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1章
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「それでは先程の話に戻りますが、アリアはこのままだと精霊と契約できないということでしょうか?」
エヴァンお兄様が真剣な表情で尋ねる。
「このままだとそうであるな。精霊はこの得体の知れないものに対して警戒している。お前たちの精霊は全員アリアを避けているのか?」
そうグレース様に聞かれて状況を整理する。まずお母様の下位精霊は水の力を司っており小さい熱帯魚のような形をしている。
名前はリムルと言って私はあまりお目にかかったことはない。呼び出したところへ居合わせたことがあるが、私の顔を見てすぐに消えた。
次にお父様の中位精霊は土を司っており、岩のようなゴツゴツした小さなおじさんのような姿をしている。
名前はジーン、庭で時折うろうろしているのを見かけたことがあるが私の顔を見ると不機嫌な顔になってどこかへ飛んでいく。
そしてティアお姉様の緑の力を司る中位精霊のミルは私の顔をいた途端叫んで消えてしまう……自分で言っててなんだか悲しくなってきたな。
話していてどんどん落ち込んでいく私をティアお姉様が頭を撫でてくれた。
お父様もお母様もなんだか気まずそうである。
「ふむ……今はまだわからんことが多い。妾の方でも調べてみよう」
グレース様はひとしきり考え込んだ後、そう言って「それに」と続けた。
「今はアリアの作ったこの菓子を楽しむとしようじゃないか」と微笑んで目の前の皿のアップルパイを見やった。
精霊と一緒にティータイムができるなんて……と少しウキウキしている自分は先程まで落ち込んでいたのに我ながら現金だと思う。
グレース様が気に入ってくれますようにと念じてアップルパイを頬張るグレース様を上目でそっと確認した。フォークを持つ指先も美しいなと思っているとグレース様は目を見開いた。
「これは……!」
お気に召さなかったかと冷や汗が出る。ドキドキしながらグレース様の様子を伺っていると
「うまい!!」
グレース様は驚いたように私の顔を見た。
「お気に召しましたでしょうか……?」
と恐る恐る尋ねるとグレース様はまたパイをフォークで切り分け口に運ぶ。そしてまた先程と同じく私の顔を見てコクコクと頷いた。
「これはちゃんと味がするぞ! 人間の作ったものは妾達より下位の精霊なら味がするらしいが妾達上位の精霊が食べても魔力の濃さ故かほぼ味が薄くてな……」
「魔力に濃度があるのですか?」
エヴァンお兄様が不思議そうに尋ねると、グレース様は真剣な表情で皿に乗ったパイを見つめている。
「ああ、濃さというのは言わば質じゃな」
「魔力量は濃さと比例するものなのでしょうか」
「いいや。魔力は多くても濃いわけではない。反対に濃くても魔力が多いというわけでもない。ああ、アリアの作った菓子は魔力が濃いのだな」
と目を細めてパイをまたフォークで切りわけ、口に運ぶ。
「作ったお菓子でわかるのですか?」
お兄様が質問し続けるもグレース様は気にした様子もなく食べながら答えてくれる。
「菓子というのは作り手の魔力が少なからず感じられるものよ。妾くらいになるとそれが見える」
おお……グレース様すごい。そしてもくもくと食べ続けていて、お母様が慌てて皿に追加している。
「精霊召喚では魔力量が重視されるため、濃さは召喚されてみないとわからん。濃さは精霊の嗜好のようなものだ。濃いほど上位の精霊が喜ぶ」
「では、アリアについている何かを取り除けばアリアは精霊に好まれるのでは?」
お兄様が真剣な表情で尋ねるとグレース様は途端に厳しい表情になった。
「アリアについているものがなければの話ではそうじゃな。みたところ魔力量も少なくない故、運が良ければ妾のような上位の精霊を召喚することができるだろうよ……だが、その何かを取り除けばアリアは間違いなく死ぬ」
「!」
「先程も言ったであろう、それはアリアの命を繋ぎ止めていると」
エヴァンお兄様はグッと面食らったような表情をして、唇を噛み締めた。隣にいるティアお姉様を見ると顔色を悪くしていた。
