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油断と罠と反省
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…気付いたら手が、体が動いていた。
怖い筈なのに…
昔の俺なら、一目散に走って逃げたか、ティファの背中にしがみ付いていただろう。
だって、頼りのティファが欺かれて背後を許したんだ…今の俺なんかが役に立つ訳が無い。
…でも、だけど動く訳が無い筈の俺の体は動いた。
勢いよく振り下ろされた、雷光を放つシュウトの剣とヘッケランの体の隙間に滑り込んでいった…
そして、吹き飛ばされた。
……
「ユウト様!ユウト様!…何故、私のような者のためにっ」
ヘッケランが額から血を流し、俺のことを心配そうに見ている。
「きぃぃさまぁぁっ!!」
ティファが激昂してシュウトに斬りかかるが、シュウトの能力はレベル相応に高いようで、冷静さを失ったティファの荒くなる攻撃を余裕を持って捌いている…
…あぁ…俺の異世界生活…これで終わりか…意外と、あっけないもんだったなぁ…
「って、んな訳あるかぁっ!!」
「うぉっ!?ユ、ユウト様、ご無事で?」
『おくりびと』になろうとするヘッケランと、自分自身のナレーションに、俺は勝手に殺すなと叫び起き上がる。
「当たり前だろ、俺の身体見てみろよ?血の一つだって着いてないさ。お前の方が重症なくらいだよ…ヘッケラン」
驚きながらも俺の身体を見回すと、確かにと頷くヘッケランに胸元の『防御の宝珠』を見せる。
「ですが、本当に良かった…ユウト様に何かあっては皆様に顔向けできません!御身こそを大事にして頂かなければ…」
「何言ってんだよ、お前だって俺の家族だ。…家族を守るのは家長の役目なんだよ!それに、俺にはコレがあるっ」
俺はアイテムボックスを召喚して、中からポーションをヘッケランに投げ渡してやる。
「…ありがとうございますユウト様。このヘッケラン、より一層の忠誠を捧げます。」
ポーションをありがたそうに掴みながら、祈るように言うヘッケランに大袈裟なんだよと突っ込んでおく。
「はぁぁっ!……ユウト様、ご無事ですか?」
ティファがシュウトを弾き俺の元に駆け寄って心配そうな顔を見せる。
「あぁっ!この通りピンピンだよ!」
「…ちっ、コハルに奥義まで使わせて収穫ゼロかよ…まぁ、お前に死なれちゃ困るのは俺も一緒なんだけどな?」
俺を見て安堵の表情を浮かべていたティファの顔が、鬼の形相に変わっていき振り返るとシュウトを睨む。
しかし、「…怖い怖い」と言いながらも平気そうな所を見ると、ティファとやりあえる自信があると見るべきなんだろうな…
「仕切り直しですね。次は真っ向から挑ませてもらいます。」
「無駄ですよ?あなたの使ったスキルは知っています…私の妹が使えますからね。」
起き上がってヤル気を見せるコハルにティファが嘲笑を向ける。
俺もあのスキルは知ってる…暗殺者のジョブを持った、80レベル以上のキャラが受けれる特殊クエストをクリアした報酬で貰えるスキルだ。
スキル『空蝉』は、HPの半分を使って分身を作って動かせる代物だから、それを使用したコハルは、万全から程遠い状態だろう…
それに加えて直撃では無いとは言え、ティファの一撃を受けたんだ…かなり痛んでいるのは間違いないだろうな。
