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1章
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「グレース、君は自分が何を言っているのかわかっているのか」
エヴァンお兄様が冷気を含んだ声音でグレース様に冷たい視線を向けた。
私がグレース様の眷属の精霊を救う?精霊に嫌われている私が?まず、私なんの力もないけど……。
言われたことに理解が追いつかない私はおろおろとしながらもリクを見ると、リクは何かを考え込むようにして小さい腕を組んでいた。
「エヴァン、落ち着け。私はアリアの持つ魔力の濃さについて話したであろう」
確かグレース様は私の魔力が上位精霊の好む濃さをしていると言っていた。そして私の作るお菓子は上位精霊にとっては味がしてとても好まれると……。
「アリアの作った菓子を食べると魔力が回復することがわかった。そしてこれは後から分かったのだが微かに聖魔法を帯びていて、浄化作用もあるのだ」
─聖魔法
御伽噺の中でしか聞いたことの無い言葉に思わず周囲が息を呑んだのが分かった。
聖魔法とは百年ほど前にいたとされる聖女だけが使うことのできる魔法だ。
「黒精霊は本来聖魔法でしか浄化できない、完全に黒精霊化してしまっていては難しいがまだ黒精霊化していない状態、もしくは黒精霊化したばかりの状態ならアリアの力で救えるかもしれない」
グレース様が懇願するような表情で私を見やる。一気に衝撃的な情報をもたらされて私の頭は余計に混乱してしまった。
その様子を見たお兄様はため息をついて困ったような表情でこめかみに指先を当ててぐりぐりとほぐしている。
「グレース、アリアが混乱しているよ。まずはアリアの情報を整理させてくれないか」
そう言ってエヴァンお兄様がシリルに目配せをするとシリルはすぐさま部屋の窓際にある防音の結界を施す魔道具を作動させた。途端に魔道具から魔力が解き放たれ辺りに薄い膜のようなものができたかと思うと景色と一体化して見た目には分からなくなった。
「防音の魔道具か」
「とりあえずはここだけの話として聞きたい、問題ないね?」
「良い、聖魔法は今も昔も珍しいものであるからな」
「それで、聖魔法を帯びてるって……」
恐る恐るグレース様に尋ねると、グレース様は「急にすまなかったな」と微笑んでゆっくりと説明してくれた。
グレース様が私の力に気づいたのは私が作ったお菓子を精霊界に持ち帰って食べている時だったそうだ。他の上位精霊に強請られて仕方なく一つ分けてあげたところ、魔力が回復したらしい。
「其奴は人間界から帰ってきたばかりの精霊でな、戦いを終えたばかりで魔力が枯渇していたところにアリアの作った菓子を食べたところみるみる回復ししたのだ」
「でも魔力のある人間が作ったものであれば回復するのは珍しいことでは無いのでは?」
最初にリクが出会った時に言っていたことを思い出して言うと、グレース様は首を横に振った。
「作ったものから魔力回復するには時間がかかる。しかも回復しても微々たるものだ。だから契約した精霊は契約者から直接魔力をいただくのだ。そのほうが手っ取り早いからな。通常、精霊は魔力が枯渇した状態で帰ってきた場合精霊界でゆっくりと体を癒して回復させる。食べてすぐに回復するなんて普通は無い。最初アリアの魔力の濃さが関係しているのかと思ったのだが、それを見ていた奴がいて其奴が持ち帰って調べてみたところ聖魔法を微かに帯びていることを発見したのだ」
そう説明した後小声で「そのせいでアリアからもらった菓子がだいぶ減ってしまったのだ」とグレース様は顔を顰めた。
深刻な話をしているはずなのに、グレース様のその拗ねたような表情が可愛らしくて少し心が和んだ。後で作り置きのお菓子がまだあったはずだからそれを持ち帰ってもらおう。そんなことをふと考えているとエヴァンお兄様の深刻な様子の声で現実にひき戻された。
