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2章 怨みの象

38話 泳ぐ魚と踊らす歌

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 同時刻ーーーBブロック一回戦目。 
 チーム〈魚人〉VSチーム〈鳴物師〉

 Bブロックの試合は、鮮やかな音色と共に始まった。


 ーーー鳴物師とは、楽器を武器にして戦うチーム。

 相手の出方を待つも、一向に来ないから。

「能力〈水底〉」

 山の麓が一瞬で水底へと変化する。

 「こうしないと本来の力が出せない」

 と言った男は、頭が鮫で、手足に鰭や水切りがある。そして全身が鱗で覆われた魚人。

 彼はリーダーーーーシャーラ。

 「全員、攻撃を仕掛に行くサメ」

『了解』

 シャーラの指示でそれぞれが動く。

 可成り離れた相手との距離の差を、物の数秒で縮める。

 そのスピードは、常人には目に捉えられない。

「魚人奥義〈破壊デストクロ〉」

 その中の一人の鮫ーーーパティンが攻撃を繰り出す。

 皮膚や骨を軽く砕き散る程の凶器が、フルートを持つ少女を襲う。

がしかしーーー

「能力〈音色〉」

 迫り来る牙を、文字通り、フルートの音色で掻き消す。

「何!? んな馬鹿な」

「音色こそ最強の盾」

 有り得ないと言わんばかりな彼へ、音色の強さを示す。

 「何て強さダコ!? 今度はボクが行く。
       魚人奥義〈蛸大砲〉」

 と言って仕掛けたのは、魚人族の蛸ーーーミノ。

 彼女は口中から強力な活動力を放出し、太鼓を叩く少女へ発射した。

 そこへピアノを弾く少女が、太鼓を叩く少女の後ろから現れて。

「能力〈絶対音感サナアブソルート〉」

 すると太鼓から謎のエネルギーを発生。
大砲を弾き飛ばす。

 「冗談じゃないダコ~。どう言うこと」

「これこそが」

「ーーー音楽の力」


と二人が言うと。

  「さて、私が仕掛けに行くね」

 と言ったのは、バイオリンを持った少女ーーールシアだ。

「〈幻想曲〉」

 ーーールシアはバイオリンを弾く。

そして幻想曲を奏で始める。

 演奏を嫌でも聴かされた、イカの少女ーーースミスへ。

 文字通り、音楽が身体の中へ流れ込む。

 彼女の身体の中を、音楽が蝕んでいく。

「うぁぁぁ…何て強さゲソ」

 「ただ演奏してるだけなのに」

ーーー少女は薄く微笑んだ。

「次はアタシが行く」

そう言って、琵琶を鳴らす。

 「理解出来ん。何故音楽ごときに…」

 鯨ーーーナガロスはそう呟いていると。

 「ごわぁ…な、んなんだ、この痛み」

 琵琶を聴いているうちに、身体へ激痛か襲う。

「お···れの攻撃を食らえ!
             鮫奥義〈衝撃波フルクインプル〉」

ーーー爆音が鳴り響く。

 すると耳にした琵琶を鳴らす少女の、鼓膜を破れてしまう。

ジリジリと耳鳴りがし始める。

「···何て破壊力なの?」

「音の攻撃たからだ」

音の攻撃は効くようだ。


 「よし、それならこれはどうへび?
     〈音波ソニック〉」

 そう言うと海蛇のクロムが、音波を起こす。

 起きた音波で、ギターの少女を襲う。

「そんなんじゃ、効かないよ」

と言ってギターを弾き始める。

 そしてクロムの放った音波を、弾き飛ばす。

「何て技巧へび!?」

 「そんな音じゃ、幾らやっても通用しない」

 ーーー敵うはずがない。と少女へ言い聞かす。

 「形勢変更さめ。クロムとスミス、ミノは後衛を任す」

「了解へび」

「任せてゲソ」

「期待に応えるタコ」

 ジャーラの指示で、三人は動く。

 「後のナガロスとパディンは攻めるさめ」

「了解」

「勝とう」

残りは彼と共に攻めへ。


 「形勢を変えてきた。こちらも相手に合わせます」

 リーダーの少女ーーーコロンが指示を出す。

 前衛はバイオリン担当ーーールシアと、太鼓を叩く少女ーーーリサニー、フルート担当のリュナ。

「魚人奥義〈猛毒の牙〉」

「魚人奥義〈大口の丸呑み〉」

