11 / 106
戦の始まり
しおりを挟む
ーーーーートプの大森林
…ザッザッ
…ザッザッザッザッ!
「…ようし!止まれぇ!」
揃いの紋章が入った兵士の集団は、大将の号令で規律の取れた足並みを止める。
「これより、我ら帝国軍は王国との長き宿怨に終止符を打つべく、国境の要所である、城塞都市アスペルを落とす!」
「「はっ!!」」
「王国の奴らは、山間を抜ける平地の方にしか注意をしていない筈だ。…この大森林を抜けて行けば、そこはもう、奴らの喉元よ!」
…
アイアンメイデンによる、アスペル統一から少し経った、王国の祝日にそれは起きた。
長らく小競り合いが続いていた、王国と帝国の長い歴史は、今まさに転機を迎えようとしていたのだ。
抗うことが出来ないそのうねりに巻き込まれるのは、城塞都市に本拠を構える者として、彼等とてその例外では無い…
ーーーーーユウト邸 地下アジト
「…ですから、次に落とすべきは工芸が盛んなシルクットですわ!ユウト様が刺繍された織物等を販売して、世界中に知らせるべきでしてよ!」
「いやいや、メリッサ殿!まずはこの都市の基盤を盤石にし、工業が盛んなバノペアを落とし、軍事力の強化に務めるべきかと!」
「ご、ご主人様の治める、このアスペルが盤石では無いとぉ…?」
ゴゴゴ…と言いそうな、ティファの威圧を込めた質問に、冷や汗を吹き出しながら、余裕を無くしたヘッケランが言い訳を垂れ流す。
「いいい、いやいや、ティファ殿、落ち着いて下さい!落ち着いて!…も、勿論、皆はユウト様を支持されていますよ?ですが、収益面や事業計画的な物の話ですよ!ハハハ……」
…なんか、嘘くさい言い訳だな
最近の俺は、この3人が議論を戦わせているのを、部屋の隅でレアとオヤツを食べながら見守るのが日課になりつつある。
もう、君達だけで世界征服して、スローガンか何かに俺の名前付けてくれれば良いのでは無いだろうか?
…いや、恥ずかしいから止めておこう。
…
「…ごしゅじんさま……これ美味し」
俺の隣に座って、黙々とフライドポテト的な物を食べていたレアが、お前も食ってみろと「あ~ん」してくる。
…ん~、美麗なロリっ子に、"あ~ん"されるのも、また格別ですなぁ
会議の見学に慣れてきた俺は、早く方針が決まれば、ゆっくり自由時間が楽しめるので、口を挟まず、口をもぐもぐしていたんだが…
…何故か、ティファが横目で俺を見ている。
た、食べたいのか?
あ~ん、しようか?
…い、いや違うか、に、睨まれてような気も…
「…あぁ、皆も食べるか?サリネアが入れてくれたお茶もあるし、何か食べて頭をリセットさせるのも良いんじゃないか?
俺の本心とは離れてしまうが、仕方無く少し休憩を促してみる。
あまり白熱しても、話が思うように進まん時もあるだろうしな。
「…ふぅ、そうですわね。ユウト様のご厚意ですから、頂くとしますわ。」
俺の提案に、まずはメリッサがフワリと音がしそうな、絹のように繊細な青髪を揺らし、レアとは反対側の俺の横に座り、身体を寄せてくる。
…うん、相変わらず良い匂いだ。
するとティファも、「レアばかりズルイですしね。」と言いながら、俺の向かいに腰掛けた。
長い金髪が背もたれの後ろで、キラキラと揺れて天使のような光の輪ができている姿に見惚れてしまう…その美貌と合わせて、マジで天使に見えちゃいますよ、ティファ様!