…
「ユ、ユウト侯爵!こちらも大変な状況にっ!ご、ご指示を~」
睨み合う俺達を他所に戦の指揮を代行していたゲイリー都市長が、戦況が悪いと助けを求めてくる。
「ヘッケラン、そっちは任せた!俺とティファでコイツらぶっ飛ばしてやるっ!」
「畏まりました。ユウト様…必ずや勝利を」
俺は後ろをヘッケランに丸投げすると、ティファの横に立ち二人を見据える。
「はっ!レベル一桁のお前に、手負いとは言えコハルが負けるかよっ!」
俺達を挟むように立ち、武器を構えるコハルがシュウトの言葉にゆっくりと頷く。
「やってみなきゃ分かんねーだろがっ!俺だって、やるときゃやるんだってばよぉっ!!」
「ったく、どこの忍びだよ…このヘタレがぁっ!」
俺とシュウトの言葉を開始の合図に、ティファ対シュウト、コハル対ユウトの戦いが始まった。
ーーーー帝国軍 本陣
「そいつとまともに戦うなっ!魔法とアイテムで弱体化させて被害を抑えるんだっ!…その間に王国軍を攻め落としてしまえ!!」
アレスは予想していた事とは言え、規格外の力を見せるメリーに苦慮し声を荒げる。
大胆にも本陣に単騎で現れた敵を倒せないのだ…
レベルの高い者を当ててもゴミのようにあしらわれ、数を集めてみても紙屑のように破られていく
アレスに出来る事と言えば、メリーからの被害を最小限に抑え、シュウト達から敵将ユウト捕縛の報告を待つ事だけだった。
「…まったくお話になりませんわ。」
不満そうな顔でメリーがボヤく。
敵軍のど真ん中に陣取りながらも、あまりの強さに兵士達は怯えきってしまい、メリーを中心とした円が出来あがり手を出そうする者はもはや皆無の状態だ。
低威力の簡易妨害アイテムや低レベルの魔法では、メリーを弱体化させる事など当然できず、最早…兵士達はメリーの微細な動きに、ただ震える事しかできないでいた。
「我に力を、ライトニングエルスピア」
しかし、メリーに手を出す者はいなくとも、メリーからは次々と強力な魔法が放たれていき、結局死ぬのならと堪らず攻撃を仕掛けるとボロ切れのように殺されてしまう…
そんな状況を物語るかのように、初めに一万いた兵は、ものの数分でその数を半分にまで減らしていた。
しかし、戦々恐々とする本陣とは違い、平原中央で王国軍と衝突している部隊の戦況は、帝国側が圧倒的有利を収めている。
初手こそ王国に譲ったとはいえ、その後は特段の動きもなく帝国軍の動きに対処できていない。
左右に分けた部隊に持たせた魔封石にはトロールが封じられており、突然のモンスター出現に王国軍は劣勢に立たされていたのだ…
にもかかわらず本部からは大した対抗策も無く、前線で戦う兵士達からすると指揮系統に混乱…もしくは指揮官不在の可能性すら見えて不安しか無い状況だった。
アレスは中央で戦う兵士達とシュウトに希望を託し大きな決断をする。
…ザッザッザッ
「…あら?少しは楽しめそう…貴方が相手をしてくださるのかしら大将さん?楽しみですわ。」
「お手柔らかに頼もうか…それに、俺一人じゃ荷が重いので、これを使わせてもらおう。」
メリーを囲む円の中に現れたアレスは、部下から手渡された『召喚笛』を唇に当てると一気に吹いた。
…すると、それに答えるように大きな影が姿をあらわす。
「へぇ~、レッドドラゴンでしたの…ごくっごくっ」
