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英雄達
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剣聖ガリフォンは自室に戻るとニヤリと笑う。
そして、自分を戒めるかのように首を振る。
「…はっ!俺も歳かな。」
弟子達の戦いを見て成長を感じ、叩き潰してやるという気持ちより、嬉しい感情が先に出てしまった自身を嘲笑う。
彼がルクエールの名を継ぎ、剣聖と名乗るようになってから15年が経ち、自身の年齢も40を数えようとしている。
…道場の門を叩いて、ひたすら強くなる事だけを考えて生きてきた。気がついたら、俺に並ぶ奴がいなくなって…25の時に先代をぶっ倒したら、無理矢理に継承させられた今の地位…か。
己の事だけを考えて生きて来たはずなのに、立場を与えられ歳を取ると、あれこれ考えてしまうようになる自分。
そんな自分が面白くないガリフォンは、引退を考えるようになっていた。
無精髭をさすりながら、聖女が伝え広める、勇者の出現と悪魔王(デーモンロード)の復活に想いを馳せる。
「…ちびっ子バンゼルの復習ねぇ」
数年前、神国から依頼があり、町を襲撃した悪魔を討伐に向かった先で…町の人間ほとんどが殺された中で生き残った少年。
目に復讐心だけを宿した姿に、不安を感じたガリフォンはバンゼルを道場に連れ帰った。
最初はキツくしごけば根を上げて、復讐心など捨てるだろうと思っていたが…
鍛えれば鍛える程、バンゼルは強くなってしまい、今では道場で実質の最高位にまで上がって来いた。
序列一位は、次期剣聖の為にある序列なので、ガリフォンが次代にと選ばなければ、一位は空席のままだ。
…今までも何人か候補はいたけど、俺を倒せるような奴が居なかったからなぁ。
わざと負けるなんて性に合わんしな。
世代交代する為には、現剣聖を倒す必要があるので、ガリフォンが齢40になる今まで、どの弟子達も達することができなかった訳だ。
「バンゼルなら、あるいは…はっ、考えるだけ無駄か。」
弟子の想いを充分過ぎる程知っている為に、自分の考えを自ら否定し、空席になった序列三位の席を作る為に動き出す。
ーーーーーエデキア 観光商会
「う~ん。侯爵様がわざわざ、我々の営業圏に出張る意味が理解し難いのですが…」
男は手に持ったソロバンをカシャカシャしながら、不満に満ちた表情で、相手の男を射抜いた。
…
……
この話になる少し前、俺達アイアンメイデン攻略出張隊 (仮)は、最終の打ち合わせを行っていた。
前日の様子から不安があった俺は、メリーに連絡を取り相談していた。
メリーが戻るのは3日から4日かかると言われたので、一度チャレンジしてみる事とフォローをお願いするかもと伝えておいた。
「…今のユウト様なら、きっと上手くいきますわ。」
水晶越しに励ましてくれるメリーに力をもらって、気合いを入れて商会を訪れ、俺達と組む事がいかに良いか、どんな所にメリットがあるのか力説した!
…つもりだったのに、この反応だ。
そもそも在庫を持たず、人件費だけで稼げる観光案内はネットワークと人のコミュニケーション能力が重要だ。
そして、それは簡単に養える物では無く、突然来て、介入しようとされるのは面白く無い…と突き放されている。
各都市からの観光直行便とかも提案してみたけど、既に対応してるらしいし、金額はウチの方が安いが、それこそ長い付き合いと信用があるからと言われてしまう。
出入り業者としての付き合い程度は良いが、商会の決定事項に口を出されるのは嫌だとさ…
ここで、俺は侯爵だの、シャルは皇女だの言うと負けた気がするので…大人しく引き下がった。
「はぁ…別に良いと思うんだけどなぁ。」
「不逞な輩です。斬りますか?」
「だだだ、ダメですよ!ティファさん!」
「…凍らす…?」
「レアちゃんもダメェ!!」
ティファやレアのぶっ飛び発言に、シャルとルサリィが素早く突っ込んでくれる。
…ちゃんと否定しとかないと、本当にやりかねないからな。
都市長の紹介状も効かず、これからどうしたものかと、途方にくれて歩いていると…
「きゃーっ!」
「…人さらいだっ!!」
少し遠くの方で物騒な叫び声が聞こえる…
「ユウト様!?」
「あぁ、行こう!」
ティファの訴えに頷いて、俺達は現場に走る。
そこで狼狽える人達に話を聞くと、一人二人の可愛いものじゃなくて、バスジャックならぬ、バシャジャックとの事だ!