「アリアが聖魔法を帯びているなんて知られたら……」
「十中八九、教会の奴らか王宮に担ぎ上げられていいように利用されますね」
シリルが眉間に皺を寄せて答えた。その言葉を聞いたハンナは青ざめた表情になる。
「そ、そんな……微かなんですよね? それだけで担ぎ上げられるなんて」
エヴァンお兄様に言うとお兄様は首を横に振った。
「たとえ聖魔法が微かだとしても聖魔法を少しでも使えるかもしれないものが現れたら間違いなく王宮も教会も聖女として政治利用すると思うよ」
「人間は今も昔も変わらないな……愚かな、聖女というだけで振り回される身にもなってみろというに」
グレース様は顔を顰め、悲しそうな表情を見せた。何かを思い出しているような様子でこちらまでもその表情に胸が締め付けられた。同時に聖女という御伽噺だけの存在がこの国を揺るがしかねない可能性に仄暗いものを感じて薄ら寒くなり、思わず両腕を抱きしめる。
「ばれなければ問題ないのですよね?」
声の主の方を振り向くと、リクが真っ直ぐにエヴァンお兄様を見据えていた。
お兄様はハッとした表情になると
「しかし、そううまく隠せるのか……学園に入学する際魔力測定があるしそこでばれたら……」
「人間界で使う魔道具で測るならばばれることはないでしょう、精霊界で調べたのはハリスですか?」
リクがグレース様に尋ねるとグレース様は面食らったような表情をしながらも
「ああ、そうだ、あやつの実験で作った魔道具で分かった」と答えた。
「ならば問題ないでしょう。ハリスが作ったものは人間界で使用されている魔道具とは比べ物にならないですし、わずかな聖魔法を探知できるような魔道具はこちらにはないはずです」
リクがそういうと少し弛緩した空気が流れた。
「知り合いなの? そのハリスって方とは?」
リクになんとなく尋ねて見ると少し罰が悪そうに髭を下げて「ええ、まあ……精霊界は狭いので」と答える。
「話を戻すけど良いかな」
エヴァンお兄様がこちらを見て真剣な表情で問いかけた。コクリと頷くと緊張した空気が再び流れた。
エヴァンお兄様が冷気を含んだ声音でグレース様に冷たい視線を向けた。
私がグレース様の眷属の精霊を救う?精霊に嫌われている私が?まず、私なんの力もないけど……。
言われたことに理解が追いつかない私はおろおろとしながらもリクを見ると、リクは何かを考え込むようにして小さい腕を組んでいた。
「エヴァン、落ち着け。私はアリアの持つ魔力の濃さについて話したであろう」
確かグレース様は私の魔力が上位精霊の好む濃さをしていると言っていた。そして私の作るお菓子は上位精霊にとっては味がしてとても好まれると……。
「アリアの作った菓子を食べると魔力が回復することがわかった。そしてこれは後から分かったのだが微かに聖魔法を帯びていて、浄化作用もあるのだ」
─聖魔法
御伽噺の中でしか聞いたことの無い言葉に思わず周囲が息を呑んだのが分かった。
聖魔法とは百年ほど前にいたとされる聖女だけが使うことのできる魔法だ。
「黒精霊は本来聖魔法でしか浄化できない、完全に黒精霊化してしまっていては難しいがまだ黒精霊化していない状態、もしくは黒精霊化したばかりの状態ならアリアの力で救えるかもしれない」
グレース様が懇願するような表情で私を見やる。一気に衝撃的な情報をもたらされて私の頭は余計に混乱してしまった。
その様子を見たお兄様はため息をついて困ったような表情でこめかみに指先を当ててぐりぐりとほぐしている。
「グレース、アリアが混乱しているよ。まずはアリアの情報を整理させてくれないか」
そう言ってエヴァンお兄様がシリルに目配せをするとシリルはすぐさま部屋の窓際にある防音の結界を施す魔道具を作動させた。途端に魔道具から魔力が解き放たれ辺りに薄い膜のようなものができたかと思うと景色と一体化して見た目には分からなくなった。
「防音の魔道具か」
「とりあえずはここだけの話として聞きたい、問題ないね?」
