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王都編③
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「聞こえへんかったんか?…お前らの大事な姫さん、殺すぞ言うとんじゃ!!」
シャーロットはあまりの出来事に、自分に刀を向けるレンを仰ぎ見る。
……怖い。
…鬼の様な形相だ。
エゼルリオから王都までの道のりで見た、彼のどんな表情とも違う。
鬼気迫るとは、この事なんだろうと思った。
そして、自分なりに一体何が起こったのか、と考え…
そして、自分の浅はかさに思い当たり…
シャーロットは静かに笑った。
…そうだ。
よく考えてみれば簡単な話だった。
レンは街を一つ支配する様な人間なのだ。
…どこの世界に、普通の人間では得られ無い様な境遇を、たかが小娘一人の為に捨ててくれると言うのだろうか?
そもそも、レンはこの世界の人間ですらない…
いや、その話だってもう本当かどうか分かったものではない。
もはや、何も信じる事は出来ない。
……騙されていたと言う事だ、結局は。
…恐らく、この男はエゼルリオを好きにするだけでは飽き足らず、この王都エリオペアにも、何らかの爪痕を残そうとしているのだろう。
それが何か…は思い付かないが、あの街の様子を見れば、良い方向に事が進む筈がないのは、大した知識を持たず、すぐに騙されるバカな自分でも分かる。
…そんな犯罪者に、憧れ、羨み、そして仄かな想いを抱いてしまった。
そんな自分を呪ってやりたい。
彼女は、自らの愚かさに笑みを浮かべていたが、その笑みに反対するかの如く、瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。
「…わたしって……ほんとバカ。こんな事なら、あの時に殺されておくべきだった。」
そんな彼女の呟きは、彼女に刀を突きつけ衛兵達に命令する、レンの耳には届かなかった。
…そんなレンの姿を見て思う。
私に人質としての価値がある、と思い違いをしているこの人はバカだ。
何も知らないのだ…
私は、確かに出生上は第一王女だ。
だか、そんな地位の高い人間が【断罪の巫女】なんて汚い仕事をさせられる筈が無い。
…そう。
私には価値が無く、両親からも必要とされてなんかない。
誰も守ってなんかくれなかった、嫌でも必要として貰うために、この仕事を選ぶしかなかった!
必要なのは、この特殊な能力だけ。
…この能力には価値がある。
王国に取って邪魔な存在や、危険な人物を排除するのに於いてだけは、私はその価値を発揮し、生きる意味を許されるのだ。
だから、自分を人質に取った所で、いったい何が聞き入れてもらえると言うのだろうか?
せいぜい、特殊能力分の金銭が支払われる程度ではないのか…
だから彼女は憐れんだ。
手にしていた物を捨て、大望を抱いたバカな男を…
自分と似た、滑稽なその男を…
……それなら…いっそ、バカ同士…一緒に。
…レンは焦っていた。
「おかしい…」
もっと簡単に国王の元に行ける筈だ、と踏んでいた彼は悩む。
自分の娘が人質に取られて、助けを請わない親などいるのだろうか?
あの恐ろしかった、自分の母親でさえ、今の状況なら…泣き叫び、我が子の許しを請うてくれる…はずだ、多分……
それなのに、衛兵達の反応は鈍く、右往左往して騒ぐだけだ。
自国の姫が危ないと言うのに、先に進ませようとしない兵士達の姿にレンは苛立ち、声は荒くなるばかり。
そのせいで、自分が左腕の中に抱く、彼女の呟きを聞き零してしまっているとも気付かずに…
「…くそっ…なんで上手くいかんのや!」
レンが呟くと、集まっていた兵士達が左右に別れて行き、一人の騎士が現れた。
「…そこまでだ。シャーロット様を離してもらおうか。」
見事な鎧を身に纏い、腰にも魔法の光を放つ立派な剣を下げている。
威風堂々と自分の前に立ちはだかるその姿は、彼の自信と地位の高さを見せつけるのに充分だった。
レンは喜んだ。
ようやく話が早そうな人間が出て来たんだ、こいつに国王の元まで案内させれば、自分の話を聞かせる状況が整うと筈だ、と。
しかし、事は思うように上手くいかない。
偉そうな騎士は、姫から手を離して自分と戦えと言ってくる。
「…コイツはアホなんか?」
わざわざ人質を手放して、囲まれながら戦うバカがどこにいるのだろうか…
そんな事を思いながらも、役に立たない騎士と兵士を押し退けつつ、レンはシャーロットを連れて必死に国王の元へと進む。
少し先に見えたホールから伸びる、一際立派な大階段が、その先に重要な場所があるであろう事は教えてくれているのだ。
…あそこまで、もう少しや。
だが、ホールの先へは、騎士達も行かせる訳には行かないのだ、自分達の存在意義も掛かっているから必死だ。
膠着状況だったレンと騎士達は、偉そうな騎士が、ついに己の武器を抜いた事で変化を見せる。
…周りの緊張は一気に高まり、静まり返る。
空気が研ぎ澄まされていく。
最早、いつ攻撃が始まってもおかしくない。
「これまでか…姫、お許しを!」
…バンッ!!