召喚笛に動揺する事なく、魔力回復の為に取り出したポーションを飲み干すメリー
唇から零れ落ちた半透明の液体を、挑発するように舌で拭き取る…
「ちょうど良いですわね、貴方とその子…二対一でも満足できなさそうですけど我慢しますわ。」
生唾を飲み込み構えを取るアレスと、口に炎を宿し臨戦体勢のレッドドラゴンに…メリーはイヤラシイ笑みを浮かべると走り出した。
ーーーーノスグデ平原 中央
「「うぉぉーっ!」」
「「ぐぎゃぁあ…助けて…」」
兵士達の叫び声がこだまする平原中央では、主にアイアンメイデン所属の傭兵隊と王国の雇われ兵士達が命を散らせていた。
帝国軍が使用した魔封石から飛び出たトロール達は、解放された喜びからか周りにいる王国兵達を薙ぎ払って行く。
アイアンメイデン側には元冒険者等も多くいる為、被害を抑えつつ後退し、本陣からの応援や策を待っていた。
「おいおい、これはヤバイぜ旦那っ!俺達じゃ一体倒すのが精一杯だっての!?」
ヘッケラン麾下で傭兵隊をまとめる元冒険者のベイリトールは、全体の戦況を見ながら弱音を吐く。
「ぐぅぅ…リーダー、トロールもそうだが帝国軍も厄介だ!」
「…ファイアーボール!ゆっくり魔法も唱えられんぞっ!!」
冒険者仲間でもあった幹部達が次々とベイリトールに不満をぶつけてくる…
しかし、一番泣きたいのはベイリトールだ。
序盤は先制攻撃のカウンターも決まり、指揮も高く優位に進めることが出来ていたのに、途中から右往左往する伝令に捻りの無い命令ばかりが飛んでくるようになっている。
「マジでやられたりして…ないよな?大旦那達」
一向に良くなる気配に、そろそろアスペルまで撤退する事も視野に考えるベイリトール。
…今は混戦になってるから、向こうの歩みも遅いけど、中央も完全に押されちまってる。
良い感じにトロールが邪魔になるだろうから、逃げるなら今の内かもなっ
王国軍の兵士扱いの中では一番レベルが高いベイリトールは、体を張ってトロールの注意を引きつつ各所の戦況を伺う。
トロールはソロモンスターで適正85と中々の強敵だ。
ここが戦場ではなく、邪魔が入らない状況且つパーティで戦えるなら、ほぼ100パーセントで勝利を掴める彼等だが…
倒した後の戦いや、隙を突かれるリスクを考えると無理をするのは得策とは言えない。
前線で指示を出すベイリトールが倒されれば、王国軍は瓦解して完全に負けてしまうだろう。
本陣に対して妨害工作がある事は聞いているし、問題無いとも言われていたが…さすがにここまで放置されるのはと最悪の事態を想像していると
「…伝令!ヘッケラン様からの伝令ですっ!作戦Cで対応せよとの事!!」
「やっとかよ!?雨が降るぞっ、全員備えろ!!」
ヘッケランが指揮に戻った事と予定していた作戦の再開に安堵し、ここから形勢逆転を狙うための行動を開始するベイリトールと王国軍…
……
「ふぅ…油断しましたね。しかし、まさかユウト様が身を呈して守ってくださるとは…」
「貴殿は侯爵の右腕ですからなぁ、羨ましい限りですぞ?」
ヘッケランは自分の横に並び愛想笑いを向けてくる、ゲイリー都市長(役立たず)をチラリと見て再び反省する。
…こんなのに戦線を任せてしまうとは、兵を無駄にしてしまった。
体を張って下さったユウト様の為に…御方のお力を解放せずに済んだ恩に報いるためにも、しっかりと完勝してみせましょう!
