121 / 495
第七章 ギルドと集団暴走
226 お金の流れですよ
しおりを挟む
アルキスとは儀式の時に見たきり、全てレンスフィートとついて来ていたニールに任せてしまったため、とても久し振りに会う気がする。
「コウヤっ。久しぶりだなあ。ってか、言おうと思ってたんだっ。コウヤん家に泊まれんかったじゃんかっ」
コウヤもあの時、アルキスとシンリームが泊まると言ったのを転移する時は覚えていたのだが、あちらに行って仕事を思い出してからすっかり忘れてレンスフィートに丸投げしてしまったのだ。
「あ、そういえばそうでしたね。泊まるって言ってましたっけ。でも、レンス様のお屋敷、良かったでしょう?」
「マジで良かった! 何、あの居心地の良さ! 文句なくあのまま住み込みたかったけどなっ。そんでもって、俺もシンリームも、コウヤん家に泊まるんだったって思い出したの帰ってきて一日経ってからだったけどなっ」
ユースールでは魔導具を使った家具は当たり前。ドラム組が居るため、当然のように空間拡張もされているというのもある。特に領主の屋敷は最新の魔導具や家具を追加していく仕様になっているので、ユースールの中でもとっても住みやすい屋敷だ。
最新家電が開発される端から導入されていくと言えば分かりやすいだろうか。
「あはは。あれ? ニールさんが途中で言ったりしなかったんですね」
「いや、あいつ……コウヤが居なくなってから速攻であっちで知り合い見つけて領城を案内させてたっぽい。俺に気配感じさせないとか、ちょい怖くなったわ……何者だよあいつ……絶対にただの文官じゃねえっ」
因みに、ニールは王都に戻ってきてから、ユースールの視察についての計画を練っているらしい。人員の調整など、張り切っているという。
「さすがは、宰相の補佐官ですっ」
「それだけで済まんってっ」
「え~。確か、ルー君が神官さん達より強いって言ってたかな。あ、本当は騎士の家系だってのもありましたね」
「……宰相のやつ……なんてもんを拾いやがった……」
自分の補佐官の一人が捕縛されたことで、ベルナディオ宰相も必死だったのだろう。そこでニールに目を付けた彼は運が良かった。
「ところで、お聞きしたいことがあるんですけど」
そろそろ本題に入ろうとコウヤが切り出す。アルキスが居たのは丁度良い。
「なんだ?」
「この王都の商業ギルドのことです」
「あ~な……いやあ……捕まえた貴族絡みで色々やってんのがとにかく多くってな……けど、こっちも一気に捕縛してってなると、さすがに問題だろ……?」
とっても言い辛そうに呟くアルキス。遠い目をして固まってしまったので、答えを求めてジザルスに目を向ける。
「人数が多いってことですか?」
「そうですね。普通に国の流通が止まるくらいです。あ、ガルダ辺境伯領は問題ないです」
辺境伯領は特殊だ。技術力は高く、最先端過ぎて、基本王都や外から持ってくる必要がない。領内で全て賄えてしまっているため、輸出はしても輸入することがないのだ。
「なら……」
「良くねえよ?」
「です……?」
コウヤは思わず『なら良い』と言おうとしたのだが、アルキスにちょっと睨まれた。
「え、えっと。ちょっと思い出したんですけど、ユースールでもゼットさんがギルド長になる前にはよく、教国の教会に評判の良くない商人さんが出入りしてたな~って」
問題のあった商業ギルドの長と一緒に、ゼットが追い出していたので、最近は見ない。思い出したようにやってくる変な商人は、丁重にお断りし、追い払っているようだ。それこそ、商人達がトラウマになるほど確実に。
「ベニばあさまと中央の教会に殴り込みに行った時にも、キラキラした商人さん達がいましたし、ちょっと気になったんです」
トラウマを植え付けられ、ユースールと聞いただけで顔を真っ青にして逃げ出してしまう商人さん達が居たのを思い出したのだ。
これを聞いて、アルキスが考え込む。
「教会もってなると面倒だな……」
そこでそれまで静かに立っていたビジェが口を開いた。
「ウワサで、教カイが商人からドレイをかってイルと、聞いタ」
彼は、ユースールではゲンと採取に出かけたり、神官と討伐訓練に出かけたりしており、王都では隠密行動の研修をしていた。そこで情報を色々と集めていたらしい。
「奴隷ですか……ん? 聞き込みでってことは、もしかして、この国でも?」
「あると聞いタ。この王トではナイ。ケド、他はあるト」
「マジかよ……」
アルキスが嫌そうに顔をしかめた。教国の教会が関係しているのは間違いないようだ。だが、そうなると本当に面倒なことになる。この国では奴隷を買うことも、売ることも許されていない。
