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王都編②
しおりを挟むーーー国王への報告後、翌朝
レンは朝から、裏道にある暗い酒場に居た。
表の看板には【閉店】の文字が掲げられ、客はレン以外には…一人しか居ない。
「兄貴に調べるように言われてた、例の遺跡ですが、やっぱり、何百年も前に壊れていて、誰も使い方どころか、修理できる人間すら居ないって言われましたよ。」
「ほーか……ご苦労さんやった。また次の情報が入ったら頼むわ。」
そう言って金貨の詰まった袋を投げ渡す。
レンの話し相手のフードを被った男は、それをキャッチすると、中身も確認せずに礼を言って店を出て行く。
このやり取りだけで、どの程度、今の様なやり取りを繰り返してきた関係かが分かる。
…だが、男から報告を受ける度に、レンは溜息をつく。
「はぁ~。これで何度目やろな…アホらしなって、数えんのもめんどいわ。」
もう、いっその事、このまま、この世界に居残るか?と考えるが…その度に一人の女性の顔が頭に浮かぶ。
元の世界に残してきた、自分の妻の顔だ。
…出てくる顔は、マチマチで、小馬鹿にして来るものや、怒った顔、笑った顔に……泣き顔だ。
…彼は常に考えている。
どうすれば、元の世界に帰れるか、何が帰還のヒントになるのか…と。
実際に、ユウト達と敵対せずに、懐柔を進言したのも、彼等のアイテム等から、帰還のヒントを得られるかもしれない、との打算があったからだ。
「…まぁ、期待して無かったし、ええんやけどな。次や次!」
「……頭は、本当に粘り強いですなぁ。俺には絶対ムリですぜ。」
カウンターの奥から、レンの独り言に反応して男が出てくる。
彼はレンの昔の仲間で、「ダズ」と呼ばれる犯罪組織の首領だ。
「いい加減、もう諦めて俺達と、また楽しくやりましょうよ!」
と、いつもの様に彼なりの励ましをくれる。
そんな姿を見ながら、レンは、この世界に来てからの自分の過去を思い返す。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺はこの世界に来てから……
…あかん。やっぱり止めや!
辛気臭い話はしたないし、自分の事語るんはオッサンになってからって決めとるからな。
悪いけど、原稿は作っといたったから、これみて適当にお前さんが読んどいてや!
なっ?んじゃ、宜しゅう!…ほなっ!
……へっ?
ちょ!…おーい!……俺が読むのか?
…おい、マジかよ。
もう既に、一話分のナレーションで結構疲れたのに…
なんて適当な奴だ!…今度、会ったら、絶対にとっちめてやる!
……皆でな。
…
……俺は諦めてレンの過去を語る事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
レンが転生させられて、初めて着いた場所は王国の西端にある、エゼルリオと言う街だった。
ゲームの世界に来てしまった事に気付いた彼は、とにかく色々と試してみる。
…だが、ログアウトも無ければ、セーブポイント等も使えない。
当然、教会や神殿などにも相談したが、頭の痛い人を見る目で、厄介払いされただけだった。
彼は諦めずに一ヶ月位、あちこちに行き、様々な事を試したが…
結局、帰還方法どころか、ヒントすら掴めなかった。
やがて、自暴自棄になったレンは、少しずつ荒れ始める。
酒を飲んで暴れたり、旅人や商人を襲って、奪い…そして殺した。
だが、そんな彼も女子供には手を出せなかった。特に妊婦には弱かった。
どうしても、自分の妻の顔が重なり、手が震えるのだ。
重なる妻の顔が、「何してんねん!早く帰って来い」と訴えてくる。
彼はそれを見るのが怖くて、仲間を求めた。
独りの時間を薄める為だけに。
当然、そんな彼の周りに集まって来るのは、素行の悪い連中ばかりだ。
だけど彼はそんな事を気にはしない。
元々ヤンチャだった彼には、そんなバカな奴らで丁度良かったのだ。
レンの周りに人が集まり始め、僅か半年もしないうちに、エゼルリオの街は、レンを頭とする愚連隊に占拠されてしまったいた。
都市長は逃げ出し、討伐に来た王国軍も三度退けた程だ。
レンの支配する街では、女子供には酷い扱いをさせなかったが、奴隷のように扱われる男達にとってここは、○斗の拳の世界に見えていた事だろう。
「ヒャッハー!」と言いながら、労働を強制し、上澄みを掠めとるレンの部下達に怯えながらも、妻や子供達を人質に取られ逆らえなかったのだ。
何人かの心ある仲間は、街に秩序や統率をレンに求めた。
…しかし、レンは興味が無かった。
どうでも良かったのだ。
所詮はゲーム、自分とは関係無い、意味の無い世界だと考えていた。
軍と戦ったり、モンスターを狩る時だけは、生きてると実感し、彼は転生から一年経つ頃には、「死に戻り」を考え出していた。
普通に考えれば、人の命は死ねば終わり。
…諦めたら試合終了だ。
だけど、この世界に生を望まない彼は、死んで目が覚めれば、元の世界に戻っているのでは…と本気で考え出し、そこに希望を見出そうとしていた。
