19 / 106
王都編①
しおりを挟む「よく戻った、シャーロットよ。」
結婚式なんかで使うような、大きなワンホールのフロアを思わせる大きさの、王座の間には【断罪の巫女】と呼ばれる二人が、報告の為に呼び出されていた。
一人は跪く傭兵のような男性で、異世界転移に巻き込まれた被害者、菖蒲蓮《ショウブ レン》と言う従者兼用心棒。
もう一人は、スカートの両端をつまみ上げ、優雅に淑女の礼をする女性シャーロットだ。
「これより儀典官、シャーロット皇女殿下より報告をさせて頂きます!」
声を発したのは、二人の横に立つ、白色の政務官服を着た書記官長の男で、それを聞いた国王は一つ頷く。
「…それでは、わたくしよりご報告をさせていただきます。」
頭を少し下げてから、シャーロットは話し始めた。
周りにいる衛兵達や高官達も、黙って彼女の話に耳を傾ける。
「まず始めに、シルクットでの餓狼蜘、及び邪教ラヴァーナについての報告となります。」
そして、彼女は語り始めた。
まず、シルクットの商業を支える【織物商会】これの代表であるバカルナ、そして三人いる幹部の二人、ラジット・ドーダリーと言う男と女は既にラヴァーナ教に恭順しており、実質的にシルクットはラヴァーナ教に支配されかけていること。
さらに、ラヴァーナ教は、教主ラクシャスを中心として、都市内に五万人近い信者を内包していること。
そしてこれは、シルクット人口の実に1割に登っており、王国の脅威となりつつある現状を共に伝えた。
その上、教主ラクシャスは裏の顔として、犯罪集団【餓狼蜘】の事実上の首魁であるとも付け加えた事で、彼女達の周りからは動揺の声が上がる。
「静かにしたまえ!報告はまだ途中であるぞ!」
そう言ったのは、この国のナンバー2で統括大臣のゲルノアと言う、神経質そうな顔に半分白くなった頭髪を持つ小太りな男だ。
「「…………」」
周りが静かになり、シャーロットはゲルノアに笑みを向けると続ける。
「この餓狼蜘には、王国内にかなりの力を持つ後ろ盾がある事までは掴めました。」
名前までは聞き出せませんでしたが…と、ゲルノアを見やる。
「そ、それは残念だ…」と、俯き呟く大臣を無視して、シャーロットは話題を変える。
「シルクットでの報告は以上になります。…続いて、アスペルでの帝国軍との防衛戦に関してですが…」
「……おぉ!」
「……あれか!」
また周囲が騒がしくなるが、ゲルノアは先程の動揺が残っているのか、今度は反応しない。
収まらない家臣を見て、国王は右手を少し上げた。
「………」
すると、すぐに辺りは静まりを取り戻し、シャーロットは国王の配慮に笑顔で応える。
「こちらの件に関しては、この者より報告させますわ。」
そう言って、彼女はイタズラな表情を浮かべてレンを指し示す。
……うげぇえっ!?
と言う表情で答えた彼は、己の黒髪をポリポリと掻きながら立ち上がり、一礼する。
「…くそっ、姫さん覚えとけよ!」
と、俯いた時に小声で言うが、シャーロットの澄ました顔を見て観念すると報告を始める。
まず、アスペルに居たのは自分と同じで、異世界人だった事、そして、元々アスペルにあった商会を呑み込み、アイアンメイデンと言う組織を作っていたこと。
また、傭兵団も吸収しており、僅か300人程度の軍で、帝国軍の一万超を打ち破れたのは、自分と同程度の実力者が三人と、アーティフェクトアイテムを多用したからだと報告する。
「なんと!過去の遺物である、アーティフェクトアイテムを多用だと!!」
元気を取り戻したゲルノアが叫ぶ。
そして、何故そんな危険な者達を放って帰って来たのか、と強く二人を叱責してくる。
「…あぁ~、それなんですけど、俺と"同程度''って言いましたよね?シャーロット姫が死んでもええんなら、一人か二人は道連れに出来ると思いますけど、それでええんですかね?」
…普通に考えれば、王族や貴族に対してかなり失礼な話し方ではあるが、彼のこの言葉遣いは"直らない"で統一認識されている。
と言うか、一応丁寧に喋っているつもりであり、これ以上、本人に直す気がないのだから仕方ない。
それに、一対一でレンに勝てる人間が、王国軍内に居ない事にも起因している。
もちろん、単純に同条件で戦った場合と注釈は付くが…
いかに彼が、王国に取って得難い戦力なのかが伺えると言うものだ。
レンの発言に、さすがのゲルノアも黙り込む。
「う~む…それはいかんのぉ。儂の大切な娘に何かあってからでは遅いではないか。」
国王が行き詰まるやりとりに、のんびりとした返事をした事で空気が少し緩み話が続く。
「そやから、取り敢えずは様子見って事で、連絡手段も取り付けて来ましたんで、それで勘弁してもらえませんか?」
「…いや、しかし、その者達が力を着けて、王国の転覆を願うやもしれんではないか?」
尚もゲルノアは食い下がる。
…お前が言うんかい。と、小さく呟きレンは虎の子を出す。
「そ、れ、に、や。俺と陛下との約束もあるやろ?この件は、俺に一任してもらうで?」
「…君の世界に戻る為の力になる、か。」
国王の呟きにレンは頷く。
「せや!俺が元の世界に帰れる確率が少しでも上がるんなら、あんたらは協力を惜しまん。それが、俺が命令に従う理由やからな。」
レンの第一目的は"元の世界に戻る事"これは、彼がこの世界に迷い込んだ6年前から変わっていない。
その目的の為に、あらゆる事を試した結果が、王国との持ちつ持たれつの関係であり、今のシャーロットの従者と言う立ち位置でもある。
「良かろう…。では、その件は君に任せて構わんな?」
「へっ、陛下!?」と続けるゲルノアの不満は無視され話は進む。
「もちのろんや。それで陛下に一つ、しんご…?しんけん?……」
「進言ですよバカレン。」
「おぉ!そうそう、進言があるんですわ。」
「…どんな事かのぅ?」
「今回会ったユウトっちゅう奴は、早めに抱え込んどくべきやと思うんですわ!」