…あぁ~ありがや、ありがたや~
そして、ヘッケランは…
なぜか"ふせ!"のポーズで待機している…
「…ごぉらぁあ!メリッサァ!お前はヘッケランに何を仕込んどるんだぁぁ!」
「あらあら?ご主人様、…焼きもちですか?それとも…チ○チ○のポーズが良かったのでしょうか?」
頬に手を添えながら、ふふふ…と淑女の笑い方をする姿からは想像できない、エゲツない事を考えるメリッサに俺は溜息をつく。
「あのなぁ!大の大人に変な事をやらせるなよ!ヘッケランだって、こんなに嫌がっ……ひ、人が見たら驚くだろ?」
俺が大人としての注意をしようと、ヘッケランを見ると、奴は若干嬉しそうな顔をしてたので、別の理由をこじつけて「変態調教はダメ」だと注意しておいた。
…人の変態行為を見るのは結構引くもんだな。
そういや、エ○ゲの時もそうだったけど、主人公がやられてれば自分に置き換えて感情移入できるんだが、サブキャラがやられてるのは、いつも見ずに飛ばす派だったよ。
…
……
俺の提案してしまったリフレッシュ効果か、その日の会議は夜遅くまで続き、レアは寝てしまい、俺も自室に戻って一人寂しく眠りにつく事にしたんだが…
ーーリーンリーンリーン!!
「へっ⁈」
…なっ、なんの音だ?
なんか、妙に懐かしい、あの黒電話の着信音のよう…おぉっ!そうかっ!?
ケモっ子…もとい、豹人族のペルとか言うのに預けてた、虫の音色の効果か!
俺はベッドから起き上がると、アイテムボックスからペルに渡した物と対になる、虫型の電話機を取り出す。
…ムカデ型かよ!?
耳に当てるとチクチクする電話に出ると、やはり相手はペルからだった。
「ボス、ヨロイきたニンゲン…たくさん…ボスのマチにムカッテる…」
「…なんだって?!よく知らせてくれた!この電話は三回まで使えるから、困った時は掛けて来いよっ!少しくらいなら、助けに行ってやるからさっ!」
「アリガタキおことば……」
俺はペルに軽口を叩くとベットから降り、寝間着のまま急いで会議室に向かうと…
まだ4人…いや、レアは座ったまま寝てるから3人は、アレコレと行動計画を練っていたようだ。
…さすがに、疲れてるよな?
皆さん、目が怖いですよ?
充血した目を爛々と輝かす皆の顔に、若干気圧されそうになるが踏みとどまって、先程の電話の内容を伝えた。
「…なんと!すっ、素晴らしい!さすがはユウト様です。そんな布石を打っておられたとは……この情報は金貨1000枚にも相当しますぞ!」
俺の話を聞いたヘッケランが、手を叩いて俺の作戦を称賛してくる。
「…ですが、この情報を"どう活用するか"が大切ですね。」
「そんなの、決まっておりますわ。…まずは、アスペルの都市長、ゲイリー・ウル・モレーノに貸しとして情報を渡す。そして、わたくし達が帝国軍を殲滅すれば良いのでわ」
「メリッサ殿、しかし我らは基本的に商人の集団ですぞ?帝国の軍隊を抑えられる戦力など…持ち合わせてはおりませんが?」
三人がそれぞれに策を提案し合い、これからの対応についての道筋を立てて行く。
どうしても戦力差の話になるので、「ふぅ」と溜息をついてメリッサは解説する。
「ティファお姉様が盾になって、私とレアが魔法で殲滅すれば、至って簡単な事ですわ。」
「…おおぉ!さすがはレア殿と並ぶ力をお持ちの方々!そんな事が可能とは、このヘッケラン敬服致します」
…はっ?いやいや、おかしいだろっ!?