まさに、騎士が呟き飛び掛かろうとした瞬間、階段の上にある王座の間の扉が開かれた。
そして、中から現れたのは…
…陛下だっ!…国王陛下!?
…なぜ…陛下、危険です!
辺りがまた騒然となる中、従者を連れ、階段をゆっくりと降りてくるのは…この国の最高責任者、ガイゼフ・ベイオール・フォン・アダド国王その人だった。
「…陛下!お下がりください!何故、おいでになられたのか!」
剣を抜いたまま、騎士が叫ぶ。
国王相手に、中々の物言いではあるが、周りから彼への非難等は、一切起こらない。
この非常時に優先されるのは、礼儀よりも、国王の安全で、この騎士がその責任者だからなのだろう。
もし万が一、国王の身に何かあれば、ここに居る彼等全員の首程度で済む筈が無いのは、子供でも理解できるから尚更だ。
故に、この様な場には、国王が出て来てはいけない、出て来て欲しく無い。
…と言うのが総意であったのだ。
しかし、アダド国王は怒鳴られたのを気にする様子も無く、どんどんレン達の方に向かってくる。
進んでくる王を押し留める訳にも行かず、兵士達は避難するよう懇願しながら、道を譲るしかなかった。
が…先程からこの場の中心人物であった、王国騎士長であるオリバー・ロイス・クーチェスは、その限りでは無かった。
「…ここで、お止まりを。」
オリバーは焦りを孕んだ声を発し、右手に剣を突き出しまま、反対に伸ばした左手で国王の体を押し止める。
「何故、参られたのか…陛下。」
「…ふむ。そうじゃの、娘の帰還を世転ばぬ親などおるまいて。…なぁ、そうじゃろ?」
危機感の薄い表情で話し掛けられた兵士は、オリバーの顔色を伺いながらも同意を示す他無い。
…ようやくお出ましか…
そんな彼等の状況はお構い無しに、レンはようやく国王と会えたこの状況やな安堵しながら話し掛ける。
「…あんさんが国王様やな?ほんなら話が早いわ!実はあんたに頼みが……」
「断罪の輪!!」
国王の姿を見て一瞬安堵し、気の緩んだレンの隙を突いたシャーロットは、必殺のスキルを発動する。
その身をレンと一緒に囲んだ上で…だ。
光の輪は、二人をターゲットにし、その力を発揮する。
「ちょ、お嬢ちゃん…何やっと…」
「ご心配なく、お父様!この力は、対象を捉えると、動きを拘束し逃しません。…ですから、このまま私と…」
「はあぁぁっ!!」
…ガキーン!
シャーロットの言葉を遮るオリバーの攻撃は、光の輪から伸びる円筒状の壁に阻まれ、レンを傷つける事が出来ない。
「ちっ」と、舌打ちすると、続け様に攻撃をしようと剣を振りかぶる!
