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3巻
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しおりを挟む『祝福の儀』
それは七歳になる子どもの存在を神に報告し、加護を願う儀式だ。今年七歳の誕生日を迎えるティアも、その儀式に参加するのだが……
「王族の誰かが祝いに来るって言うけどさぁ……王族は伯爵の娘なんていちいち気にしないでしょ? ただの形式じゃんね?」
冒険者ギルドの奥にある、ギルドマスターの執務室。そこにやってきたティアは、疲れた顔で溜め息をついた。
貴族の子どもが参加する儀式には、王族の誰かが祝いに来るそうだ。とは言っても、単に王の祝辞を伝えるだけ。この人、本当に王族? と思うような人物が来る場合もあるという。
「マナーの勉強なんて今更だし……それに何より、神に報告って……もうさ、影武者とか用意しちゃおうかな……」
報告などしなくても、神はティアの行動をしっかり見ているだろう。無意味な儀式のためにマナーを勉強したり、ドレスを仕立てたりするのは面倒だ。
「ふふっ、そんなのダメですよ。それに私は、ティアのドレス姿を見てみたいです」
ギルドマスターであるシェリスの言葉に、ティアはきょとんとした。
「ん? なんで?」
「さぁ、なぜでしょうね?」
(それって、パパ的な目線? それとも、初孫の成長を喜ぶおじいちゃん的な?)
クスクスと笑うシェリスに、ティアは首を傾げる。その様子を見たシェリスは、ますますご満悦の表情になる。
サルバの冒険者ギルドをまとめるシェリス・フィスマは、またの名をジルバール・エルースという。
長い金髪は美しく、エルフの特徴である長く尖った耳も魅力的に見える。女性と見紛うほどの美貌の持ち主で、本人の意思に関係なく多くの者を虜にしていた。
彼はエルフの中でも特に長命で、高い魔力を持つハイエルフだ。以前は三つあるエルフの里のうちの一つ、エルースの里長を務めていた。
そんな彼がなぜ冒険者ギルドのマスターになったのかといえば、理由はただ一つ。いずれこの地に転生すると預言されたティアと、再会するためだった。
シェリスはティアの前世であるサティアと結婚の約束をしていた。それから五百五十年以上の年月が経った今でも、ティアを強く想っている。ティアとしては重すぎる愛は遠慮したいところなのだが、前世の自分を知る数少ない友人として、彼の事を大切に思っていた。
「昔はさぁ……私が城から逃げ出しても母様や姉様達は、笑って許してくれたんだよね……あ、一回だけ母様に強制連行されたけど……」
ここ数日、屋敷に軟禁状態だったティア。我慢の限界に達した彼女は隙を見て屋敷を抜け出し、この執務室に転がり込んだのだ。
「もうさ、猫被ってんのも限界なんだよね」
実際はほとんど被れていないのだが、それでもティアには窮屈に感じる。そんなティアを慰めるように、シェリスは楽しい話題を振ってくれた。
「そういえば、そろそろ家が出来上がるみたいですよ」
「へ? あ、本当!?」
今、この街の魔術師ギルドでは『創工士技術大会』なるものが行われている。創工士と呼ばれる職人達が、ここ数ヶ月ほど技術を競い合っていたのだが、その課題として造られていた家が完成間近であるらしい。
「じゃあ、そろそろ始めてくれる?」
「ええ。そう言うと思って、今日中にも魔術師ギルドに提案するつもりです」
「ふふっ、絶対に話を通してよ?」
「もちろんです。ティアのためですからね」
ティアはあるものを手に入れるべく、シェリスと二人でこの大会を計画したのだ。それは【ゲルヴァローズの欠片】と呼ばれる、家を持ち歩ける魔導具である。
【ゲルヴァローズの欠片】を作った目的は、単にティアが冒険用の持ち運べる家を手に入れるためだけではない。女であるゆえに不遇を強いられていたナルカという創工士に、実力を示せる場を提供するためでもあった。