だが、そんな彼の考えを変える出来事が起こる。
第4次征伐、エゼルリオ奪還作戦で特殊任務を行う【断罪の巫女】と出会ってしまう。
当時12歳で第一王女と言う地位にありながらも、王家の呪われた血である、特殊能力を発現させてしまったシャーロットは、暗殺や粛清を主にする闇の処刑人として活動していた。
この時の彼女を警護していた男は、シャーロットに興味が無く、人の断末魔のみに眼を輝かせるような人間だった。
軍を都市の前面に配置し、注意を引いた隙に【断罪の巫女】は都市内に潜入した。
そして、敵の首魁である、菖蒲 蓮を見つける。
無気力にヘラヘラと笑いながら、「よぅ、来たなぁ~…」と話す敵の首魁を見て、感情を無くし掛けていた、シャーロットの瞳に嫌悪が滲む。
「ガイル、いつも通り行きますよ。」
「了解だ、シャル」
…素早く殺し終わらせる。
シャーロットは少しの感情を瞳に乗せ、断罪の輪を発動させる。
ガイルが敵の気を引き、自分がスキルで殺す。
自分の年齢や外見から、ガイルにしか注意を払わないバカ共は、常にコレで一撃だった……
が、しかし…今回だけは違った。
敵の首魁は、ガイルが飛び掛かり、シャーロットがスキルを発する一瞬の間に、姿が揺らめいた、かと思うと…
飛びかかった筈のガイルは消え、そこには、綺麗に半分になった"物"が転がっていた。
彼女は焦り、もう一つの特殊スキルを発動しようと口を動かす。
「絶対しょうへ…」
ーーーカチャリ…
彼女がスキル名を発するよりも早く、レンの刀が首元に当たり、少し血が滲む。
絶対的な"死"を感じた彼女はその時
……笑顔を見せた。
「……!?」
……バッ!
その笑顔を見たレンは、驚き刀を離して飛びのく。
「おっ、お嬢ちゃん…何やそれ、その顔はなんやねん!」
「……して。早く殺してよ!!」
…シャーロットの心からの叫びだった。
物心着いた時から、殺し殺し殺し殺して来た。
感情があれば壊れていただろう環境だ。
幼さ故に、感情を仕舞い込んで、何とか保っていた自我が「自分の死」を直面して、助けを求める。
絶対の静寂…
自分の死を、敵であるレンに願ったのだ。
「あかん!絶対にあかん!…俺は…そんな事、そんな事を望んだ訳やない…そんなの認められへん!」
レンは崩れ落ち、涙を流し蹲る。
「なによ!私に安息を頂戴よ、殺して!何もかも終わりにしたいの!」
シャーロットも膝を抱きしめ座り込んで叫ぶ。
……しばらくして泣き止み、顔を上げた男の顔は、最初に見た時とのソレとは別人だ、とシャーロットは感じた。
さっぱりとした表情で、美しいとさえ思った。
「…あ~、ほんま久々に泣いてもうたわ。しかも、こんなチビッ子の前でて……」
レンは顔を抑えて、天を仰いだ。
そして、シャーロットを見つめて言う。
「よし!決めた。俺がお前を死にた無い!って思うぐらいに甘やかして…そんで、…守ったる。」
「はっ⁈なっ…何を言ってるの⁉︎意味が分からない!頭おかしいんじゃないの!」
「せやな、俺は頭ん中ぶっ壊れとる。でも、諦めたらあかん目的があるんや……嬢ちゃんは、それまでの、俺の生きる意味になってもらう!…コレは決定や。」
自分の意見をまったく聞こうとしない、大人…なのに、泣き叫んでワガママばかり言う変な奴…
そんな、訳の分からない相手なのに、レンの笑顔を見てシャーロットは、こんな顔が出来る様になりたいと願ってしまった。
…それから、レンを失った愚連隊は王国軍に降伏し、街には平穏が戻るのであった。
レンはと言うと、一部の幹部達は先に逃がし、自分の駒が全て無くならないように手配すると、シャーロットを連れて王都に向かった。
王都へは徒歩で向かった為、衣食住を共にし色々な事を話した。
レンが異世界人だと知った時、シャーロットは驚いたが、なんだか納得もした。
この世界では、かなりの強さを誇るLV60以上あったガイルを一撃で葬る強さ。
訳の分からないことを言い、それまでの全てを捨てて自分を守ると言い出すような変人が、まともな経歴を持ってる筈が無いからだ。
そして、感情を忘れかけていた彼女は、彼と話をする度に瞳に感情を戻して行く。
王都に着く頃には、レンを信頼し、レンが自分の全てだと思うようにまでなっていた。
何故なら、王都に着くまでの二週間弱、野党やモンスターに襲われたが、レンはシャーロットに一度も戦わせなかった。
それどころか、危ないと思う事すら起きなかったのだ。
…自分を見てくれ、優しくしてくれる。
そして、絶対的な力を持つ男性。
幼いシャーロットが、想いを抱くまでに大した時間は必要なかった。
…二人は王都に入り込み、王城前まで来ると、レンはおもむろに刀を抜き兵士に告げる。
「おう!お前ら、姫様殺されたくなかったら、王様に会わせんかい!?」
「……えっ?」
聞こえてきた言葉に傾げたシャーロットの首元には、レンの刀が突き付けられるのだった……
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