「やめんかっ!」
「…シャーロットよ、儂の負けじゃな。その方、何が望みなのじゃ?」
オリバーの追撃を止めさせた国王は、シャーロット達に話し掛ける。
その時の国王が、シャーロットに向けた表情は、娘を心配し愛おしむ、そんな顔だった。
だが、今の彼女には相手の心情など分からない…
その父の表情が、自分を娘として大切と思っているのか、国王として娘の持つ力が大切なのかも…
…何が真実で、何を信じれば良いのだろう。
自分は愛されてはいない。
必要とされていない筈。
なのに…なのに、国王は、父は…愛しい娘を見るような顔を向けてくる。
分からない、何もわからない。
不安で苦しい……早く楽になりたい…
シャーロットの心の中には、あの時と同じ、安寧を求める昏い想いが、心の底から湧き出して来る。
「……おい!いーかげん、俺の話…」
「いやぁぁあ!!」
この状況に耐えかね発した、レンの声を聞いて不安が爆発してしまったのか、シャーロットは悲鳴をあげる。
そして、それを聞いたせいなのか、止まっていた光の輪は二人を【断罪】すべく、その円を次第に縮めていった…
その光景に周りは一層騒がしくなり、縮んで行く光の輪から皇女を助けるべく、兵士達が次々と手を出すが全て弾かれて行く。
その間も光の輪は二人を呑み込まんと、徐々にその刃を迫らせる。
…光の刃がシャーロットに当たる間際、
「うぉぉぉらぁぁあ!!」
動く事が出来ない筈の光の中にありながら、叫び声と共に、シャーロットを掴んでいた、左腕を抱き寄せ、レンは自分の体で彼女を覆い隠す。
「レンッ!?」
「くそっ!…うぐぅぁぁあ!」
さらに縮まる光の輪は、ついにその刃をレンの身体へと容赦なく食い込ませて行く…
シャーロットに刃が届かないよう、必死に身体を縮めるが、光の刃の前にレンの身体が先に限界を迎えようとしていた。
……あかん…もう、
レンが諦めかけたその時…
「ダメェェェェ!!」
…シュウァァ…
シャーロットの叫びに応じるように、光の輪が掻き消えた。
ーーードサッ
「いやぁっ!!レン、レン!」
身体のあちこちから大量の血を流し、倒れ込むレンにしがみつき、泣き叫ぶ。
周りにいた兵士達は、シャーロットを引き離そうと、幼い彼女の体を引っ張る。
「い、いや!お父様!レンを、レンを助けてください!お願いします……」
大人の力には逆らえず、引き剥がされてしまい、泣きながら父に懇願するシャーロット。
…アダド王は少し考え、願いを聞き届ける決断をする。
「…よかろう、娘の頼みだ。この者をただちに手当てし、死なせるでない!」
「「は、はっ!」」
王の命に、兵士達がレンの救助を始める。
「…陛下、今の内に殺すべきです。」
強い意志を秘めた口調でオリバーが言う。
「…その結果、儂の娘が、自らを絶ってしまうよな事があったとしても、目を瞑れ…と言うのか?」
国王の厳しい反論と視線に、
そのような事は…と、オリバーは跪き頭を下げ、出過ぎた発言を撤回した。
国王は、近くに居た兵士にレンを拘束し、傷が癒えたら話を聞く、と伝えるように言い残し、シャーロットの震える肩を抱きながら連れて行く。
…シャーロットは肩を縮め震わせながらも、国王の…自らの父の言葉に従い、その場を後にした。
シャーロットはあまりの出来事に、自分に刀を向けるレンを仰ぎ見る。
……怖い。
…鬼の様な形相だ。
エゼルリオから王都までの道のりで見た、彼のどんな表情とも違う。
鬼気迫るとは、この事なんだろうと思った。
そして、自分なりに一体何が起こったのか、と考え…
そして、自分の浅はかさに思い当たり…
シャーロットは静かに笑った。
…そうだ。
よく考えてみれば簡単な話だった。
レンは街を一つ支配する様な人間なのだ。
…どこの世界に、普通の人間では得られ無い様な境遇を、たかが小娘一人の為に捨ててくれると言うのだろうか?
そもそも、レンはこの世界の人間ですらない…
いや、その話だってもう本当かどうか分かったものではない。
もはや、何も信じる事は出来ない。
……騙されていたと言う事だ、結局は。
…恐らく、この男はエゼルリオを好きにするだけでは飽き足らず、この王都エリオペアにも、何らかの爪痕を残そうとしているのだろう。
それが何か…は思い付かないが、あの街の様子を見れば、良い方向に事が進む筈がないのは、大した知識を持たず、すぐに騙されるバカな自分でも分かる。
…そんな犯罪者に、憧れ、羨み、そして仄かな想いを抱いてしまった。
そんな自分を呪ってやりたい。
彼女は、自らの愚かさに笑みを浮かべていたが、その笑みに反対するかの如く、瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。
「…わたしって……ほんとバカ。こんな事なら、あの時に殺されておくべきだった。」
そんな彼女の呟きは、彼女に刀を突きつけ衛兵達に命令する、レンの耳には届かなかった。
…そんなレンの姿を見て思う。
私に人質としての価値がある、と思い違いをしているこの人はバカだ。
何も知らないのだ…
私は、確かに出生上は第一王女だ。
だか、そんな地位の高い人間が【断罪の巫女】なんて汚い仕事をさせられる筈が無い。
…そう。
私には価値が無く、両親からも必要とされてなんかない。
誰も守ってなんかくれなかった、嫌でも必要として貰うために、この仕事を選ぶしかなかった!