「…ヘッケラン様!準備が整いました。」
「メリー殿に合わせろっ!機を逃すなぁぁ!」
「「はぁっ!!」」
…ゴゴゴゴッゴゴッ…ザーザザッー
「…なんだ、あの雨雲」
「この場所だけに雨っ!?」
中央の戦場を囲むように配置された、王国側の魔術師達が一斉に魔法の詠唱を始めると、両軍二万の兵が入り乱れる上空に雨雲が突如出現し、スコールのような勢いの強い雨が降る。
「くそっ!足がぬかるんで…」
「…皮のブーツだと動きにくいっ」
帝国兵達は基本装備の皮ブーツでは、足元が不安定で動きにくいと不満を口にする。
対する王国兵は、初めからゴム製のブーツを装備しているので動きが鈍る事は無い。
しかし、ヘッケランの策はもちろんこれだけでは終わらない…
「あら…雨ですわ。すぐに戻るので良い子にしていて頂戴ね?」
肩で息を切るアレスと、あちこちがボロボロになったレッドドラゴンに告げると、メリーはスコールが止んで水浸しになった平原の中央に姿を消す。
「なっ…!?はぁっはぁ…くそっ、なんてバケモノだ。一体どうやれば、あんなのに勝てるんだ…」
アレスは、突然目の前から消えた敵に驚くが同時に安堵もする。
そして、ドラゴンを従えた状態ですら勝ち目のない相手を思い、答える相手のいない質問を吐きだした。
…
「さぁ、いきますわよっ!我に力を、ライトニングスタン、マキシマムッ!!」
メリーの言葉と魔力に応えるように、彼女を中心として雷撃が地面の水を伝い辺り一面に走り抜ける。
「ぐぅあぁぁっ!?」
…ドコォォンッ
ほんの一瞬の出来事に何が起きたか理解出来ない帝国兵は、自分の身体の中を突き抜けた衝撃に膝を折る。
それは暴威を振りまいていたモンスター…二体のトロールとて同じ事だった。
力の入らない両脚は震え、巨体を支えきれず前のめりになって地面へ倒れこみ、辺りに泥を撒き散らす。
そんな帝国に対し、ゴムブーツで雷撃から身を守った王国兵達は、ここが転機だと反撃できない帝国兵を蹂躙していく。
圧倒的な状況に帝国兵はなす術なく、その数を減らしていくのであった…
ベイリトール始めアイアンメイデンの傭兵達は、倒れて痺れているトロールを一点集中で仕留めにかかる。
いくらレベルが高かろうとも、倒れて急所を晒すトロールをベイリトール達は容易く屠った。
不利に陥っていた戦場中央の主導権は、指揮官をヘッケランに戻した王国軍が主導権を掴む。
そして、その様子を遠目に見ていたアレスは、優雅に自分の前へと戻ってきた死の女神が浮かべる笑顔を見て、悟るのであった。
…
『敗北』の二文字を。
怖い筈なのに…
昔の俺なら、一目散に走って逃げたか、ティファの背中にしがみ付いていただろう。
だって、頼りのティファが欺かれて背後を許したんだ…今の俺なんかが役に立つ訳が無い。
…でも、だけど動く訳が無い筈の俺の体は動いた。
勢いよく振り下ろされた、雷光を放つシュウトの剣とヘッケランの体の隙間に滑り込んでいった…
そして、吹き飛ばされた。
……
「ユウト様!ユウト様!…何故、私のような者のためにっ」
ヘッケランが額から血を流し、俺のことを心配そうに見ている。
「きぃぃさまぁぁっ!!」
ティファが激昂してシュウトに斬りかかるが、シュウトの能力はレベル相応に高いようで、冷静さを失ったティファの荒くなる攻撃を余裕を持って捌いている…
…あぁ…俺の異世界生活…これで終わりか…意外と、あっけないもんだったなぁ…
「って、んな訳あるかぁっ!!」
「うぉっ!?ユ、ユウト様、ご無事で?」
『おくりびと』になろうとするヘッケランと、自分自身のナレーションに、俺は勝手に殺すなと叫び起き上がる。
「当たり前だろ、俺の身体見てみろよ?血の一つだって着いてないさ。お前の方が重症なくらいだよ…ヘッケラン」
驚きながらも俺の身体を見回すと、確かにと頷くヘッケランに胸元の『防御の宝珠』を見せる。
「ですが、本当に良かった…ユウト様に何かあっては皆様に顔向けできません!御身こそを大事にして頂かなければ…」
「何言ってんだよ、お前だって俺の家族だ。…家族を守るのは家長の役目なんだよ!それに、俺にはコレがあるっ」