レンがシャーロットを犠牲にすればと言ったのは、大袈裟でも何でも無い。
ただ単に、あのまま戦えばまず自分が死んで、次にシャーロットが殺される。
それまでに、断罪の輪で何人殺れるか?と言うだけの事だから、事実を言ったにすぎない。
そしてゲルノアが言った通り、アイアンメイデンが敵に回れば王国の苦戦は必至で、下手を打てば国家首脳陣壊滅の線すら出てくる。
故に、レンは早期にユウト達を懐柔すべきだと国王に進言したのだ。
「…お主ほどの者をしても、野放しは危険だと?」
「そうですねん。LV100が三人もおって、アイテムしこたま溜め込んでる主人がおるんでっせ?俺が国王なら速攻で重役にして、飼い慣らすように努力しますけど?」
……ふむ。
国王は呟き考え込む。
「陛下!何をお考えになられておりますか!?その様な身元の不確かな者が、いきなり重臣になるなど、帝国や神国に何と言われるか、聡明な陛下であれば、充分お分かりでしょう?」
ゲルノアが必至に抗議する。
…しかし、国王は顔を上げると、
「その者に一度会ってみよう。」
そう、二人に告げて王国に呼び寄せるように指示を出す。
……陛下!?
……しかし、それは…
……いやはや…
色々な立場の人間達が、色々な事を好き勝手に言い出し、王座の間は騒然となる。
「……わかりましたわ!陛下からの勅命、わたくし、シャーロット・ベイオール・フォン・アダドがお受け致します。」
辺りは静まり返り、
「…げぇっ!また、あっこまで行くんかいな…」
と、レンの呟きだけが響く。
「…そうか、ではお前に託そう。シャーロットよ。丁重に連れて来るが良い。」
「畏まりました、陛下。」
そう言うと、二人は王座の間を後にして、シャーロットの部屋に向かい歩く。
「…なぁ、姫さんや、なんでまた急にユウト達に絡む気になったんや?てゆうか、ちょっとはユックリしようなぁ」
「レンは見てないの?あのデブ大臣…何が国の脅威になるかも!?よ……あんたが一番、国を脅かしてるんじゃないのっ!」
めんどくさそうにするレンに、シャーロットは歩きながら怒りを露わにする。
さすがのレンも声が大きいと、自制を求める程だ。
それでも彼女の怒りは収まらず、部屋に着くまで、レンは「へぇ、はぁ、」を繰り返すばかりだった。
…10歳は開いている年の差も、この時ばかりは、お姉さんと弟のように見えただろう。
「…ほんじゃ、予定が決まったら教えてな!俺はそれまでブラブラしとくさかい。」
そう言って部屋の前から離れようとするレンの腕を引っ張り、自分の部屋に連れ込むシャーロット。
…そして、それを見ていた、王宮付きのメイド達が色めき出す。
「…きゃー!見た?姫様から無理矢理、レン様を連れ込んだわ!?」
「姫様は年々、過激になられているわね!」
「いーなぁー!私もカッコよくて、強くて、お金持ちで、地位のある旦那様がほしい~」
「あんた、欲張り過ぎよ!!」
そんな声をドアの外に聞きながら、シャーロットは謁見の服装からラフなドレスに着替え出す。
「あんなぁ姫さん?俺も男子なんやから、もちっと気ぃ使ってもええんちゃう?」
後ろを向きながら、目に手を当ててボヤくレンに、「見なきゃいいでしょ」とシャーロットが言い返す。
「姫さんも、そんな冒険者的な性格になってもうたら、嫁さんの貰い手が無くなってまうで?」
多少の嫌味を込めながらレンは文句を続けていると…
背後から細くて白い手が二本、脇の間を通って身体を抱き寄せて来る。
「じゃあ、あなたが私をお嫁さんにしなさいよ…」
「せやなぁ…俺が元の世界に帰るんを諦めたら、嫁にもらおうかなぁ」
…幾度と無く繰り返したやりとり。
答えは分かっているし、レンは帰還を諦めたりしない。
でも、諦められない。
シャーロットは18歳になっており、王族としての婚期は遅いくらいだ。
特殊な役に着いている為、あまり周りに言われないのを良い事に、ひたすら先延ばしにしている。
5年前のあの時から……
しかし、そんな彼女にも逆らえない相手はいる。
現、女王…つまり、自分の義母にあたる、エレノア・ベイオール・フォン・アダド、その人である。
彼女は、未婚の第一王女が、身元の不確かな者と冒険者紛いの職に就く事を良しとせず、何かある度に婚姻話を持ってくる。
だから、シャーロットは王城に長く滞在したくないのが本音で、その為にユウト達をだしに使い、想い人であるレンとの旅行に興ずる。
…それは、叶わない一時の幸せであると知っていても。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜
くまみ
ファンタジー
前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?
「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。
仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。
病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。
「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!
「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
2週目の人生ですが、生きていた世界にファンタジーがあるとは思ってなかった
竹桜
ファンタジー
1人で生きていた男はある事故に巻き込まれて、死んでしまった。
何故か、男は生きていた世界に転生したのだ。
2週目の人生を始めたが、あまり何も変わらなかった。
ある出会いと共に男はファンタジーに巻き込まれていく。
1周目と2週目で生きていた世界で。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる