27 / 91
1章
1−27
しおりを挟む
それから三日後に屋敷を出発することになり、その前に危機一髪のところを助けていただいた冒険者の方にお礼を言う席を次の日に設けてもらった。
私はお礼の意味を込めてお菓子を作ろうと朝から厨房に立っていた。最初自分より料理長が作ったものがいいのではないかと思ったが、家族から出発する前に私のお菓子が食べたいと言われたのでこうして作ることとなった。さらにリクから旅先でも食べたいので多めに作って欲しいとの要望があったため朝から張り切って作っている。
「旅先でも食べたいのはわかるけど、日持ちするお菓子となると焼き菓子ばかりにはなるんだけどそれでもあまり持たないし……」
所狭しと焼き上がったお菓子を眺めながらため息をつく。私の横には珍しく厨房へ見にきたリクがいる。
リクは「問題ありません」と焼き上がったスコーンをおもむろに手に取ったかと思うとそのスコーンを自分のお腹の中にしまった。
「えええっ! リク、それは何? どういうこと?」
思わずリクのお腹をさすると、もふもふの毛並みが気持ちいいだけで膨らんだところはない。リクは撫でられ、観察されて居心地悪そうにしている。
「私のお腹の中にはポケットのようなものがあって、それは『収納』の役割を持っているのです」
私の手から逃れたリクはそう説明した。それを聞いた私とハンナは驚いて顔を見合わせた。「収納」とは一般的に魔道具にあるものだ。その名の通り、あらゆるものを収納してしまっておける。生き物以外だったら亜空間にしまって出したい時に出せるものだ。しかも時間は止まったままなので冒険者などが薬草などを採取したときに劣化しないように入れておくなど便利な魔道具である。通常麻袋のような物から革のポーチまで収納の魔道具は様々な種類がある。容量も値段で変わってくる。詳しくは知らないが我が家では執事長やシリルが持っているらしい。
それにしてもリクのお腹に収納ポケットがあるなんて……。
衝撃の事実に思わずリクのお腹に釘付けになってしまう。
「ですから、このようにお菓子をしまっておけるので日持ちについては問題ないのです」
リクが私の視線にたじろぎながらお腹を押さえた。
「ん?ということは日持ちしないお菓子も持っていけるってこと?」
「そういうことになりますね」
じゃあ、焼き菓子だけに拘らなくてもいいのね!
「リク、その収納にはどのくらい入るの?」
「まだ余裕はありますが……」
そうと決まれば他にもどんどん作ろう!そう決めた私は、それからプリンやゼリー、チョコレートのケーキなど日持ちしないお菓子をどんどん作り上げた。その様子をそばでじっと見ていたリクは若干呆れながらも手伝ってくれた。
「それにしても少し疲れたわね」
ふうと息をはいて少し肩を軽く回した。確か冒険者の方との顔合わせは昼過ぎだったはずだ。少し休憩を入れようと厨房の隅っこでお茶を飲んでいるときだった。
「あ~なんかいい匂いがすると思ったらここからか」
厨房へひょっこり顔を覗かせた青年がこちらにやってきた。平民のような出立ちの服装でミルクティー色の髪の色をしていた。突然の訪問者に驚いているとリクがため息を着いて青年に声をかけた。
「レイ殿、ここは厨房ですよ」
「そんなの見ればわかるよお、暇だったからさ」
ニコニコと返す線の細い青年はこちらに気づいた。ハンナがなぜか私の前に立ちはだかった。
「レイ様、後ほど顔合わせの席がありますのでここはお戻りください」
「ハンナ、そんな怖い顔しないでよ~ここへきたのはたまたまなんだから~」
「軽々しく呼ばないでただけますか」
ハンナの表情がどんどん険しくなっていく。ヒヤヒヤいていると目の前の青年は気にしていないかのようにハンナの肩越しの私の顔を覗き込んだ。
ハッと立ち上がってハンナを下がらせる。
「このような姿で申し訳ありません。サーナイト家の次女のアリアと申します。助けていただいてありがとうございました」
エプロン姿でカーテシーをすると目の前の青年は首を傾げた。
「助けた? んん~? あ! あのときのすんごい魔力球放った子だね」
ううっ……改めて言われるとくるものがある……。
ハンナが視界の横でものすごく怖い顔をしている。
「あのときは本当にありがとうございました」
「いいよ~、たまたま早く着いてよかったねえ。俺はレイナード。レイって呼んでね~」
確かにあのときレイ様がたまたま早く着いていなかったらと思うと背筋がゾクッとした。思わず視線を下に向ける。表情が強張っていくのが自分でもわかった。そのときリクがレイ様に声を掛けた。
「レイ殿、ここで少しお茶を飲んでいきますか」
そう声をかけると、私の顔を見てから
「ん~それは午後を楽しみにしているよ。それにこれからシリルと遊んでくるから~」
そう言って私の顔を下から覗き込んだ。目が近くであって思わずドキリとする。瞳は綺麗な琥珀色をしていた。「それに」と私の顔を見たまま続けた。
何かを見透かされそうな瞳だった。
「今は俺はここにはいない方がいいだろうしね~」
そう言ってくるりと背中を向けてひらひらと手を振って厨房を出て行ってしまった。その背中を見送り、見えなくなると思わずホッと息を吐く。