俺はアイテムボックスを召喚して、中からポーションをヘッケランに投げ渡してやる。
「…ありがとうございますユウト様。このヘッケラン、より一層の忠誠を捧げます。」
ポーションをありがたそうに掴みながら、祈るように言うヘッケランに大袈裟なんだよと突っ込んでおく。
「はぁぁっ!……ユウト様、ご無事ですか?」
ティファがシュウトを弾き俺の元に駆け寄って心配そうな顔を見せる。
「あぁっ!この通りピンピンだよ!」
「…ちっ、コハルに奥義まで使わせて収穫ゼロかよ…まぁ、お前に死なれちゃ困るのは俺も一緒なんだけどな?」
俺を見て安堵の表情を浮かべていたティファの顔が、鬼の形相に変わっていき振り返るとシュウトを睨む。
しかし、「…怖い怖い」と言いながらも平気そうな所を見ると、ティファとやりあえる自信があると見るべきなんだろうな…
「仕切り直しですね。次は真っ向から挑ませてもらいます。」
「無駄ですよ?あなたの使ったスキルは知っています…私の妹が使えますからね。」
起き上がってヤル気を見せるコハルにティファが嘲笑を向ける。
俺もあのスキルは知ってる…暗殺者のジョブを持った、80レベル以上のキャラが受けれる特殊クエストをクリアした報酬で貰えるスキルだ。
スキル『空蝉』は、HPの半分を使って分身を作って動かせる代物だから、それを使用したコハルは、万全から程遠い状態だろう…
それに加えて直撃では無いとは言え、ティファの一撃を受けたんだ…かなり痛んでいるのは間違いないだろうな。
…
「ユ、ユウト侯爵!こちらも大変な状況にっ!ご、ご指示を~」
睨み合う俺達を他所に戦の指揮を代行していたゲイリー都市長が、戦況が悪いと助けを求めてくる。
「ヘッケラン、そっちは任せた!俺とティファでコイツらぶっ飛ばしてやるっ!」
「畏まりました。ユウト様…必ずや勝利を」
俺は後ろをヘッケランに丸投げすると、ティファの横に立ち二人を見据える。
「はっ!レベル一桁のお前に、手負いとは言えコハルが負けるかよっ!」
俺達を挟むように立ち、武器を構えるコハルがシュウトの言葉にゆっくりと頷く。
「やってみなきゃ分かんねーだろがっ!俺だって、やるときゃやるんだってばよぉっ!!」
「ったく、どこの忍びだよ…このヘタレがぁっ!」
俺とシュウトの言葉を開始の合図に、ティファ対シュウト、コハル対ユウトの戦いが始まった。
ーーーー帝国軍 本陣
「そいつとまともに戦うなっ!魔法とアイテムで弱体化させて被害を抑えるんだっ!…その間に王国軍を攻め落としてしまえ!!」
アレスは予想していた事とは言え、規格外の力を見せるメリーに苦慮し声を荒げる。
大胆にも本陣に単騎で現れた敵を倒せないのだ…
レベルの高い者を当ててもゴミのようにあしらわれ、数を集めてみても紙屑のように破られていく
アレスに出来る事と言えば、メリーからの被害を最小限に抑え、シュウト達から敵将ユウト捕縛の報告を待つ事だけだった。
「…まったくお話になりませんわ。」
不満そうな顔でメリーがボヤく。
敵軍のど真ん中に陣取りながらも、あまりの強さに兵士達は怯えきってしまい、メリーを中心とした円が出来あがり手を出そうする者はもはや皆無の状態だ。
低威力の簡易妨害アイテムや低レベルの魔法では、メリーを弱体化させる事など当然できず、最早…兵士達はメリーの微細な動きに、ただ震える事しかできないでいた。
「我に力を、ライトニングエルスピア」
しかし、メリーに手を出す者はいなくとも、メリーからは次々と強力な魔法が放たれていき、結局死ぬのならと堪らず攻撃を仕掛けるとボロ切れのように殺されてしまう…
そんな状況を物語るかのように、初めに一万いた兵は、ものの数分でその数を半分にまで減らしていた。
しかし、戦々恐々とする本陣とは違い、平原中央で王国軍と衝突している部隊の戦況は、帝国側が圧倒的有利を収めている。
初手こそ王国に譲ったとはいえ、その後は特段の動きもなく帝国軍の動きに対処できていない。
左右に分けた部隊に持たせた魔封石にはトロールが封じられており、突然のモンスター出現に王国軍は劣勢に立たされていたのだ…