…上手いこと言ってる場合じゃ無いので、真面目に考える。
ここは馬車の乗合所になっていて、二台同時にやられたらしい。
俺達も二手に別れる必要があるけど…ティファは前回の事があって、俺と一緒に行くと言って聞かない。
仕方ないので、俺とティファ、レアとシャル。
ルサリィには、ここで連絡役をお願いする。
…ていのいい待機依頼だったんだけど、力強い顔で「頑張る!」と言ってくれた。
ありがたい。
一刻を争うので、召喚獣を二体呼び出す。
「リロードオン、召喚笛!」
二本いっぺんに吹いたら、体長2m以上ある、狼型の魔獣と、ユニコーンが現れる。
乗りやすい方を二人に預けて、俺とティファは魔獣フェンリルにしがみついて、それぞれ走り出す。
…
「はぁっはぁー!全くちょろいもんだぜ!」
「まーったくだぜー!兄貴いぃ!」
…ひぃぃ…助けて……
都市の西部に逃げる馬車は、前方の御者台と後方の昇降口を押さえられており、幌を挟むように傭兵が二人ついている。
中に閉じ込められた人々は、老若男女で、誰かを狙ったものでは無く、無差別だというのが見てわかるようだ。
「ひゃっはー!洗脳するのもいいけど、若い女は回して欲しいもんだぜぇぇ」
男達は下品な表情を浮かべながら、ひたすら西へと馬車を走らせる。
…一方、都市北部
「兄貴ぃ!なんか…変な犬っころが追いかけてきますぜ!」
「あぁん?誰の飼い犬だよ!?ひゃっはー!」
…怖いよぉ…神さま…
震える人質を乗せたこちらの馬車も、前後左右を賊に囲まれ、スピードを上げて北へと逃げて行く。
が…出だしに手間取った分、追跡者に追いつかれるのが早かった。
「おい、テメーラ!ありゃ犬じゃねぇぞ、魔獣だ!!」
「なっ、フェンリルじゃねえかっ!?」
追跡者である俺達が近づくにつれて、何に騎乗しているのかを理解した傭兵達が慌て始める…だけど、もう遅い!
「リロードオン金の礫銀の礫、どぉりゃっ!!」
少し開けた場所に出たのを見計らって、ティファにしがみつきながら、銀の礫を右後ろの車輪に投げつけてやる。
…ドカッ!バキッ…ガタッガガガ!
「車輪が壊れた!」
「くそっ、やっちまえ!」
馬車に追いついた俺達は、フェンリルから降りて身構える。
すると、傭兵二人がヤル気みたいで突っ込んできた!
ガシャッ…
ティファが二人を迎え撃つ用意をしているので、フェンリルに誘拐犯達を蹴散らしてくるように指示をだしておく。
「おらおらぁ!」
「うらぁあ!」
「…ソニックスラッシュ!」
ティファのスキルが放たれると、傭兵達は衝撃波で後ろに吹き飛び、泡を吹いて倒れた。
…ガウッ!
馬車の後ろにいた賊にフェンリルが襲いかかった!
「うわぁぁ!兄貴、助けてぇ!」
「…ちっ、仕方ねぇ!」
そう言うと、前にいた男が幌の屋根に登って、クリスタルのような物を取り出した。
「…ティファ、あれは魔封石だ!」
「ユウト様、お下がりください。」
ティファが危険だと、俺の前に立ってくれるけど、レン達と戦ったグーロの時みたいに、召喚されたモンスターが、無差別に暴れ出したら馬車に乗ってる人達が危ない!
「…死にやがれ!」
クリスタルが消えて、モンスターが現れる…
…グルゥルルッ
「…地獄の番犬ですか。」
ティファの呟き通り、俺達の前に現れたのは…三ツ首の魔獣ケルベロスだ。
PTM(パーティーモンスター)で適正70位の相手だから、ティファなら問題無く処理出来るだろうけど、範囲の火炎攻撃があるから馬車を守らないと…
「とりあえず、こっちに誘き寄せる。ティファ!」
ティファに指示を出して、馬車が邪魔にならない位置へと移動する。
「アイツらをやっちまえ、犬っころ!」
…どうみたって自分より格上の魔獣相手に、良くあんな態度とれるもんだ。
封魔石は強制力が小さい事を知らんのだろうか?
