元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第十三章

527 ご試食どうぞ

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商業ギルドの総括。その人がトルヴァランにやって来たという情報は、その日の内にコウヤの下に届いた。

しかし、彼らはお忍びでの訪問だった。どうやら、王都の商業ギルドの不正などを確認するために来たらしく、王都の商業ギルドの者たちも知らなかったことのようだ。

それなのに、すぐにコウヤに情報が届いた理由は簡単なことだった。

その情報は、第二王妃のカトレアからもたらされた。

彼女は、商業ギルドと契約している。しかし、表向きは謹慎中の彼女は城からは出られないため、出来上がった商品は、商業ギルドの関係者が城へと取りに来る。

その時に聞いたらしい。その商業ギルドの関係者も、まるで襲撃を受けたような騒動になっていた商業ギルドから退避するためにも早めに城へと来たという。

『商業ギルドと相談する事があるって言っていましたでしょう? 総括が来たなら、やりやすそうですよねっ』

そんな風にたまたま城に上がっていたコウヤへとカトレアが嬉々として教えてくれたのだ。

コウヤの役に立つ情報を渡せるというのがカトレアには嬉しかったらしい。

しっかりとお礼を言ったコウヤは、すぐに城を飛び出して、チャンスとばかりに商業ギルドに向かい、総括に面会を申し出た。

そして、今回の話し合いに参加をお願いしたのだ。

総括である人が立ち上がる。背の高いその人は、骨格がしっかりとしていることもあり、大きな人に見えた。しかし、お辞儀をする姿勢はとても綺麗で柔らかかった。

「初めまして。商業ギルドの総括をしておりますウィルズと申します。こちらは補佐のレネとマルトです」

補佐たちが一人ずつ立ち上がって頭を下げた。

「このような話し合いの場に呼んでいただけて嬉しく思います」

これに、シーレスとタリスが答える。

「そう固くならずに。忌憚のない意見も聞きたいですので」
「お仕事があるのに、割り込む感じになってごめんね。でも、絶対に損はさせないからっ」
「……ありがとうございます……」

コウヤが強引に引き合わせることにしたのだ。二人もかなり驚いていた。

少し申し訳なさそうにするシーレスとタリスを気にすることなく、コウヤは早速というように、先ずは『果実の迷宮』で大量に手に入れたものを、トレーに載せてウィルズの前に置いた。

「……これは? 匂いからして……ワルビとプーラの様に思いますが……」

総括をやっているだけはあり、それが何なのかをすぐに言い当てた。

説明するのは、シーレスだ。

「そうです。その二つは、『果実の迷宮』から出たものです」
「……スタンピードの情報はなかったと思うのですが……?」

果実の迷宮から出る果物についての情報も、きちんと把握しているのだろう。

そして、これがその迷宮では出ないことを知っていたのだ。新たな種が出るとすれば、それは集団暴走スタンピードが起きたということ。

しかし、集団暴走スタンピードの情報は、兆候ありとなった時には、冒険者ギルドより連絡が入ることになっている。これは契約として取り決めていることだ。

集団暴走スタンピードとなれば、その迷宮でドロップする品物がしばらく手に入らなくなる可能性が高い。そして、ドロップ品が変わることもある。

そうなれば、市場への影響も出る。そこを混乱させずに収めるのが商業ギルドの仕事だ。

だから、少しばかりウィルズの声に棘があった。連絡を怠ったのかという疑いを持ったのだ。

これを察し、シーレスは首を横に振る。

「未踏破の領域があった。そこの魔獣からドロップしたものだよ」
「そんな事が……」
「あるんだよね~……というか、あったんだよね~」

タリスが頬杖をついて苦笑して見せる。

「それも、長い間閉じられた感じになってたから、中に出現してる魔獣の数が半端なくてね~。で、出たのがその二種類ってわけ」
「……なるほど……ですが……このワルビとプーラは……規格外の大きさですね……見た事もないのですが……」

総括ですら、見た事のない大きさだったのだ。

「古代種だそうですよ」

シーレスが面白そうに笑いながら告げた。商業ギルドの総括も驚く様な商品というのが楽しいらしい。

「っ、それは……っ」
「「っ!!」」

商業ギルドの三人が、どう売り出すべきかと瞬時に考え出す。普通では手に入らない種なのだ。高値で売れるこのは間違いない。

そんな三人の前に、コウヤはビルワとプーラの皮を剥き、食べやすくカットしたものを並べた。

「ご試食どうぞ」
「え、あ、はい……」

コウヤはタリス達にも配っていく。

ウィルズは、果物の見た目を確認し、匂いを確認し、ゆっくりと先ずビルワにフォークを刺した。

「硬さも普通のと同じ……香りも良い……っ!!」
「「っ、おいしいっ……っ」
「これは美味しいっ!」
「うまっ」

誰もがその美味さに悶絶した。

プーラの方もと口に入れると、こちらも絶品だと誰もが恍惚とした笑みを浮かべた。

「美味しいですよね~」

コウヤはしみじみと、味を堪能しながら呟く。

そして、ウィルズが立ち上がった。

「是非とも卸してください!! 絶対に売れます!!」
「だって、コウヤちゃん」

ニヤリとタリスが笑う。

「良かったです。各千個ほどありますので、よろしくお願いします」
「「「……え……?」」」
「ふふっ。ワルビもプーラも千個ほどあります。それも、果実の迷宮でのドロップ品なので、全て食べ頃です」
「っ!! そ、それは……い、今はどこにっ……っ」

腐るよねと顔色を悪くする商業ギルドの三人。どんなに急いでも、千個など捌けないと思ったのだ。

こんなにも美味しいのに、タダ同然で売らなくてはならないのかと真っ青になる。

良い商品、美味い商品はそれなりの値段で売る。それが商人の矜持だ。それも、迷宮という危険な場所から採ってきたドロップ品。

生産者の苦労に見合った報酬を出したいと願い、ルールを決めるのが商業ギルドだ。だから顔色も悪くなる。

「ご心配なく。今回急遽、腐らないようにするため、時を止める魔導具の箱を開発しました。ただ、魔石の消費が少し早いですので、本当に必要な物に使うべきかとは思います」
「た、確かにそうですね……」

コウヤの説明を聞き、こちらの魔導具も合わせた費用を、頭の中で必死で計算するウィルズ。

タリスやシーレスの顔を見れば、まだまだ何らかの交渉があるというのは嫌でもわかる。

それに更に顔色を悪くして、商業ギルドの三人は、今日この時に居合わせてしまった事を、心から嘆いた。











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