にもかかわらず本部からは大した対抗策も無く、前線で戦う兵士達からすると指揮系統に混乱…もしくは指揮官不在の可能性すら見えて不安しか無い状況だった。
アレスは中央で戦う兵士達とシュウトに希望を託し大きな決断をする。
…ザッザッザッ
「…あら?少しは楽しめそう…貴方が相手をしてくださるのかしら大将さん?楽しみですわ。」
「お手柔らかに頼もうか…それに、俺一人じゃ荷が重いので、これを使わせてもらおう。」
メリーを囲む円の中に現れたアレスは、部下から手渡された『召喚笛』を唇に当てると一気に吹いた。
…すると、それに答えるように大きな影が姿をあらわす。
「へぇ~、レッドドラゴンでしたの…ごくっごくっ」
召喚笛に動揺する事なく、魔力回復の為に取り出したポーションを飲み干すメリー
唇から零れ落ちた半透明の液体を、挑発するように舌で拭き取る…
「ちょうど良いですわね、貴方とその子…二対一でも満足できなさそうですけど我慢しますわ。」
生唾を飲み込み構えを取るアレスと、口に炎を宿し臨戦体勢のレッドドラゴンに…メリーはイヤラシイ笑みを浮かべると走り出した。
ーーーーノスグデ平原 中央
「「うぉぉーっ!」」
「「ぐぎゃぁあ…助けて…」」
兵士達の叫び声がこだまする平原中央では、主にアイアンメイデン所属の傭兵隊と王国の雇われ兵士達が命を散らせていた。
帝国軍が使用した魔封石から飛び出たトロール達は、解放された喜びからか周りにいる王国兵達を薙ぎ払って行く。
アイアンメイデン側には元冒険者等も多くいる為、被害を抑えつつ後退し、本陣からの応援や策を待っていた。
「おいおい、これはヤバイぜ旦那っ!俺達じゃ一体倒すのが精一杯だっての!?」
ヘッケラン麾下で傭兵隊をまとめる元冒険者のベイリトールは、全体の戦況を見ながら弱音を吐く。
「ぐぅぅ…リーダー、トロールもそうだが帝国軍も厄介だ!」
「…ファイアーボール!ゆっくり魔法も唱えられんぞっ!!」
冒険者仲間でもあった幹部達が次々とベイリトールに不満をぶつけてくる…
しかし、一番泣きたいのはベイリトールだ。
序盤は先制攻撃のカウンターも決まり、指揮も高く優位に進めることが出来ていたのに、途中から右往左往する伝令に捻りの無い命令ばかりが飛んでくるようになっている。
「マジでやられたりして…ないよな?大旦那達」
一向に良くなる気配に、そろそろアスペルまで撤退する事も視野に考えるベイリトール。
…今は混戦になってるから、向こうの歩みも遅いけど、中央も完全に押されちまってる。
良い感じにトロールが邪魔になるだろうから、逃げるなら今の内かもなっ
王国軍の兵士扱いの中では一番レベルが高いベイリトールは、体を張ってトロールの注意を引きつつ各所の戦況を伺う。
トロールはソロモンスターで適正85と中々の強敵だ。
ここが戦場ではなく、邪魔が入らない状況且つパーティで戦えるなら、ほぼ100パーセントで勝利を掴める彼等だが…
倒した後の戦いや、隙を突かれるリスクを考えると無理をするのは得策とは言えない。
前線で指示を出すベイリトールが倒されれば、王国軍は瓦解して完全に負けてしまうだろう。
本陣に対して妨害工作がある事は聞いているし、問題無いとも言われていたが…さすがにここまで放置されるのはと最悪の事態を想像していると
「…伝令!ヘッケラン様からの伝令ですっ!作戦Cで対応せよとの事!!」
「やっとかよ!?雨が降るぞっ、全員備えろ!!」
ヘッケランが指揮に戻った事と予定していた作戦の再開に安堵し、ここから形勢逆転を狙うための行動を開始するベイリトールと王国軍…
……
「ふぅ…油断しましたね。しかし、まさかユウト様が身を呈して守ってくださるとは…」
「貴殿は侯爵の右腕ですからなぁ、羨ましい限りですぞ?」
ヘッケランは自分の横に並び愛想笑いを向けてくる、ゲイリー都市長(役立たず)をチラリと見て再び反省する。
…こんなのに戦線を任せてしまうとは、兵を無駄にしてしまった。
体を張って下さったユウト様の為に…御方のお力を解放せずに済んだ恩に報いるためにも、しっかりと完勝してみせましょう!