「あのさぁ、一国の軍隊相手にお前達3人で相手とか可笑し過ぎないか?」
「ですがユウト様、それが一番手っ取り早いのでですわ。」
「…だとしてもダメだって、お前達が負う危険が大きすぎる。相手にしたって、どんな戦力を用意してるかも分からないし、アイテムの事だってあるだろ?」
「しかし、ご主人様、メリッサの言った案以外に方法があるのでしょうか?」
自分達の立てた作戦を受け入れようとしない俺に、メリッサもティファも少しご立腹のようだが…ここは俺も引けない。
ここで簡単に認めてしまって、後でしっかり意見を言っておけば良かったと、後悔なんかしたくないからな。
「なぁ、ヘッケラン!三人の力は織り込むとして、お前の方で何か別の策は用意できないのか?」
「はっ!帝国軍のおおよその兵数等は、把握出来ておられるのでしょうか?」
「ペルの報告が確かなら、大体1万超えって所らしい…森が大騒ぎだとさ。」
俺の報告を聞いた後、ヘッケランは顎に手を当て目を瞑り考え始める。
「…ユウト様もご出陣された上で、アーティフェクトアイテムも使用される事を計算に入れてもよろしいのでしょうか?」
「あぁ!もちろん、そうしてくれ。」
ティファがそれは危険だ、止めた方が良い、などと言ってくるが、俺は聞こえないフリを決め込んで、ヘッケランに話の先を促す。
…皆が危険で、俺だけオコタでヌクヌク…は、とても素敵ではあるが、皆のご主人様として容認出来んからな。
…あぁ、俺も変わったな。
昔の俺なら、「そんな怖ェーとこ絶対行かんからな!家でメイドたんとゴロゴロしてるから、おまいらだけで行ってこい!」とか言ってたんだろうなぁ。
自分の成長に自分で感心していると、ヘッケランが何か思い付いたのか、ふと顔を上げた。
「ユウト様…『招きの鈴』と『写し身の心得』と言うアイテムはお持ちでしょうか?」
「ん~…多分あるんじゃないかな?アイテムボックス!」
俺はアイテムボックスを呼び出し、中身を確認してみると、問題なく両方とも持っていたので、取り出してヘッケランに見せる。
「…これで良いのか?」
「はい!では、私は傭兵組合のツテを使って2~300人用意してまいります。ユウト様達はゲイリー都市長へ情報提供と、後詰の依頼をおこなってくださいませ。」
話がひと段落したので、「それでは一時間後に!」と、準備の為、ヘッケランは頭を下げて部屋を出て行ってしまった。
「…なぁ、メリッサ、この二つで何とかなるものなのか?」
「さぁ…私には変態(ヘッケラン)の考えは分かりませんわ。ですが…アレが大丈夫と言うなら平気だと思われますわ」
…ほぅ。
ヘッケランは、どうやらメリッサの信頼を勝ち取るまでになっていたようだ。
少し、嫉妬するけど、今はしまっておこう…
その後も、俺が危険だと粘ってくるティファに、「危なくなったら、帰還の巻物を使うし、何かあってもティファが守ってくれるんだろ?」と、ヒモっぽい発言をすると無理矢理だが了解してもらえた。
全ての話がまとまったようなので、俺達は急いで市長会館へと向かう。
交渉ごとなので、都市長ゲイリーへの訪問は、もちろんメリッサに同行してもらい、説明は任せるつもりだ。
夜遅かったので俺達を怪しむ使用人に、火急の知らせで来たと、都市長へと取り付いでもらう。
ゲイリー都市長はさすがに、俺達の事を知っていたのだろうか…特に疑われる事も無く、迎撃準備を始めてもらう事になり、この情報の恩は必ず返すと約束させて屋敷に戻った。
…まぁ、話をしたのは、ほぼメリッサだったけどな!
俺は、自室に戻るとアイテムボックスを出して準備を始める。
「…リロードオン!」
ー竜の守護ー
ー防御の宝珠ー
ー影縫いの肩当ー
・半径20m以内の味方の影に潜める(1分)
ー賢明の盾ー
・魔法攻撃を二回までガード(第七位まで)
ー能力向上のベルトー
ー疾風ブーツー
今回は戦だからな…ちょっと大盤振る舞いだけど、怪我なんかしたら「だから言ったではないですかっ!!」と、ティファに怒られれちゃうからな
準備を終えた俺は部屋を出て、階段を降りると玄関に向かう。
すると、玄関ホールには既に三姉妹が揃っていて、跪いて俺を迎えてくれる。
…ははっ!ちょっと大げさ過ぎるけどな。
「…行くぞ!」
「「「はっ!」」」
俺も少し大袈裟に号令を出して、玄関を出ると、既に屋敷の庭には、ヘッケランが傭兵を集めて待機している。
…さすがヘッケラン、仕事が早い。
「ユウト様、万事整っております。」
深々とお辞儀をしてくるヘッケランに手を上げて答えると、俺は傭兵達にハッパを掛けるべく声を上げた!
「我らの治めるこのアスペルに、帝国のバカ共が踏み込んできた…私の怒りに触れたことを後悔させてやろう!そして、ここに居るお前達は最前列で、この者達の戦いが見れる事を大いに喜ぶがいい!」
俺は自分の後ろにいる三姉妹を指し示して、自軍の力を誇示してみせる。
「…さぁ!全員出撃だぁ!」
「おぉぉお!!」
「うぉぉお!」
…そして、引き返せない戦いが始まる。
…ザッザッ
…ザッザッザッザッ!