二人の魚人が仕掛けた。

 パディンの牙がみるみるうちに毒を浴びていく。
 その毒を浴びた牙で、相手に噛みつく。

 大きな鯨となったナガロスが、大きなお口を開く。

 「〈絶対音感〉」

 をくと、ルシア、サロ、リサニーの三人を結界で覆う。

そしてーーー防御力を上げる。

ーーー相手の攻撃を落とす。

「〈協奏曲〉」

「〈振動ヴィブラシオン〉」

サロが、協奏曲を奏でる。

リサニーが太鼓を叩く。

ーーーすると地面が揺れ動く。

 協奏曲を聴いたパディンとナガロスは、物理攻撃を食らう。

「何て威力なんだ!?」

 「はあはあ。何なんだ? あの曲は···」

 ーーー二人はその理由を知らない。

 何故なら、中間に入れたルシアがサポートして、攻撃力を高めているから。

 「まだまださめ。
      魚人奥義〈捕食〉」

 続いて魚人チームのジャーラが、仕掛けた。

 ターゲットをサロに絞り、彼女を捕食する。

 捕食されたサロは攻撃を食らった。

 ーーーにも拘らず、変わったところは一切無い。

それところか。

 「は? ぐぁぁぁッ… どう、言うことさめ?」

 「言いましたよね? 音色が身を滅ぼすと」

 捕食者のジャーラが、口から地を流していた。
 
 苦痛を噛み締めて吐き出した言葉を、もう一度繰り返す。

 本人は聞いた覚えがないようだが…

「これで終わりです。
          〈モール旋律メロディー〉」

 今だに血は、止まる気配がしない。

 直前に奏でた演奏で、先とは別の部位からも血が流れ出す。

 流れ出した血は、止まること無く、軈て抜け落ちて行く。そしてその場に崩れ落ちる。

残り五人。

 「リーダーが殺られた!? 全員、これ以上の犠牲を出すな」

『確実に勝ちを掴む』

『リーダーの仇を取るでゲソ』

 『相手の思い通りにはさせないへび』

『いざ行くダコ』

 パディンの指示でそれぞれが動く。

 攻めてくる二人の前に、フルートのリュナが立つ。

 彼女が技を発動するよりも早く、パディンとナガロスが発動。

「鮫奥義〈獰猛な鮫〉」

「鯨奥義〈咆哮ゲブリュル〉」

 水中に突如ーーー獰猛な鮫が姿を表す。

ナガロスは哮り叫ぶ。

 鮫の凶器と、咆哮が少女を襲う。

「〈音色トーン〉」

 リュナがフルートの音色で掻き消そうと試みるもーーー

 「ごあっ…痛い痛い。痛い…まだやれるッ」

「鯨奥義〈捕食〉」

 攻撃を食らった少女は、あちらこちらを深々と抉られてしまう。

 更に追い討ちをかけられ、その場に倒れ込む。

ーーー残り五人。

 「リュナの分も頑張って奏でましょ」

『ええ、そうしよ』

『そうですね』

『奏でよう』

『音色を届けるよ』

ーーーそう意気込む。

 その試合をコロシアム近くのモニターで見ていたヒョウガ達は。

 「海底楽園都市の代表も強いけど、あの鳴物師も負けじと強いね」

 「ん…! 確かに強いな。音楽って凄いな」

 「そ、そう? 確かに強いのは認めるけど、眠くなってくるわね」

 「それは音楽に関心がないだけですの」

 「凄いです。まだ一人だけしかお互いに殺られてません。どちらが勝つか楽しみです」

「うとうと…すぴ~すぴ~」

 とそれぞれが違った反応を見せる。

話は試合に戻る。

 後衛の二人は、メンバーの攻撃力と防御力を上げる。

 ーーー彼女達がこちらへ
と。

迫る彼女らとの距離を離す。

するとーーー

「〈協奏曲コンセルト〉!」

サロが協奏曲を奏でた。

「〈アームカネティスき〉」

 太鼓を叩いた少女が、魂の響きを鳴り響かす。

「ごあっ…痛」

「ぐぁぁぁ…痛い」

 二つの攻撃をくらい、二人の少女は全身に痛みが走った。

「後衛から潰すか」


「お供するへび」

「同じく行くダコ」

「決まりだ」

 そう言うと、三人は行動に移す。

後の二人は残りを狙う。

「また形勢を変えてきたね」

 『二人は痛みが取れてません。そう長くは持たないでしょ』

『じゃあ、次で決めちゃおう』

『断る理由がないですよ』

『それじゃあ、行こう』

