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救出劇と次の一手
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ーーーー要塞都市 バノペア
「…あーらよっと、あ、そっち行ったで!」
レンに斬り捨てられる仲間を見て、狭い建物の中を滅茶苦茶に荒らしながら入口のドアへと走る男
「はぁっ!」
「うぐっあっ……くっくく、ざんね、んだったな…祭壇は既に、ここには…なぃ」
入り口を抑えていたバンゼルの剣を躱せる訳もなく、パックリと割れた腹を抑え、笑いながら地面へと倒れ込む男
外から顔を覗かせたキリカと室内の二人以外、辺りに動く人影はなく、血の匂いだけが充満していた。
「ざっとこんなもんかな。んで、祭壇って何の事やろか?」
「そんな事、私達が知る訳ないでしょ!」
餓狼蜘蛛の表立ったアジトとしては最後の建物にいる三人は、一応それらしき物が無いかと室内を物色する。
と、そこに人影が現れた。
「おぉ。こりゃまた凄ぇな…」
「ん?自分はユウトんとこの…たしか、レオやったか、だいぶとシェイプアップしたんやなぁ」
「シェ…?ったく、ひっでぇなぁレンの旦那。ベイリトールですよ、アスペルで何度かお会いしてるでしょう?」
興味の無い事に記憶力を発揮しないレンは、悪びれる事も無く、せやったせやったと手を上げてベイリトールの元へとやってくる。
部屋から出て、剣神流の二人を簡単に紹介すると、各地での反乱やヘッケランの裏切りを聞き驚愕する。
「あの不健康眼鏡がユウトを裏切るなんてな…人生何があるか分からんもんや」
「デ、悪魔(デーモン)…レンさん、僕たちは神国に向かい、ジゼ…剣聖様に報告してきます。では」
悪魔出現の部分だけに目を見開いたバンゼルは、そう伝えるのも早々に踵を返した。
その後ろ姿を慌てて追うキリカが、「結構面白かったわ」と言う捨て台詞をレンに伝えて走り出す。
そんな二人にレンはヘラヘラしながら軽い感じで返事を返した。
「ほな、剣聖様によろしゅうなぁー、おおきに!」
口では軽いが、レンはしっかりと背中を見送る。
バノペアを早期に制圧できたのは二人のおかげだ。
いくらレンが95レベルで強いといっても、一人で動くには限度がある。
はぐれ龍討伐のついでとは言え、被害を少なくできたのは二人のおかげであるのは間違いない。
だから、言葉は軽くてもしっかり見送る。
小さくなっていく二人の背中が見えなくなると、表情を一変しベイリトールに尋ねた。
「…で、俺はどないしたらいいんや?」
「メリーの姉御からは、悪魔王召喚に使う祭壇を見つけ出して押収か破壊するように指示を受けてますが」
ラヴァーナ教の隠れ教会は既に調査済みだったベイリトールは、ここに目当ての物が無いとなると、検討がつかないとお手上げのポーズを取る。
「…俺はできたら王都に行きたいんやけどなぁ」
「それでしたら、大旦那が向かわれているので大丈夫かと…俺としてはレンの旦那には、祭壇探しを手伝って頂けるとありがたいんですが」
ティファとメリーが同行している事や、王族の奪還に向かってくれた事を聞き、渋々ながらも考えるレン
…俺が一人が行っても万事解決できるか分からん。
もしこれが悪魔召喚のクエなら、早めに潰さな結構めんどい事になるやろ。
まぁ、ユウトかて何処で何が起こるかの当たりはつくやろし、シャルを優先してくれたんなら、分業で対応するんが筋っちゅーもんか…
「隊長、地下に抜け道がありました!ここから街の外まで続いてそうです」
室内をくまなく調べた結果、地下への隠し扉が見つかったようだ。
「…はぁ、ほんならいこか。」
「はい。助かりやす」
王都行きを諦めたレンを伴い、ベイリトール含む調査隊は地下へと続く階段へと歩みを進めるのであった。
ーーーー王都 カリオペア
「それでは、手筈通りにお願いしますわ。」
俺たちはメリーに頷くと行動を開始する。
出来るだけ目立つように動き、王座の間へと辿り着くのがミッションだ。
「…となると、正面突破だわな」
隠れていた茂みから出ると、即バレ覚悟で堂々と門まで歩いていく。
「き、きさま!アイアンメイデンの」
「本当に来やがった…すぐにゲルノア様に報告を」
城門を守る兵士が俺たちを見つけ騒ぎ出した。
いくらクーデター中とは言え、俺は侯爵の地位を持ってるから、兵士にあんな態度を取られる筋合いはないんだが…
「ここは私が」
「いや、俺がやろう。俺の恐ろしさを教えてやらねばな」
俺のやる気にティファが嬉しそうに跪き了解の意を示す。
…いや、別に簡単に殺したりせんよ?
