転生令嬢は平穏な人生を夢みる『理不尽』の破壊者です。

紫南

文字の大きさ
71 / 118
第二章 奴隷とかムカつきます

071 この子達を売って欲しいんだけど?

カトラ達がその町に着いたのは、幸いにも人の出入りが増す時間の前だった。

「予定より早く着いたね」
「彼女達、意外と体力あるよ。これならこの先も問題なさそうだ」
「よかった」

少しほっとする。その理由は彼女達の今後の身の振り方にあった。

「……確認できました。ご協力ありがとうございます」

カトラ達は、町に入るとすぐに兵へ奴隷を保護したことを伝えた。

すると、奴隷商だという男に引き合わされお嬢様やケイト達の照会が行われる。

「こちらのセルカという奴隷につきましては、審議の結果、数日前に犯罪奴隷に降格することが決まっておりました。連れてきていただいてありがとうございます」
「いえ、たまたまですし……」

予想に反してとても感謝された。というか、お嬢様はセルカという名前だったらしい。名前の印象は悪くない。ヒロインが名乗れるような素敵な名前だ。

そんなどうでもいい感想を抱きながら、続く言葉を聞くとはなしに聞いていた。

「それでも、現役のAランクとSランクの冒険者の方だからこそ、ここまでこれだけの短期間で無事に辿り着いたのだと思うのですよ」

確かにここへ辿り着くまでの間。結構な数の魔獣と出会っている。恐らく、魔獣避けの薬を使っていたとしても、簡単に護送できる道のりではなかっただろう。

そう。この町は彼女達が護送されようとしていた場所だったのだ。馬車が襲撃されなければ、ここに連れて来られることになっていた。

ターザはそれを調べ、わざわざこの町を選んだというわけだ。

理由は、最も早く彼女たちの情報を照会できると思ったから。そして、取引がスムーズに行えると思ったからだ。

「確かに、あの護衛ではもっと時間がかかったかもしれない。それより、彼女たちのことで頼みがあるの」

その間、セルカお嬢様は奴隷商の職員によって拘束され、移送用の馬車へ連れて行かれるところだった。

保護していた四人の少女たちはまだそのままカトラとターザの後ろに控えている。

「なんでございましょうか。ああ、謝礼をお渡ししておりませんでしたな」

男は領収証のようなものへ金額を書き、その金額を隣で控えていた従者に用意させていた。

「その謝礼は一応受け取りますが、頼みとは、彼女達四人を私に売っていただきたいんです」
「は……? あ、いえ。申し訳ありません。今なんと?」
「この四人を買いたいの」

率直にはっきりと言えば、男は完全に動きを止めていた。

しばらくして再起動した彼は、目を見開いて詰め寄ってきた。

だが、そうすると過保護でやきもち焼きなターザが黙っていない。

「ちょっと、カーラに近づかないでよ。それより、早く了承して欲しいんだけど」
「へ? あ、そ、そうですね……」

何かまずい理由でもあるのだろうか。

しばらく目を忙しなく動かして何かを考える男。だが、そこでセルカお嬢様が反応していた。

「っ、ちょっと、私よりそんな学もない卑しい出の女達を助けるってどういうことよっ」

周りの職員達がカバーしているが、セルカお嬢様はすごい勢いで迫ってきていた。

「なんで私じゃないのよ!? あ、そ、そうだわっ」

そこでセルカお嬢様はターザへ目を向けた。明らかに目がおかしい。

「あなたが私を助けてくれるのよねっ。あははっ」

それから彼女は蔑んだような目で四人の少女達を見る。

「そっちの礼儀のなってない女にはそっちの子達がお似合いよっ」

ついでにカトラをちらりと見る。そして、曇った目のまま自分を拘束しようとする職員達へ声をかける。

「ほら、あんた達っ。私はあの方に買われるのよ? まずキレイにしなくちゃ」

もうわけがわからなかった。

しかし、これに反応したのは奴隷商の男だ。

「はっ、あの方をお買い上げで?」
「いいえ」
「いらない」
「いえ、ですが……」

ターザまできっぱりといらないと言ったのはセルカお嬢様の耳にも届いたらしい。絶句していた。騒がれるよりは良い。

「その……あのような少女達よりも、あちらの方が有用性があるのではありませんか? 貴族の出の少女です。それなりに着飾って傍に置くには良いと思うのですが?」

これはターザへ向けていた。だが、当然だがターザにそのつもりはサラサラない。

「あんな性格悪そうで、その上に犯罪奴隷にまで落とされるバカが使えるわけないでしょ? ああ、でもそうか。あいつ、どっかにやりたいんだ?」
「っ……」

また目が泳いでいた。どうもこの男。素人臭い。というよりも、これくらいの小物でさえも奴隷商になれるこの国がおかしいのかもしれない。

「あんな爆弾みたいなやつ、売れないもんね。どうせ、他の所で置いてたけど、そこでも売れないからこっちに売られたんじゃない?」
「ど、どうしてっ……」

ターザの指摘に明らかに動揺する。

「資金力や売るツテを持ってる力のある奴隷商から、価値のない奴隷を下げ渡されるんでしょ」
「……」
「あれは売れないよ。見た目からしてもうダメな感じが滲み出てるからね。その前の奴隷商は見る目があるよ。俺は絶対にいらない。まあ、面倒なのを掴まされたって諦めなよ」
「……っ」

完全に肩を落とす男。その男もセルカお嬢様を見て更に落ち込んでいた。だが、手を止めてもらっては困る。

「ねえ。こっちはどうしてくれるの? この子達を売って欲しいんだけど?」
「あ、し、失礼しました。すぐにっ」

男は契約書を用意するようだ。それを見守っていると、ケイトが声をかけてくる。

セルカお嬢様に睨まれて四人の少女達は身を縮こませていたのだ。

「あの……本当に私達を買われるのですか? 何も……何もできませんよ?」
「出来るでしょ? 自分たちのこと。それに、あなた達は何も出来ないんじゃなくて、何も教えられてこなかったからやり方が分からないだけ。きっと色々出来ることがあるよ」
「私に出来ること……」

知ることのできる環境に居なかった彼女たちが何も出来ないのは仕方がないことだ。だが、きっと何もできないなんてことはない。やろうと思うのならば、できないことなどないのだから。

「ははっ。バカじゃないの!? そんなやつらが何かできる? そんなわけないじゃない。それよりも私でしょ? マナーだってダンスだってできるわっ。勉強だってそんな奴らより出来るわよっ」

口を閉じないお嬢様だ。そんなお嬢様にカトラはようやくまっすぐに目を向けた。

「ダンスが生きるのに必要? それに、大人しくすべき時に大人しくできない人が、マナーが分かってるとは言えないんじゃない? 寧ろ、あなたには常識がない。誰一人居ない未開の地で生きるつもり? それなら構わないと思うんだけど、最低限の町や村で生きる常識さえ分かってないみたいだ」
「……何言ってんのよ」
「意味がわからないんなら、やっぱりあなたはただの世間知らずよりも質が悪いよ」
「……っ」

そして、セルカお嬢様は何も返す事ができずに、それでも悔しそうに唇を噛んで職員に今度こそ連行されていった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
2019. 5. 13
感想 56

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。