必要なのは、この特殊な能力だけ。
…この能力には価値がある。
王国に取って邪魔な存在や、危険な人物を排除するのに於いてだけは、私はその価値を発揮し、生きる意味を許されるのだ。
だから、自分を人質に取った所で、いったい何が聞き入れてもらえると言うのだろうか?
せいぜい、特殊能力分の金銭が支払われる程度ではないのか…
だから彼女は憐れんだ。
手にしていた物を捨て、大望を抱いたバカな男を…
自分と似た、滑稽なその男を…
……それなら…いっそ、バカ同士…一緒に。
…レンは焦っていた。
「おかしい…」
もっと簡単に国王の元に行ける筈だ、と踏んでいた彼は悩む。
自分の娘が人質に取られて、助けを請わない親などいるのだろうか?
あの恐ろしかった、自分の母親でさえ、今の状況なら…泣き叫び、我が子の許しを請うてくれる…はずだ、多分……
それなのに、衛兵達の反応は鈍く、右往左往して騒ぐだけだ。
自国の姫が危ないと言うのに、先に進ませようとしない兵士達の姿にレンは苛立ち、声は荒くなるばかり。
そのせいで、自分が左腕の中に抱く、彼女の呟きを聞き零してしまっているとも気付かずに…
「…くそっ…なんで上手くいかんのや!」
レンが呟くと、集まっていた兵士達が左右に別れて行き、一人の騎士が現れた。
「…そこまでだ。シャーロット様を離してもらおうか。」
見事な鎧を身に纏い、腰にも魔法の光を放つ立派な剣を下げている。
威風堂々と自分の前に立ちはだかるその姿は、彼の自信と地位の高さを見せつけるのに充分だった。
レンは喜んだ。
ようやく話が早そうな人間が出て来たんだ、こいつに国王の元まで案内させれば、自分の話を聞かせる状況が整うと筈だ、と。
しかし、事は思うように上手くいかない。
偉そうな騎士は、姫から手を離して自分と戦えと言ってくる。
「…コイツはアホなんか?」
わざわざ人質を手放して、囲まれながら戦うバカがどこにいるのだろうか…
そんな事を思いながらも、役に立たない騎士と兵士を押し退けつつ、レンはシャーロットを連れて必死に国王の元へと進む。
少し先に見えたホールから伸びる、一際立派な大階段が、その先に重要な場所があるであろう事は教えてくれているのだ。
…あそこまで、もう少しや。
だが、ホールの先へは、騎士達も行かせる訳には行かないのだ、自分達の存在意義も掛かっているから必死だ。
膠着状況だったレンと騎士達は、偉そうな騎士が、ついに己の武器を抜いた事で変化を見せる。
…周りの緊張は一気に高まり、静まり返る。
空気が研ぎ澄まされていく。
最早、いつ攻撃が始まってもおかしくない。
「これまでか…姫、お許しを!」
…バンッ!!
まさに、騎士が呟き飛び掛かろうとした瞬間、階段の上にある王座の間の扉が開かれた。
そして、中から現れたのは…
…陛下だっ!…国王陛下!?
…なぜ…陛下、危険です!
辺りがまた騒然となる中、従者を連れ、階段をゆっくりと降りてくるのは…この国の最高責任者、ガイゼフ・ベイオール・フォン・アダド国王その人だった。
「…陛下!お下がりください!何故、おいでになられたのか!」
剣を抜いたまま、騎士が叫ぶ。
国王相手に、中々の物言いではあるが、周りから彼への非難等は、一切起こらない。
この非常時に優先されるのは、礼儀よりも、国王の安全で、この騎士がその責任者だからなのだろう。
もし万が一、国王の身に何かあれば、ここに居る彼等全員の首程度で済む筈が無いのは、子供でも理解できるから尚更だ。
故に、この様な場には、国王が出て来てはいけない、出て来て欲しく無い。
…と言うのが総意であったのだ。
しかし、アダド国王は怒鳴られたのを気にする様子も無く、どんどんレン達の方に向かってくる。
進んでくる王を押し留める訳にも行かず、兵士達は避難するよう懇願しながら、道を譲るしかなかった。
が…先程からこの場の中心人物であった、王国騎士長であるオリバー・ロイス・クーチェスは、その限りでは無かった。
「…ここで、お止まりを。」
オリバーは焦りを孕んだ声を発し、右手に剣を突き出しまま、反対に伸ばした左手で国王の体を押し止める。
「何故、参られたのか…陛下。」
「…ふむ。そうじゃの、娘の帰還を世転ばぬ親などおるまいて。…なぁ、そうじゃろ?」
危機感の薄い表情で話し掛けられた兵士は、オリバーの顔色を伺いながらも同意を示す他無い。
…ようやくお出ましか…
そんな彼等の状況はお構い無しに、レンはようやく国王と会えたこの状況やな安堵しながら話し掛ける。
「…あんさんが国王様やな?ほんなら話が早いわ!実はあんたに頼みが……」
「断罪の輪!!」
国王の姿を見て一瞬安堵し、気の緩んだレンの隙を突いたシャーロットは、必殺のスキルを発動する。
その身をレンと一緒に囲んだ上で…だ。
光の輪は、二人をターゲットにし、その力を発揮する。
「ちょ、お嬢ちゃん…何やっと…」
「ご心配なく、お父様!この力は、対象を捉えると、動きを拘束し逃しません。…ですから、このまま私と…」
「はあぁぁっ!!」
…ガキーン!