「う~ん……ジザさん。確認できます?」
「可能です。すぐに人員を割り振ります」
「お願いします。もし、奴隷が居るなら、状態の確認も」
ジザルスが後ろを振り返ると、双子が現れ、消えた。指示はこれで問題ない。
「考えてみると、あの教会が関わっているって聞くと納得できるんですよね~」
「どういうことだ?」
アルキスの問いかけに、コウヤは少しだけ笑う。
「お金の流れですよ。貴族から教会に、教会から商人に、商人から貴族にって流れです」
「……城に戻って、捕まえた貴族の奴らの尋問頼んでくるわ……」
「その方が良さそうですね。捕まえた教国の人達の方は……」
「それはこっちで確認する」
「あ、ルー君っ」
ルディエが得意げに鼻を鳴らしていた。
「兄さんは商人を相手……したいんでしょ?」
「ふふ。うんっ。ちょっとね~。さすがに棟梁達に迷惑だったみたいだから」
「そのデカイの、兄さんの護衛してもらうよ」
「もちろんダ」
ビジェが護衛になった。
「それで補佐は……」
「わたくしですね」
「ニールさんっ」
「ニールです」
これに笑顔でそうだったと頷く。いつもの返しにも慣れてきたコウヤだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
「コウヤっ。久しぶりだなあ。ってか、言おうと思ってたんだっ。コウヤん家に泊まれんかったじゃんかっ」
コウヤもあの時、アルキスとシンリームが泊まると言ったのを転移する時は覚えていたのだが、あちらに行って仕事を思い出してからすっかり忘れてレンスフィートに丸投げしてしまったのだ。
「あ、そういえばそうでしたね。泊まるって言ってましたっけ。でも、レンス様のお屋敷、良かったでしょう?」
「マジで良かった! 何、あの居心地の良さ! 文句なくあのまま住み込みたかったけどなっ。そんでもって、俺もシンリームも、コウヤん家に泊まるんだったって思い出したの帰ってきて一日経ってからだったけどなっ」
ユースールでは魔導具を使った家具は当たり前。ドラム組が居るため、当然のように空間拡張もされているというのもある。特に領主の屋敷は最新の魔導具や家具を追加していく仕様になっているので、ユースールの中でもとっても住みやすい屋敷だ。
最新家電が開発される端から導入されていくと言えば分かりやすいだろうか。
「あはは。あれ? ニールさんが途中で言ったりしなかったんですね」
「いや、あいつ……コウヤが居なくなってから速攻であっちで知り合い見つけて領城を案内させてたっぽい。俺に気配感じさせないとか、ちょい怖くなったわ……何者だよあいつ……絶対にただの文官じゃねえっ」
因みに、ニールは王都に戻ってきてから、ユースールの視察についての計画を練っているらしい。人員の調整など、張り切っているという。
「さすがは、宰相の補佐官ですっ」
「それだけで済まんってっ」
「え~。確か、ルー君が神官さん達より強いって言ってたかな。あ、本当は騎士の家系だってのもありましたね」
「……宰相のやつ……なんてもんを拾いやがった……」
自分の補佐官の一人が捕縛されたことで、ベルナディオ宰相も必死だったのだろう。そこでニールに目を付けた彼は運が良かった。
「ところで、お聞きしたいことがあるんですけど」
そろそろ本題に入ろうとコウヤが切り出す。アルキスが居たのは丁度良い。
「なんだ?」
「この王都の商業ギルドのことです」
「あ~な……いやあ……捕まえた貴族絡みで色々やってんのがとにかく多くってな……けど、こっちも一気に捕縛してってなると、さすがに問題だろ……?」
とっても言い辛そうに呟くアルキス。遠い目をして固まってしまったので、答えを求めてジザルスに目を向ける。
「人数が多いってことですか?」
「そうですね。普通に国の流通が止まるくらいです。あ、ガルダ辺境伯領は問題ないです」
辺境伯領は特殊だ。技術力は高く、最先端過ぎて、基本王都や外から持ってくる必要がない。領内で全て賄えてしまっているため、輸出はしても輸入することがないのだ。
「なら……」
「良くねえよ?」
「です……?」
コウヤは思わず『なら良い』と言おうとしたのだが、アルキスにちょっと睨まれた。
「え、えっと。ちょっと思い出したんですけど、ユースールでもゼットさんがギルド長になる前にはよく、教国の教会に評判の良くない商人さんが出入りしてたな~って」
問題のあった商業ギルドの長と一緒に、ゼットが追い出していたので、最近は見ない。思い出したようにやってくる変な商人は、丁重にお断りし、追い払っているようだ。それこそ、商人達がトラウマになるほど確実に。