「良い、聖魔法は今も昔も珍しいものであるからな」
「それで、聖魔法を帯びてるって……」
恐る恐るグレース様に尋ねると、グレース様は「急にすまなかったな」と微笑んでゆっくりと説明してくれた。
グレース様が私の力に気づいたのは私が作ったお菓子を精霊界に持ち帰って食べている時だったそうだ。他の上位精霊に強請られて仕方なく一つ分けてあげたところ、魔力が回復したらしい。
「其奴は人間界から帰ってきたばかりの精霊でな、戦いを終えたばかりで魔力が枯渇していたところにアリアの作った菓子を食べたところみるみる回復ししたのだ」
「でも魔力のある人間が作ったものであれば回復するのは珍しいことでは無いのでは?」
最初にリクが出会った時に言っていたことを思い出して言うと、グレース様は首を横に振った。
「作ったものから魔力回復するには時間がかかる。しかも回復しても微々たるものだ。だから契約した精霊は契約者から直接魔力をいただくのだ。そのほうが手っ取り早いからな。通常、精霊は魔力が枯渇した状態で帰ってきた場合精霊界でゆっくりと体を癒して回復させる。食べてすぐに回復するなんて普通は無い。最初アリアの魔力の濃さが関係しているのかと思ったのだが、それを見ていた奴がいて其奴が持ち帰って調べてみたところ聖魔法を微かに帯びていることを発見したのだ」
そう説明した後小声で「そのせいでアリアからもらった菓子がだいぶ減ってしまったのだ」とグレース様は顔を顰めた。
深刻な話をしているはずなのに、グレース様のその拗ねたような表情が可愛らしくて少し心が和んだ。後で作り置きのお菓子がまだあったはずだからそれを持ち帰ってもらおう。そんなことをふと考えているとエヴァンお兄様の深刻な様子の声で現実にひき戻された。
「アリアが聖魔法を帯びているなんて知られたら……」
「十中八九、教会の奴らか王宮に担ぎ上げられていいように利用されますね」
シリルが眉間に皺を寄せて答えた。その言葉を聞いたハンナは青ざめた表情になる。
「そ、そんな……微かなんですよね? それだけで担ぎ上げられるなんて」
エヴァンお兄様に言うとお兄様は首を横に振った。
「たとえ聖魔法が微かだとしても聖魔法を少しでも使えるかもしれないものが現れたら間違いなく王宮も教会も聖女として政治利用すると思うよ」
「人間は今も昔も変わらないな……愚かな、聖女というだけで振り回される身にもなってみろというに」
グレース様は顔を顰め、悲しそうな表情を見せた。何かを思い出しているような様子でこちらまでもその表情に胸が締め付けられた。同時に聖女という御伽噺だけの存在がこの国を揺るがしかねない可能性に仄暗いものを感じて薄ら寒くなり、思わず両腕を抱きしめる。
「ばれなければ問題ないのですよね?」
声の主の方を振り向くと、リクが真っ直ぐにエヴァンお兄様を見据えていた。
お兄様はハッとした表情になると
「しかし、そううまく隠せるのか……学園に入学する際魔力測定があるしそこでばれたら……」
「人間界で使う魔道具で測るならばばれることはないでしょう、精霊界で調べたのはハリスですか?」
リクがグレース様に尋ねるとグレース様は面食らったような表情をしながらも
「ああ、そうだ、あやつの実験で作った魔道具で分かった」と答えた。
「ならば問題ないでしょう。ハリスが作ったものは人間界で使用されている魔道具とは比べ物にならないですし、わずかな聖魔法を探知できるような魔道具はこちらにはないはずです」
リクがそういうと少し弛緩した空気が流れた。
「知り合いなの? そのハリスって方とは?」
リクになんとなく尋ねて見ると少し罰が悪そうに髭を下げて「ええ、まあ……精霊界は狭いので」と答える。
「話を戻すけど良いかな」
エヴァンお兄様がこちらを見て真剣な表情で問いかけた。コクリと頷くと緊張した空気が再び流れた。
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