 コロンが、仲間と連絡を取り合う。

 後衛と対峙するナガロス、ミノ、スミス。

「行くへび! 
       魚人奥義〈毒噴射〉」

「攻撃行くダコ。
        蛸奥義〈黒染め〉」

 突如毒がクロムを包み込む。
そして相手へ噴射された。

ミノは墨を吐いた。

 ーーー吐かれた墨は、みるみるうちに地面を黒く侵食していく。

 侵食していく墨が、ルツの前で止まり…

 侵食していた地面を琵琶を鳴らすことで晴らしていく。

 毒を食らったはずのコロンは、何故か効いていない。

 「はあはあ。これでも食らえ!
    鯨奥義〈丸呑み〉」

 巨体なナガロスが、大きな口を開く。

 そしてターゲットを丸呑みにしようとして来た。

ーーーコロンはピアノを弾く。

 ーーーただそれだけで、彼は踠き苦しむ。

 「その巨体を砕きます。そして終わりです。
        〈終焉フィーニス交響曲シンフォニー〉」


 ピアノの伴奏が突如始まった。

 それを聴いたナガロスは、何故か耳が潰れてしまう。

 交響曲に曲を変えると、彼の体を蝕んでいく。

 完全に蝕み尽くすと、身体の機能は既に停止していた。

ーーー残り四人。

 「まさかナガが殺られるなんて有り得ないへび」

「冗談じゃないだこ」

 その現実を前に気が立っていると。

「余所見してはいけませんよ」

と二人へ向けて言う。

パディン達は。

パディンとスミスが技を発動。

「行く!
     鮫奥義〈超音波〉 」

 「行くゲソ。
      烏賊奥義〈墨弾〉」

パディンは超音波を発した。

 超音波を浴び、サロは少なからずダメージを食らう。

ーーーが、多少である。

 何故ならルシアからの援護があったから。

 スミスは口から大量に墨を吐く。

 吐かれた墨を彼女は爆弾に変えた。
 そして墨の爆弾を、リサニーへ投げ飛ばす。

 迫り来る墨爆弾を、太鼓を叩いて何と防ぎきってみせた。

「次はこっちの番だ」

「行きます」

 と二人が反撃に出ようとしていた。

後衛の二人の方は。

 ルシアの援護により、攻撃力と防御力を高めた二人が。

「〈月光〉」

「〈宵の篝火〉」

ーーーコロンはピアノを弾く。

そして月光を伴奏し始める。

 ルツもまた琵琶を鳴らし始める。

 ーーーこの二つの曲は、勿論ただの演奏ではない。

 この曲は破壊をもたらし、更には脳死へいざなう。

 当然ながら演奏を聴いたミノとクロムは、体内を破壊されてしまう。

 「げほっ…ごほっ…! なん…て…いりょくだこ…」

 「ぐほっ…げほっ…! ……のう…が…」

 と二人は最後まで言いきる前に力尽きてしまい。

有り得るだろうか。
 自分達に有利にしたにも拘らず、手も足も出せないのだから。

 そう、これはもう文字通り、音が魚を蹂躙していると言わざるを得ない。

 「糞。二人だけになっちまったか」

「詰んだゲソ」

「まだやれる」

 最悪な状況を前に、二人は焦り出す。

 「海底の力だ、あれを使うしかない」

「了解ゲソ」

頷き合うと。

「力ーーー海底」

「力ーーー深海」

 パディンの身体中を、海底の力が覆い尽くす。
スミスもまた身体中を深海の力で覆い尽くす。

 そしてーーー相手目掛けて駆け出す。

 迫る二人に、リサニーが仕掛けた。

「〈魂の響き〉」

 太鼓を叩いた少女が、魂の響きを鳴り響かすがーーー

今の二人には通じない。

「何!?」

 驚くリサニーに、二人は近付く。

 纏う力で二人は、少女を狙う。

 「ぐあっ…! 痛い痛い痛い。何て強さなんでしょう」

 攻撃を食らった少女は、今度こそダメージを食らう。

「皆さん気を付けてください」

『分かりました。そうしよう』

 『相手がどこ迄力が持つか分からないけど、耐えちゃうよ』

『油断しなければ勝てますね』

『それでは行きましょ』

 五人が連絡を取り合った直後ーーー

「海底極技〈海底スーマラン侵食エロジオン〉」

「深海秘技〈深海メープロフォンド悪魔ディアーブル〉」

 サロとリサニーをパディンが相手する。

 突如周囲を覆う水が一点に集中した。