「リロードオン、恐怖の黒球!」
俺はアイテムボックスから取り出した、ハンドボール程度の黒光りするボールを門番達に投げつけた。
「なんだこれっ!」
「なめるなぁぁっ」
門番達は反応素晴らしく、頭上へと向かって来たボールを腰の剣で真っ二つに割った…
「あ~あ、割っちゃった。」
黒球は割れると中から緑色の液体を飛び散らせる。
「ぐっ…毒か!?」
もちろん毒では無い。
しかし、恐怖はそれだけで終わらない。
カサカサカサカサ…
ブブ、ブーン…
「うぎゃぁあっ…」
「や、やめて、あぁ~…」
黒球から這い出てきた黒光りするG達に、身体中を蹂躙された兵士達は、泡を吹いて崩れ落ちる。
「ごくりっ…そ、それでは鍵を開けてまいります。」
俺の恐ろしさに冷や汗をかいたティファが、立ち上がると壁を見つめる。
どうするのかと考えた瞬間、ティファは城壁へと走り出し一足飛びで壁を乗り越えてしまった…
チートキャラの前では壁なんて意味無いんだな、多分5mくらいはあるだろうに…
すると、門の内側が騒がしくなり、兵士のうめき声と、閂が落ちる音がした。
「お待たせしました。ユウト様どうぞ」
「あの一瞬でこんなに良くもまぁ…」
「?峰打ちにしましたので、おそらく死者はいないかと思いますが」
門の内側には、無謀にもティファに抵抗した兵士達が死屍累々と積み重なっていた。
…死んでは無いみたいだけど。
俺はあっけにとられながらも、兵士達に手を合わせ屍を越えていく。
…死んで無いけどね。
意外と王城内は手薄…と言うか、人手不足のようだな。
そりゃ、普通の正規兵は反乱に参加してないだろうし。
下手に従わせるより、俺なら団結しないように捕らえどっかに放り込んでおくしな。
謁見の間までは概ねそんな感じでスムーズに進み、特に囲まれたり罠が発動して絶体絶命的な事は起きなかった。
正規の謁見では無いので、いつも通り豪華なドアを無遠慮に開け放つ。
「…!?なんだ貴様ら!」
「敵襲かっ!」
「むっ…シャ、シャーロット殿下!」
俺たちを見て兵士達は驚愕の表情を浮かべるが、その意図は様々なようだ。
いや…敵襲くらい想像はできるだろうに。
「部屋に入られてから反応しているようでは、まともな訓練を受けた者はいないようですね」
ティファが辛口に兵士達を切って捨てる。
「おやおや…これは、手厳しい。」
玉座に座る黒尽くめの男がティファの声に愉快そうな反応をよこす。
「俺はカザマ・ユウト侯爵だ。あんたが、ここを仕切ってるのか?ゲルノアの奴はどこに行った?」
「元侯爵殿か。ここの責任者はゲルノアですよ?ただ、彼は重要なミッション中でね。」
別に、元でも現でも気にしないもんね!
爵位とかどーだっていいんだから!
っと…いかんな、真面目にやろう。
「それじゃ、サクッとこの場を制圧してゲルノアのオッサンをぶっ飛ばしに行きますか」
「あっはっはぁ。威勢のいい事だが…そちらのお姫様の家族の事は良いのかね?」
…やはり、そう来たか。
想定の範囲内だが、まだ…だな。
「そうだな、俺はシャーロット第一の男だ。家族を無事に返すなら王都奪還は二の次でも良いんだが?」
「ソ、ソンナ…イケマセン。」
よ…よし。そ、想定通り?かな。
「そうは行きませんなぁ。彼らには役目がある…しかし、姫が一人で会いに行くのは構いませんよ?」
「もう一人、人質を増やせってか?」
黒尽くめの男はフンッと鼻を鳴らすと、何かを引きずって…って、アストルフ君やないかいっ!
