こう言ってはなんですが、ティアさんは少し感覚がズレていたりしますし……」
サクヤ「そうね……やっぱり生まれた環境なのかしら。王女気質って言うの? けっこう溜め込むのよね……甘ちゃんな王女だったら良かったんだけど」
ウル「こればかりは、周りで変えていかないければならないのかもしれません」
サクヤ「えぇ……ティアの場合、甘やかすくらいが丁度いいのかもしれないわね。頼る事を知らないんだもの」
ウル「心配している事を、理解してもらわなくてはいけません」
サクヤ「なら、ウルもちょっと甘やかしてやってね」
ウル「えっ……いえ、あの……」
サクヤ「なによ。取って食ったりしないって言ってるでしょ?」
ウル「わ、私に頼るような方ではないかと……」
サクヤ「でもこの前、ティアが倒れた時はすっごく心配してたじゃない?」
ウル「あ、あれは……あんな風に弱っていたら心配するのは当然かと……」
サクヤ「気に入ってるって言われて嬉しかったでしょ?」
ウル「それは……っ……はい……っ」
サクヤ「ふふふっ。ウルったら、本当は好きなくせに」
ウル「ち、違います!」
サクヤ「懐いたら可愛いわよ~」
ウル「……努力します……っ」
サクヤ「よろしい。思いっきり甘やかして、目指せ寵愛ナンバーワン!」
ウル「なんの話です!?」
つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎
お気に入り登録されました。
子育てに疲れたお母さんのようです。
子ども二人……と一匹。
走り回るような子ではないのは幸いです。
そして現れた魔王様。
全部、洗いざらい吐かせられるのでしょう。
では次回、一日空けて25日です。
よろしくお願いします◎
応援ありがとうございます!
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