魔工師としての知識を使い、シェリスと共に【ゲルヴァローズの欠片】を作り上げたティア。それを真に完成させるには、実装するための家が必要だったのだ。
ティアの目論見通り、ナルカは順調にその力を発揮し、多くの者の意識を変えた。あとは、優勝者の造った家が伯爵に献上されれば、それを伯爵令嬢であるティアが手に入れるのは簡単だ。
そうシェリスが提案していたのだが、それでは方々から不満が出るだろうと考え、ティアは却下した。
そして、ここ数ヶ月の間、他の方法を考えていたのだ。
「これで冒険者として旅立つ用意が、また一つ整うよ」
冒険者となって自由に生きる事。それがティアの一番の夢である。その夢を叶えるため、ティア達は新たな計画を進めるのだった。
数時間後、ティアは満面の笑みで屋敷に帰ってきた。上機嫌なのは、冒険者ギルドであるものを手に入れたからだ。
「サラちゃんってば、さすがだよね。チョイスがマジ最高!!」
サラちゃんというのは、冒険者仲間のザランの事だ。男気溢れる性格だが、少々ドジなところがあって、からかうと面白い。
本当はサランという少女のような名前なのだが、大柄かつ老け顔に成長してしまったため、今はザランと名乗っている。その名がすっかり定着しているにもかかわらず、ティアはサランという名の方を気に入って『サラちゃん』と呼んでいた。
そのザランは最近、ティア専属の取り立て屋をしている。取り立て屋と言っても、別に悪どい事をしているわけではない。ティアがルクスに内緒で賭けをした相手から、報酬を代わりに受け取ってくれているのだ。
「んっふっふっ」
ティアは笑いが止まらない。ザランが今回取り立ててくれたものは、ティアがちょうど今欲しいと思っていたものだったのだ。まさにナイスタイミング。
そして更にいいタイミングで、会いたいと思っていた人物を見つけた。
「あ、ティア様。お帰りなさいませ」
ティアが屋敷の廊下で出くわしたのは、つい先日この伯爵家に雇われたラキアという少女だ。彼女は幼い頃に両親を亡くし、クロノスら三人の兄と共に旅をしていたという。
そんな彼らは実は、ティアが前世で暮らしていた城の女騎士、アリア・マクレートの子孫なのだ。騎士としての実力はもちろんのこと、志も高かったアリア。その子孫であるラキアも、主人を守って戦うメイドになる事を夢見ている。
出会った時はまるで男の子のようだったが、今は短い髪を綺麗にまとめて女の子らしくなっている。銀色の前髪はアリアの髪の色と同じで、チャームポイントになっていた。
メイド姿がすっかり板についたラキアは、毎日楽しそうに働いている。
「ただいま、ラキアちゃん。ちょうどよかった。これ、ラキアちゃんに」
「へ? あ、ありがとうござい……ます?」
差し出されたものを受け取って、ラキアは首を傾げた。
それは一冊の本だった。
「ふふふっ、ちゃんと読んで勉強しといてね。三日後に実践してもらうから、そのつもりで~」
そう伝えて、ティアはその場を後にする。一人残されたラキアは、本の題名を見て呟いた。
「……『忍ぶ者の極意』?」
全く意味が分からず、ラキアは先輩メイドに呼ばれるまで、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「ふんっふんっふ~ん」
ラキアに本を渡したティアは、ますます上機嫌で部屋へ向かう。
その途中、またも会いたかった人達に出くわした。
「あ、お嬢様」
「お帰りなさいませ」
未だ低くなりきらない声の少年達。彼らはラキアの兄、ユメルとカヤルだ。
二人は双子なのでそっくりだが、見分けるにはその髪を見ればいい。ユメルは向かって右側に、カヤルは左側に、銀の髪が一房ある。
「ただいま。ユメル、カヤル。お土産あるよ」
「「なんですか?」」
この双子は、よくハモる。
そんな彼らにも、ティアは一冊の本を手渡した。
「しっかり読んで予習しとくんだよ。三日後から実践してもらうからね。そのつもりでよろしく」
ティアはそう言って部屋へ入る。後に残された双子は、本に目を落として呟いた。
「「……『抜け技の全て』?」」
怪しい本にしか見えないそれを、人に見られたくない。そう思った二人は、本をどちらが持つかでしばらく揉めたのだった。
◆ ◆ ◆
フリーデル王国の王宮は、王都の北寄りにある。
明日から数日間にわたり、各地で『祝福の儀』が行われるため、王宮はどこかざわついた雰囲気がしていた。
今年で七歳になる貴族の子ども達。その多くは王都の神殿に集まるのだが、一部の子ども達は領地の神殿で祝福を受ける事になっていた。
彼らを祝うべく、王族かそれに連なる者が各神殿へ赴く。
そのうちの一人――第二王子エルヴァスト・フリーデルが、嬉しそうな様子で騎士の訓練場へと入っていった。
「ビアン。急いで出るぞっ」
「え? ちょっ、エル様?」
突然現れたエルヴァストに、護衛騎士のビアンは驚く。そして剣を振り上げたままの格好で、慌てて尋ねた。
「ど、どちらへ行かれるのです?」
「ヒュースリー伯爵領だ。ベルとティアに会いに行く」
「……はい?」
エルヴァストが何を言ったのか、ビアンは咄嗟に理解できなかった。だが理解した瞬間、顔を青ざめさせる。
そんな彼を気にする事なく、エルヴァストは続けた。
「三日後に行われる『祝福の儀』に出席するのだ。ティアを祝福しなくてはな」
「え? エル様がですか?」
「そうだ。父上の許可は取った」
「はいぃぃ?」
ビアンが動揺するのも当然だろう。
王太子ともなれば、幼少の頃から国の行事に参加させられる。だが王太子以外の王子は、この国の成人年齢――十八歳を迎えなければ行事に参加できないのである。
エルヴァストはまだ十五歳。国の重要な行事への出席は許されていなかった。
「ジュレット公爵が体調を崩したらしい。その代役でな」
原則として出席できない王子でも、病人の代役となれば話は別だ。こればかりは仕方のない事として、特例で認められていた。
事情が分かったビアンだが、念のために確認する。
「……公爵が出席なさる予定だったのは、ヒュースリー伯爵領だけなのですか?」
「いや、他にもある。その手前のドーバン侯爵領もだ。あそこは明日が儀式の日となっているから急いで出るぞ」
「いや、え!? ちょっ……あそこは今から出ても、馬でもギリギリ着けるかどうかの距離ですよ!?」
「だから、急いで出るぞと言っただろう?」
エルヴァストは腰に手を当てて、呆れ顔をした。
この様子を見て、ビアンは顔を強張らせる。
「どんな強行軍ですかっ」
「どうせ通り道だからいいだろうと、父上から言われてしまったのだ。大丈夫。私は若いから、体力には自信があるぞ」
「そういう問題じゃありませんっ」
胸を張るエルヴァストに、ビアンは思わずツッコミを入れた。
「問題ない。ドーバン侯爵領の儀式が終われば、次はその二日後だ。ヒュースリー伯爵領には余裕で辿り着ける」
「……」
エルヴァストにとって、ドーバン侯爵領での儀式はおまけでしかないのだろう。メインの目的は、あくまでべリアローズとティアに会う事なのだ。
それが分かっているからこそ、どうしたものかとビアンは思ってしまう。
「ほら、さっさと着替えろ。ちなみに私は既に準備万端だからな」
「ご自分だけ先に……っ分かりました。すぐに準備します」
「あぁ、頼むぞ」
慌てて駆けていくビアンを見送り、エルヴァストは一人、晴れ渡った空を見上げた。
抜けるような青。その清々しさは、ティアの底抜けに明るい笑顔を思い出させた。
次いで、その隣で困った顔をするべリアローズの姿が脳裏に浮かぶ。
「会うのが楽しみだ」
ひと月ほど前、ひょんな事から出会った兄妹。二人の姿を思い出す度、エルヴァストはその出会いに感謝し、女神へ祈りを捧げるのだった。
◆ ◆ ◆
『祝福の儀』を翌日に控えた今日。ヒュースリー伯爵フィスタークは、大切な来客を迎えていた。
「それでは、今日から世話になるぞ」
「はい。精一杯おもてなしさせていただきます」
「いや、そう畏まる必要はない。私は『友人の家に遊びに来ただけ』だ。こんな機会でもないと、なかなかできないからな」
そう言ってニヤリと笑ったのは、第二王子エルヴァストだ。