「ベニばあさまと中央の教会に殴り込みに行った時にも、キラキラした商人さん達がいましたし、ちょっと気になったんです」
トラウマを植え付けられ、ユースールと聞いただけで顔を真っ青にして逃げ出してしまう商人さん達が居たのを思い出したのだ。
これを聞いて、アルキスが考え込む。
「教会もってなると面倒だな……」
そこでそれまで静かに立っていたビジェが口を開いた。
「ウワサで、教カイが商人からドレイをかってイルと、聞いタ」
彼は、ユースールではゲンと採取に出かけたり、神官と討伐訓練に出かけたりしており、王都では隠密行動の研修をしていた。そこで情報を色々と集めていたらしい。
「奴隷ですか……ん? 聞き込みでってことは、もしかして、この国でも?」
「あると聞いタ。この王トではナイ。ケド、他はあるト」
「マジかよ……」
アルキスが嫌そうに顔をしかめた。教国の教会が関係しているのは間違いないようだ。だが、そうなると本当に面倒なことになる。この国では奴隷を買うことも、売ることも許されていない。
「う~ん……ジザさん。確認できます?」
「可能です。すぐに人員を割り振ります」
「お願いします。もし、奴隷が居るなら、状態の確認も」
ジザルスが後ろを振り返ると、双子が現れ、消えた。指示はこれで問題ない。
「考えてみると、あの教会が関わっているって聞くと納得できるんですよね~」
「どういうことだ?」
アルキスの問いかけに、コウヤは少しだけ笑う。
「お金の流れですよ。貴族から教会に、教会から商人に、商人から貴族にって流れです」
「……城に戻って、捕まえた貴族の奴らの尋問頼んでくるわ……」
「その方が良さそうですね。捕まえた教国の人達の方は……」
「それはこっちで確認する」
「あ、ルー君っ」
ルディエが得意げに鼻を鳴らしていた。
「兄さんは商人を相手……したいんでしょ?」
「ふふ。うんっ。ちょっとね~。さすがに棟梁達に迷惑だったみたいだから」
「そのデカイの、兄さんの護衛してもらうよ」
「もちろんダ」
ビジェが護衛になった。
「それで補佐は……」
「わたくしですね」
「ニールさんっ」
「ニールです」
これに笑顔でそうだったと頷く。いつもの返しにも慣れてきたコウヤだった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
390
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?
歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」
コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。
プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。
思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。
声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」
「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」
王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。
しかし、それは「契約終了」の合図だった。
実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。
彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、
「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。
王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。
さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、
「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。
「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」
痛快すぎる契約婚約劇、開幕!
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。