勝手に殺されるのは良いけど、制御できなくなるのは勘弁だ!
…グゥルルゥ…
チラリとケルベロスは「こいつ殺すか…」と悩んだように見ていたが、仕方なさそうに俺達に向かってくる。
「…かかってきなさい。」
ケルベロスに向かってティファが挑発スキルを発動したのを確認して、俺はフェンリルに賊を襲う指示を出す。
…ウゥゥ…グゥアゥ!
「ぎぃゃあぁーっっ…」
「…クボウッ!」
自分の召喚者が襲われてるのを見たケルベロスが、フェンリルを賊ごとブレスで焼き払う。
耐久値を削りきられてフェンリルは消え去り、その場には黒焦げた賊だけが残った。
「…どこを見ている!」
ティファが再度スキルを掛け直しながらケルベロスに斬りかかって行く…
…
……
「…強いな。さすかティファだ。」
俺は隙のない動きに感心して、一人感想を零す。
戦い始めてまだ数分だけど、周りに被害が及ばないように、注意しながら上手く削ってくれている。
相手が得意属性ってのも影響ありそうだけども、心配なく見ていられるな。
…俺は隙を見て馬車の中から、コソコソと捕まっていた人達を解放して、安全な所まで避難させておく。
一応、万が一の時を考えてフォローできる位置で待機してるけどやる事はなさそうだ。
…アゥ…ガフッ……
…なんだろうか?もうすぐトドメって所なのに、ティファがチラチラ目線を送ってくる。
俺とケルベロスを交互に
ああっ!
俺にトドメを刺せって事かっ?
…ヒーローに仕立てようった事か…良くできた嫁だぜ!!
「リロードオン、氷狼の牙!」
旦那を立てる良妻っぷりを発揮してくれる、ティファの要望に応えて氷柱を召喚すると、ケルベロスに喰らわせてやる!
…ドゴッドゴン!
「ウガァ!ウゥッ…」
ケルベロスは断末魔をあげながら…潰れた。
「お見事です、ユウト様」
ティファが跪いて、俺がやった感をアピールしてくれる。
う~ん、完璧過ぎて俺の方が頭を下げたいくらいだよ…
ーーーーーーもう一方
「…しゃーろ…まかせた…」
「名前くらいちゃんと言ってぇぇ!」
適当なレアに抗議をしながらも、二人分の絶対障壁を展開し、魔獣グリフォンの雷撃から身を守る。
…西へと逃げる賊に追いつき、レアの魔法で車輪を全て破壊し、馬車をただの箱へと変化させた二人は、傭兵が早々に逃げ出した為、簡単に解決するかと思われた。
しかし、大人しく降参したように振舞っていた賊の一人が、封魔石を解放した事で一変する。
召喚された魔獣はグリフォンと呼ばれる、飛行タイプのモンスターだった。
レアは極大範囲魔法好きなので、狙いを絞るのが苦手で、どデカイ氷塊で撃ち墜とそうとするが、シャルに、街が壊滅する!と止められてしまい…防御は注文の多いシャルに丸投げして攻撃手段を考える。
…グゥアッッ!
「くっ!絶対障壁!」
二人が攻撃して来ないのを良い事に、魔法攻撃と近接攻撃を放ってくるグリフォン。
PTM(パーティモンスター)で適正50だが、常時飛んでいるので攻略が難しい…
実際、シャルの特殊スキル断罪の輪でも、対象が動き続けていると狙いが付けれず、対処に苦しんでいるのだ。
「…もう、そんなに持たないかも…」
「…おぉ…そうだ…フォーリングダウン!」
ウギャアと一声鳴くと、一瞬で重力に押し潰されながら地面に落下するグリフォン。
さすがに倒すには至らなかったが、地面に縫い付け飛ぶことを許さない、すかさずシャルがスキルを発動し動きを止める。
「…しゃーろ…ぐっじょぶ…」
「レアさん、トドメを!」
「…フロスト…ノヴァ、まきしまむ!」
…ピキ…ピキビキッ
レアの魔法は周囲の空気すら巻き込んで、グリフォンを氷像と化す。
「…きって…」
「断罪の輪!」
抵抗を許されないグリフォンは綺麗な断面を見せ、二つに割れ落ちた。
「…ふぅ…おなかへった」
「やりましたね!」
シャルはレアの手を取り喜ぶ。
…そしてこの日、観光都市バノペアに2組目の英雄が誕生したのであった。
そして、自分を戒めるかのように首を振る。
「…はっ!俺も歳かな。」
弟子達の戦いを見て成長を感じ、叩き潰してやるという気持ちより、嬉しい感情が先に出てしまった自身を嘲笑う。
彼がルクエールの名を継ぎ、剣聖と名乗るようになってから15年が経ち、自身の年齢も40を数えようとしている。
…道場の門を叩いて、ひたすら強くなる事だけを考えて生きてきた。気がついたら、俺に並ぶ奴がいなくなって…25の時に先代をぶっ倒したら、無理矢理に継承させられた今の地位…か。
己の事だけを考えて生きて来たはずなのに、立場を与えられ歳を取ると、あれこれ考えてしまうようになる自分。
そんな自分が面白くないガリフォンは、引退を考えるようになっていた。
無精髭をさすりながら、聖女が伝え広める、勇者の出現と悪魔王(デーモンロード)の復活に想いを馳せる。
「…ちびっ子バンゼルの復習ねぇ」
数年前、神国から依頼があり、町を襲撃した悪魔を討伐に向かった先で…町の人間ほとんどが殺された中で生き残った少年。
目に復讐心だけを宿した姿に、不安を感じたガリフォンはバンゼルを道場に連れ帰った。
最初はキツくしごけば根を上げて、復讐心など捨てるだろうと思っていたが…
鍛えれば鍛える程、バンゼルは強くなってしまい、今では道場で実質の最高位にまで上がって来いた。
序列一位は、次期剣聖の為にある序列なので、ガリフォンが次代にと選ばなければ、一位は空席のままだ。
…今までも何人か候補はいたけど、俺を倒せるような奴が居なかったからなぁ。
わざと負けるなんて性に合わんしな。
世代交代する為には、現剣聖を倒す必要があるので、ガリフォンが齢40になる今まで、どの弟子達も達することができなかった訳だ。
「バンゼルなら、あるいは…はっ、考えるだけ無駄か。」
弟子の想いを充分過ぎる程知っている為に、自分の考えを自ら否定し、空席になった序列三位の席を作る為に動き出す。
ーーーーーエデキア 観光商会
「う~ん。侯爵様がわざわざ、我々の営業圏に出張る意味が理解し難いのですが…」
男は手に持ったソロバンをカシャカシャしながら、不満に満ちた表情で、相手の男を射抜いた。
…
……
この話になる少し前、俺達アイアンメイデン攻略出張隊 (仮)は、最終の打ち合わせを行っていた。
前日の様子から不安があった俺は、メリーに連絡を取り相談していた。
メリーが戻るのは3日から4日かかると言われたので、一度チャレンジしてみる事とフォローをお願いするかもと伝えておいた。
「…今のユウト様なら、きっと上手くいきますわ。」
水晶越しに励ましてくれるメリーに力をもらって、気合いを入れて商会を訪れ、俺達と組む事がいかに良いか、どんな所にメリットがあるのか力説した!
…つもりだったのに、この反応だ。
そもそも在庫を持たず、人件費だけで稼げる観光案内はネットワークと人のコミュニケーション能力が重要だ。
そして、それは簡単に養える物では無く、突然来て、介入しようとされるのは面白く無い…と突き放されている。
各都市からの観光直行便とかも提案してみたけど、既に対応してるらしいし、金額はウチの方が安いが、それこそ長い付き合いと信用があるからと言われてしまう。
出入り業者としての付き合い程度は良いが、商会の決定事項に口を出されるのは嫌だとさ…
ここで、俺は侯爵だの、シャルは皇女だの言うと負けた気がするので…大人しく引き下がった。
「はぁ…別に良いと思うんだけどなぁ。」
「不逞な輩です。斬りますか?」
「だだだ、ダメですよ!ティファさん!」
「…凍らす…?」
「レアちゃんもダメェ!!」
ティファやレアのぶっ飛び発言に、シャルとルサリィが素早く突っ込んでくれる。
…ちゃんと否定しとかないと、本当にやりかねないからな。
都市長の紹介状も効かず、これからどうしたものかと、途方にくれて歩いていると…
「きゃーっ!」
「…人さらいだっ!!」
少し遠くの方で物騒な叫び声が聞こえる…
「ユウト様!?」
「あぁ、行こう!」
ティファの訴えに頷いて、俺達は現場に走る。
そこで狼狽える人達に話を聞くと、一人二人の可愛いものじゃなくて、バスジャックならぬ、バシャジャックとの事だ!
…上手いこと言ってる場合じゃ無いので、真面目に考える。
ここは馬車の乗合所になっていて、二台同時にやられたらしい。
俺達も二手に別れる必要があるけど…ティファは前回の事があって、俺と一緒に行くと言って聞かない。
仕方ないので、俺とティファ、レアとシャル。
ルサリィには、ここで連絡役をお願いする。
…ていのいい待機依頼だったんだけど、力強い顔で「頑張る!」と言ってくれた。
ありがたい。
一刻を争うので、召喚獣を二体呼び出す。
「リロードオン、召喚笛!」
二本いっぺんに吹いたら、体長2m以上ある、狼型の魔獣と、ユニコーンが現れる。
乗りやすい方を二人に預けて、俺とティファは魔獣フェンリルにしがみついて、それぞれ走り出す。
…
「はぁっはぁー!全くちょろいもんだぜ!」
「まーったくだぜー!兄貴いぃ!」
…ひぃぃ…助けて……
都市の西部に逃げる馬車は、前方の御者台と後方の昇降口を押さえられており、幌を挟むように傭兵が二人ついている。
中に閉じ込められた人々は、老若男女で、誰かを狙ったものでは無く、無差別だというのが見てわかるようだ。
「ひゃっはー!洗脳するのもいいけど、若い女は回して欲しいもんだぜぇぇ」
男達は下品な表情を浮かべながら、ひたすら西へと馬車を走らせる。
…一方、都市北部
「兄貴ぃ!なんか…変な犬っころが追いかけてきますぜ!」
「あぁん?誰の飼い犬だよ!?ひゃっはー!」
…怖いよぉ…神さま…
震える人質を乗せたこちらの馬車も、前後左右を賊に囲まれ、スピードを上げて北へと逃げて行く。
が…出だしに手間取った分、追跡者に追いつかれるのが早かった。
「おい、テメーラ!ありゃ犬じゃねぇぞ、魔獣だ!!」
「なっ、フェンリルじゃねえかっ!?」
追跡者である俺達が近づくにつれて、何に騎乗しているのかを理解した傭兵達が慌て始める…だけど、もう遅い!
「リロードオン金の礫銀の礫、どぉりゃっ!!」
少し開けた場所に出たのを見計らって、ティファにしがみつきながら、銀の礫を右後ろの車輪に投げつけてやる。
…ドカッ!バキッ…ガタッガガガ!
「車輪が壊れた!」
「くそっ、やっちまえ!」
馬車に追いついた俺達は、フェンリルから降りて身構える。
すると、傭兵二人がヤル気みたいで突っ込んできた!
ガシャッ…
ティファが二人を迎え撃つ用意をしているので、フェンリルに誘拐犯達を蹴散らしてくるように指示をだしておく。
「おらおらぁ!」
「うらぁあ!」
「…ソニックスラッシュ!」
ティファのスキルが放たれると、傭兵達は衝撃波で後ろに吹き飛び、泡を吹いて倒れた。
…ガウッ!
馬車の後ろにいた賊にフェンリルが襲いかかった!
「うわぁぁ!兄貴、助けてぇ!」
「…ちっ、仕方ねぇ!」
そう言うと、前にいた男が幌の屋根に登って、クリスタルのような物を取り出した。
「…ティファ、あれは魔封石だ!」
「ユウト様、お下がりください。」
ティファが危険だと、俺の前に立ってくれるけど、レン達と戦ったグーロの時みたいに、召喚されたモンスターが、無差別に暴れ出したら馬車に乗ってる人達が危ない!
「…死にやがれ!」
クリスタルが消えて、モンスターが現れる…
…グルゥルルッ
「…地獄の番犬ですか。」
ティファの呟き通り、俺達の前に現れたのは…三ツ首の魔獣ケルベロスだ。
PTM(パーティーモンスター)で適正70位の相手だから、ティファなら問題無く処理出来るだろうけど、範囲の火炎攻撃があるから馬車を守らないと…
「とりあえず、こっちに誘き寄せる。ティファ!」
ティファに指示を出して、馬車が邪魔にならない位置へと移動する。
「アイツらをやっちまえ、犬っころ!」
…どうみたって自分より格上の魔獣相手に、良くあんな態度とれるもんだ。
封魔石は強制力が小さい事を知らんのだろうか?
勝手に殺されるのは良いけど、制御できなくなるのは勘弁だ!
…グゥルルゥ…
チラリとケルベロスは「こいつ殺すか…」と悩んだように見ていたが、仕方なさそうに俺達に向かってくる。
「…かかってきなさい。」
ケルベロスに向かってティファが挑発スキルを発動したのを確認して、俺はフェンリルに賊を襲う指示を出す。
…ウゥゥ…グゥアゥ!
「ぎぃゃあぁーっっ…」
「…クボウッ!」
自分の召喚者が襲われてるのを見たケルベロスが、フェンリルを賊ごとブレスで焼き払う。
耐久値を削りきられてフェンリルは消え去り、その場には黒焦げた賊だけが残った。
「…どこを見ている!」
ティファが再度スキルを掛け直しながらケルベロスに斬りかかって行く…
…
……
「…強いな。さすかティファだ。」
俺は隙のない動きに感心して、一人感想を零す。
戦い始めてまだ数分だけど、周りに被害が及ばないように、注意しながら上手く削ってくれている。
相手が得意属性ってのも影響ありそうだけども、心配なく見ていられるな。
…俺は隙を見て馬車の中から、コソコソと捕まっていた人達を解放して、安全な所まで避難させておく。
一応、万が一の時を考えてフォローできる位置で待機してるけどやる事はなさそうだ。
…アゥ…ガフッ……
…なんだろうか?もうすぐトドメって所なのに、ティファがチラチラ目線を送ってくる。
俺とケルベロスを交互に
ああっ!
俺にトドメを刺せって事かっ?
…ヒーローに仕立てようった事か…良くできた嫁だぜ!!
「リロードオン、氷狼の牙!」
旦那を立てる良妻っぷりを発揮してくれる、ティファの要望に応えて氷柱を召喚すると、ケルベロスに喰らわせてやる!
…ドゴッドゴン!
「ウガァ!ウゥッ…」
ケルベロスは断末魔をあげながら…潰れた。
「お見事です、ユウト様」
ティファが跪いて、俺がやった感をアピールしてくれる。
う~ん、完璧過ぎて俺の方が頭を下げたいくらいだよ…
ーーーーーーもう一方
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「名前くらいちゃんと言ってぇぇ!」
適当なレアに抗議をしながらも、二人分の絶対障壁を展開し、魔獣グリフォンの雷撃から身を守る。
…西へと逃げる賊に追いつき、レアの魔法で車輪を全て破壊し、馬車をただの箱へと変化させた二人は、傭兵が早々に逃げ出した為、簡単に解決するかと思われた。
しかし、大人しく降参したように振舞っていた賊の一人が、封魔石を解放した事で一変する。
召喚された魔獣はグリフォンと呼ばれる、飛行タイプのモンスターだった。
レアは極大範囲魔法好きなので、狙いを絞るのが苦手で、どデカイ氷塊で撃ち墜とそうとするが、シャルに、街が壊滅する!と止められてしまい…防御は注文の多いシャルに丸投げして攻撃手段を考える。
…グゥアッッ!
「くっ!絶対障壁!」
二人が攻撃して来ないのを良い事に、魔法攻撃と近接攻撃を放ってくるグリフォン。
PTM(パーティモンスター)で適正50だが、常時飛んでいるので攻略が難しい…
実際、シャルの特殊スキル断罪の輪でも、対象が動き続けていると狙いが付けれず、対処に苦しんでいるのだ。
「…もう、そんなに持たないかも…」
「…おぉ…そうだ…フォーリングダウン!」
ウギャアと一声鳴くと、一瞬で重力に押し潰されながら地面に落下するグリフォン。
さすがに倒すには至らなかったが、地面に縫い付け飛ぶことを許さない、すかさずシャルがスキルを発動し動きを止める。
「…しゃーろ…ぐっじょぶ…」
「レアさん、トドメを!」
「…フロスト…ノヴァ、まきしまむ!」
…ピキ…ピキビキッ
レアの魔法は周囲の空気すら巻き込んで、グリフォンを氷像と化す。
「…きって…」
「断罪の輪!」
抵抗を許されないグリフォンは綺麗な断面を見せ、二つに割れ落ちた。
「…ふぅ…おなかへった」
「やりましたね!」
シャルはレアの手を取り喜ぶ。
…そしてこの日、観光都市バノペアに2組目の英雄が誕生したのであった。
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武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
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