「…ヘッケラン様!準備が整いました。」
「メリー殿に合わせろっ!機を逃すなぁぁ!」
「「はぁっ!!」」
…ゴゴゴゴッゴゴッ…ザーザザッー
「…なんだ、あの雨雲」
「この場所だけに雨っ!?」
中央の戦場を囲むように配置された、王国側の魔術師達が一斉に魔法の詠唱を始めると、両軍二万の兵が入り乱れる上空に雨雲が突如出現し、スコールのような勢いの強い雨が降る。
「くそっ!足がぬかるんで…」
「…皮のブーツだと動きにくいっ」
帝国兵達は基本装備の皮ブーツでは、足元が不安定で動きにくいと不満を口にする。
対する王国兵は、初めからゴム製のブーツを装備しているので動きが鈍る事は無い。
しかし、ヘッケランの策はもちろんこれだけでは終わらない…
「あら…雨ですわ。すぐに戻るので良い子にしていて頂戴ね?」
肩で息を切るアレスと、あちこちがボロボロになったレッドドラゴンに告げると、メリーはスコールが止んで水浸しになった平原の中央に姿を消す。
「なっ…!?はぁっはぁ…くそっ、なんてバケモノだ。一体どうやれば、あんなのに勝てるんだ…」
アレスは、突然目の前から消えた敵に驚くが同時に安堵もする。
そして、ドラゴンを従えた状態ですら勝ち目のない相手を思い、答える相手のいない質問を吐きだした。
…
「さぁ、いきますわよっ!我に力を、ライトニングスタン、マキシマムッ!!」
メリーの言葉と魔力に応えるように、彼女を中心として雷撃が地面の水を伝い辺り一面に走り抜ける。
「ぐぅあぁぁっ!?」
…ドコォォンッ
ほんの一瞬の出来事に何が起きたか理解出来ない帝国兵は、自分の身体の中を突き抜けた衝撃に膝を折る。
それは暴威を振りまいていたモンスター…二体のトロールとて同じ事だった。
力の入らない両脚は震え、巨体を支えきれず前のめりになって地面へ倒れこみ、辺りに泥を撒き散らす。
そんな帝国に対し、ゴムブーツで雷撃から身を守った王国兵達は、ここが転機だと反撃できない帝国兵を蹂躙していく。
圧倒的な状況に帝国兵はなす術なく、その数を減らしていくのであった…
ベイリトール始めアイアンメイデンの傭兵達は、倒れて痺れているトロールを一点集中で仕留めにかかる。
いくらレベルが高かろうとも、倒れて急所を晒すトロールをベイリトール達は容易く屠った。
不利に陥っていた戦場中央の主導権は、指揮官をヘッケランに戻した王国軍が主導権を掴む。
そして、その様子を遠目に見ていたアレスは、優雅に自分の前へと戻ってきた死の女神が浮かべる笑顔を見て、悟るのであった。
…
『敗北』の二文字を。
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過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
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伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
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武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
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転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
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目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
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