なんだかよくわからない人だったな……。
私はお礼の意味を込めてお菓子を作ろうと朝から厨房に立っていた。最初自分より料理長が作ったものがいいのではないかと思ったが、家族から出発する前に私のお菓子が食べたいと言われたのでこうして作ることとなった。さらにリクから旅先でも食べたいので多めに作って欲しいとの要望があったため朝から張り切って作っている。
「旅先でも食べたいのはわかるけど、日持ちするお菓子となると焼き菓子ばかりにはなるんだけどそれでもあまり持たないし……」
所狭しと焼き上がったお菓子を眺めながらため息をつく。私の横には珍しく厨房へ見にきたリクがいる。
リクは「問題ありません」と焼き上がったスコーンをおもむろに手に取ったかと思うとそのスコーンを自分のお腹の中にしまった。
「えええっ! リク、それは何? どういうこと?」
思わずリクのお腹をさすると、もふもふの毛並みが気持ちいいだけで膨らんだところはない。リクは撫でられ、観察されて居心地悪そうにしている。
「私のお腹の中にはポケットのようなものがあって、それは『収納』の役割を持っているのです」
私の手から逃れたリクはそう説明した。それを聞いた私とハンナは驚いて顔を見合わせた。「収納」とは一般的に魔道具にあるものだ。その名の通り、あらゆるものを収納してしまっておける。生き物以外だったら亜空間にしまって出したい時に出せるものだ。しかも時間は止まったままなので冒険者などが薬草などを採取したときに劣化しないように入れておくなど便利な魔道具である。通常麻袋のような物から革のポーチまで収納の魔道具は様々な種類がある。容量も値段で変わってくる。詳しくは知らないが我が家では執事長やシリルが持っているらしい。
それにしてもリクのお腹に収納ポケットがあるなんて……。
衝撃の事実に思わずリクのお腹に釘付けになってしまう。
「ですから、このようにお菓子をしまっておけるので日持ちについては問題ないのです」
リクが私の視線にたじろぎながらお腹を押さえた。
「ん?ということは日持ちしないお菓子も持っていけるってこと?」
「そういうことになりますね」
じゃあ、焼き菓子だけに拘らなくてもいいのね!
「リク、その収納にはどのくらい入るの?」
「まだ余裕はありますが……」
そうと決まれば他にもどんどん作ろう!そう決めた私は、それからプリンやゼリー、チョコレートのケーキなど日持ちしないお菓子をどんどん作り上げた。その様子をそばでじっと見ていたリクは若干呆れながらも手伝ってくれた。
「それにしても少し疲れたわね」
ふうと息をはいて少し肩を軽く回した。確か冒険者の方との顔合わせは昼過ぎだったはずだ。少し休憩を入れようと厨房の隅っこでお茶を飲んでいるときだった。
「あ~なんかいい匂いがすると思ったらここからか」
厨房へひょっこり顔を覗かせた青年がこちらにやってきた。平民のような出立ちの服装でミルクティー色の髪の色をしていた。突然の訪問者に驚いているとリクがため息を着いて青年に声をかけた。
「レイ殿、ここは厨房ですよ」
「そんなの見ればわかるよお、暇だったからさ」
ニコニコと返す線の細い青年はこちらに気づいた。ハンナがなぜか私の前に立ちはだかった。
「レイ様、後ほど顔合わせの席がありますのでここはお戻りください」
「ハンナ、そんな怖い顔しないでよ~ここへきたのはたまたまなんだから~」
「軽々しく呼ばないでただけますか」
ハンナの表情がどんどん険しくなっていく。ヒヤヒヤいていると目の前の青年は気にしていないかのようにハンナの肩越しの私の顔を覗き込んだ。
ハッと立ち上がってハンナを下がらせる。
「このような姿で申し訳ありません。サーナイト家の次女のアリアと申します。助けていただいてありがとうございました」
エプロン姿でカーテシーをすると目の前の青年は首を傾げた。
「助けた? んん~? あ! あのときのすんごい魔力球放った子だね」
ううっ……改めて言われるとくるものがある……。
ハンナが視界の横でものすごく怖い顔をしている。
「あのときは本当にありがとうございました」
「いいよ~、たまたま早く着いてよかったねえ。俺はレイナード。レイって呼んでね~」
確かにあのときレイ様がたまたま早く着いていなかったらと思うと背筋がゾクッとした。思わず視線を下に向ける。表情が強張っていくのが自分でもわかった。そのときリクがレイ様に声を掛けた。
「レイ殿、ここで少しお茶を飲んでいきますか」
そう声をかけると、私の顔を見てから
「ん~それは午後を楽しみにしているよ。それにこれからシリルと遊んでくるから~」
そう言って私の顔を下から覗き込んだ。目が近くであって思わずドキリとする。瞳は綺麗な琥珀色をしていた。「それに」と私の顔を見たまま続けた。
何かを見透かされそうな瞳だった。
「今は俺はここにはいない方がいいだろうしね~」
そう言ってくるりと背中を向けてひらひらと手を振って厨房を出て行ってしまった。その背中を見送り、見えなくなると思わずホッと息を吐く。
なんだかよくわからない人だったな……。
10
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる