9 / 91
1章
1−9
しおりを挟む
「それでは先程の話に戻りますが、アリアはこのままだと精霊と契約できないということでしょうか?」
エヴァンお兄様が真剣な表情で尋ねる。
「このままだとそうであるな。精霊はこの得体の知れないものに対して警戒している。お前たちの精霊は全員アリアを避けているのか?」
そうグレース様に聞かれて状況を整理する。まずお母様の下位精霊は水の力を司っており小さい熱帯魚のような形をしている。
名前はリムルと言って私はあまりお目にかかったことはない。呼び出したところへ居合わせたことがあるが、私の顔を見てすぐに消えた。
次にお父様の中位精霊は土を司っており、岩のようなゴツゴツした小さなおじさんのような姿をしている。
名前はジーン、庭で時折うろうろしているのを見かけたことがあるが私の顔を見ると不機嫌な顔になってどこかへ飛んでいく。
そしてティアお姉様の緑の力を司る中位精霊のミルは私の顔をいた途端叫んで消えてしまう……自分で言っててなんだか悲しくなってきたな。
話していてどんどん落ち込んでいく私をティアお姉様が頭を撫でてくれた。
お父様もお母様もなんだか気まずそうである。
「ふむ……今はまだわからんことが多い。妾の方でも調べてみよう」
グレース様はひとしきり考え込んだ後、そう言って「それに」と続けた。
「今はアリアの作ったこの菓子を楽しむとしようじゃないか」と微笑んで目の前の皿のアップルパイを見やった。
精霊と一緒にティータイムができるなんて……と少しウキウキしている自分は先程まで落ち込んでいたのに我ながら現金だと思う。
グレース様が気に入ってくれますようにと念じてアップルパイを頬張るグレース様を上目でそっと確認した。フォークを持つ指先も美しいなと思っているとグレース様は目を見開いた。
「これは……!」
お気に召さなかったかと冷や汗が出る。ドキドキしながらグレース様の様子を伺っていると
「うまい!!」
グレース様は驚いたように私の顔を見た。
「お気に召しましたでしょうか……?」
と恐る恐る尋ねるとグレース様はまたパイをフォークで切り分け口に運ぶ。そしてまた先程と同じく私の顔を見てコクコクと頷いた。
「これはちゃんと味がするぞ! 人間の作ったものは妾達より下位の精霊なら味がするらしいが妾達上位の精霊が食べても魔力の濃さ故かほぼ味が薄くてな……」
「魔力に濃度があるのですか?」
エヴァンお兄様が不思議そうに尋ねると、グレース様は真剣な表情で皿に乗ったパイを見つめている。
「ああ、濃さというのは言わば質じゃな」
「魔力量は濃さと比例するものなのでしょうか」
「いいや。魔力は多くても濃いわけではない。反対に濃くても魔力が多いというわけでもない。ああ、アリアの作った菓子は魔力が濃いのだな」
と目を細めてパイをまたフォークで切りわけ、口に運ぶ。
「作ったお菓子でわかるのですか?」
お兄様が質問し続けるもグレース様は気にした様子もなく食べながら答えてくれる。
「菓子というのは作り手の魔力が少なからず感じられるものよ。妾くらいになるとそれが見える」
おお……グレース様すごい。そしてもくもくと食べ続けていて、お母様が慌てて皿に追加している。
「精霊召喚では魔力量が重視されるため、濃さは召喚されてみないとわからん。濃さは精霊の嗜好のようなものだ。濃いほど上位の精霊が喜ぶ」
「では、アリアについている何かを取り除けばアリアは精霊に好まれるのでは?」
お兄様が真剣な表情で尋ねるとグレース様は途端に厳しい表情になった。
「アリアについているものがなければの話ではそうじゃな。みたところ魔力量も少なくない故、運が良ければ妾のような上位の精霊を召喚することができるだろうよ……だが、その何かを取り除けばアリアは間違いなく死ぬ」
「!」
「先程も言ったであろう、それはアリアの命を繋ぎ止めていると」
エヴァンお兄様はグッと面食らったような表情をして、唇を噛み締めた。隣にいるティアお姉様を見ると顔色を悪くしていた。
自分の状態が命に関わっているときいてもなんだか私は実感が湧かない。心配してくれている家族には申し訳ないが、私はとりあえず命に別状はないということにホッとしていた。
それに先ほどから自分に普通に接してくれているグレース様のことが気になっていた。
「グレース様は私と話していて気味が悪いと思ったりしませんの?」
そう尋ねるとグレース様は私を見て微笑んだ。
「お主についておるものの気配は間違いなく力では中位精霊ではかなわん、だからこそ精霊もお主を避けるのであろう。妾はこうしてお主と話し、考えることもできる。それに妾は高位の精霊故、そう簡単にやられんという自負もある」
それに、と続けてグレース様はエヴァンお兄様を見やる。
「我が主エヴァンはどうやらかなりの妹思いじゃからの」
と私にウインクをした。その言葉を聞いたエヴァンお兄様は途端に顔を赤くしていた。その様子を見た私はなんだか少し泣きそうになった。
あのあとグレース様はアップルパイを全てたいらげた後、満足そうにして「いったん帰る」と言い残して精霊界へと帰っていった。
上位精霊とお茶会なんて家族全員が初めてのことだったため、私達は緊張が解けた途端皆どこか放心状態だった。
ふと思い出したことをエヴァンお兄様に聞いてみる。
「そういえばお兄様、グレース様が最初に言っていた注文をつけたってなんのことなんですか」
「ああ、精霊召喚の儀の時に心の中で『僕と契約してくれる精霊は妹を傷つけない、仲良くしてくれる精霊がいいです。 この条件を飲んでくれない精霊とは契約する気はありません』てお願いしたんだよ」
あっけらかんととんでもないことを口にしたエヴァンお兄様にその場が固まった。
「お、お兄様……それはもし契約できなかった時は……」
「そうなった場合のことも色々考えてたよ。結果的には成功したからよかったよね」
「なっ……」
皆口を開けて絶句していると、エヴァンお兄様はにっこりと笑った。
「それに……アリアを傷つける精霊なんて僕はうまくやっていける自信がないからね」
私は思っていた以上にエヴァンお兄様に愛されていたと自覚したのだった。
エヴァンお兄様が真剣な表情で尋ねる。
「このままだとそうであるな。精霊はこの得体の知れないものに対して警戒している。お前たちの精霊は全員アリアを避けているのか?」
そうグレース様に聞かれて状況を整理する。まずお母様の下位精霊は水の力を司っており小さい熱帯魚のような形をしている。
名前はリムルと言って私はあまりお目にかかったことはない。呼び出したところへ居合わせたことがあるが、私の顔を見てすぐに消えた。
次にお父様の中位精霊は土を司っており、岩のようなゴツゴツした小さなおじさんのような姿をしている。
名前はジーン、庭で時折うろうろしているのを見かけたことがあるが私の顔を見ると不機嫌な顔になってどこかへ飛んでいく。
そしてティアお姉様の緑の力を司る中位精霊のミルは私の顔をいた途端叫んで消えてしまう……自分で言っててなんだか悲しくなってきたな。
話していてどんどん落ち込んでいく私をティアお姉様が頭を撫でてくれた。
お父様もお母様もなんだか気まずそうである。
「ふむ……今はまだわからんことが多い。妾の方でも調べてみよう」
グレース様はひとしきり考え込んだ後、そう言って「それに」と続けた。
「今はアリアの作ったこの菓子を楽しむとしようじゃないか」と微笑んで目の前の皿のアップルパイを見やった。
精霊と一緒にティータイムができるなんて……と少しウキウキしている自分は先程まで落ち込んでいたのに我ながら現金だと思う。
グレース様が気に入ってくれますようにと念じてアップルパイを頬張るグレース様を上目でそっと確認した。フォークを持つ指先も美しいなと思っているとグレース様は目を見開いた。
「これは……!」
お気に召さなかったかと冷や汗が出る。ドキドキしながらグレース様の様子を伺っていると
「うまい!!」
グレース様は驚いたように私の顔を見た。
「お気に召しましたでしょうか……?」
と恐る恐る尋ねるとグレース様はまたパイをフォークで切り分け口に運ぶ。そしてまた先程と同じく私の顔を見てコクコクと頷いた。
「これはちゃんと味がするぞ! 人間の作ったものは妾達より下位の精霊なら味がするらしいが妾達上位の精霊が食べても魔力の濃さ故かほぼ味が薄くてな……」
「魔力に濃度があるのですか?」
エヴァンお兄様が不思議そうに尋ねると、グレース様は真剣な表情で皿に乗ったパイを見つめている。
「ああ、濃さというのは言わば質じゃな」
「魔力量は濃さと比例するものなのでしょうか」
「いいや。魔力は多くても濃いわけではない。反対に濃くても魔力が多いというわけでもない。ああ、アリアの作った菓子は魔力が濃いのだな」
と目を細めてパイをまたフォークで切りわけ、口に運ぶ。
「作ったお菓子でわかるのですか?」
お兄様が質問し続けるもグレース様は気にした様子もなく食べながら答えてくれる。
「菓子というのは作り手の魔力が少なからず感じられるものよ。妾くらいになるとそれが見える」
おお……グレース様すごい。そしてもくもくと食べ続けていて、お母様が慌てて皿に追加している。
「精霊召喚では魔力量が重視されるため、濃さは召喚されてみないとわからん。濃さは精霊の嗜好のようなものだ。濃いほど上位の精霊が喜ぶ」
「では、アリアについている何かを取り除けばアリアは精霊に好まれるのでは?」
お兄様が真剣な表情で尋ねるとグレース様は途端に厳しい表情になった。
「アリアについているものがなければの話ではそうじゃな。みたところ魔力量も少なくない故、運が良ければ妾のような上位の精霊を召喚することができるだろうよ……だが、その何かを取り除けばアリアは間違いなく死ぬ」
「!」
「先程も言ったであろう、それはアリアの命を繋ぎ止めていると」
エヴァンお兄様はグッと面食らったような表情をして、唇を噛み締めた。隣にいるティアお姉様を見ると顔色を悪くしていた。
自分の状態が命に関わっているときいてもなんだか私は実感が湧かない。心配してくれている家族には申し訳ないが、私はとりあえず命に別状はないということにホッとしていた。
それに先ほどから自分に普通に接してくれているグレース様のことが気になっていた。
「グレース様は私と話していて気味が悪いと思ったりしませんの?」
そう尋ねるとグレース様は私を見て微笑んだ。
「お主についておるものの気配は間違いなく力では中位精霊ではかなわん、だからこそ精霊もお主を避けるのであろう。妾はこうしてお主と話し、考えることもできる。それに妾は高位の精霊故、そう簡単にやられんという自負もある」
それに、と続けてグレース様はエヴァンお兄様を見やる。
「我が主エヴァンはどうやらかなりの妹思いじゃからの」
と私にウインクをした。その言葉を聞いたエヴァンお兄様は途端に顔を赤くしていた。その様子を見た私はなんだか少し泣きそうになった。
あのあとグレース様はアップルパイを全てたいらげた後、満足そうにして「いったん帰る」と言い残して精霊界へと帰っていった。
上位精霊とお茶会なんて家族全員が初めてのことだったため、私達は緊張が解けた途端皆どこか放心状態だった。
ふと思い出したことをエヴァンお兄様に聞いてみる。
「そういえばお兄様、グレース様が最初に言っていた注文をつけたってなんのことなんですか」
「ああ、精霊召喚の儀の時に心の中で『僕と契約してくれる精霊は妹を傷つけない、仲良くしてくれる精霊がいいです。 この条件を飲んでくれない精霊とは契約する気はありません』てお願いしたんだよ」
あっけらかんととんでもないことを口にしたエヴァンお兄様にその場が固まった。
「お、お兄様……それはもし契約できなかった時は……」
「そうなった場合のことも色々考えてたよ。結果的には成功したからよかったよね」
「なっ……」
皆口を開けて絶句していると、エヴァンお兄様はにっこりと笑った。
「それに……アリアを傷つける精霊なんて僕はうまくやっていける自信がないからね」
私は思っていた以上にエヴァンお兄様に愛されていたと自覚したのだった。
10
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる