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2章 怨みの象

37話 秘策

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 試合当日の午前。ヒョウガたちは、三十分ほど前にコロシアムへと着いた。

 コロシアムの足場は、石畳で出来ていて…

 控え室で待っていた彼らは、最終調整を整えると。

 「んじゃあ、まあ、勝ちに行きますか!」

 「そ、そうね! 気楽で良いわね」

 「雲泥の差を見せ付けてやるですの」

 三人の意気込みに、他のメンバーもヤル気満々の様子で。

 その直後ーーー試合の時間になった為、コロシアム内へと入っていく。

 中心に行ったところで向かい合い。

「宜しく頼む」

「ああ、宜しくな」

 相手のリーダーであるーーージェームズが、手を差し出すと、それを握って握手を交わす。他のメンバーも交わすと。

ーーー両チームが動き出す。

 先ず動いたのは、秘策を持つヒョウガ。

 彼の後をサラとアミリが配置されている。

「んじゃあ、行くぞ!
          神力ーーー風神 」

 風神が現れるや否や、身体の中へと入っていく。

 「風神覇奥義〈烈風舞踏〉…」

 「その攻撃は見知ってるーあ。
   聖銃術〈聖壁セイクムーロシルト〉」

 非常に強い風が、彼の周りを、覆い尽くす。

ーーーその直後。

 聖銃師の一人ーーーディスカルが、聖銃を静かに構え、引き金を引く。

 放たれた弾は、聖なる壁となり、攻撃を防ぐ。

「大したこと無いーあ」

「それはどうかな?」

 素っ気ない対応されるも、彼はそうは思わない。

アーティナの戦いの方は。 

 カナミが意識を集中させてる間に、二人が仕掛けた。

「行くですの!
        武装魔術〈究極の光魔一剣・零〉」

相手チームの一角。
 白銀少女ーーーアラネーヌの至近距離に移動すると、技を発動。

 燐光する光が、突如照らしつけられた。
 ーーーその光には、彼女の全てが込められている。
 その燐光を発する光を、光魔剣に降り注ぐ。
 渾身の一撃を、少女へ叩き込む。


ーーーが、しかし、

「聖銃術〈結界バリア〉」


寸前で弾き飛ばされた。

 その起因となったのは、アラネーヌが聖銃で結界を作り出したから。

「中々やるですの!」

「そんなことはい」

と愛想のない少女。

 次に仕掛けたのは相手チームだ。

 「アラネーヌの言う通り。まだまだこれからだから」

 と、少女ーーーババリナが口にすると。

「驚かせてやろう。
         聖銃術〈聖光リュミエールサント百万放ミリオラシオン〉…ッ」

 ーーー聖光の百万放とは文字通り、聖なる光の弾が百万峰放たれる技だ。

 咄嗟に防ごうとしたアーティナと、回避を試みたミューフィを容赦なく撃ち抜く。

ヒョウガ達の戦いは。


「い、行くわよ!
         武装魔銃術〈水神の弾〉」

 準備を整えたアミリは、銃口を黒一色に統一された男に向け、引き金を引く。

ーーーバンバン。

 放たれた水神の弾は、一ミリたりともズレることなく、その男へと飛んでいく。

「能力〈写し鏡〉」

 迫りつつある弾を、写し鏡の如く反射させ、発動者へと帰っていく。

 「ぐぁぁぁ……痛い、痛い。あ、甘く見ていたわね。やるわ」

 「スパスィーバ。けど、もう少し楽しませて欲しい」

 ーーー自分の攻撃を食らい、吹き飛ぶ。

 見下ろす少女がそう発すると。

「次は此方から行かせて貰う。
       聖銃術〈聖炎サンクランマ弾雨グロプルウィア〉」

「妖精、何とかしてー」


 「はい、マスター。分かりました。
     〈ヴィルール·アーラ·カラレート〉」

 ーーー宣言通り、攻撃を仕掛ける。

 銃口を空に向け、引き金を引く。 

 すると上空に、聖なる炎が放たれた。

 放たれた弾が上空で数多の弾へ変化し、雨のごとく降り注ぐ。

妖精にサラは指示を出す。

 妖精が呪文を唱えると、彼女の周りを結界が張り巡らされていく。   

 当然ながら降った弾はーーー結界によって弾き飛ぶ。

カナミの方は。

 撃ち抜かれた二人は、血を吐き出し、身体からも血がどんどん抜け落ちていく。

「武装想像〈生命の湖〉」

 ーーー生命の光で覆われた湖。

 それを作り出した彼女のお陰で、血がどんどん身体の中へ戻っていく。
 あっという間に傷口は塞がる。

 「ありがとうですの! カナミ」

 「助かりました。ありがとうございます」

「どう致しまして」

そう言葉を交わすと。

 「それじゃあ、行くね! 
       武装想像〈月光の女神〉」

 目の前に月の光を浴びた女神が出現。
 ーーーその女神は、手に持つ弓で青年を射抜く。

「ぐあ"あ"……流石だ……」

 攻撃を食らい、流血して致命傷をおう。

ヒョウガの方は。

相手が仕掛けてきて。

「聖銃術〈聖風射撃セイントヴェント·ティラユール〉」

 銃口をヒョウガに向け、引き金を引く。
 すると聖なる風の弾が放たれた。

 ーーー迫る弾へ向けヒョウガが。

風の覇気によって凪払う。

 「なっ、まさか凪払った!?」

 「ん…!? ああ、見ての通りな」

 有り得ないと言わんばかりの反応に、現実を教える。

カナミたちの方は。

「一気に決める」

『了解』

 その合図で二人の聖銃が黄金を帯び始めた。

「聖銃術〈黄金ロール聖霊サンテスプリ〉」

「聖銃術〈聖神セインデュユ金丸アウルバール〉」

 ーーー黄金色の弾が、突如聖霊の姿へ変化した。

 その弾が、縦横無尽に飛んでいく。

 同じく引き金を引いた少女は、金色の聖神を込めた弾で、ミューフィを狙う。

 同じくアラネーヌも、アーティナへ攻撃を仕掛ける。

 「聖銃術〈聖雷射セイントニトィーロ〉」

 アーティナへ銃口を向け、引き金を引く。

 聖なる雷の弾が、アーティナへ放たれた。

 それをギリギリの所で躱すと。

 「武装魔術〈黄金の波動一剣〉」

 神々しく輝きが突如照らしつけた。
 神々し輝きが、光魔剣に降り注ぐ。

 すると光魔剣は黄金色一色に染まる。

 そしてアラネーヌへ斬りかかった。

 黄金色の斬擊が、波動となって少女を激しく襲う。

 「ぐぁぁぁ…痛い痛い。いだっ…中々やるっしょ」

 攻撃を食らい、激しい痛みが身体中を襲う。

 「聖銃術〈ベートサレクブレッド〉」

 銃口をアミリへ向け、引き金を引く。

すると聖なる獣が放たれた。

 「武装魔銃術〈究極の虹色弾〉」

 黒一色の男へ銃口を向け、引き金を引く。

ーーーバンバン。

 アミリは半分の魔力を使って虹色の弾を作り出し、一ミリたりともズレることなく飛んでいく。

「くはっ…」

 虹色の弾を食らい、呻き声をあげて。

「中々やる」

「ま、未だこれからよ」

まだまだ余裕な様子。

カナミ達の方は。

「聖銃術〈セイクリッドなる破壊弾デストリュクシオン〉」

「武装想像〈時の巫女〉」

 銃口をカナミへ向け、引き金を引く。

 破壊をもたらす弾が放たれた。

 カナミが突如として刹那ーーー時空の狭間が現れ、そこから巫女を出現させる。

 ーーー迫る弾丸を、時の巫女は時間を止めた。更に弾丸そのものを消し去った。

少しして時間が動き出す。

 「どうなってやがる。撃ったはずなのに…」

 と青年は、理解が追い付かないらしい。
 
「時を止めたんだよ」

「何!?」

カナミの説明に吃驚として…

「ワタシも行きます。
          催鳥魔術〈扇鷲ファンリオール激突ショック〉」 

 ミューフィが魔笛を吹くと、扇鷲を呼び出す。

 すると扇鷲は上空へ飛んでいき、少女目掛けて激突していく。

「聖銃術〈結界〉」

 激突してくる寸前で爆ぜそうになるが、結界を突き破って…

「ぐあっ…何て威力…」

 「食らって貰えて嬉しいです」

 勢いよく激突され、頭から血が噴き出し、頭蓋骨もへし折られてしまう。

軈て崩れ落ちていく。

そして残り五人。

 「アミリ、今からそっち行きます」

 『わ、分かったわ。一緒にやるわよ』

 通信機で連絡を取ると、そちらへ向かう。

  「まさかカタリナがやられるとは…」

 と余所見してる男だったがすぐに切り替え…

「聖銃術〈聖光の百万放〉」

 聖なる光の弾が、百万峰放たれた。

「妖精何とかして~」

 「はい、マスター。分かりました。
      〈ヴィルール·アーラ·カラレート〉」

妖精に指示を出す。

 呪文を唱えると、サラの周りを結界が張り巡らされていく。

 百万峰放たれた弾は、結界に阻まれ弾き飛ぶ。

 「んじゃあ、徐々あれを出しますか」

 と言うとヒョウガは、自身の武装を解除。

 そして改めて武装展開をし始め…

 武装展開が終了すると、右手には暗みがかった青の槍が握られていて。

 「ハローシィ。その武器は何?」

 「ん…!? この槍は元海底王の槍だ」

 「まさかあれは···伝説に伝わる古代武器の一つ!?」

 初めて見る武器に、興味が湧くシオ。

それも当然のことだろう。
 他の武器とは別次元の輝きを、それは放ってるのだから。

「まあ、何でも良い。
          聖銃術〈聖光の百万放〉」

 聖なる光の弾が、百万峰放たれた。

 何とヒョウガは、それらを全て軽やかに躱す。

 「クルータ、クルータ。丸で蝶の如く舞だ」

そう思わせる躱し技術。

 「海底王槍術〈深海アビス大波突ウールプーセき〉」

 突如周囲一帯が海に変貌した。
 変貌した海に、大波を起こす。

 起こした大波と共に、槍でシオを突いてーーー

 「かはっ…痛い痛い。いだい…何て強い技だ」

「驚くのはまだ早いぞ」

 痛みに支配された少女にそう返すと。

 「海底王槍術〈レクス水渦連擊ウェルテクス〉」

大きな水の渦を作り出す。

 作り出された水の渦で、シオへ強烈な突きを繰り出す。

 「あがっ…ゲホゲホ…ボーリナ、ボーリナ…こんなの、耐えられ…ない」

 身体中を突かれた少女は、吐血するまもないまま流れ落ちていく。
 遂には意識が朦朧もうろうとし始めてその場に倒れ込む。

残り四人。

カナミ達の方は。

 「それじゃあ、行くてっしょ」

とアラネーヌが言うと。

「聖銃術〈聖水射セイントロティル〉」

 銃口をアーティナに向け、引き金を引く。

 ーーー聖なる水の弾が放たれた。

「武装魔術〈黄金連剣〉」

 神々しい輝きが、突如照らしつけた。
 神々しい輝きが、光魔剣に降り注ぐ。
 すると光魔剣は黄金色一色に染まる。

 そして迫る弾を、真っ二つに切り落とすと、少女を連続して切り裂く。

  「ぐあ"あ"…何て…威力…なんしょ…強い…勝て…ない」

 斬られたアラネーヌは、深々と心臓や腹部至る所から流血していく。
 みるみるうちに、地面を自分の血で真っ赤に染め上げ…

ーーー崩れ落ちていく。

残り四人。

 「アタシもサラの方に行くですの」

『助かるよー』

 通信機で連絡を取ると、彼女の元へ向かう。

 しかし相手の方が、仲間と合流してしまい。

 「にしても、何て威力なんだ··· あの槍は」

 先程の技の感想を、そうぼそりと言うと。

男は技を発動。

 「聖銃術〈聖光の百万放·零〉」

 放たれた聖なる光の弾が、格段と威力を増して空から降り注ぐ。

「海底王槍術〈大波結界ウーバリエ〉」

 しかしーーー大きな波の結界で、防ぎきられてしまう。

 男が仕掛けるより先に、彼が仕掛ける。

 「海底王槍術〈海底スブメス波紋クリュド〉」

 海底王の槍から、突如凄まじい勢いで波紋が押し寄せてきた。
それと同時に、男を突く。

ーーー只の波紋ではない。

 この海底の波紋は、食らえば皮膚など軽々しく突き破る程の威力だ。

 「ぐぁぁぁ…痛い、痛い痛い。まだだ、まだ終わるわけには…」

「んや、終わりだぞ」

 と言って血が溢れ出す心臓へ止めの一撃を刺す。

「…!!」

 その場に崩れ落ち、倒れ込む。

残り三人。

 三人は形勢を変え、それぞれが聖なる光を纏う。

 「ん…!? 俺と同じことが出来るのか?」

「答える筋合いはない」

 どうやらヒョウガの予想通りらしい。

ーーー来る。

 凄まじい聖光が、サラを捕らえて離そうとしない。

 そんな彼女へと弾は放たれた。

「ぐぁっ……痛い痛いよー」

 攻撃を食らい、サラの身体を痛みが襲う。

「それでも代表レベルか」

 追い詰められてるにも拘わらず、上から目線なモノ言いでいう。

 「んじゃあ、アミリ、アーティナ行くぞ」

「わ、分かったわ」

「了解ですの」

 呼ばれた二人は、ヒョウガの指示で攻撃に出る。

「神力ーーー風神!」

 ヒョウガは風神を、目の前に出現させた直後。彼の中へと消えていき……

彼は風の覇気を纏う。

「行くですの!
       武装魔術〈光の十字一撃〉」

  ターゲットを髪を束ねた少女にし…

 彼女の真上に瞬間移動したアーティナは、技を発動。

 大量の魔力で、幾つもの十字形をした光を作り出す。
そして相手に向け突き刺す。

「あがっ……何て、威力なの」

「こ、これで終わりよ!
           武装魔銃術〈深紅クリム焼炎弾ゾン·ノート〉 」

 傷だらけになった少女へ銃口を向け、引き金を引く。

ーーーバンバン。

 放たれた弾は、蒼い超高熱の炎。

 それが一ミリたりともずれること無く、少女の方へ飛んでいく。

 熱風と共に少女は焼き尽くされた。

ーーー残り二人。

 「一気に決めるですの。アタシは一人」

動きを決めると。

 「武装魔術〈天空セレスティアル·レイ〉」

 相手から距離を離したアーティナは、技を発動。

 天空へ光魔剣を向けると、大地を貫く程の光線を降らす。

 ーーー降る。降る。これでもかと言うくらいに降る。

 文字通りーーー光の雨が男を襲う。

「聖銃術〈結界〉」

 しかし、あまりの量に爆ぜ切れず無防備な男へ降り注ぐ。

「……っ!」

 全身を光の雨に突き抜かれ血がどぷどぷと流れ出す。
 溢れ落ちる頃には、彼の息の根はとうに止まっていた。

ーーー残り一人。

 この状況の打開策を、彼は持ち得てない。

 その彼へと、ヒョウガの強力な一撃を繰り出す。

「これで終わりだ!
         海底王槍術〈海鳴槍波擊〉」

 突如地面から荒れ狂う波が出現。
 氷と雷が生じ、海底王槍へ降り注ぐ。
 それを帯びた槍は、波もろとも相手へ突き飛ばした。

 「来るな! 来るな···ぐあ"あ"…」

 強力な一撃を食らい、男はその場に倒れ込んだ。

『試合終了です』

 そのアナウンスにより、ヒョウガたちの勝利は決まる。

 ーーー試合が終わり、ステージの中央へ行く。そこには海底王の従者の男性と相手チームが待っていて。

向かい合うと。

 「では改めまして! 勝者はチーム〈風神〉です。おめでとうございます」

 「ありがとう。勝てて良かった」

と勝者を称えると。

 「続いて、残念ながら負けてしまったチーム〈聖銃師〉はここで敗退となります」

 「正直悔しい。けどあんな凄いものを見れたから、良かった。それだけて嬉しい。次も頑張ってくれ」

 少し悔しい顔を見せるが、それ以上のものを得れたようだ。
 
 「良い試合だった。ありがとう」

「ああ、此方こそ」

 そう言って、ヒョウガが右手を出すと、相手も右手を出す。そして握手を交わす。

 他のメンバーもそれぞれ相手と握手を交わす。

 するとーーー観客の歓声が、コロシアム内を木霊する。

こうして三日目のAブロック一回戦は終わりを迎えた。


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