自分の状態が命に関わっているときいてもなんだか私は実感が湧かない。心配してくれている家族には申し訳ないが、私はとりあえず命に別状はないということにホッとしていた。
それに先ほどから自分に普通に接してくれているグレース様のことが気になっていた。
「グレース様は私と話していて気味が悪いと思ったりしませんの?」
そう尋ねるとグレース様は私を見て微笑んだ。
「お主についておるものの気配は間違いなく力では中位精霊ではかなわん、だからこそ精霊もお主を避けるのであろう。妾はこうしてお主と話し、考えることもできる。それに妾は高位の精霊故、そう簡単にやられんという自負もある」
それに、と続けてグレース様はエヴァンお兄様を見やる。
「我が主エヴァンはどうやらかなりの妹思いじゃからの」
と私にウインクをした。その言葉を聞いたエヴァンお兄様は途端に顔を赤くしていた。その様子を見た私はなんだか少し泣きそうになった。
あのあとグレース様はアップルパイを全てたいらげた後、満足そうにして「いったん帰る」と言い残して精霊界へと帰っていった。
上位精霊とお茶会なんて家族全員が初めてのことだったため、私達は緊張が解けた途端皆どこか放心状態だった。
ふと思い出したことをエヴァンお兄様に聞いてみる。
「そういえばお兄様、グレース様が最初に言っていた注文をつけたってなんのことなんですか」
「ああ、精霊召喚の儀の時に心の中で『僕と契約してくれる精霊は妹を傷つけない、仲良くしてくれる精霊がいいです。 この条件を飲んでくれない精霊とは契約する気はありません』てお願いしたんだよ」
あっけらかんととんでもないことを口にしたエヴァンお兄様にその場が固まった。
「お、お兄様……それはもし契約できなかった時は……」
「そうなった場合のことも色々考えてたよ。結果的には成功したからよかったよね」
「なっ……」
皆口を開けて絶句していると、エヴァンお兄様はにっこりと笑った。
「それに……アリアを傷つける精霊なんて僕はうまくやっていける自信がないからね」
私は思っていた以上にエヴァンお兄様に愛されていたと自覚したのだった。
エヴァンお兄様が真剣な表情で尋ねる。
「このままだとそうであるな。精霊はこの得体の知れないものに対して警戒している。お前たちの精霊は全員アリアを避けているのか?」
そうグレース様に聞かれて状況を整理する。まずお母様の下位精霊は水の力を司っており小さい熱帯魚のような形をしている。
名前はリムルと言って私はあまりお目にかかったことはない。呼び出したところへ居合わせたことがあるが、私の顔を見てすぐに消えた。
次にお父様の中位精霊は土を司っており、岩のようなゴツゴツした小さなおじさんのような姿をしている。
名前はジーン、庭で時折うろうろしているのを見かけたことがあるが私の顔を見ると不機嫌な顔になってどこかへ飛んでいく。
そしてティアお姉様の緑の力を司る中位精霊のミルは私の顔をいた途端叫んで消えてしまう……自分で言っててなんだか悲しくなってきたな。
話していてどんどん落ち込んでいく私をティアお姉様が頭を撫でてくれた。
お父様もお母様もなんだか気まずそうである。
「ふむ……今はまだわからんことが多い。妾の方でも調べてみよう」
グレース様はひとしきり考え込んだ後、そう言って「それに」と続けた。
「今はアリアの作ったこの菓子を楽しむとしようじゃないか」と微笑んで目の前の皿のアップルパイを見やった。
精霊と一緒にティータイムができるなんて……と少しウキウキしている自分は先程まで落ち込んでいたのに我ながら現金だと思う。
グレース様が気に入ってくれますようにと念じてアップルパイを頬張るグレース様を上目でそっと確認した。フォークを持つ指先も美しいなと思っているとグレース様は目を見開いた。
「これは……!」
お気に召さなかったかと冷や汗が出る。ドキドキしながらグレース様の様子を伺っていると
「うまい!!」
グレース様は驚いたように私の顔を見た。
「お気に召しましたでしょうか……?」
と恐る恐る尋ねるとグレース様はまたパイをフォークで切り分け口に運ぶ。そしてまた先程と同じく私の顔を見てコクコクと頷いた。
「これはちゃんと味がするぞ! 人間の作ったものは妾達より下位の精霊なら味がするらしいが妾達上位の精霊が食べても魔力の濃さ故かほぼ味が薄くてな……」
「魔力に濃度があるのですか?」
エヴァンお兄様が不思議そうに尋ねると、グレース様は真剣な表情で皿に乗ったパイを見つめている。
「ああ、濃さというのは言わば質じゃな」
「魔力量は濃さと比例するものなのでしょうか」
「いいや。魔力は多くても濃いわけではない。反対に濃くても魔力が多いというわけでもない。ああ、アリアの作った菓子は魔力が濃いのだな」
と目を細めてパイをまたフォークで切りわけ、口に運ぶ。
「作ったお菓子でわかるのですか?」
お兄様が質問し続けるもグレース様は気にした様子もなく食べながら答えてくれる。
「菓子というのは作り手の魔力が少なからず感じられるものよ。妾くらいになるとそれが見える」
おお……グレース様すごい。そしてもくもくと食べ続けていて、お母様が慌てて皿に追加している。
「精霊召喚では魔力量が重視されるため、濃さは召喚されてみないとわからん。濃さは精霊の嗜好のようなものだ。濃いほど上位の精霊が喜ぶ」
「では、アリアについている何かを取り除けばアリアは精霊に好まれるのでは?」
お兄様が真剣な表情で尋ねるとグレース様は途端に厳しい表情になった。
「アリアについているものがなければの話ではそうじゃな。みたところ魔力量も少なくない故、運が良ければ妾のような上位の精霊を召喚することができるだろうよ……だが、その何かを取り除けばアリアは間違いなく死ぬ」
「!」
「先程も言ったであろう、それはアリアの命を繋ぎ止めていると」
エヴァンお兄様はグッと面食らったような表情をして、唇を噛み締めた。隣にいるティアお姉様を見ると顔色を悪くしていた。
自分の状態が命に関わっているときいてもなんだか私は実感が湧かない。心配してくれている家族には申し訳ないが、私はとりあえず命に別状はないということにホッとしていた。
それに先ほどから自分に普通に接してくれているグレース様のことが気になっていた。
「グレース様は私と話していて気味が悪いと思ったりしませんの?」
そう尋ねるとグレース様は私を見て微笑んだ。
「お主についておるものの気配は間違いなく力では中位精霊ではかなわん、だからこそ精霊もお主を避けるのであろう。妾はこうしてお主と話し、考えることもできる。それに妾は高位の精霊故、そう簡単にやられんという自負もある」
それに、と続けてグレース様はエヴァンお兄様を見やる。
「我が主エヴァンはどうやらかなりの妹思いじゃからの」
と私にウインクをした。その言葉を聞いたエヴァンお兄様は途端に顔を赤くしていた。その様子を見た私はなんだか少し泣きそうになった。
あのあとグレース様はアップルパイを全てたいらげた後、満足そうにして「いったん帰る」と言い残して精霊界へと帰っていった。
上位精霊とお茶会なんて家族全員が初めてのことだったため、私達は緊張が解けた途端皆どこか放心状態だった。
ふと思い出したことをエヴァンお兄様に聞いてみる。
「そういえばお兄様、グレース様が最初に言っていた注文をつけたってなんのことなんですか」
「ああ、精霊召喚の儀の時に心の中で『僕と契約してくれる精霊は妹を傷つけない、仲良くしてくれる精霊がいいです。 この条件を飲んでくれない精霊とは契約する気はありません』てお願いしたんだよ」
あっけらかんととんでもないことを口にしたエヴァンお兄様にその場が固まった。
「お、お兄様……それはもし契約できなかった時は……」
「そうなった場合のことも色々考えてたよ。結果的には成功したからよかったよね」
「なっ……」
皆口を開けて絶句していると、エヴァンお兄様はにっこりと笑った。
「それに……アリアを傷つける精霊なんて僕はうまくやっていける自信がないからね」
私は思っていた以上にエヴァンお兄様に愛されていたと自覚したのだった。
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