「ア、アストルフ皇子!」
「あ、あなたはお姉様の…旦那様?」
「おぉ…微妙な感じの反応ありがとう。俺達が助けてあげるから、もう少しの辛抱だ」
俺がアストルフ君を元気付けようとしていたら、黒尽くめの指示で首元に剣が突き付けられてしまう。
人質だもんな…
そりゃ、対等には使わないって事だよな。
彼を殺しても、奴らにはまだシャルの両親がいるし。
「…シャ、シャル?」
シャーロットは、フラフラとアストルフ君の元へと歩いて行ってしまう。
アストルフ君は申し訳なさと安堵の入り混じった表情になっていたが、間近まで来たシャーロットを見て怪訝な顔をした。
「…ね、姉様?」
「あーっはっはぁ!家族愛とは素晴らしい。彼女を送り届けてくれた君達には、『死』をプレゼントしよう!」
黒尽くめの言葉に反応し、俺とティファ目掛けて兵士と黒装束達が襲いかかってくる。
「ユウト様、壁沿いまでお下がりを」
「わ、悪い。」
俺は入り口付近の壁まで下がり、雑魚の相手をティファに丸投げする。
決して、サボりではない。
信頼の証なのである。
「俺はあいつを…リロードオン。ハリセンボン、蜘蛛の糸!」
「…むっ!アースウォール!」
第4位雷魔法相当のダメージを与える針の攻撃は、土壁に阻まれてしまう。
が、天井から噴射された蜘蛛の糸は黒尽くめを絡め取った。
「やったか!?」
「私を攻撃など…人質がどうなっても良いと言うのでしょうかねぇ。ファイア」
蜘蛛の糸は奴が自身に放った火魔法で燃え切れてしまった…
奴のコートは魔法具のようで火傷なんかにはなっていないようだ。
「…見せしめだ。姉の方だけ捕らえて弟は殺せ!」
「はっ!」
「うわっ!」
兵士の剣を受けたのは…弟を庇ったシャーロットの背中であった。
「きちんと指示を理解したようですね」
「あぁ、良かったよ。あんまり良い気はせんけどな」
向かって来た兵士を全て叩きのめしたティファに小声で答える。
「なっ、なんだこれ!うっ…ぐぁっ、うわぁぁ」
「なんだ?どうした…これは」
その間にもシャーロットの背中から剣を引き抜こうとしていた兵士が、傷口からブクブクと肉塊になっていく、元シャーロットだった物に飲み込まれていった。
「これは…アイテムかっ!」
「その通り、人に擬態して攻撃対象を襲うブラットスライムとゴーレムの合体アイテムだ!」
シャルを捕まえたと油断していた黒尽くめは焦りからアストルフ君に手を向け魔法を放つ。
「懐柔など無理があったのだ!ならば、全員死ねぇぇ!」
「…絶対障壁!」
黒尽くめの魔法はアストルフ君の周りに展開された、見えない障壁に遮断され霧散する。
声が聞こえた方を見ると、シャル、メリー、王女の姿があった。
…国王がいないな。
「国王もゲルノアの姿もどこにも見当たりませんでしたわ。」
俺の視線を察したのか、メリーが答えながら黒尽くめの腕を斬り落としていた。
いい判断だ、こいつはまだ殺さない。
聞きたい事が山ほどあるからな。
「…ラヴァーナ教に栄光あれ!」
黒尽くめが突如宣言すると、残っていた黒装束の者達と共に口から大量に吐血し倒れた。
…しまった。
今のは一斉自害の合図だったか。
周りで生きてるのは、こちら側の人間かゲルノアの私兵だけだ。
その私兵達も敗北を悟ったのか膝から崩れ落ちている。
情報は持ってなさそうだ。
「申し訳ございませんユウト様。あんなに簡単に自害されるとは思わず、みすみす死なせてしまいましたわ。」
「いいや、メリーはきっちり仕事をこなしてくれたよ。ただ、残った奴らで国王達の行き先が分かるかだな…」
俺は珍しく、しょんぼりするメリーの肩に手を置き辺りを見る。
シャルが王女や皇子と抱きしめ合っていた。
無事に合流出来て良かった。
後は国王だけだけど、手掛かりがないとなぁ。
「…ユ、ユウト侯爵、陛下はグデ山に向かわれた。祭壇を使い…悪魔王召喚を行う、気だ!」
「悪魔王召喚!?」
シャル達に続いて現れたのは、兵士の肩を借りながら悲壮な顔をするオリバー騎士長だ。
彼も身体はボロボロで、いつもの威厳が感じられないほど痛めつけらたのが伺える。
それに、悪魔王召喚…
そのクエストは知ってる。
結構でかい規模のワールドクエストだ。
過去に二回クリアしたけど、1回目は3チーム合同に混ぜてもらってで、2回目はソロチームに助っ人入れてだったよな。
あんな規模のクエスト起こされたら、間違いなくこの世界の人間じゃ対応しきれないだろ。
俺達だって、もうデットアンドリトライは効かないんだ…
「それはヤバすぎるな…急いで向かおう!ティファ、メリー直ぐに準備を」
「…ユウトさん、私も行きます。」
「ダメだ、今回のは危な過ぎる。もし悪魔王が蘇ったりすれば、俺達でも危ないんだ。」
俺は真っ向から否定し、できる限りその危険性を説いた。
つもりではあったけど…
どうやら、理解はしても納得はしてくれないらしい。
シャルの真っ直ぐな瞳に俺が勝てるわけが無いか。
「…分かった。絶対に無理はダメだし、自分の身を最優先にしてくれ」
「分かっています。簡単に死んだりしません」
シャルが笑顔で答えてくれる。
俺もつくづく彼女に甘いな…
ただ、今回の甘さは永遠の後悔に繋がりかねない。
だから、絶対…は無理だろうけど、出来うる限りの対策で臨もう。
俺は、大切な誰かを一人も失いたくないんだ。
…欲張りユウトでいくぞ!
「…あーらよっと、あ、そっち行ったで!」
レンに斬り捨てられる仲間を見て、狭い建物の中を滅茶苦茶に荒らしながら入口のドアへと走る男
「はぁっ!」
「うぐっあっ……くっくく、ざんね、んだったな…祭壇は既に、ここには…なぃ」
入り口を抑えていたバンゼルの剣を躱せる訳もなく、パックリと割れた腹を抑え、笑いながら地面へと倒れ込む男
外から顔を覗かせたキリカと室内の二人以外、辺りに動く人影はなく、血の匂いだけが充満していた。
「ざっとこんなもんかな。んで、祭壇って何の事やろか?」
「そんな事、私達が知る訳ないでしょ!」
餓狼蜘蛛の表立ったアジトとしては最後の建物にいる三人は、一応それらしき物が無いかと室内を物色する。
と、そこに人影が現れた。
「おぉ。こりゃまた凄ぇな…」
「ん?自分はユウトんとこの…たしか、レオやったか、だいぶとシェイプアップしたんやなぁ」
「シェ…?ったく、ひっでぇなぁレンの旦那。ベイリトールですよ、アスペルで何度かお会いしてるでしょう?」
興味の無い事に記憶力を発揮しないレンは、悪びれる事も無く、せやったせやったと手を上げてベイリトールの元へとやってくる。
部屋から出て、剣神流の二人を簡単に紹介すると、各地での反乱やヘッケランの裏切りを聞き驚愕する。
「あの不健康眼鏡がユウトを裏切るなんてな…人生何があるか分からんもんや」
「デ、悪魔(デーモン)…レンさん、僕たちは神国に向かい、ジゼ…剣聖様に報告してきます。では」
悪魔出現の部分だけに目を見開いたバンゼルは、そう伝えるのも早々に踵を返した。
その後ろ姿を慌てて追うキリカが、「結構面白かったわ」と言う捨て台詞をレンに伝えて走り出す。
そんな二人にレンはヘラヘラしながら軽い感じで返事を返した。
「ほな、剣聖様によろしゅうなぁー、おおきに!」
口では軽いが、レンはしっかりと背中を見送る。
バノペアを早期に制圧できたのは二人のおかげだ。
いくらレンが95レベルで強いといっても、一人で動くには限度がある。
はぐれ龍討伐のついでとは言え、被害を少なくできたのは二人のおかげであるのは間違いない。
だから、言葉は軽くてもしっかり見送る。
小さくなっていく二人の背中が見えなくなると、表情を一変しベイリトールに尋ねた。
「…で、俺はどないしたらいいんや?」
「メリーの姉御からは、悪魔王召喚に使う祭壇を見つけ出して押収か破壊するように指示を受けてますが」
ラヴァーナ教の隠れ教会は既に調査済みだったベイリトールは、ここに目当ての物が無いとなると、検討がつかないとお手上げのポーズを取る。
「…俺はできたら王都に行きたいんやけどなぁ」