「連れてきたのは護衛のビアンだけだ。他の者がいては気が休まらん」
イタズラをバラすような調子で告げた彼に、フィスタークは苦笑した。本来ならば多くの荷物と、それらを運ぶための馬車が必要となる。だが、エルヴァストは最低限の荷物しか持たず、ビアンと共に馬で駆けてきたらしい。
「相変わらずなのですね……」
フィスタークは昔から、密かにエルヴァストを見守ってきた。いや、王子とは思えぬ待遇に文句一つ言わず耐える姿を、見守る事しかできなかったのだ。
エルヴァストの母エイミールはメイドとして王宮に上がり、自ら進んで王妃の影武者となった。王に見初められて側妃となった後も、それは変わらない。
ただし彼女が影武者である事は、国の重鎮達にしか知られていない。エルヴァストはもちろんのこと、エイミールの弟であるビアンも知らない事実だった。
それをフィスタークが知っているのは、エイミールが王宮に上がる前、このヒュースリー伯爵家でメイドとして働いていたためだ。幼い頃のフィスタークにとって、エイミールは姉のような存在だったのである。
家令リジットに鍛えられたエイミールは、その実力とかねてからの約束により、王宮へ上がる事となった。
親友のシアンとは、今でも密かに手紙でやり取りを続けている。他愛もない雑談の中に、数年前からぽつぽつと交ざり始めた相談事。それは息子エルヴァストの事だった。
エイミールは側妃になった今でも、敬愛する王妃の影武者であろうとしている。そんな彼女の子どもであるエルヴァストを、重鎮達は王太子を守るための道具として利用していた。
『エルヴァストを王太子の影武者にする気はない』
エイミールからの手紙には、そう書かれていた。エルヴァストは、自ら望んで影武者になったエイミールとは違うのだ。息子の境遇に心を痛めた彼女は、エルヴァストは役に立たないと重鎮達に思わせるため、彼に冷たく当たっている。
その思いを知っているからこそ、ベリアローズがエルヴァストの友人になった時、フィスタークとシアンは心から喜んだ。これはいざという時、エルヴァストを守る口実になるだろう。
そんな事を考えながら、フィスタークはエルヴァストに優しく笑いかける。
「そうだ。まだ娘を紹介していませんでしたね。儀式の前に、会ってやっていただけますか?」
「もちろんだ」
その時のエルヴァストの笑顔は、輝いて見えた。それは何かから解放されたような笑顔だった。
ここにいる間は兄の影武者や身代わりではなく、ただのエルヴァストでいられる――そんな思いをフィスタークは感じたのである。
だが、その笑顔が輝いていたのは、決してそれだけが理由ではない。友人とその破天荒な妹に会う事を、エルヴァストは心から楽しみにしているのだった。
◆ ◆ ◆
自室で風王と話していたティアは、来客の気配を察した。
「あれ? エルさんが来たみたいね」
《はい。護衛と二人で来たようです》
「ビアンさんかぁ。第二王子がよくそんな少人数で来られたなぁ」
変に感心してしまうティアに、風王が自ら集めた情報を伝える。
《本人はいつもの事だとか、気楽でいいとか申していましたよ。第二王子と言っても、あまり重要視されてはいないようですね》
「へ~……それを知ってもグレないなんて、エルさんはなかなか見所があるね。お兄様にも見習わせなくちゃ」
本来ならば出迎えるべきなのだろうが、そうするわけにもいかない。フィスタークはティア達が顔見知りだと知らないのだ。もしティアとエルヴァストが親しげにやり取りをすれば、怪しまれてしまうだろう。
「儀式に来るのがエルさんなら、私も気楽でいいな」
ただでさえ、明日の儀式を面倒だと思っているのだ。この上、変に気を遣わなくてはならない人が来たら、たまりかねて暴れていたかもしれない。
「面倒な儀式なんて、さっさと終わらせたいしね」
なぜならその後には、とっておきのお楽しみが待っているのだ。
《何やら楽しい計画が進行しているご様子。我らも楽しみです》
「うんっ。さっきシェリーから連絡があったの。万事オッケーだって」