「…ようし!止まれぇ!」
揃いの紋章が入った兵士の集団は、大将の号令で規律の取れた足並みを止める。
「これより、我ら帝国軍は王国との長き宿怨に終止符を打つべく、国境の要所である、城塞都市アスペルを落とす!」
「「はっ!!」」
「王国の奴らは、山間を抜ける平地の方にしか注意をしていない筈だ。…この大森林を抜けて行けば、そこはもう、奴らの喉元よ!」
…
アイアンメイデンによる、アスペル統一から少し経った、王国の祝日にそれは起きた。
長らく小競り合いが続いていた、王国と帝国の長い歴史は、今まさに転機を迎えようとしていたのだ。
抗うことが出来ないそのうねりに巻き込まれるのは、城塞都市に本拠を構える者として、彼等とてその例外では無い…
ーーーーーユウト邸 地下アジト
「…ですから、次に落とすべきは工芸が盛んなシルクットですわ!ユウト様が刺繍された織物等を販売して、世界中に知らせるべきでしてよ!」
「いやいや、メリッサ殿!まずはこの都市の基盤を盤石にし、工業が盛んなバノペアを落とし、軍事力の強化に務めるべきかと!」
「ご、ご主人様の治める、このアスペルが盤石では無いとぉ…?」
ゴゴゴ…と言いそうな、ティファの威圧を込めた質問に、冷や汗を吹き出しながら、余裕を無くしたヘッケランが言い訳を垂れ流す。
「いいい、いやいや、ティファ殿、落ち着いて下さい!落ち着いて!…も、勿論、皆はユウト様を支持されていますよ?ですが、収益面や事業計画的な物の話ですよ!ハハハ……」
…なんか、嘘くさい言い訳だな
最近の俺は、この3人が議論を戦わせているのを、部屋の隅でレアとオヤツを食べながら見守るのが日課になりつつある。
もう、君達だけで世界征服して、スローガンか何かに俺の名前付けてくれれば良いのでは無いだろうか?
…いや、恥ずかしいから止めておこう。
…
「…ごしゅじんさま……これ美味し」
俺の隣に座って、黙々とフライドポテト的な物を食べていたレアが、お前も食ってみろと「あ~ん」してくる。
…ん~、美麗なロリっ子に、"あ~ん"されるのも、また格別ですなぁ
会議の見学に慣れてきた俺は、早く方針が決まれば、ゆっくり自由時間が楽しめるので、口を挟まず、口をもぐもぐしていたんだが…
…何故か、ティファが横目で俺を見ている。
た、食べたいのか?
あ~ん、しようか?
…い、いや違うか、に、睨まれてような気も…
「…あぁ、皆も食べるか?サリネアが入れてくれたお茶もあるし、何か食べて頭をリセットさせるのも良いんじゃないか?
俺の本心とは離れてしまうが、仕方無く少し休憩を促してみる。
あまり白熱しても、話が思うように進まん時もあるだろうしな。
「…ふぅ、そうですわね。ユウト様のご厚意ですから、頂くとしますわ。」
俺の提案に、まずはメリッサがフワリと音がしそうな、絹のように繊細な青髪を揺らし、レアとは反対側の俺の横に座り、身体を寄せてくる。
…うん、相変わらず良い匂いだ。
するとティファも、「レアばかりズルイですしね。」と言いながら、俺の向かいに腰掛けた。
長い金髪が背もたれの後ろで、キラキラと揺れて天使のような光の輪ができている姿に見惚れてしまう…その美貌と合わせて、マジで天使に見えちゃいますよ、ティファ様!