「それでしたら、大旦那が向かわれているので大丈夫かと…俺としてはレンの旦那には、祭壇探しを手伝って頂けるとありがたいんですが」
ティファとメリーが同行している事や、王族の奪還に向かってくれた事を聞き、渋々ながらも考えるレン
…俺が一人が行っても万事解決できるか分からん。
もしこれが悪魔召喚のクエなら、早めに潰さな結構めんどい事になるやろ。
まぁ、ユウトかて何処で何が起こるかの当たりはつくやろし、シャルを優先してくれたんなら、分業で対応するんが筋っちゅーもんか…
「隊長、地下に抜け道がありました!ここから街の外まで続いてそうです」
室内をくまなく調べた結果、地下への隠し扉が見つかったようだ。
「…はぁ、ほんならいこか。」
「はい。助かりやす」
王都行きを諦めたレンを伴い、ベイリトール含む調査隊は地下へと続く階段へと歩みを進めるのであった。
ーーーー王都 カリオペア
「それでは、手筈通りにお願いしますわ。」
俺たちはメリーに頷くと行動を開始する。
出来るだけ目立つように動き、王座の間へと辿り着くのがミッションだ。
「…となると、正面突破だわな」
隠れていた茂みから出ると、即バレ覚悟で堂々と門まで歩いていく。
「き、きさま!アイアンメイデンの」
「本当に来やがった…すぐにゲルノア様に報告を」
城門を守る兵士が俺たちを見つけ騒ぎ出した。
いくらクーデター中とは言え、俺は侯爵の地位を持ってるから、兵士にあんな態度を取られる筋合いはないんだが…
「ここは私が」
「いや、俺がやろう。俺の恐ろしさを教えてやらねばな」
俺のやる気にティファが嬉しそうに跪き了解の意を示す。
…いや、別に簡単に殺したりせんよ?
「リロードオン、恐怖の黒球!」
俺はアイテムボックスから取り出した、ハンドボール程度の黒光りするボールを門番達に投げつけた。
「なんだこれっ!」
「なめるなぁぁっ」
門番達は反応素晴らしく、頭上へと向かって来たボールを腰の剣で真っ二つに割った…
「あ~あ、割っちゃった。」
黒球は割れると中から緑色の液体を飛び散らせる。
「ぐっ…毒か!?」
もちろん毒では無い。
しかし、恐怖はそれだけで終わらない。
カサカサカサカサ…
ブブ、ブーン…
「うぎゃぁあっ…」
「や、やめて、あぁ~…」
黒球から這い出てきた黒光りするG達に、身体中を蹂躙された兵士達は、泡を吹いて崩れ落ちる。
「ごくりっ…そ、それでは鍵を開けてまいります。」
俺の恐ろしさに冷や汗をかいたティファが、立ち上がると壁を見つめる。
どうするのかと考えた瞬間、ティファは城壁へと走り出し一足飛びで壁を乗り越えてしまった…
チートキャラの前では壁なんて意味無いんだな、多分5mくらいはあるだろうに…
すると、門の内側が騒がしくなり、兵士のうめき声と、閂が落ちる音がした。
「お待たせしました。ユウト様どうぞ」
「あの一瞬でこんなに良くもまぁ…」
「?峰打ちにしましたので、おそらく死者はいないかと思いますが」
門の内側には、無謀にもティファに抵抗した兵士達が死屍累々と積み重なっていた。
…死んでは無いみたいだけど。
俺はあっけにとられながらも、兵士達に手を合わせ屍を越えていく。
…死んで無いけどね。
意外と王城内は手薄…と言うか、人手不足のようだな。
そりゃ、普通の正規兵は反乱に参加してないだろうし。
下手に従わせるより、俺なら団結しないように捕らえどっかに放り込んでおくしな。
謁見の間までは概ねそんな感じでスムーズに進み、特に囲まれたり罠が発動して絶体絶命的な事は起きなかった。
正規の謁見では無いので、いつも通り豪華なドアを無遠慮に開け放つ。
「…!?なんだ貴様ら!」
「敵襲かっ!」
「むっ…シャ、シャーロット殿下!」
俺たちを見て兵士達は驚愕の表情を浮かべるが、その意図は様々なようだ。
いや…敵襲くらい想像はできるだろうに。
「部屋に入られてから反応しているようでは、まともな訓練を受けた者はいないようですね」
ティファが辛口に兵士達を切って捨てる。
「おやおや…これは、手厳しい。」
玉座に座る黒尽くめの男がティファの声に愉快そうな反応をよこす。
「俺はカザマ・ユウト侯爵だ。あんたが、ここを仕切ってるのか?ゲルノアの奴はどこに行った?」
「元侯爵殿か。ここの責任者はゲルノアですよ?ただ、彼は重要なミッション中でね。」
別に、元でも現でも気にしないもんね!
爵位とかどーだっていいんだから!
っと…いかんな、真面目にやろう。
「それじゃ、サクッとこの場を制圧してゲルノアのオッサンをぶっ飛ばしに行きますか」
「あっはっはぁ。威勢のいい事だが…そちらのお姫様の家族の事は良いのかね?」
…やはり、そう来たか。
想定の範囲内だが、まだ…だな。
「そうだな、俺はシャーロット第一の男だ。家族を無事に返すなら王都奪還は二の次でも良いんだが?」
「ソ、ソンナ…イケマセン。」
よ…よし。そ、想定通り?かな。
「そうは行きませんなぁ。彼らには役目がある…しかし、姫が一人で会いに行くのは構いませんよ?」
「もう一人、人質を増やせってか?」
黒尽くめの男はフンッと鼻を鳴らすと、何かを引きずって…って、アストルフ君やないかいっ!
「ア、アストルフ皇子!」
「あ、あなたはお姉様の…旦那様?」
「おぉ…微妙な感じの反応ありがとう。俺達が助けてあげるから、もう少しの辛抱だ」
俺がアストルフ君を元気付けようとしていたら、黒尽くめの指示で首元に剣が突き付けられてしまう。
人質だもんな…
そりゃ、対等には使わないって事だよな。
彼を殺しても、奴らにはまだシャルの両親がいるし。
「…シャ、シャル?」
シャーロットは、フラフラとアストルフ君の元へと歩いて行ってしまう。
アストルフ君は申し訳なさと安堵の入り混じった表情になっていたが、間近まで来たシャーロットを見て怪訝な顔をした。
「…ね、姉様?」
「あーっはっはぁ!家族愛とは素晴らしい。彼女を送り届けてくれた君達には、『死』をプレゼントしよう!」
黒尽くめの言葉に反応し、俺とティファ目掛けて兵士と黒装束達が襲いかかってくる。
「ユウト様、壁沿いまでお下がりを」
「わ、悪い。」
俺は入り口付近の壁まで下がり、雑魚の相手をティファに丸投げする。
決して、サボりではない。
信頼の証なのである。
「俺はあいつを…リロードオン。ハリセンボン、蜘蛛の糸!」
「…むっ!アースウォール!」
第4位雷魔法相当のダメージを与える針の攻撃は、土壁に阻まれてしまう。
が、天井から噴射された蜘蛛の糸は黒尽くめを絡め取った。
「やったか!?」
「私を攻撃など…人質がどうなっても良いと言うのでしょうかねぇ。ファイア」
蜘蛛の糸は奴が自身に放った火魔法で燃え切れてしまった…
奴のコートは魔法具のようで火傷なんかにはなっていないようだ。
「…見せしめだ。姉の方だけ捕らえて弟は殺せ!」
「はっ!」
「うわっ!」
兵士の剣を受けたのは…弟を庇ったシャーロットの背中であった。
「きちんと指示を理解したようですね」
「あぁ、良かったよ。あんまり良い気はせんけどな」
向かって来た兵士を全て叩きのめしたティファに小声で答える。
「なっ、なんだこれ!うっ…ぐぁっ、うわぁぁ」
「なんだ?どうした…これは」
その間にもシャーロットの背中から剣を引き抜こうとしていた兵士が、傷口からブクブクと肉塊になっていく、元シャーロットだった物に飲み込まれていった。
「これは…アイテムかっ!」
「その通り、人に擬態して攻撃対象を襲うブラットスライムとゴーレムの合体アイテムだ!」
シャルを捕まえたと油断していた黒尽くめは焦りからアストルフ君に手を向け魔法を放つ。
「懐柔など無理があったのだ!ならば、全員死ねぇぇ!」
「…絶対障壁!」
黒尽くめの魔法はアストルフ君の周りに展開された、見えない障壁に遮断され霧散する。
声が聞こえた方を見ると、シャル、メリー、王女の姿があった。
…国王がいないな。
「国王もゲルノアの姿もどこにも見当たりませんでしたわ。」
俺の視線を察したのか、メリーが答えながら黒尽くめの腕を斬り落としていた。
いい判断だ、こいつはまだ殺さない。