 一点に集中した水が、二人の身体を侵食していく。

 残りの三人は、スミスが相手していた。

彼女も技を発動した。

 虚空から突如ーーー深海の悪魔を出現させ…

 深海の悪魔は、禍々しさを醸し出し、鋭い牙と顎を持つ。目も恐ろしく、正に文字通りの怪物と言っても過言ではない。

その怪物が三人を襲う。

 「ぐぁぁぁっ…! 何て威力なんでしょう」

 「ぐぁっ…! 強い。もの凄く強いですね」

「ぐぅっ…! 恐ろしい力ね」

 「ぐぁ"ぁ"…痛い痛い痛い、痛い。流石は海底楽園都市代表だけある」
 
「…っ! ここ迄やるとは…」

 五人それぞれが二人の攻撃で致命傷を負う。

「これで逆転出来そうだ」

「そうゲソね」

 と逆転の兆しが見えたかに見えたが。

 「では! はあ、皆さん。行きましょう」

コロンの指示を受けると。

「力、音楽の神ーーーイヒ」

 「力、音楽の神ーーーエウニルベー」

 「力、音楽の神ーーーミューズ」

 「力、調和の女神ーーーハルモニア」

 「力、音楽の神ーーーアポロン」

 コロンがアポロンの力を身に纏う。

 ルシアはミューズの力を身に纏う。

ルツはイヒの力を身に纏う。

 リサニーがハルモニアの力を身に纏う

 最後にサロがエウニルベーの力を身に纏った。

 「では、私とルシアさん、ルツさんで鮫を! 後のサロさんとリサニーさんで烏賊をお願いします」

『了解! じゃあ行くね』

『任せて! 行きますね』

『これで決めよう』

『演奏もこれで終わりですね』

リーダーの指示で動き出す。

 「今度こそヤバいゲソ。兎に角ヤバいとしか言えないもの纏ってるゲソ」

 『確かに不味いな。神々しさが半端ない』

 二人は負けることに気付きつつある。

 そもそも逆転の兆し何て一度もなかったと言うことを。


「〈太陽神の演奏〉」

「〈神祇歌〉」

「〈神曲〉」

 コロンがアポロンの演奏をする。

 ルシアがギターを弾きながら神祇歌を歌う。

ルツが神曲を鳴らす。

三つの攻撃がパディンを襲う。

 技を発動する時間すらも、彼には与えなれてない。

 「あがっ…げほっ….ごほっ…! 何て、いりょくだ…これ…が音楽の…力だと……」

 身体中を蝕まれた彼は、力無くその場に倒れ込んだ。

 
 「さて、こちらも決めますね。
    〈降神曲〉」

「〈魂神の響〉」

 ーーーティアが降神曲を奏でる。

 リサニーが太鼓を叩いて、神の魂を鳴り響かす。

 止めの二撃が最後の一人へ放たれた。

 ーーー避けることなど出来ない。

  「ぐほっ…! げほっ! ごほっ…! 何て、破壊力のある技ゲソ…脳が…響いて……るゲソ」

 真っ正面から攻撃を食らい、スミスの身体が破壊されていく。

 破壊は軈て脳にまで達し、その場にぐったりと倒れ込んだ。

こうして試合は終わり。

 『チーム〈鳴物師〉の皆さんも出てきてください』

 海底王の従者のアナウンスでコロン達は降りていく。

 試合が終わりステージの中心にいる従者の人と向かいって並ぶ。

 「では、改めまして! 勝者はチーム〈鳴物師〉です。おめでとうございます」

 「有り難うございます。まさか勝てるとは思いませんでした」

 従者の勝利の言葉に、コロンは薄く微笑んでそう返す。

 「続きまして! 圧倒的な力負けをしてしまったチーム〈魚人〉はここで敗退となります 」

 「ここ迄ボコボコにされるとは思わなかったサメ。けど、今の実力が知れて良かったサメ」

敗者へそう告げると。

 シャークは心境を口にし、更には。

「次の試合も頑張ってサメ」

 「有り難うございます。とても熱い試合でした」

 「こちらこそ為に成る試合が出来て良かった。楽しい試合だったサメ」

 そう言って彼は右手を出し、釣られるように少女も右手を出す。
 
ーーー握手を交わす。

 他のメンバーもそれぞれが相手と握手を交わす。

 こうして三日目のBブロック一回戦目は終わりを迎えた。


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