シャーロットの言葉を遮るオリバーの攻撃は、光の輪から伸びる円筒状の壁に阻まれ、レンを傷つける事が出来ない。
「ちっ」と、舌打ちすると、続け様に攻撃をしようと剣を振りかぶる!
「やめんかっ!」
「…シャーロットよ、儂の負けじゃな。その方、何が望みなのじゃ?」
オリバーの追撃を止めさせた国王は、シャーロット達に話し掛ける。
その時の国王が、シャーロットに向けた表情は、娘を心配し愛おしむ、そんな顔だった。
だが、今の彼女には相手の心情など分からない…
その父の表情が、自分を娘として大切と思っているのか、国王として娘の持つ力が大切なのかも…
…何が真実で、何を信じれば良いのだろう。
自分は愛されてはいない。
必要とされていない筈。
なのに…なのに、国王は、父は…愛しい娘を見るような顔を向けてくる。
分からない、何もわからない。
不安で苦しい……早く楽になりたい…
シャーロットの心の中には、あの時と同じ、安寧を求める昏い想いが、心の底から湧き出して来る。
「……おい!いーかげん、俺の話…」
「いやぁぁあ!!」
この状況に耐えかね発した、レンの声を聞いて不安が爆発してしまったのか、シャーロットは悲鳴をあげる。
そして、それを聞いたせいなのか、止まっていた光の輪は二人を【断罪】すべく、その円を次第に縮めていった…
その光景に周りは一層騒がしくなり、縮んで行く光の輪から皇女を助けるべく、兵士達が次々と手を出すが全て弾かれて行く。
その間も光の輪は二人を呑み込まんと、徐々にその刃を迫らせる。
…光の刃がシャーロットに当たる間際、
「うぉぉぉらぁぁあ!!」
動く事が出来ない筈の光の中にありながら、叫び声と共に、シャーロットを掴んでいた、左腕を抱き寄せ、レンは自分の体で彼女を覆い隠す。
「レンッ!?」
「くそっ!…うぐぅぁぁあ!」
さらに縮まる光の輪は、ついにその刃をレンの身体へと容赦なく食い込ませて行く…
シャーロットに刃が届かないよう、必死に身体を縮めるが、光の刃の前にレンの身体が先に限界を迎えようとしていた。
……あかん…もう、
レンが諦めかけたその時…
「ダメェェェェ!!」
…シュウァァ…
シャーロットの叫びに応じるように、光の輪が掻き消えた。
ーーードサッ
「いやぁっ!!レン、レン!」
身体のあちこちから大量の血を流し、倒れ込むレンにしがみつき、泣き叫ぶ。
周りにいた兵士達は、シャーロットを引き離そうと、幼い彼女の体を引っ張る。
「い、いや!お父様!レンを、レンを助けてください!お願いします……」
大人の力には逆らえず、引き剥がされてしまい、泣きながら父に懇願するシャーロット。
…アダド王は少し考え、願いを聞き届ける決断をする。
「…よかろう、娘の頼みだ。この者をただちに手当てし、死なせるでない!」
「「は、はっ!」」
王の命に、兵士達がレンの救助を始める。
「…陛下、今の内に殺すべきです。」
強い意志を秘めた口調でオリバーが言う。
「…その結果、儂の娘が、自らを絶ってしまうよな事があったとしても、目を瞑れ…と言うのか?」
国王の厳しい反論と視線に、
そのような事は…と、オリバーは跪き頭を下げ、出過ぎた発言を撤回した。
国王は、近くに居た兵士にレンを拘束し、傷が癒えたら話を聞く、と伝えるように言い残し、シャーロットの震える肩を抱きながら連れて行く。
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