聞きたい事が山ほどあるからな。
「…ラヴァーナ教に栄光あれ!」
黒尽くめが突如宣言すると、残っていた黒装束の者達と共に口から大量に吐血し倒れた。
…しまった。
今のは一斉自害の合図だったか。
周りで生きてるのは、こちら側の人間かゲルノアの私兵だけだ。
その私兵達も敗北を悟ったのか膝から崩れ落ちている。
情報は持ってなさそうだ。
「申し訳ございませんユウト様。あんなに簡単に自害されるとは思わず、みすみす死なせてしまいましたわ。」
「いいや、メリーはきっちり仕事をこなしてくれたよ。ただ、残った奴らで国王達の行き先が分かるかだな…」
俺は珍しく、しょんぼりするメリーの肩に手を置き辺りを見る。
シャルが王女や皇子と抱きしめ合っていた。
無事に合流出来て良かった。
後は国王だけだけど、手掛かりがないとなぁ。
「…ユ、ユウト侯爵、陛下はグデ山に向かわれた。祭壇を使い…悪魔王召喚を行う、気だ!」
「悪魔王召喚!?」
シャル達に続いて現れたのは、兵士の肩を借りながら悲壮な顔をするオリバー騎士長だ。
彼も身体はボロボロで、いつもの威厳が感じられないほど痛めつけらたのが伺える。
それに、悪魔王召喚…
そのクエストは知ってる。
結構でかい規模のワールドクエストだ。
過去に二回クリアしたけど、1回目は3チーム合同に混ぜてもらってで、2回目はソロチームに助っ人入れてだったよな。
あんな規模のクエスト起こされたら、間違いなくこの世界の人間じゃ対応しきれないだろ。
俺達だって、もうデットアンドリトライは効かないんだ…
「それはヤバすぎるな…急いで向かおう!ティファ、メリー直ぐに準備を」
「…ユウトさん、私も行きます。」
「ダメだ、今回のは危な過ぎる。もし悪魔王が蘇ったりすれば、俺達でも危ないんだ。」
俺は真っ向から否定し、できる限りその危険性を説いた。
つもりではあったけど…
どうやら、理解はしても納得はしてくれないらしい。
シャルの真っ直ぐな瞳に俺が勝てるわけが無いか。
「…分かった。絶対に無理はダメだし、自分の身を最優先にしてくれ」
「分かっています。簡単に死んだりしません」
シャルが笑顔で答えてくれる。
俺もつくづく彼女に甘いな…
ただ、今回の甘さは永遠の後悔に繋がりかねない。
だから、絶対…は無理だろうけど、出来うる限りの対策で臨もう。
俺は、大切な誰かを一人も失いたくないんだ。
…欲張りユウトでいくぞ!
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異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
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俺は異世界転生者カドマツ。
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良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
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けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
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女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
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「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
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