そう言ってティアは満面の笑みを浮かべる。何かを企むのは、いつだって楽しいものだ。
《そちらはなんでしょう?》
風王の目線の先にあるのは、机の上に置かれた一枚の紙だった。
「ふふふっ。これはね、お店に注文しようとしてる武器の設計図。昔はダンジョンとかに入れば一発で手に入ったりしたんだけど、今はそもそも出回ってないらしくて……」
その武器は、先日ラキアに渡した本に関係している。それがなくては始まらないため、ティアは前世の記憶を探りながら、形や大きさなどをなるべく詳細に書き記していた。
暗殺や諜報などを生業とする者達の武器なので、当時も市場には出回っていなかった。手に入れるには武器屋に製作を依頼するか、ダンジョンに転がっているのを拾うしかなかったのである。
ちなみにダンジョンに転がっている理由は、持ち主が死んだためだ。彼らは人知れず技を磨くため、あえて危険な場所へと赴く。そうして死した者達から、同じ道に生きる者達へと、武器は引き継がれていくのだ。
ティアが眠りについている間、この世界では様々な事があった。人族同士の戦争だけでなく、異種族との戦争もあったらしい。そういった戦争により、サティアとして生きていた頃には当たり前だった武器や技術の多くが失われていた。
この武器もその一つだ。今は使っている者がいない上に、ダンジョンへ行ったとしても手に入れられるとは限らなかった。
だが、ないならば作ればいい。幸い盗賊退治をしたり、作った薬を売ったりしたおかげで、お金はたんまりあるのだ。それに、今はほとんど知られていない武器なのだから、注文しても怪しまれたりはしないだろう。
「私みたいな子どもがこんなの欲しがるなんて、昔だったら不審に思われただろうけど……いい世の中になったなぁ」
正確に言えば、ティアにとって都合がいい世の中だ。時代の流れの中で失われたものは多いが、その分、裏技として使用しやすくなったのである。
「なんか、隠し球みたいでイイよね」
《はい。さすがティア様です》
失われた魔術だけでなく、失われた技術をも知っているティアは、完全に反則級の存在だ。だが、そんなティアを止められる者など、どこにもいなかった。
◆ ◆ ◆
その夜、ティアは再び夢を見た。
今度は前世の光景ではなく、誰かの過去の記憶である。
『祝福の儀』を終えたばかりの少年は、魔術師長に呼び出され、小さな箱を手渡された。そこには、指輪が入っている。
「これは?」
「王家に伝わる魔導具です。これと対になる指輪は、レイナルート様が身につけていらっしゃいます」
「兄上が?」
それを聞いて少年は嬉しくなる。頭がよくて、みんなから期待されている王太子。その弟として、彼を尊敬しているのだ。
そんな兄と、対になる指輪を共有する。気軽に話すらできないほど遠い存在だった兄が、急に身近に感じられた。
「私が持っていていいのですか?」
「はい。他の誰でもなく、あなたが持っていてください。そしてレイナルート様をお助けするのです」
指輪をはめて喜ぶ少年に、魔術師長は少し強張った顔で言った。
「それは【身代わりの指輪】と呼ばれるものです。レイナルート様が窮地に陥った時、あなたとレイナルート様の居場所を入れ換える事ができます」
「え……?」
少年は意味が分からなかった。だが、その後に続いた言葉に凍りつく。
「レイナルート様は、この国に必要なお方。だからこそ、あなたが盾となるのです」
それは、兄の代わりに死ねと言われたようなものだった。
ゆっくりと心が冷えていく。自分には生きる価値などないのだと、否応なしに気付かされる。
部屋には国の重鎮達がいたが、誰一人、少年と目を合わせようとはしなかった。
自分はここにいるのだと、声を上げたくてたまらない。だから少年は必要以上に明るく笑い、時々バカな事をして周りを困らせる。
兄の身代わりにはなりたくない。自分は自分でいたいと願う。
それが許されないとしても、自分自身のためだけに生きたいと願っていた。
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