…あぁ~ありがや、ありがたや~
そして、ヘッケランは…
なぜか"ふせ!"のポーズで待機している…
「…ごぉらぁあ!メリッサァ!お前はヘッケランに何を仕込んどるんだぁぁ!」
「あらあら?ご主人様、…焼きもちですか?それとも…チ○チ○のポーズが良かったのでしょうか?」
頬に手を添えながら、ふふふ…と淑女の笑い方をする姿からは想像できない、エゲツない事を考えるメリッサに俺は溜息をつく。
「あのなぁ!大の大人に変な事をやらせるなよ!ヘッケランだって、こんなに嫌がっ……ひ、人が見たら驚くだろ?」
俺が大人としての注意をしようと、ヘッケランを見ると、奴は若干嬉しそうな顔をしてたので、別の理由をこじつけて「変態調教はダメ」だと注意しておいた。
…人の変態行為を見るのは結構引くもんだな。
そういや、エ○ゲの時もそうだったけど、主人公がやられてれば自分に置き換えて感情移入できるんだが、サブキャラがやられてるのは、いつも見ずに飛ばす派だったよ。
…
……
俺の提案してしまったリフレッシュ効果か、その日の会議は夜遅くまで続き、レアは寝てしまい、俺も自室に戻って一人寂しく眠りにつく事にしたんだが…
ーーリーンリーンリーン!!
「へっ⁈」
…なっ、なんの音だ?
なんか、妙に懐かしい、あの黒電話の着信音のよう…おぉっ!そうかっ!?
ケモっ子…もとい、豹人族のペルとか言うのに預けてた、虫の音色の効果か!
俺はベッドから起き上がると、アイテムボックスからペルに渡した物と対になる、虫型の電話機を取り出す。
…ムカデ型かよ!?
耳に当てるとチクチクする電話に出ると、やはり相手はペルからだった。
「ボス、ヨロイきたニンゲン…たくさん…ボスのマチにムカッテる…」
「…なんだって?!よく知らせてくれた!この電話は三回まで使えるから、困った時は掛けて来いよっ!少しくらいなら、助けに行ってやるからさっ!」
「アリガタキおことば……」
俺はペルに軽口を叩くとベットから降り、寝間着のまま急いで会議室に向かうと…
まだ4人…いや、レアは座ったまま寝てるから3人は、アレコレと行動計画を練っていたようだ。
…さすがに、疲れてるよな?
皆さん、目が怖いですよ?
充血した目を爛々と輝かす皆の顔に、若干気圧されそうになるが踏みとどまって、先程の電話の内容を伝えた。
「…なんと!すっ、素晴らしい!さすがはユウト様です。そんな布石を打っておられたとは……この情報は金貨1000枚にも相当しますぞ!」
俺の話を聞いたヘッケランが、手を叩いて俺の作戦を称賛してくる。
「…ですが、この情報を"どう活用するか"が大切ですね。」
「そんなの、決まっておりますわ。…まずは、アスペルの都市長、ゲイリー・ウル・モレーノに貸しとして情報を渡す。そして、わたくし達が帝国軍を殲滅すれば良いのでわ」
「メリッサ殿、しかし我らは基本的に商人の集団ですぞ?帝国の軍隊を抑えられる戦力など…持ち合わせてはおりませんが?」
三人がそれぞれに策を提案し合い、これからの対応についての道筋を立てて行く。
どうしても戦力差の話になるので、「ふぅ」と溜息をついてメリッサは解説する。
「ティファお姉様が盾になって、私とレアが魔法で殲滅すれば、至って簡単な事ですわ。」
「…おおぉ!さすがはレア殿と並ぶ力をお持ちの方々!そんな事が可能とは、このヘッケラン敬服致します」
…はっ?いやいや、おかしいだろっ!?
「あのさぁ、一国の軍隊相手にお前達3人で相手とか可笑し過ぎないか?」
「ですがユウト様、それが一番手っ取り早いのでですわ。」
「…だとしてもダメだって、お前達が負う危険が大きすぎる。相手にしたって、どんな戦力を用意してるかも分からないし、アイテムの事だってあるだろ?」
「しかし、ご主人様、メリッサの言った案以外に方法があるのでしょうか?」
自分達の立てた作戦を受け入れようとしない俺に、メリッサもティファも少しご立腹のようだが…ここは俺も引けない。
ここで簡単に認めてしまって、後でしっかり意見を言っておけば良かったと、後悔なんかしたくないからな。
「なぁ、ヘッケラン!三人の力は織り込むとして、お前の方で何か別の策は用意できないのか?」
「はっ!帝国軍のおおよその兵数等は、把握出来ておられるのでしょうか?」
「ペルの報告が確かなら、大体1万超えって所らしい…森が大騒ぎだとさ。」
俺の報告を聞いた後、ヘッケランは顎に手を当て目を瞑り考え始める。
「…ユウト様もご出陣された上で、アーティフェクトアイテムも使用される事を計算に入れてもよろしいのでしょうか?」
「あぁ!もちろん、そうしてくれ。」
ティファがそれは危険だ、止めた方が良い、などと言ってくるが、俺は聞こえないフリを決め込んで、ヘッケランに話の先を促す。
…皆が危険で、俺だけオコタでヌクヌク…は、とても素敵ではあるが、皆のご主人様として容認出来んからな。
…あぁ、俺も変わったな。
昔の俺なら、「そんな怖ェーとこ絶対行かんからな!家でメイドたんとゴロゴロしてるから、おまいらだけで行ってこい!」とか言ってたんだろうなぁ。
自分の成長に自分で感心していると、ヘッケランが何か思い付いたのか、ふと顔を上げた。
「ユウト様…『招きの鈴』と『写し身の心得』と言うアイテムはお持ちでしょうか?」
「ん~…多分あるんじゃないかな?アイテムボックス!」
俺はアイテムボックスを呼び出し、中身を確認してみると、問題なく両方とも持っていたので、取り出してヘッケランに見せる。
「…これで良いのか?」
「はい!では、私は傭兵組合のツテを使って2~300人用意してまいります。ユウト様達はゲイリー都市長へ情報提供と、後詰の依頼をおこなってくださいませ。」
話がひと段落したので、「それでは一時間後に!」と、準備の為、ヘッケランは頭を下げて部屋を出て行ってしまった。
「…なぁ、メリッサ、この二つで何とかなるものなのか?」
「さぁ…私には変態(ヘッケラン)の考えは分かりませんわ。ですが…アレが大丈夫と言うなら平気だと思われますわ」
…ほぅ。
ヘッケランは、どうやらメリッサの信頼を勝ち取るまでになっていたようだ。
少し、嫉妬するけど、今はしまっておこう…
その後も、俺が危険だと粘ってくるティファに、「危なくなったら、帰還の巻物を使うし、何かあってもティファが守ってくれるんだろ?」と、ヒモっぽい発言をすると無理矢理だが了解してもらえた。
全ての話がまとまったようなので、俺達は急いで市長会館へと向かう。
交渉ごとなので、都市長ゲイリーへの訪問は、もちろんメリッサに同行してもらい、説明は任せるつもりだ。
夜遅かったので俺達を怪しむ使用人に、火急の知らせで来たと、都市長へと取り付いでもらう。
ゲイリー都市長はさすがに、俺達の事を知っていたのだろうか…特に疑われる事も無く、迎撃準備を始めてもらう事になり、この情報の恩は必ず返すと約束させて屋敷に戻った。
…まぁ、話をしたのは、ほぼメリッサだったけどな!
俺は、自室に戻るとアイテムボックスを出して準備を始める。
「…リロードオン!」
ー竜の守護ー
ー防御の宝珠ー
ー影縫いの肩当ー
・半径20m以内の味方の影に潜める(1分)
ー賢明の盾ー
・魔法攻撃を二回までガード(第七位まで)
ー能力向上のベルトー
ー疾風ブーツー
今回は戦だからな…ちょっと大盤振る舞いだけど、怪我なんかしたら「だから言ったではないですかっ!!」と、ティファに怒られれちゃうからな
準備を終えた俺は部屋を出て、階段を降りると玄関に向かう。
すると、玄関ホールには既に三姉妹が揃っていて、跪いて俺を迎えてくれる。
…ははっ!ちょっと大げさ過ぎるけどな。
「…行くぞ!」
「「「はっ!」」」
俺も少し大袈裟に号令を出して、玄関を出ると、既に屋敷の庭には、ヘッケランが傭兵を集めて待機している。
…さすがヘッケラン、仕事が早い。
「ユウト様、万事整っております。」
深々とお辞儀をしてくるヘッケランに手を上げて答えると、俺は傭兵達にハッパを掛けるべく声を上げた!
「我らの治めるこのアスペルに、帝国のバカ共が踏み込んできた…私の怒りに触れたことを後悔させてやろう!そして、ここに居るお前達は最前列で、この者達の戦いが見れる事を大いに喜ぶがいい!」
俺は自分の後ろにいる三姉妹を指し示して、自軍の力を誇示してみせる。
「…さぁ!全員出撃だぁ!」
「おぉぉお!!」
「うぉぉお!」
…そして、引き返せない戦いが始まる。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる